成る程、差し引き0ということか
タイトル通りの隙間産業。
昔読んだ、とあるSSに影響を受けています。
人間の娯楽で最も金がかからずに、そして誰でもできるのは恋愛らしい。
俺は妄想だと思うが、そうらしい。
現代の恋愛は金かかるし、そもそもスタートラインに立てない人もたくさんいる、だからまぁ恵まれた狂人の言葉なんだろう。
それでも恋愛がコンテンツ力として高いものを持っているのは認めざるを得ないし、素敵な恋をしたいですか? 無料で。と聞かれたら、はいと答えたい気持ちが沸かない人は少数派だろう。
こんな胡散臭い問いに実際に回答するかは別としてだが。
前世。それが俺にはある。
というかあるらしい。そんな言い方なのは判断材料が、小さいころから妙に自分の意識がはっきりしてたこと程度だからだ。エピソード記憶というものがないので、輪廻転生時に魂の洗い残しでもあったのだろうか?
そして、それをおかしいと感じている自分が居たのだ。
うーんと思い悩んだら、心の中から『前世の記憶ってやつだぞ』と返ってきたので。
成る程そういうことかと納得したのは、恐らくまだハイハイも出来ない頃だったかと思う。
それ以降前世さんの声が時々響くのと、意識がわりと冷めてる? というか子供っぽくない少年になったのだ。
さて、この世界は前世さんとそして俺的に、男と女の比率がおかしいのだ。
でもそれが割と普通のことのように受け入れられている。
前世さんはついでに「貞操観念はあんまり逆転してないのか……」と言ってる。
神の啓示が聞こえるとかいう人もこんな感じだったんだろうか。
さて、女性が多い世界で男として生まれたなら、人生楽勝。
前世もあれば倍率ドンッと思った自分がいた。しかしそんなことはなかった。
まず知識も前世さんのものは一般常識的なもの程度で、学校の勉強でいうと虫食い程度であり中学校レベルしかわからなかった。前世さんは随分勉強をおさぼりしていた方らしい。
加えて歴史とかは結構違う。まぁこんだけ男女比が違えば当然か。
勿論それでも結構な下駄は履けたので、多少成績はいいけどその程度の子供であった。
そして肝心の女性関連だが、これは…まぁ……
「ねぇ、早く遊びに行こうよ!」
「あ、祐。そうだな……」
横にモテの塊のような男幼馴染が出来てしまえば、全部吸い取られるというわけだ。
男女比の偏った世界、現代サブカルに触れた人間なら、一度は妄想したことはあるのではないか。
単純に自身に何かしらの制約や努力などなく、主として男性ないし女性なので優位性をとることが出来て、向こうから異性が寄ってきて。
それでいて複数の異性と付き合うことを公的に推奨されている。
まぁ作品ないし妄想的に、周囲に美男美女美少年美少女ばかりというのはご愛敬だろう。
お手軽に主に男の下半身的欲望を満足させることが出来る理想的な世界だ。
そんな異世界に生まれ変わって、俺は当然歓喜した。と思う。
まぁ、貧しさを知らないと豊かさを本当の意味では知れないし。そういう意味ではよいか。
小さいころから聞くおとぎ話の多くが、女性主人公になっていることを聞き流しながら、
幼稚園にも保育園にも通うことなく、施設で育てられた。
まぁ、その。両親というより母親は男を産んだので、高額の資金援助と養育システムに任せるという名の、売渡をしたらしい。これもままある話だ。
この社会の男女はおよそ1:10くらいで、悪化傾向。当然のように重婚が可能どころか推奨されている。
たぶんどっかのエロゲかエロ同人の世界だろ。と前世さんが言っているが、フーンという程度だ。ともかく小学校に通い始めたその日、色々あったけどようやっと俺も将来のハーレム要員を見繕うぜ。と思った矢先。
「りゅうたき ゆうです、よろしくおねがいします」
あ、こいつが主人公だ。
と前世さんが言っており、そして俺も、あ、これ無理な奴だ。と自覚した。
そこにいたのは背景が光っているんじゃないかという美少年。日本っぽいこの国だけど、髪の色は割とバラエティに富んでおり。例にもれず彼ははちみつ色のふわふわの金色の髪。優しそうな目に、チャームポイントの泣きぼくろ。6歳にして、包容力と庇護欲の双方を併せ持ちそうな、雰囲気と所作。
担任の先生すら、一瞬動きが固まっている。免疫のないクラスの女子は言わずもがなである。
これが親友である
紛うことなき主人公であろう、美少年だ。
そんな、俺の人生をわからせられた出会いの日から今日までに10年程が経過する。
今、俺達は高校生で。これまであった多くのことを考えてみる。
祐とは、同じ男ということもあって、すぐに仲良くなった。1年のクラスではもう一人雪之丞君という男はいたけれど、まぁそれはいったん置いておく。
小学校の内は笑ってみてられた彼の女性関連の騒動。
席替えをすれば、大紛糾。
校外学習の班決めは機能不全。
委員会の選考は乱闘騒ぎ。そんな、笑って思い出せる話ばかりだ。
いや、笑えねぇんだ。
中学校あたりからは、雲行きがもっと怪しくなってきていた。偏った男女比のための少子化からか、2クラスしか存在しないのもあって、そして春を覚えた餓鬼どもが祐にむらがって来ることを始めたのである。
夏休みや冬休みが近くなれば、靴箱を開ければ雪崩が起き(あれどうやって入れてるんだ?)
私物は定期的どころか頻繁になくなり。
安全性を考え、屋上と校舎裏は男子立ち入り禁止。というルールが出来るほどに呼び出しをされる。
幼なじみの娘が必死にガードをしてるのを横目で見たり、応援したりと。
そんな3年間だった。
小中と色々思い出したくない記憶もあるので、必要があればまた振り返ろう。
そして現在、俺たちは高校2年生だ。全校生徒300人で高校というのは前世さんが少ねぇと叫んでいるけど、そんなに違和感もない。そもそも共学がかなり珍しくて、男子は大きな都市にだけある男子校か有資格の『家庭教師』で高校単位を取得するのがメジャーな社会だ。
クラスのもとい、同学年の男子生徒は俺含め4人で、全員成績優秀者が入る特進クラスに入っている。共学はどこの高校もそんな形で、成績優秀者は男子と同じクラスという、強烈なルールで学校側が統制しているのだ。
祐は高校生になってやや平均より低めの身長だが、脱いだらしっかりと筋肉がある。そして、今日も今日とて相も変わらず女子に囲まれている。
今ではニコニコと平然と受け流せるようになったが、昔は色々大変だった。
なにせそう、こいつは小さな頃から
「僕が女性とお付き合いなんて……」
と顔を赤らめながら言うタイプのニブニブ野郎だった。高校になって一人称を頑張って俺にしてるけどたまに素が出るようなお子ちゃまだ。
「好意を寄せられるのはありがたいけれど……」
なんて尻すぼみに言うのは、彼が割といいところの会社の社長令息で、学校の勉強の他にもいろいろと勉強をさせられて忙しくしているというのが大きい。
その割には俺との遊びを断ることは稀なので、言い訳な気も否めないが。
そう、
そして、激動だった高校1年を終えてわかったことがある。
このまま放っておけば、まぁ大惨事になる。小学生の頃よりは秩序だっていて、さらに中学生の頃より本気で狙いに来ている。
ここ半年は、まぁお互い水面下で牽制しあっていたということもあって、大人しかったが席替えとクラス替えの意味が大きい期末試験では案の定、殺気立っていたのだから。
俺は祐のことを人間として好ましいと思っている。
10年間友達として一緒に過ごして、親友と呼べる。
あいつのために死ねるなんて言えないけれど、あいつが必要なら臓器くらいなら移植してもいい。お互い、色々あったからな。
だからこそ、あいつには幸せになってもらいたい。
そう思うのが親友として、いや人として当然のことだ。
そして高校の1年を使って、あいつのことを真摯に好きな女子の見定めも終わった。勿論押し付けがましくないようにと、あいつ自身もまんざらでないことも裏をとった。
ならば、前世さんも言っている通り、彼がしっかりハーレムを作れるように、サポートするのが友人ってものだろうよ。
そう、この話は友人のために、俺が裏で奔走して。
友人達の幸せそうな光景ににやにやする。
そんな暗い話だ。
え? 俺はどうなんだって。
鏡に映る自分を見る。
風呂上がりの洗面所の鏡は、最も自分が格好良く見えるらしい。光とか距離とかそういう要素の関係で。
首から頬にかけてはしるぶつぶつとした炎症やらニキビやらアトピーやらの痕。
パンパンに膨れて丸っこい顔。一部マヒを起こして左右で開き方と大きさの違う目。
既に出始めた見事な下っ腹で見えない足元。
手を見れば赤くただれた熱傷痕があり、これは普段なるべく手袋で隠している。
コンタクトが体質的につけられず、牛乳瓶の底のような眼鏡をかけているせいで、歪んでさらに小さく見える目。
風呂上がりだというのに油ぎっているように見えるおでこと髪の毛。
前世さんも言ってるが、まごうことなきキモデブオタ系の竿役だ。
まぁモテないのを外見のせいにできたらよかったんだけど。それだけではないんだ。妙に冷めているというか、賢しいガキだった俺はこんな生まれだからしょうがないとはいえ、口を開けばついつい皮肉や揚げ足取りが出てしまう。
最近ようやっとキモオタの皮を被ったり、社会人として敬語を使うなどでましになっては来ているけどね。
そして。俺の横には超絶美少年に成長した祐がいるのもあるし。ただでさえ目立つ顔つきなのに俺との落差で高山病が起きそうなほど際立っている。
尤も、これによって俺の様なキモブタが隣にいるのは相応しく無い。という変な思想を持つ女を弾ける。というメリットもあるのだが。
生まれてこの方、女性の手すら握ったことがない。
施設で管理されるように育てられて、小中の間は少年に対して色々規制厳しいせいで、施設から出されるハウスキーパーがくる小さな家で育った。
この辺もまぁ気が向いたら振り返ろう。楽しい思い出ではない。
誰からもオスとして愛されないなんて良くあることじゃん?
前世さんがそう言ってくれる。
そう、俺は全くもってモテない。性格もまぁあんまりよくないのもあるけれど。全世代ホイホイの祐が隣にいて、俺レベルの男で妥協しようなんて思ってる人すらも、彼女たちの心を惹きつけてワンチャンス狙うようになってる。
大穴でも全額するから、元返しのお前には誰も賭けないな。
と前世さんが言ってる。さっきからうるさいがその通りだ。
まぁそういうものなんだろう。
虫歯になったことないけれど口臭の為念入りに歯を磨いてから、いそいそと服を着る。
一人暮らしとはいえ、うるさくすると迷惑だし、早く寝よう。
俺を好きになる女子がいるなんて甘えた考えはもう、ない。
だから前世さんと一緒に祐を気ぶって、高校の間に妻はある程度固めて。将来的には愛人100人出来るかなを挑戦するのだ。
これは俺が異世界? に生まれ変わって、親友のハーレムという代償行為で。
せめてもの救いを求める話。