2019.07.10
# エンタメ

ジャニー喜多川みずからが語った「芸能史を変えた」数奇な人生

5時間インタビュー全文公開【後編】
現代ビジネス編集部

それだけの何の変哲もないことだった。しかし、この時、ジャニーの才能が分かった気がした。ジャニーの表情は新発売の秘密のお菓子を友達に自慢する少年のようであった。被取材中にもかかわらず、彼は自然と子供の世界へと入り込んでいた。いくつになっても、少年と同じ視線で楽しむことのできる能力。そんな能力を彼は持っているのではないか。

少年隊の錦織も「本当に子供の味方になってくれる大人」と彼を表現していた。この能力が結果として将来のスターを見つけてしまう。ジャニーにこの天賦の際がある限り、今後も新しいアイドルが生み出されていくことは間違いないだろう。

しかし、ジャニーズ事務所にも不安材料がないわけではない。事務所の成功がジャニー喜多川とメリー喜多川の類稀なる才能によるところが大きければ大きいほど、彼の不在の事態を招いたときのことが心配される。

 

実務担当をしている姉のメリーにはジュリーという娘がいて、すでに母親と共に管理業務に携わっている。しかし、ジャニーにはそうした意味での後継者がいない。正確な年齢は明かさないが、彼のキャリアからして高齢であることは確かだ。

「失礼な話なんですが、ジャニーさんが歳を取られて……」

本人を前にしては言いにくいが、最後にどうしても聞いておきたい問いであった。

「早く言えばいいじゃないですか。ジャニーさんが死んだら、どうするのかって(笑)。でも、心配ない。うちのアーチストは自分でマネージャー業もやっているわけですよ。最初は付き人もほとんど付けない。だから、もし僕がそういう形になっても、自分たちでちゃんとマネージングできるように育てているんです」

事務所経営の基盤ともいえるジュニアの発掘を肩代わりできる人はいるのか、そう尋ねたつもりだった。しかし、彼の答えは違っていた。経営者の立場ではなく、父親が子供の将来を心配するように、残されたタレントの身の処し方についての答えが返ってきただけであった。

玉石混淆の少年たちから未来のスターを見つける能力。他のプロダクションが持ちたくても持ち得なかったジャニーの能力を継ぐ人はいるのか、本当はそれを尋ねたかった。しかし、もう一度ジャニーに聴き返す気にはなれなかった。ジャニーの口からは出ないであろうが、その答えは分かっていたから――。

宇井洋(うい・よう)
フリーランスのライター・編集者。1960年、名古屋市生まれ。出版、マーケティングの仕事を経て、1993年からフリーランスに。著書に『帝国ホテル 感動のサービス』(ダイヤモンド社)『古民家再生住宅のすすめ』(晶文社)など。近著(編集・構成)に『大林宣彦 戦争などいらない-未来を紡ぐ映画を』(平凡社)。

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