放課後、講堂で行われる討論会には全校生徒の半数が集まった。
一科生と二科生の割合はフィフティ・フィフティ。二科生だけでなく一科生も、この問題には関心がある、といったところだろう。
舞台袖に控えている達也はざっと場内を見回した。
今、自分の側には風紀委員長の渡辺摩利と、生徒会会計の市原鈴音。そして深雪がいる。
他の風紀委員も目立たないように場内の警備をしており、反対側の袖には有志同盟の三年生四名が、風紀委員の監視を受けながら待機している。
秋水はというと、この討論会を見に来た一科生のフリをしており、観衆に溶け込んでいる。CADは有志同盟のメンバーにバレないように携行して、来るであろう敵襲に備えてくれている。摩利にこの件を話す時には、問い詰められるのを覚悟していたのだが、あっさりと了承してくれたので、杞憂に終わった。
「放送室を占拠したメンバーはいないな。実力行使の部隊は別に控えているのか……?」
摩利の呟きは尤もだ。
場内には、先日起きた放送室占拠事件の実行犯であるメンバーが誰一人としていない。まるで他の有志同盟のメンバーは何処かで何かを企んでいるとでも言いたげだ。
「同感です」
達也もまた摩利と同じようなことを考えた上での、呟きのような返答をした。
もし、同盟が掲げている理念だけを追っているのなら、同盟に参加している生徒全員が講堂にいるのが当然だと思うが。秋水が言った『何者かの悪意』が働いているように思えてならない。
「何をするつもりなのかは分からないが……こちらから手出しできんからな。専守防衛と言えば聞こえはいいが……」
「渡辺委員長、実力行使を前提に考えないでください。……始まりますよ」
鈴音の一言に、三人は視線を舞台へと移した。
パネル・ディスカッション方式の討論は、聞く価値のあるようなものは一切聞こえてこない。ただひたすらに「平等」を謳う有志同盟側の生徒たちに、生徒会を代表して登壇している真由美が具体的な事例と明確な数字を以て、付け入る隙を見せない反論を繰り出す。
元々、彼らは学校側に過失があると思い込んでいるだけであって、現実は全くの逆だった。中身のないスローガンは揺るぎようのない事実によって打ち砕かれた。
そもそも切れる手札が圧倒的に少なかった同盟側は、次第に「平等」を謳うことができなくなり、真由美が完全に場を支配した。
もはや討論という形は成していない。討論会という名前を持っただけの、真由美の演説会となった。
真由美が会場にいる生徒に訴えてきたのは、差別意識の克服。
一科、二科の区分で起こる差別はあってはならないものであり、それを無くすために新たな差別を生んではならない。だからこそ、彼女は生徒会役員の指名制度を変えたいとも言ってきた。
「人の心を力づくで変えることはできないし、してはならない以上、それ以外のことで、できる限りの改善策に取り組んでいくつもりです」
生徒会長の宣言、それに感化された生徒たちは、盛大に拍手を彼女に送る。
同盟の行動は、確かに、学内の差別を無くすための前進ができたと言えるだろう。だがそれは、彼らが望む「結果」を与えることになったとしても、納得の行かない「手段」なのは間違いないだろう。彼らは自分たちが考える手段を行使し、結果を出すことを目指しているのだから。
突如、轟音が講堂の窓を震わせ、拍手という一体行動に陶酔している生徒たちの酔いを醒ました。
このタイミングを見計らっていた同盟の生徒たちが、大層な理念を達成するために一斉に行動を起こそうとするが、動員されていた風紀委員が残らず拘束する。
窓が破られ、紡錘形の物体が飛び込んできた。
床に落ちると同時に白い煙を吐き出し始めた榴弾は、白煙を拡散させずに逆再生のごとく窓の外へと消えていった。
これで終わるわけがない。爆発物など団体とはいえ高校生が用意できる代物ではない。秋水の推測も、達也の見解も見事に的中してしまった。
講堂の扉を乱雑に開け、乗り込んでくる防毒マスクを被った闖入者たちは、何者かによって心臓を穿たれ、血を垂れ流しながら倒れた。
この場にいる実力者たちは戦慄し、未だに状況が呑み込めていない生徒たちは固まる。まるで時が止まったかのように静まり返る会場で、一人の生徒の声が響き渡る。
「止まってる場合じゃないよ! 悠長な時間はない!」
既に外は戦闘になっているだろう。風紀委員や生徒会が表立って動けていないことに叱責する秋水は、外へと駆けていた。
「彼の言う通りです。俺は爆発のあった実技棟を見てきます」
「お兄様、お供します!」
「二人とも気をつけろよ!」
摩利の声に送り出されて、二人は最初の爆発があった区画へと走る。
爆発のあった実技棟は壁面が焼け、窓にはひびが入っていた。実技棟の方でした爆発音は小型化された炸裂焼夷弾によるものだろう。既に教師が二人がかりで消火活動に当たっている。
それを阻止せんとする男たちを挑発し、一人で大立ち回りを見せているレオが達也たちを見つけた。
深雪が即座に魔法を発動し、レオを囲んでいた男たちを打ち上げる。レオを巻き込まずに済んでいるのはピンポイントで撃ち込めることが、魔法がどの兵器よりも優れている点だ。
「テロリストが侵入した」
「ぶっそうだな、おい」
唐突に突きつけられた言葉にレオはそれだけで納得している。現に襲われたら誰でも納得せざるを得ないだろう。
「レオ、ホウキ! ……っと、援軍が到着してたか」
手甲型と伸縮警棒型のCADの二つを抱えて事務室の方から走ってきたエリカは、レオの他に達也たちの姿を目に留めると、少し足を緩めた。
「二人とも、矢幡を見なかったか?」
「矢幡なら実験棟に行くって言ってたぜ。もし達也に会ったら図書館に向かってくれってよ」
「エリカ、事務室の方は無事なのかしら?」
「あっちの対応は早かったみたい。行った時には既に先生たちが縛り上げてた。やっぱり貴重品が多いからかな」
ふむ、と頭の中で呟き、情報を整理する。
秋水が向かった実験棟、そして彼から向かってくれと頼まれた図書館には、再調達が難しい重要な装置や試料、文献が置かれている。これらは破壊活動によって損害が出た場合、テロリスト側からしても不利益なものだ。
エリカがCADを取りに行った事務室は、生徒たちのCADを預かる場所でもある。学校が備品として用意しているCADは型遅れのものばかりであり、これらは実技棟に置かれている。実技棟を襲ったとして、テロリストたちはこの中に興味はないだろう。
となると、奴らの狙いは実験棟か図書館の二択。秋水が既に実験棟に行っているのなら、自分たちは図書館に向かうべきだろう。
「ここからどうしますか?」
深雪の問いに達也は即断した。
「狙いは実験棟と図書館だ。俺たちは図書館に行こう」
「矢幡、一人で大丈夫かな?」
「それはどうか分からないが……何もできないのに一人で突っ走る奴じゃないだろ」
そっか、と納得したエリカ。
ここでお喋りしている時間はない。達也たちは急いで図書館の方へと向かう。
図書館前は既に乱戦状態となっている。このまま駆け抜けてもいいが。
「パンツァー!!」
雄叫びを放ちながら、乱戦へと突っ込んでいく。
CADをプロテクターとしても扱いながら、自身には逐次展開の技法によって硬化魔法が随時更新されている。音声認識が採用されたCADを使用しているのは、この戦い方に合っているのだろう。
「アイツって、魔法までアナクロだったのね……」
この際、エリカの陰口は無視することにした。
「レオ、先に行くぞ!」
「おうよ、引き受けた!」
図書館前はレオに任せて、三人は中に踏み込む。
図書館内は静まり返っていた。
館内には職員の他に警備員がいるはずだが、どうやら無力化されてしまったようだ。
意識を広げ、待ち伏せしているであろう敵の存在を探る。
「二階特別閲覧室に四人、階段の上り口に二人、階段を上り切ったところに二人、だな。
敵の狙いは、魔法大学が所蔵する秘密文献だろう。特別閲覧室からなら、一般閲覧禁止の非公開文献にアクセスできる」
「待ち伏せはあたしに任せてよ」
狙いも場所も分かったのなら後はそこに向かうのみ、と言ったところでエリカが飛び出した。待ち伏せしているはずの敵は、既に位置がバレていたなど思いもしないだろう。エリカの素早い動きは敵の肝を冷やすのには十分過ぎた。
あっという間に敵二人を沈め、階段を上り切ったところにいる二人の敵が何事かと姿を見せ、階段を下りてきた。
「二人は先に向かって。ここはあたしだけで十分だから」
「頼むぞ、エリカ」
エリカに任せて、二人で特別閲覧室に突入する。
中にいたのは、壬生紗耶香。放送室を占拠した同盟メンバーの一人。他三人は一高の生徒ではなかった。
情報を抜き出すために使用しているハッキング用携帯端末と記憶用ソリッドキューブが、達也によって綺麗に分解された。
自分たちの理解が及ばないものに、人は恐怖を覚える。紗耶香は目の前で次々と起こった理解不能な現象に、それを引き起こした達也に恐怖を覚えた。
そして、達也から冷徹に突きつけられる非情な現実に、深雪から告げられる可能性に、彼女はショックで何も反論ができなくなった。
人は考えることを放棄した時、体に意志は宿らない。
その瞬間に、何者かの悪意は、意志を失った体を蝕む。
紗耶香に宿るその悪意は、強迫観念のように彼女に迫り、その体を動かす。
アンティナイトを使用して、二人の横を走り抜ける。特別閲覧室を抜けた時には、共にいた三人の男がやられたであろう音が聞こえたが、彼女には逃げるという選択肢しかなかった。
――それも、待ち構えていたエリカによって阻まれ、彼女が逃げ切れることはなかった。
アイス・ピラーズ・ブレイク、一条将輝戦。原作で特に記載がないため、優勝、準優勝のどちらをとっても問題ないと解釈。ので、一条将輝に勝つか負けるか、悩んでいるのでアンケートで決めることに。
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主人公らしく勝つ
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僅差で負ける
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大敗する