近畿2府4県の優秀な警察官をたたえる第137回「近畿の警察官」(産経新聞社提唱、京都府信用金庫協会など協賛)に、京都府警からは人身安全対策課の目片敦彦警部補(58)が選ばれた。弱い立場の人たちに寄り添う、人情味あふれる捜査で数々の事件を解決に導いてきた警察官の原点に迫った。
取り組んできた捜査の中で特にやりがいを感じたというのが、高齢者を狙った住宅リフォーム詐欺。「やっぱりおばあちゃんがだまされるのは許せなかった」。被害に遭う多くが、一人暮らしで相談相手がいない高齢者だった。抱えている不安に付け込まれ、貯金をすべて失った人もいた。被害者らから粘り強く事情を聴いては、状況を確かめるため自ら屋根に上ったり、床下に潜ったり。容疑者摘発の報告を受け、涙を流して喜ぶ被害者の姿は今も忘れられない。
寄り添うのは被害者に限らない。暴力団による覚醒剤密売事件の取り調べの中で、彼らもまた薬物に依存する弱い人たちなのだと痛感した。「『やめさせてあげんとあかん』と思いながら接しましたね」。強がっていた組員が、取り調べの過程で変化していくのを感じた。「『もう(薬物は)やめます』と。その言葉を聞くのがうちらの仕事かな」。弱い人を助け、悪い奴を捕まえる−。強い信念とともに愚直に警察官人生を歩んできたと自負する。
異色の経歴は強みでもある。高校卒業後、まずは警視庁の警察官になった。原点は最初の配属先、上野公園(東京都台東区)前にある派出所で過ごした日々だ。ホームレス、出稼ぎ労働者。公園は多様な事情を抱える人たちであふれ、トラブルや犯罪が絶えなかった。配属されて約1週間が過ぎたころだった。警戒中、男が突然目の前を走り去り、直後に「泥棒!」という叫び声が続いた。本能的に体が動き、男を追いかけて取り押さえた。「俺は警察官なんやな」。そんな自覚が芽生えた瞬間だった。警視庁では約6年半勤務。出身地の府警の採用試験を受け、古都を守る警察官に転じた。
ひったくりから特殊詐欺、そしてアポ電(アポイントメント電話)。犯罪情勢は刻々と変化し、体感治安の悪化を懸念する声もある。だからこそ目片警部補は「悪い奴が大手を振って歩けるような世の中ではあきませんもん。気持ちだけは、変わらずに来たと思う」と力を込める。後進の育成にも力を注ぎながら、これからも京都の安心安全を守っていく。(荻野好古)