壊れた器は元には戻らない   作:火神零次

4 / 29
人を見る目

「矢幡が気になることを言っていた?」

 

 森崎たちと放課後での諍いがあった翌日。

 午後の授業を受けていた達也は、エリカたちから気になることを耳にしていた。

 

「そうなの」

「なんと言っていたんだ?」

「達也、昼は生徒会室に行っていただろ?」

「ああ」

 

 朝から生徒会長に会うという予想していないシチュエーションがあったが、妹の深雪に用があったらしく、達也はその付き添いで昼休みに生徒会室を訪れている。

 レオ曰く、食堂で三人で食事をしていた時に秋水が訪れたそうだ。

 

「生徒会室で何かしら厄介事が起こるんじゃないかって」

 

 エリカの言葉に、達也はため息をつきたくなった。何せそれに関しては心当たりしかないのだ。生徒会長と出くわしたのはエリカたちと登校しているタイミングだったのもあり、三人は達也が生徒会室に向かっていることを知っている。

 もし生徒会室で話していたことがそのまま実現したら、いずれこの三人の耳にも入ることだし、誤魔化しても意味がないと分かり切っていた達也は、何があったのか話すことにした。

 

「生徒会室に風紀委員長も居てね。風紀委員になれと言われた」

「何だそれ。随分急だな」

 

 生徒会に呼ばれて来た妹の付き添いで居たのにも関わらず、生徒会室には風紀委員長が居て、しかもスカウトしてきたのは劣等生の自分というのは流石に急な話だ。正確な話は少し違うのだが、ここでは割愛することにした。

 あまりにも突然の出来事だったというのが伝わったのか、レオもいきなりな話だと思っているようだ。

 

「でもすごいじゃないですか。風紀委員にスカウトされるなんて」

「妹の付き添いで来ただけなのにか?」

 

 懐疑的になっている達也は、美月のようにスカウトされたことを素直に受け入れられそうになかった。

 

「まあまあ、自虐的にならなくても。それにしても矢幡が言ってたのってこれに当たるのかな?」

「さあ?」

 

 秋水から話を直接聞いたわけではないので、首を捻ることぐらいしか達也はできないのだが。

 だが、エリカは「でも……」と言葉を続けた。

 

「何か変じゃない?」

「変?」

 

 エリカの疑問の声に反応したのは美月だった。

 

「矢幡ってあたしたちと一緒に登校したわけじゃないから、達也くんと深雪が生徒会長に来るように言われたのは知らないのよ? 生徒会長がどういう風に達也くんや深雪に接していたの見たのは昨日だけのはずだから、生徒会室で厄介事が起こるなんて言えると思う?」

「確かにそうだよね。普通は厄介事が起こるだろうなんて考えもしないと思うけど……」

 

 二人の言っていることは間違いないだろう。

 秋水は達也と深雪のことは、エリカたちよりも知らないはずだ。ましてや生徒会長と風紀委員長の二人に至っては彼はそもそも話してはいないのだ。

 彼女たちが放課後の諍いを止めるために介入してきた時、二人に説明をしていたのは達也であって秋水ではない。話しているところは見聞きしているはずだが、それだけで厄介事が起きると断言などできるはずがない。

 

「まるで未来視ですね」

 

 予知は根拠を基に推測という形ですることができる。だがそれは、『予測』という言葉が使われるものだ。

 予知とは、科学では予測不可能な未来の出来事を正しく知ること。未来視はその予知と呼ばれるものの一種に含まれている。起こり得る未来を視覚情報として捉え、未来を知る。

 とはいえ、予知ができたとしても出来事が予知した通りに起こるとは限らない。小さなきっかけで変化するなど予知には確実性というものが存在しない。

 

「本人は人を見る目がそれなりにあるだけって言ってたけどね」

 

 もし美月の言う通り、秋水が未来視などの予知能力を持っていたとしたら危険だ。

 達也には誰にも明かしてはならない素性がある。美月と初めて会った時、彼女が眼鏡をかけていたのを見て『霊子放射光過敏症』だと検討をつけ、用心をしていたのだが。

 秋水の予知能力がどのような条件で働くか分からない以上、どのように警戒していたらいいか分からない。注意深く行動した方がいいだろう。

 

「ほら、エリカの番だぞ」

「あっ、ごめんごめん」

 

 達也たちの方を向いて話をし続けていたこともあって、自分の出番が来ていたことに気づかなかったようだ。慌ててポジションについた彼女の姿を見て、本質は真面目なのではないかと達也は別のことを考えることにした。

 

 夕食後、司波家の地下にある作業室でCADの調整をしていた達也は、とあることを考えていたのだが唯一の同居人が来たことを悟って、思考を止めた。

 

「遠慮しないで入っておいで。ちょうど一段落ついたところだから」

 

 タイミングがいいのはこうしてお互い、何をしているかを把握しているからだろう。

 部屋に入ってきた深雪は、CADを握っていた。

 

「失礼します。お兄様、矢幡さんの件でお聞きしたいことが……」

 

 深雪の口から秋水のことについて聞かれるとは思ってもいなかった。何せ深雪が来るまで考えていたことは秋水に関係のあることだった。

 深雪とは達也を通して知っていることなど皆無に等しい。先日、放課後の校門で起こった諍いの後、改まった話は別の日に、と彼から言われていたことだ。時を見て、休み時間に深雪と話をしているであろう可能性は考えられないわけではなかった。

 

「休み時間に矢幡さんと話していたのですが……」

「何かあったのか?」

「いえ、何かあったというより……」

 

 珍しく歯切れが悪い。

 いつもならしっかりと言うのだが、何かあったのか。

 

「その……生徒会室で私はお兄様に迷惑をかけてしまいました」

「迷惑だなんて思ってないよ。それがどうかしたのか?」

「矢幡さんに、副会長の発言で激情してはいけない、と」

「いつ言われたんだ?」

「放課後、生徒会室に行く前に言われました。まるで予知能力です。

 本人は人を見る目があると言っていましたが」

 

 深雪にも釘を刺していたのか。

 だが、これで秋水は予知能力、もしくはそれに近しいものを持っている線が濃厚になった。

 彼がこうして知らしてくるのは何故かは分からない。ただの善意かもしれない。それだとしても警戒をしないという選択肢は達也にはなかった。

 どんな理由であれ、自分と妹の平穏を脅かされることがあるのであれば、それを許すわけにはいかないのだ。

 

「それで、ここに来たのには他にも理由があるんだろう?」

「あ、はい。CADの調整……いえ、術式の入れ替えをお願いしたくて」

「そういうことか。どうしたらいい?」

 

 深雪の持つCADは汎用型。これに登録できる起動式は一度に九十九本。どれだけ最新鋭機でチューンアップしていたとしても、変わらない限界である。

 十五歳にして一般の魔法師が習得する魔法数を大きく上回る多彩な魔法を扱う深雪では、九十九という制限数は少なすぎるのだ。

 

「拘束系の起動式を……対人戦闘のバリエーションを増やしたいのです」

「ん? 深雪の減速魔法ならば、わざわざ拘束系を増やす必要はないと思うが?」

「お兄様もご存知の通り、減速魔法は個体作用式がほとんどで、部分作用式は困難です。部分減速、部分冷却も不可能ではありませんが、発動に時間が掛かり過ぎます」

 

 深雪は放課後に起きた達也と生徒会の副会長の試合を見て思ったのだ。自分は秋水のように予知能力じみたものは持たない。事前に諍いを止める能力は兄の達也より秀でていない。ならばスピードに重点を置き、最速で最小のダメージを与えて相手を無力化する必要があると。

 

「そうだな……生徒会で同じ学校の生徒相手にとる戦法としては、そういうのも必要になるかもしれないな。分かったよ。手持ちの魔法を削らなくても済むように、同系統の魔法を少し整理してみよう。

 本当は、もう一つCADを持つ方がいいんだけど」

「一度に二機のCADを操ることができるのは、お兄様だけです」

「その気になれば、お前にもできるって」

 

 ぷいっ、と軽く拗ねてそっぽを向いてしまった深雪の頭を、苦笑しながら撫でる。

 妹が機嫌を損ねた時に達也がいつも使う手段は、効果覿面だった。

 

 しかし、深雪は未だに拗ねていたようで、その原因が放課後に生徒会長や風紀委員長と随分親しく話していたことだったのが深雪の口から出てきた時は少し予想外だったが、兄妹の他愛のないじゃれ合いを測定を済ませてから行っていた。

アイス・ピラーズ・ブレイク、一条将輝戦。原作で特に記載がないため、優勝、準優勝のどちらをとっても問題ないと解釈。ので、一条将輝に勝つか負けるか、悩んでいるのでアンケートで決めることに。

  • 主人公らしく勝つ
  • 僅差で負ける
  • 大敗する

▲ページの一番上に飛ぶ
Twitterで読了報告する
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。