つまりは『ダブルセブン編』で動き回る泉美と香澄が見れるってことじゃないっすか…!
やったぜ(確信)
聞いた瞬間小躍りしました。七宝君も見てぇなぁ…!
そんなこんなで魔法科熱が上がっている状況で投稿…。
感想コメントありがとう御座います。
何かコメントが見れなくなってるのが一部散見されましたが…
アンケートを取るあとがきが不味かったかな…反省しています。
誤字脱字報告もありがとう御座います。
それでは最新話をどうぞ!!
日曜日。
論文コンペがあと一週間に迫っており俺は達也の護衛のために日曜日だと言うのに制服を着用し学校へ登校していた。
正直午前中までは寝ていたかったのだが最近、泉美と香澄が俺のベットに潜り込んでくるのだ。
泉美が「お兄様…起きてください…起きないとイタズラしてしまいますよ…。」
と可愛らしい囁き声で囁き。
香澄が「兄ちゃん、起きないと…み、耳噛んじゃうよ…」
とこちらも可愛らしい甘い声で囁いてくるのだ。
そして実行。
左右から生暖かい感触がカプり、そしてはむはむ…。
「うぼぉああああああ!?」
年頃の女の子としてあるまじき事をしてくるのだ。
やめろと、言っても聞いてくれやしない。
むしろ悪化しているような気さえしてくるのだから困った。
妹達の俺を見る目が最近怪しいと思う今日この頃。
これが反抗期なのだろうか…お兄ちゃんは悲しいです。
そんなアホなことを思いつつ俺は学校で達也と合流し作業を行う場所へ向かおうとしていた道中で達也に質問された。
「一昨日エリカと何かあったのか?」
「…な、なにもごじゃーいませんでしたよ?」
「思いっきり動揺してるな…隠し事下手か。」
「うっせ…てか誰から聞いた…って深雪か。」
「ああ。何をやったんだ?」
達也をみると”隠し事は許さん”と言わんばかりに聞いてきた。
こんな状況で下手に隠し事をしたりしたらお兄様に殺されてしまいそうなので正直に話した。
「…っていう理由で家に招いてエリカの心を折ろうとしたんだがあいつの剣が届いてな…それじゃ認めないわけにはいかない、っていうことになって『俺が俺でいるために、戦うエリカを護らせてくれ。そしてエリカが俺を護ってくれ。』って伝えたんだが…って達也どうした?」
俺が包み隠さずに伝えると達也は頭を抱えていた。
「八幡、その言葉の意味分かってるか?」
「あ?言葉のままだろ。それ以外何があんだ?」
「…聞いた俺がバカだったと今再認識した。お前はそういう奴だったな。(この無自覚ジゴロめ…。)」
「?」
達也から睨み付けられるが意味が分からない。
いや、危なっかしいからエリカを守って俺が俺でいる為この関係は俺の精神衛生上の安寧を保つ上で必須だろ?
生きていく上で必要なことじゃないか。それなのになぜ達也は頭を抱えているのか理解できないんだが。
人間は生きていく上で衣食住が必須だろ?
それと同じことなのだ。
達也は深くため息をついて俺に近づいたと思ったら俺の脛を蹴ってきた。
しかも凄い勢いで。
「い゛っ゛た゛っ゛!!」
思わず蹴られたところを押さえ込み踞る。
その張本人を睨み付けるがあきれた表情を浮かべこちらを睨み付けている。
俺が一体何をしたというのか?
「なにしやがんだっ!」
「お前が家の用事で休むとなったときに深雪が心配そうにしていてな…言ったよな八幡。『深雪を泣かせたりしたら分かってるよな?』と。」
鬼気迫る表情を浮かべて俺に問い詰めてくるが俺は反論する。
「いやだからこそエリカが余計なことに首を突っ込まないように心を折ろうとしてたんだけど?エリカも深雪の友達だろ。そんな友達が怪我でもされたら逆に深雪悲しんじまうだろうが。」
「…それも一理あるが。」
エリカは深雪と友達→エリカが怪我する→深雪は悲しむ→それをみて俺が調子悪くなる→だから俺がエリカを守る→解決。
という流れだ。
達也はその発言を受けて一瞬考え込んだ。
俺の言葉を頭ごなしに否定できないからだろうか。
「まぁ、深雪がなんとも思ってないのなら俺からはとやかく言うのは無粋だからな。なにも言わないが深雪を泣かせるような真似はしないでくれよ?」
「…確定は出来ないが。」
「おい。」
達也に睨み付けられてしまった。
俺は降参せざるを得なかったわけだ。
「わーった、わーったよ…。努力する。」
「はぁ…いくぞ。」
その事を告げるとため息をつかれてしまった。
世の中の政治家だって常套句として使用しているだろう。
出来ない確約はするものじゃないと婆ちゃんも言っていたしな。
「おう。」
深雪達の話はここで終わり目的の場所へと向かおうとしたのだが…。
「っ…雨か。」
「雨だな。」
「この様子じゃ外で作業は出来ない。帰るか。」
「直ぐにそうやって帰ろうとするなお前は…外で出来なくとも室内でなら出来る。というよりも今回はロボ研の部室で作業だ。」
「はいはい…。」
達也と俺はロボ研の部室へと足を運んだ。
◆ ◆ ◆
ロボ研は文字通りロボットの研究をする部室でガレージには大小の工作物や機械、パワーローダーや某アメコミに出てくるパワードスーツを模したものが置かれている。
今回ここに来た目的は大型の計算機が置かれているため論文コンペの期間中はこちらを使用し起動式のデバック並びに術式シミュレーションを行うためだ。
達也の今日の作業は起動式デバックになる。
ロボ研の部員は別の機械の動作接続に出払っているためにここにいるのは俺と達也のみ。
ロボ研に入室するとその部屋の作り上光が入り込みづらく薄暗いのと今日の天気も相まって中の様子が分かりずらい
達也より先に俺が入ると人影が出迎えた。
「おかえりなさいませ。」
その声が昔馴染みの声の落ち着いた声色に聞こえて苦笑する。
そこにいたのは所謂”メイド服”を来た少女…ではなく3H、ロボ研では「ピクシー」と呼ばれる人型家事手伝いロボが置かれていたのだった。
メイド服を着用しているのは当代のロボ研の部員の趣味なのだろう。
通常は二十代の見た目が主流なのだが少女然とした十代の見た目であり第一高校の制服を着ていても黙っていれば無口な美少女で通じそうな程”人間に近い”見た目をしている。
ピクシーをみていると一人の自我を持つ擬形体の事を思い出しそれとは雲泥の差だな…と思った。
そんなことを思っていると後ろにいた達也がこの部屋のセキュリティを守っているピクシーへパスをするために名前を告げる。
「一年E組 司波達也。」
俺もそれにならって認証パスをして貰うために名乗る。
「一年A組 七草八幡。」
短く告げると直ぐ様ピクシーは深々と腰を腰を折って挨拶をする。
実は俺がこのロボ研のピクシーのインターフェースを弄っていたりするので直ぐ様反応できるようになっているのはロボ研の連中にも内緒にしていることなのだが。
達也は論文コンペのデバックに取りかかる。
その間俺は暇なのでロボ研の部屋にあるピクシーのメンテナンスベットにピクシーを近くに移動するように指示をする。
「ピクシー、メンテナンスベットに腰かけてくれ。メンテナンスモードに移行しろ。」
「かしこまりました。」
そう言ってピクシーはメンテナンスベットに腰かけてメンテナンスモードに移行する。
俺はロボ研に置いてある工具とPCを使い動作、マニュピレーターの動作プログラムを改良をすることにした。
3Hはその構造上、首の部分に接続のジャックがありピクシー自身がメイド服の首元を緩める形となるので少しはだけ女性型の為肌に当たるスキン部分がはだけてしまうが所詮は機械だ。
そんなことで興奮しない。
どちらかと言えば「ロボットに憧れる小学生男子」の心情に近いだろうか?
首のジャックにアナログなケーブルを差し込みマニュピレーターのレスポンスと反応タイミングを人間へ近づけるためのプログラミングをしていく。
随時更新されていく情報の奔流が脳へ送られるがそれを正確に捉えるのに《
一時間弱ピクシーを弄くり回していると眠気がやってきた。
(流石に集中しすぎたか…?)
自身の状態を確認すると『
ここに来るまでに取ったものは泉美が作ってくれたフレンチトーストとコーヒーだけだ。
そうなると考えられる要因は一つしかなくロボ研の空調システムが勝手に動いているのを確認した。
(催眠性のガスか…。)
チラリと大型計算機のところにいる達也も睡眠ガスの影響を受けているようで何時ものような自然体ではなく気だるげな表情だ。
俺は『
「ピクシー。メンテナンスモードから復旧。強制換気モードを発動してくれ。そして排除行動の禁止。」
「了解しました。強制換気モードを発動し、排除行動を一時停止します。」
人間よりも物分かりが良いヒューマノイドタイプのキャストに思わず笑みをうかべそうになったがそれよりも向こうのブースにいる達也も気がついていたのだろう。視線を向けると頷いていた。
協力してこの『犯人』を捕まえるために一芝居打つことにした。
俺はメンテナンスベットにうつ伏せになるように目蓋を閉じて達也は計算機のデスクに突っ伏すように寝た振りをするのだった。
◆
下手人は直ぐ様にやってきた。
ガスが取り除かれた後も、目を閉じたまま神経を研ぎ澄ましたままじっと座っている達也と本当に寝ている八幡が足音を忍ばせてロボ研の部室へ入室したことは気配で気がつき寝ていた八幡も起き、何時でも対応できるように臨戦体勢を取っている。
「司波?」
聞き覚えのある声が達也のブースから聞こえた。
声を掛けているのはアリバイを作る為なのだろうがタイミングがあまりにも良すぎるので中途半端な配慮だったと八幡は苦笑せざるを得なかった。
さらに入室してきた生徒はメンテナンスベットに突っ伏している八幡とピクシーの姿が確認できていないのか声を掛けては来ていない。
意識は達也の方へ向いているらしい。
達也も達也で狸寝入りを決め込み下手人がどんな行動を取るのか見極めているようだ。
「司波、寝ているのか?」
再度の呼び掛けに達也は無視を決め込み寝た振りをしている。
声を掛けた生徒は安堵し何かを探す素振りをはじめた。
俺は隣に居るピクシーにジェスチャーで「しー」のポーズを取って暗がりの中を《無窮・麒麟乃型》を発動しステルス状態で立ち上がる。
この状態では声は聞こえなくなるのでピクシーへ音声で指示を出していた。
「ピクシー。侵入者の行動を録画しておけ。返事は頷くだけで良い。」
こくり、と頷き共に気配を消して達也のいるブースへ移動しピクシーへ装備されている目を通じて侵入者の行動を録画している。
録画されているとも、背後に既に俺達が居ることに気がつかずサブモニターのジャックからハッキングツールでデータの吸い上げを行おうと悪戦苦闘する姿があった。
(いや、もっと段取り良くやれよ…。)
既に証拠は押さえられているので”ネタバラシ”をしようか?と八幡と達也は思案すると不意に出入り口から侵入者へ声を掛けられビクり、と肩を震わせる。
「関本さん、何をしてるんですか?」
(ここまでか…)
(いや、あんたが言うんかい…。)
幕引きを行ったのは花音であった。
達也は犯人の愉快な一人相撲が終わってしまったことに落胆してしまっていたのと八幡は思わず声を掛けたのが花音であったことに思わず突っ込みを入れてしまった。
そんなことは今会話している当事者達には知らないだろう。
「千代田!?どうしてここに!?」
「どうして?あたしがここに来たのは保安システムから空調装置の異常警報を受け取ったからですが、関本さんこそどうしてここに来たんですか?それにその手に持っているものは何です?」
「バカな…警報は切っていた筈だ…。」
(何で自分でいっちまうんだこいつは…)
(これが所謂『おまぬけさん』なのでしょうか?)
(ピクシー、余計なことは覚えなくて良いからな?)
(かしこまりました。)
その会話に八幡とピクシーは会話をして育成しているほど余裕がある。
この問答は正直茶番でしかないが。
不本意に漏らした失言をした関本は花音に追い詰められていく。
「ハッキングツールでバックアップですか?あり得ないでしょうそんなこと。そうよね?司波くん。」
愕然と振り返った関本の視線の先には苦笑いしていた達也が立っている。
「デモ機から直接バックアップを取るなんてあり得ません。そんな必要もないですけどね。」
デモ機の仕組みをそこら辺は疎いと思われている花音も流石に知っていた。
「あまりバカにしないでほしいですね。いくらあたしがその辺りの技術に疎くてもそのくらいは知っています。」
「くっ…。」
花音は関本を睨み付け、奥歯を噛み締める。
反論が尽きたことを示しており何を仕出かすか分からない状況になった。
「関本勲、CADを床に置いて投降しなさい。」
花音の口調が変わる。
それに対する関本の答えは、
「千代…!」
その瞬間に八幡は《無窮・麒麟乃型》で消していた気配を復活させて《縮地》で関本の懐に入り込み掌底を体に叩き込み地に伏せさせた。
「え?八幡くん?」
「いつの間に…。」
突如何もないところから、ではなくいきなり目の前に現れた八幡とピクシーに驚く花音と先ほどまでメンテナンスベットに突っ伏していた筈の八幡とピクシーが現れたことに驚く達也を尻目に地面へ倒れている関本へ声を掛ける。
「エリカの謳い文句じゃないけど『体を動かした方が早いのよね~』っすよ。起動式の展開は無駄が無かったっすけど余計な行程を入れすぎましたね。関本先輩。」
◆
千代田先輩が応援を呼び風紀委員と部活連からの応援が駆けつけて関本を生徒指導室(生徒達の間では『取調室』と呼ばれている)へ連行されていった。
千代田先輩から俺へ向けて質問をされた。
「そういえばさっき何もないところから突然どうやって現れたのよ?」
「あれは《四獣拳》の《麒麟乃型》の能力っすよ。…まぁ秘伝なんで細部は教えられないっすけど。」
「君は何でもアリね…。それにしてもちゃんと仕事をしてるじゃない。」
「何だと思ってるんすか…。」
思わず苦虫を潰したような表情を浮かべてしまったが千代田先輩からの評価は総じてそんなものだと俺はそう受けとった。
会話をして千代田先輩達が退出したのを見計らってピクシーへ指示を出す。
「ピクシー。俺が指示を出したときから今の時間までの録画データを俺のデータドライブへ転送して大元は削除実行してくれ。」
「かしこまりました…データを転送中…完了。マスターデータを削除します…削除完了。此方を。」
複製が終わったデータドライブを俺へ手渡してこの後ピクシーを弄くろうかと思ったが突如として俺の端末が震える。
電話のようだ。
「俺だ。」
『あ、八幡?護衛の女の子だけど落ち着いたみたいで喋れそうだよ?どうする?』
「起きたのか。」
『そうだよ。』
つまりは達也達を襲おうとしていた平河が精神が安定していることを俺に伝えるために連絡をしに来てくれたらしい。
俺は達也に視線を投げると理解してくれたようで頷いた。
「分かった。直ぐに向かう。」
『待ってるよ~。』
達也に一言告げてロボ研の外に出る。
俺は《
◆ ◆ ◆
国立魔法大学付属立川病院の面会時間は正午から午後七時までとなっておりその病院の廊下を一人の青年が花束を持って歩いている。
しかし、廊下を歩いていると言うのにその青年の整った顔に通りすぎる女性看護師や女性入院患者が通りすぎても何の反応もないというのはおかしな話である。
もう何度も通っているかのような素振りをしており連絡案内板を見ずに”音もなく”歩いている。
エレベーターを使わずに階段を上がり四階の廊下に出て、不意にそこで立ち止まった。
視線の先には大柄の男性の姿と第一高校の制服を着用している少年の姿があり一触即発の様相を見せていた。
「おやおや…お見舞いに行くとは陳先生には申し上げていたのですが…まさか七草の長兄が来ているとは。」
何食わない顔で青年は何の躊躇いもなく非常ベルを押したのだった。
◆
八幡と呂剛虎が戦闘に入る前の事。
さらに言えば八幡が立川病院に移動する前の時間帯。
立川病院のロビーには男女のカップルが訪れていた。
一人が八幡の学校の先輩である渡辺摩利。もう一人は天才剣士の名を欲しいままにする千葉家次男でエリカの腹違いの兄である千葉修次がそこにいた。
「シュウ」
いつものように宝塚のような男装の麗人然とした雰囲気で下級生が赤面してしまうような態度を取っている筈なのに一変しシュウと呼ばれた恋人の前では柔らかい女性的な雰囲気を醸し出し恥じらいを見せているがその表情には申し訳なさそうな意味合いも含まれていた。
「その…すまない。忙しいのにこんなことに付き合わせてしまって。」
摩利の目的は花音経由で達也達を見ていた少女、平河千秋をお見舞い名義という名の訊問をするべく保健教諭である安宿先生からここの居場所を聞き出していたのだった。
しかしその言葉を聞いた修次は「心外だ」と言う顔をしている。
「水くさいなぁ。そんなことを気にするする必要なんて無いんだよ。」
修次がそうは言うものの自分の学校の出来事に巻き込んでしまっている摩利は眉をしょげさせておりそれを見た彼氏はフォローするが「だが…」と食いついてくる彼女に困った表情を浮かべて返答した。
だが摩利の表情に気兼ねの色が浮かんでいたのを見逃さなかった。
「どうしたんだ摩利?」
「いや、何て事は無いんだが…シュウはいつも長期で空けるときは何時も稽古をつけてやっていたじゃないか…エリカに。今日は良いのか?」
摩利の問い掛けに拍子抜けした表情に苦々しさを同居させたモノを浮かべ答えた。
「エリカは最近クラスメイトと稽古してるみたいだからね…それからかなエリカの様子が変わった気がしたんだけど。摩利は何か知ってるかい?」
クラスメイトと稽古をしている、と聞いた摩利は一人の男子生徒を思い出した。
「ああ…恐らく八幡くんだろうな。」
「八幡?誰だいその子は。」
「真由美の弟だよ。」
「真由美くんの?それはつまり”七草”の子か…。ん?お、弟?男か…?」
「そうだが…シュウ?」
何気なく伝えた言葉に修次が動揺していた。
「そんな、まさかエリカに彼氏が…いやそんなまさか…。」
「シュウ、大丈夫か?」
摩利に声を掛けられてハッと我に返った修次。
「す、すまない…摩利、気が動転していたようだ。そうか…男か…」
「し、シュウ?」
「今度ウチにその八幡くんとやらを招待して真偽を問いたださないとな…。」
その言葉を聞いた摩利は
(いや、既に手遅れだと思うよシュウ…。)
そんなことを思っていたが摩利にジッと微笑ましいものを見るような表情を向けられているのに気がついた修次は軽く咳払いをして気を取り直す。
「んんっ!それよりも摩利がそんなことを気にしなくてもいい。それに何より僕が摩利と一緒に居たかったんだ。」
「そ、そんな恥ずかしいことを口にしなくてもいい。」
いきなりの攻守逆転にたじたじになる摩利を見て修次は年上の矜持を守れたとホッと一息ついたが、弛緩したその神経は直ぐ様強い緊張を張ることになる。
突如緊急ベルが鳴り響いた。
色ボケしていた摩利も直ぐ様脳内が緊急時の頭に切り替わる。
「シュウ!?」
「火事じゃない。これは暴対警報だ。…場所は四階のようだね。」
「四階!?」
「まさか摩利の後輩が入院しているのも四階か?」
摩利の表情を見た修次は他人事ではない事態だと理解した。
「行こう!」
二人は階段を駆け上がり後輩が入室している四階の病室前の通路に到着すると暴徒と見られる大柄な男と摩利もよく知る後輩が既に戦端を切っていた。
「八幡くん!?」
「呂剛虎だって!?それに摩利、今のは…。」
「ああ、ウチの後輩だよ。」
八幡は刀を手に呂剛虎と戦闘を開始していた。
◆
「っと…。」
俺は学校から立川病院へ《
病室に近づくと俺は異変に気がついた。
(人の気配が無さすぎる…一体。)
平河が居る病室の前には俺が護衛で着けていた実働部隊の少女が眠そうにあくびを上げていた。
俺に気がつき軽く手を上げる。
「やっほー。ご苦労様。」
「ああ。ご苦労。何か変わったことはあったか?」
「いいや?平和そのものだよ。」
俺が平河の病室へ入ろうと思った矢先に背後からの獣のような威圧感を感じ取った。
即座に振り向くとそこには大柄な青年が立っていた。
見覚えのあるその表情は忘れもしなかった。
それは向こうも同じことで此方を視認すると臨戦体制に入ったのだった。
「呂剛虎…平河を消しに来やがったか。」
「七草八幡…。」
背後で実働部隊の一人が俺に話しかけてきた。
「援護する?」
後ろを振り向かずに正面を見据えて指示を出す。
「いや、お前は平河の部屋を死守してろ。」
「了解。」
そう指示を出して俺はホルスターから
(やべぇ…間違えて普段使いの
うっかりしてしまっていた。
こんなところで
一瞬の迷いが呂剛虎の接近を許してしまう。
(やべ…!)
掌底を食らう直前に空間から日本刀を取りだし鞘にサイオンを流し込み盾として硬化させて弾くと同時に鞘をつかみ拵を握って抜刀し切りかかる。
「っ!」
「!?」
流石に呂も獲ったと思ったのだろうがそう簡単には獲らせはしない。
いぶし銀の切っ先が獣へと無手の構えをする若人へ向けられ互いに距離を獲る。
その瞬間に館内の非常ブザーが鳴り響いた。
火災報知機ではなく誰かが暴対警報をならしたのだろう。
それをゴングに俺と呂剛虎が踏み込み再び激突した。
◆
俺は握られた《
本来こいつの前では日本刀などただの棒切れで直ぐ様へし折られるだろうがそんなことはお構いなしと人喰い虎が俺の得物の範囲に入った瞬間、刀に俺が保有するサイオンを流し込む。
刀がぶつかる瞬間に呂が右手を翳すと刀と拳の交差した地点で「ガギャン!」と金属がぶつかり合う音が廊下に響き渡る。
日本刀をへし折る筈だった呂剛虎の《鋼気功》は俺の垂れ流し纏わせているサイオンを重力魔法によって制御されている硬度とぶつかる為に金属のような音を立てているのだ。
「!」
只の日本刀でないことを打ち合い理解したのか此方に振らせる隙を与えないように攻撃を仕掛けてくるがそれは此方も同じことだ。
殴り掛かるタイミングで詠唱破棄による《
四十八手の型を寸分の狂いもなく体に叩き込まれたタイミングで完璧に呼び出し目の前に居る人物へ叩き込む。
しかし、呂も只でその連撃を食らうほど間抜けではないようで剣閃が奴の腕によって弾かれてしまう。
恐らくは中華武術を応用した一技法を魔法的に昇華させた技法なのだろう。
突きだされた呂の豪腕を反射的に回避し加重魔法によるホバー移動で壁際に移動することになる。
それを見逃さないこいつは拳、掌、熊手、体当たりと果敢に攻めてくるが俺には当たらない。
そのお陰でこいつが再び焦っているのを《瞳》を見ずとも感じ取っていた。
俺は手に持っていた刀を人喰い虎の顔面目掛け投擲した。
「!?」
まさか獲物を投げるとは予想だにしなかっただろう思わず眼前でその刀を拳で弾いてしまうがそれは間違いだ。
なぜなら俺は”獲物を手放してなど居ないのだから”
「ガッ!!?」
強烈な衝撃が人喰い虎を襲っただろう。
腹部を押さえて此方へ進める歩みを遅くした。
その理由は俺が投擲したのは刀ではなく”鞘”の部分なのだから。
刀はもちろん投擲はしたがサイオンの糸のようなものをくくりつけているので持ち手からすっぽ抜ける、ということはない。
手に持っていた鞘を加重魔法による反発力を利用し弾丸以上の速度で投射したからだ。
そんなものを直撃すればいくら丈夫といえども苦悶の表情を浮かべ判断を鈍くさせるのは十分だ。
自己加速術式《
「連鶴」
その瞬間呂剛虎の四肢から鮮血が吹き出し倒れた、と思われたが。
「グッ…オオオオオッ!!!」
「はっ?」
まさかの四階の廊下から雄叫びを上げながら飛び降りジャッ○ーもビックリなアクションで身を投げる…が直ぐ様病院の天井付近に吊り下げられていたオブジェに捕まり電装飾が施されていたのだろうスパークしながらそのオブジェを破壊し地面へ着地し走り出した。
「ちょ、マジかよ…!」
直ぐ様追いかけようと飛び降りる準備をしたが視線をずらした瞬間呂剛虎は姿を消していた。
「くっそ…逃がしたか…」
追いかけても無駄骨になるだろうから溜め息をつき手に持った
俺は気を取り直して平河の病室を警護していた隊員が話しかける。
「何時見てもスッゴいね~。」
「凄くないだろ別に…。中に居る平河は大丈夫か?」
「うん、大丈夫。」
「そうか…。」
「八幡くん!!」
そういってドアの取っ手に手を掛けると背後から知っている声がかけられる。
そちらに体を向けるとやはり知っている人物だった。
「?渡辺先輩がどうしてここに…隣の人は…ああ。」
此方へ向かってくる渡辺先輩と男性の格好が所謂”ペアルック”になっているので察した。
ジッと見ている俺に渡辺先輩は怪訝な顔をしている。
「…な、何かね。」
「渡辺先輩どんだけ彼氏の事好きなんすか…」
その事を告げると顔を真っ赤にしていた。
「なっ…!!な、何を…。」
「それより何でここに渡辺先輩が居るんですか?」
「あ、ああ。ここに平河千秋が入院していると安宿教諭に聞いてな。」
その事を聞いて俺は先ほどの戦闘が発生した理由に合点が言った。
「…黙っとけって言うべきだったな。まさかそこから居場所が漏れたか?」
平河の居場所がばれたのもそれが理由かも知れなかったからだ。
保健室に居る教諭の顔を思い出し溜め息をつくが渡辺先輩には関係のない話だ。
「何か言ったか?」
「…いえ。何でもないっすよ?渡辺先輩が来たってことは平河に訊問しに来たんですか?」
「そうなんだが…というよりもさっきの戦闘は一体なんだったんだ!?君と互角の近接戦闘を行っていたあの男は?」
「なんだったって…平河を利用していた組織が失敗した平河を始末しようと派遣した魔法師としか…」
「そいつは…」
俺は襲撃してきた魔法師について話そうとしたが隣に居る渡辺先輩の彼氏が説明した。
「さっき彼と戦闘に入った奴の名前は呂剛虎、大亜連合本国特殊工作部隊の魔法師。そうだろう?」
「ご存じでした…って貴方は?」
男性が俺の質問に答えて自己紹介をしてくれた。
その名前に俺はぎょっとしてしまった。
「私は千葉修次。初めまして七草八幡くん。妹のエリカがお世話になっているね。」
「あ、うっす…七草八幡です。…まさかエリカ、いや千葉さんにはお世話になっています。…まさか千葉さんのお兄さんが渡辺先輩の彼氏さんだったとは知りませんでした。」
差し出された手を握り返すとめっちゃ強く握り返されてしまった。
なんで怒ってるんだこの人…。
握られた手に多少の痛みを覚えつつ修次さんを見ると笑みを浮かべては居るが品定めをしているような視線を俺へ向けている。
数秒見た後に納得したのか手を離して人の良さそうな表情を浮かべて俺に話しかけてきた。
「まさかあの『人喰い虎』と互角に渡り合う剣術…一体どこの流派なんだい?」
近代魔法技戦の権威である千葉家の次男はどうやら俺の使用していた剣術に興味があるようだ。
「あれですか?…我流ですよ。」
「その割にはずいぶんと型が綺麗に当てはまられているように感じたけど…。」
「偶々です。」
「エリカとはどんな関係なんだい?」
「同じ学校の同級生ですが?」
「剣術の修練をする…と言っていたのは君であっているのかな?」
「ええ。…それより用事があったのでは?」
これ以上追求されると余計なことまで言ってしまいそうになるので早々に切り上げる。
実の兄へ自分が剣の魔法師でもない人間に破れたことを知られるのはエリカにとっても不本意だろうし…。
その場から立ち去ろうとする俺を修次さんが引き留める。
「八幡くん。」
「…なんでしょうか?」
「僕はあまり国内に居なくてね…妹の面倒を見てやれないんだが…エリカの剣と打ち合ってその剣は君に”届いていたかな”?」
全部お見通しなのかこのお兄さんは…
俺は踵を返そうとした体を修次さんへ向き直り真っ直ぐに見る。
「ええ”届いていましたよ”。彼女の本心が乗った良い剣筋でした……俺がエリカを見続けますから安心しててください。修次さん。」
その言葉に満足したのか先ほどまでの敵視は無くなっており感心するような視線を向けられた。
「エリカを頼むよ八幡くん。」
「は、はぁ…?」
それだけ言って修次さんと渡辺先輩は俺よりも先に平河の部屋へ向かっていってしまうのを見てハッとして後を追いかけることになった。
平河の様子を確認すると《精神異常》は見られず元に戻っており受け答えも普通だ。
どうやら姉の件と達也への劣等感を煽られてそれを漬け込まれたらしい。
だがその暗示をかけられた人間のことはすっぽりと抜けているようで「分からない」と答えるだけでこれ以上の回答は期待できず俺は修次さん達へ別れを告げて帰宅することにした。
◆
「出すぎた真似でしたかね?」
高級乗用車を運転する周青年は後ろに居る呂へ話しかけた。
しかし呂は周を見据えたままで黙ったままだ。
そんな態度も気にも留めない周は屈託の無い声で言葉を続ける。
「それにしても驚きました。呂大人が手傷を負わせられるとは…七草の養子も侮れない、ということですかね?」
嫌みにも取れるその発言に呂は眉ひとつ動かさない。
がその巨体からは闘志のようなものが滾っているように感じられた。
「奴は強い。」
「…呂大人がそこまで言うとは。」
呂からは他人を強者と認める発言をしたことは周も驚いていた。
「遁甲術を使うのか?」
口にしたのは自分を助けた周の術についての疑問だった。
「いやお恥ずかしい、陳閣下の御技と比べれば手遊びに毛が生えた程度でして皆様にお見せする程度のものでは御座いません。」
その周も手の内を隠して居たことを責めるような言葉に苛立ちを見せずに笑みだけを浮かべていた。
◆
呂剛虎がアジトへ戻ったのは日付が少し変わった後だった。
再び手傷を負った呂剛虎を見た陳は驚いた表情を浮かべており負傷の経緯を既に報告を受けていたからだ。
”抹殺対象者の病室の手前で七草八幡と遭遇し戦闘、撤退せざるを得なかった”と
その話を聞いて陳は思わず耳を疑ってしまったがその負傷具合を実際に見てみると信じざるを得なくなっていた。
呂は再襲撃を意見具申したが陳は却下していた。
陳は呂に責任の是を問うつもりはなかった。
あまりにもイレギュラーが多すぎるのだ二度に渡る七草の養子の妨害、それに協力者である周の胡散臭さが引き立っており呂を責めることは奴の術中に嵌まるような気がした。しかしそれ以上に”優先順位”が変わったのだ。
「状況が変わった。」
その状況を打破するために呂の力が必要となったのだ。
つまらないことで呂を責任を問う時間よりも此方の方が有効であると陳は判断した。
「第一高校における我々の協力者である関本勲が任務に失敗し奴らの手に落ちた。収容先は八王子特別鑑別所だ。」
特殊観察所に送られたとなれば任務の遂行度合いは必然的に跳ね上がる。
それに関本は直接陳達と遭遇しているので間接的な接触したことの無い平河とは優先度は天と地の差ほどあるからだ。
「平河千秋の始末は後回しだ。関本勲を処分せよ。」
「是」
「…それとだ、上尉。今後、”七草八幡”を特記戦力として認定。”やむを得ない事情”以外では戦闘を禁ずる。」
その事を告げられた呂は変わらずに平然とした表情で答えた…ように見えた。
そこには傷の痛みなど気にしないと言わんばかりに八幡への再戦を望む猛虎がそこには居た。