初手幼馴染みは安定初動
さて、祐の幸せ家族計画だが、まずは5人くらいの相手候補がこの学校にいる。
その中で順当に第一夫人、ゲームならメインヒロインになるであろう娘が。
「ゆう君、お弁当作ってきたんだけど……」
「本当!? 嬉しいよ、華」
明るい髪色のそれをサイドテールにしている、少しだけ小柄だけどもスラッとしたスタイルの女の子だ。
お嫁さんにしたい系と、前世さんが言う感じの娘で、成績優秀で家庭的。実家も裕福な所と完璧だ。祐と華の二人とも小柄なため正統な感じの高校生カップル感が出るペアでもある。
そして、小学校に入る前の幼少期に
『大きくなったら、祐君のお嫁さんにしてね?』『うん!』
的な約束をしているらしい。華本人から聞いた。祐の方は忘れている説もあるが。
それでも彼が、小学校で女性の波にもまれて、警戒心を上げる前に仲良くなったわけで、信頼度はかなり高い。
この社会では専門の資格を持った講師を雇えば、義務教育を終えることが出来る。男子が生まれればそうする富裕層の親はいる。しかし、小学校からはさすがに少数派だ。それに祐は社長として会社を継ぐために、早いうちから女性のいなし方は覚えるべきと、学校に入り荒波に揉まれたのである。
それで、より彼の中の華の存在は大きくなったところはある。俺が前世の男女比を知ってるからこの社会の特別感がわかるのと同じで。がっついてくる女子の集団を知るから横で穏やかに笑う彼女の価値がわかるのだろう。
そして華は俺にも優しい。理由はシンプルに彼女も10年来の付き合いだからだ。最初は俺のことを怖がっていた節があったが、それは引っ込み思案なところが相俟ってという感じで。俺が祐と仲良くなるにつれて自動的に華も俺に心を開いてくれた。
昼休み、数多の女子が隙あらば祐のご飯を一緒しようと牽制しあっていたのも今は昔。
最初は一人で2週間くらいならサバイバルできそうなほどの『弁当作ってきた爆撃』をくらっていたが、先生からの注意と
「デュフヒィ、ぼ、ぼ、ぼくも、い、い、頂いて、い、いい、かな?」
と俺が声をかけると、嫌悪感と忌避感に顔が歪んでいく女子と、祐の
「ああ、俺一人じゃ食べきれないからな」
と嬉しそうな肯定の声で。どんどん篩にかかっていき。それを超えても、祐の片方の隣は当然俺が確保しているわけで。そしてあとはお互いが潰しあっていき。
今では……
「3人分作ってきたもん、勿論大丈夫だよっ」
「ふ、ふぃぃ、ご、ご相伴にあずかる、ひひっ」
一早く、というよりも最初から3人分用意していた華が基本的に全部持っていく形になっていったのである。彼女が食事を作って来たときは、教室では落ち着かないので、食堂の隅の方にある机で3人で食事をとる。
「やっぱ、華の弁当はおいしいな」
「えへへ、本当? ありがと」
「うん、おいしいおいしい。華ちゃんまた腕を上げたな」
「
周りに人もいないので素のしゃべり方に戻す。あんなキモオタみたいなしゃべり方は当然演技でやっているつもりだし。相手もそれはわかっているだろうが、生理的な嫌悪感からか効果はいまだに絶大だ。
「華はいいお嫁さんになるな」
「も、もう、ゆう君ったら」
ナチュラルにいちゃつく二人を見ながら、というかそれをおかずに飯を食らう、白米うめぇ。やはり幼なじみは良い。定食屋で言えば生姜焼き位の安定感と打点の高さがある。まずハズレはなくお手頃なのである。
「うむ、流石だな祐の太鼓判ももらったし、あとは嫁ぎ先だな」
「
そう、繰り返すが彼女は小学校のころから、厳密には二人は入学前からだが、10年来の幼馴染なのだ。実は彼女の親は祐の会社の幹部というか右腕と社長の関係で、家もお向かいさん。そんな約束された勝利の関係だ。
だが今一つ進まない二人の関係。一緒にいるのが当然すぎて、発展しないのである。
思春期を迎えて、華の方から祐に異性としての好意は向いてるであろう。しかし自信がないというか、彼女は少し引っ込み思案なところがあり、一番仲の良い異性のポールポジションを維持しているのだ。なんてコテコテな古典的幼なじみ、A定食である。
そもこの時代よっぽど変な男でない限り複数人と結婚する。社会への奉仕という概念でもそうしているのだ。そういう風潮や教育がされている、それが俺に刷り込まれというか、洗い込まれなかったから、今こうしているのだが。
現在の男女比1:10だけれどもこれは全世代の合計で、年々男性の数が減っている。我々の世代は1:10を通り越しているのは肌感覚としても確かだ。いくら男子は高校生から通学を控えるとは言え100人中4人しか男子が居ないのは異常である。
そういう意味で、二人は見立てでは両思いだけれども。もし男女交際を始めたら、じゃあ私もと今まで以上に争いが苛烈になる。そのままの意味で戦いの火蓋を切ってしまう。
そんな心配があるのだろう。
このままの関係が一番距離が近くて幸せ。そう漏らしている事も知っているし。俺と祐が話しているときに、祐の横顔を見ている表情で好意がラブであるのはバレバレだ。
しかし、恋は弱肉強食。ボヤボヤしてると後ろからバッサリ持っていかれかねない。なので、俺が一肌脱ぐ必要があったんですね。
「あ、ごめん待った?」
「いや、今来たとこ」
そんなわけで、週末の駅前。祐と華は待ち合わせの王道フレーズを消化していた。
「にしても、あいつは馬鹿だよなぁ、1Lアイスを一気食いして腹壊すなんて」
「写真付きでつぶやいて、2時間後におなか痛いってつぶやいてたね」
今日は本当は3人で来るはずの久しぶりの幼なじみトリオでのお出かけ。行先は華が好きな水族館。金持ちの令息令嬢の割には庶民的だが、二人とも気にしていなかった。
はい、当然俺が参加しないのも計画の内です。
「うぅ……祐君また女の子に囲まれてる」
なんだかんだ言って、一番仲がいい華だからこそ、色々見えてくるものがあるわけで。俺からしたらハーレムメンバーにお祈りメールを送って居る娘もいれば。内定者やオファーを送ってる女子達と、色々囲まれている祐。
華は高校生になった今も正妻の余裕はないにしても、一番近くをキープし続けている。
そして祐も華がいたからこそ、女性恐怖症という多くの男子且つ外見や生まれが良いものが成るそれにならなかった。苦手意識程度はあるようだし、小中はもっと内向的だったが少なくとも見かけ上は取り繕えている。
優しくお淑やかな女性がずっとそばにいるのは、人生観に対する影響が大きかっただろう。
俺としても幼馴染の二人は絶対にくっつけたいと思っている。特に華は最近本格的に花嫁修業というか嫁入り修行の為、勉強以外にも家事にお稽古ごとに忙しくなっているのだ。というより、双方の両親的にはもう付き合ってると思っている。
というわけで────
「3人で今度出かけようぜ、この日なら確か空いてたろ?」
「いいね、久々にパーっとやろうぜ」
「うん、わたし暑いの苦手だし、春の内にどこか行きたいね」
3人でご飯を食べている時に草案を出して、枠を抑えておき。
「華ちゃん、ちょっといいか?」
「何? 祐君なら塾だよ。君もバイトじゃないの?」
「ああこれからバイトだから、手短に話すな」
放課後、遊ぶ約束をした後に俺は華にだけ計画をもちかけたのである。
「なぁ華ちゃんは、やっぱり祐が好きだろ?」
「ふぇ!? え、え、えっとぉ! その……」
顔を赤らめつつも、否定の言葉は出て来ない。この子は気持ちに嘘はつけないしつかない。しっかり相手のことを思ってくれる良い娘なのだ。
「いや、何年の付き合いだよ、そういうのいいぞ」
「あ、えっと、そうだよね、さすがに君には分かるよね」
華は俺に対してまぁ警戒も何もない。そもそも恐らくこの学校の生徒で一番俺に対する好感度が高いのも彼女だ。色々相談に乗ったこともある。プレゼントとか女性の好みとかでね。
「今度遊びに行く時な……告れ、協力するから」
「えぇ!? 」
勿論、行き当たりばったりではなく、チャンスを作るために俺は多方面に協力を仰いでいる。まぁ俺が頼れるコネなんてたかが知れているのだが、今回はかなり利用できるツテがある。
「他の女に取られて、その他の一人になっちまうぞ。一人で独占は……まぁ無理かもしれないけど、祐の一番なるんだろ?」
「う、うん! そうだよ、そうだよね!! ありがとう! わたし頑張ってみる!!」
華は内向的なんだけど、その分なのかちょっと乗せられやすいのが、たまに傷だけれども。まぁ祐もそういう所あるし似たもの夫婦だ。補える娘は別に用意するつもりである。
さて、時間を今日に戻して。
当然俺は腹を壊してなどなく、二人の甘酸っぱいやり取りを遠くから見ている。
アイスを1L食ったのも本当だが、今さらその程度で壊すような軟弱な腹をしていない。デブをなめるなという話だ。デブ特有の大食いという理由も信憑性を高めているのか、祐からは疑われてもない。
人ごみに紛れて二人が駅に入っていくのを監視したら後ろからついていく。ばれないようにこっそりとだ。デブで男だから目立つので慎重にだ。
「坊ちゃんたち、うまくやってくれるといいんですが」
「ええ、本当に」
今日の俺は祐の会社の部下の人と一緒だ。社内でも二人がくっつくのは肯定的なので、今日の計画も資金や資材からすべて援助されている。なんなら、双方の両親にいい加減はっきりさせたいんです。と少し前にお会いした時に話を通して快諾されている。
会社の私物化? いや男社長が二世やってるの、この世界だと滅茶苦茶評価が高いんですよ。男が家庭に入る形も多いので、しっかり働いてるし、家族仲が良好だったのがわかるということで。
まぁそこまで大きくない会社とはいえ、社長の子供が男で幼馴染の女の子が専務の娘なんだ。気ぶりたく気持ちもわかる。
「では、皆さんお願いしますね」
「はい、承知してます」
水族館についたら、手筈通りの位置にこのために駆り出された可愛そうな若手社員達各員が配置して、いい雰囲気を作ることを心掛けている。
高校二年生の美少年である祐は、道を歩けば声をかけられることは日常茶飯事だ。俺がいてもまるで祐一人に向かって、2,3人組の他校の女子から逆ナン────この社会ではそのままナンパ────されるのだから。
まぁそれも俺が横からすっと入って行きますねぇ! 行きますよ! と言えばすごすごと帰っていくから楽だった。
「お呼びじゃねーよデブ」「キメェんだよデブ」くらいは言われるが、その言葉を吐いた時点で、祐の興味からふっと消えて彼のどう丁寧に断ろうかの逡巡が無くなりバサッと切る二段構えである。
「まじでぇ? 2-2だしOKぇ!」とか言ってくれる黒ギャルが居たらこの社会でも俺は救われたが、そんなのはない。オタクに優しいギャルは存在しないんだ!
ともかく、祐に声をかけて来そうな女性を近づけさせずブロックしてもらったり、距離によっては俺が逆ナンしてキモがられて遠ざけたりと。割と忙しい。
時折監視に意識を戻してみれば。二人は小さいころ来た時に一緒に見たという、ペンギンやアシカのショーを楽しみ。昼食をとり、今度はイルカのショーで水浸しになり。順調に楽しんでいるといえる。
そして、特別展示のクラゲのところに入る二人。計算通りだ、順路と二人の好みはわかっている。薄暗いそこは、水槽のライトに照らされて幻想的な人気スポットだ。二人が入る少し前まで、ブース入り口で体調不良の方が【何故か】出てしまい。今は人も少なめだ。
「失礼」
「きゃッ!!」
そして、仕込みの一般通過社員さんの体当たりで華が押し出されて、祐に抱きつく形となる。多分ゲームならスチル絵がつく所だ。
目があう二人、タイミングよくライトが切り替わり影が動く。これは完全に偶然だ。
「いけーっ! おせっ!」
横でそう小声で叫ぶ社員さんと同調しながら見ていると。
「ゆうくん、わたし……」
華の口からお約束の言葉が紡がれていくのだった。みっしょんこんぷりーとである。
さて、水族館の外で、今俺は一人待っている。
「おーい、こっちだ」
仲良く手をつないで出てきた二人、俺を見かけて慌てて手を放してからこちらに近寄ってくる。
「え、どうしてここに」
「そらぁ、何とか腹も治ったから飯だけでも一緒に食おうと思ってな。てか携帯くらい見ろよー」
「え、あ、わりぃ」
「き、気づかなかった……」
「お土産の事聞いてこないから、まだ居るとは思ってたけどな……」
いつもよりも少しだけ距離が近い二人を見ながら、何も気が付かないふりをして、俺は合流する。そういう手はずだ。社員さん達的にはここまでで成功だが、俺的には祐にはしっかりとハーレムを作ってもらいたい。
あいつのことを好きな、いや、真剣に好きな女子はたくさんいるし、何よりも俺がそう言った恋愛が出来ない以上、こいつの恋愛を見て楽しむことくらいしかできないからな。俺の趣味は入るが、社会的にも彼にとっても最大値での幸福は高まるから許してくれるよな?
「んじゃ、ラーメンでも食いに行こうぜ」
「もうちょっと、おなかに優しいのにしなよ」
「華のいうとおりだぞ、デブ」
「デブは否定しない、だが、もう治ったからいいんだよ」
だから、このまま放っておけば完全に一人に向きそうなのでここでストップをかける。2の矢3の矢も準備済みだ。華には悪いけれど、第一夫人は確定だから、それで勘弁してくれ。
なんもかんも社会の歪な男女比が悪い。