「電力会社は不当に儲けている」国民にそんな疑念を抱かせてしまう岸田政権"補助金政策"の決定的問題点 「消費者を助けるため」と言いながら業界を支えている

プレジデントオンラインに11月15日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://president.jp/articles/-/75802

あまりにもタイミングが悪い「最高益」

電気料金の上昇で家計の負担が大きく増えているのを横目に、大手電力会社が軒並み好業績を上げている。電力大手10社の2023年9月中間決算(4~9月)は連結最終損益が合計で1兆6159億円と5928億円の赤字だった前年同期から大幅に改善。北海道、東北、中部、北陸、関西、中国、四国、九州の8社が上期の決算として過去最高を更新した。

2023年3月期の通年決算では8社が赤字に転落、家庭向けの電気料金を6月1日から軒並み値上げした。この効果だけでも収益が3300億円改善したとされる。実際にはLNG液化天然ガス)価格が下落した効果などもあり、一気に最高の利益を上げる結果になった。

だが、このタイミングでの「最高益」はあまりにもタイミングが悪かった。価格上昇を抑制することを狙って政府が電力大手に補助金を出したタイミングと重なったからだ。2023年1月から始まった「電気・ガス価格激変緩和対策事業」である。

一般家庭が使う低圧の電気の場合、今年1月から8月までの間は、1キロワット時(kWh)あたり7円が給付される。例えば月に200kWh使用する家庭の場合、1400円電気代が安くなる。もっとも、消費する家庭や事業所の負担を抑えるための措置と言いながら、補助金が支給されるのは電力会社(ガスの場合はガス会社)。個人に直接支給されるわけではない。

「電力会社は不当に儲けている」という批判

このため、国民の税金で賄われている激変緩和対策の費用が電力会社に流れているから、電力会社が軒並み最高益を更新したのではないか、という疑念が生じ、電力会社は不当に儲けているという批判が上がっているのだ。

9月14日には学生を中心とするプロジェクトのメンバーが東北電力を訪ねて、最高益が出るのにもかかわらず、なぜ電気料金の引き下げを検討しないのか、などを問う質問状を提出。東北放送などが報道した。質問状を提出した学生は「電気料金をねん出するために食事を削ったり家賃を払えなくなったりという相談がすごく増えてきている。あまりに今の貧困の広がりの深刻な状況について分かっていないのではないか」と述べ、学生らの生活実態と電力会社の意識のズレがあるのではないかと指摘していた。東北電力の6月からの値上げ率は約25%だった。

たまらず、対応策を検討し始める電力大手も出始めた。8年ぶりに最高益を更新した中部電力の林欣吾社長は決算記者会見で、「今後の料金のあり方や配当のあり方について具体的にどうするのかの検討を開始するよう指示した」と述べ、値下げも検討する姿勢を見せた。そんなに儲かっているのなら、税金から補助金をもらわなくても自助努力で何とかなるのではないか、という声が噴出するのを恐れているわけだ。

電力会社は民間なのに料金が国に規制されている

電力会社からすれば、昨年度決算で大幅な赤字に転落した段階では、値上げをしないと赤字から脱却できないという危機感があった。また、国からの補助金もすべて料金抑制に充当していて会社が懐に入れているわけではない、という思いが強い。事実、補助金で利益が上がったわけではないが、お金に色はないので、結果的に「値上げする必要があったのか」「補助金はいらないのではないか」という疑問がわくのは当然だ。

そもそも電力会社は民間会社にもかかわらず、料金が国に規制されている。一方で、原料費が上がった場合には、その分を自動的に料金に転嫁する「燃料費調整制度」が続いている。毎月の輸入燃料価格の変動に応じて、燃料費が上昇した場合には電気料金の「燃料費調整額」が加算され、燃料費が下がった場合には「燃料費調整額」が減額される仕組みになっている。

もちろん、燃料コストを計算して、それを料金に転嫁するにはタイムラグがあるので、昨年のように急ピッチで原油価格が上がった場合には価格調整が追いつかず、結果的に赤字が膨らむことになった。

支援策が出たところで、LNG価格が落ち着いてしまった

さらに、今年6月には軒並み家庭用の電気料金が大幅に引き上げられたが、これは燃料費調整とはまた別の話だ。ベースの電気料金を引き上げたのである。インフレで燃料費以外の様々なモノの値段が上がり、コストが上昇していることも要因だが、昨年度の大幅な赤字で毀損きそんした財務体質、つまり自己資本を穴埋めする必要があるというのが電力会社の主張だった。消費者担当大臣だった河野太郎氏が値上げ計画にクレームを付け、値上げ幅を圧縮させたのは記憶に新しい。

ベースの料金の値上げに加え、燃料費がさらに上がっていけば、消費者の負担はたまったものではない。そこで導入されたのが補助金の支給だったが、こうした「支援策」が出そろったところに、LNG価格が落ち着くという事態が重なったわけだ。予定していたよりもさらに利益が出て、世間の批判を一気に浴びることとなったのである。

「政府が価格をコントロールしようとしていること」が原因

なぜ、こんなチグハグが生じるのか。

最大の理由は、政府が価格をコントロールしようとしていることにある。原油やガスなどエネルギーは国際的な市況商品で、市場で価格が決まっている。本来、原油の市場価格が上昇すれば電力会社は自助努力でそれを吸収するか、価格に転嫁するかを決める。自社で吸収して電気料金を据え置けば、使用量は減らず、売り上げも変わらない。経済活動が活発ならば使用量は増えるだろう。一方で、コスト上昇を転嫁して価格を引き上げれば、料金上昇に耐えられない家庭は使用量を減らす。全体で需要が減れば、市場での価格は下落していく。需給によって市場で価格調整機能が働くというのが経済学の基本的な考え方だ。

ところが、そこに政府が補助金を出すとどうなるか。本来の価格は上がっているのに、補助金によって料金が抑えられるから、消費は減らない。つまり、市場での価格は高止まりしたままになる。市場で値上がりが続けば、政府はさらに補助金を出さざるを得なくなる。「市場」と「国家」がガチンコ勝負を挑むことになるのだ。

岸田内閣は「市場への挑戦」をしている

国家が強力で市場規模が小さかった時代は、国家が経済を統制することもできた。国の市場が閉じていればなおさらだ。ところがグローバル化によって市場が世界とつながった今、国家が市場をコントロールするのは難しいと見られている。

岸田文雄内閣はそれに挑戦しようとしている、と見ることも可能だ。

電気代より前に「市場への挑戦」を始めたガソリンは、「激変緩和措置」と言いながら、すでに2年目も後半に入っている。開始した2022年1月は1リットル5円の補助金だったが、当初4月までだった期限を9月まで延長すると同時に1リットル35円に補助金を引き上げた。その後も延長を繰り返し、2023年9月までとしていたが、岸田文雄首相の経済対策の柱になって2024年3月まで延長されている。すでに6兆円の税金が投入されたが、原油価格が下がらなければ、やめるどころか、さらに延長、拡大となっていくだろう。つまり、一度始めたらやめられなくなるのだ。おそらく電気代に対する補助金も同じ運命をたどるに違いない。

もうひとつ、補助金が消費者に直接支給されるのではなく、石油元売会社や電力会社に直接給付されていることも問題が大きい。業者自身が自助努力で効率化しコスト高を吸収しようというインセンティブが働かないからだ。また、補助金によって価格を下げることが可能になれば、販売量は減らないから、売り上げも維持できる。まさに業者にとってはありがたいことなのだ。

一般家庭のガソリンや電気の使用量は減っている

実は、ガソリンや電力は、一般家庭の使用量が大きく減っている。電気自動車やハイブリッドなどの普及、省エネ家電の普及など、エネルギー消費量自体が減り続けているのだ。ここ1、2年は新型コロナ明けで人の動きが活発化したことでやや消費量が上向いているが、長期的なトレンドはガソリンや電気の需要は減っていく方向にある。石油会社が統合を繰り返していることや、ガソリンスタンドがどんどん少なくなっているのを見れば、それを実感できるだろう。

つまり、今政府が行っている補助金政策は、消費者を助けるためと言いながら、実のところ、価格を抑制することで需要を減らさないようにし、業界の売り上げ減少を防いでいるとも言えるのだ。やはり、岸田首相は消費者ではなく、供給者、つまり企業や事業者を向いた政策を取っているということなのかもしれない。

 

「高齢者依存」業種で壊滅的人手不足

定期的に連載している『COMPASS』に11月15日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://forum.cfo.jp/cfoforum/?p=28919/

 目に見えてタクシーの台数が減り、駅のタクシー乗り場で長蛇の列を見ることも多くなった。新型コロナウイルスの蔓延が終息して経済活動が活発化したことや、インバウンドの外国人観光客が戻ってきてタクシー利用者が増えたことも背景にあるが、それだけが原因ではない。

 タクシー運転手が減り、車があっても動かせず車庫で寝ているタクシーが増えているのだ。全国ハイヤー・タクシー連合会の調査によると、個人タクシーを除くタクシー運転手の数は2019年に29万1,516人だったものが、2023年3月末には23万1,938人になった。コロナ禍前に比べて20.4%も減少したのである。

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企業は儲かっても賃金が上がらない構造~これが岸田文雄政権支持率どん底の真因だ 家計はインフレ困窮、企業は最高益

現代ビジネスに11月8日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.media/articles/-/118876

内閣支持率、政権発足後最低

岸田文雄内閣の支持率が政権発足以来最低に落ち込んでいる。日本経済新聞社テレビ東京が10月27〜29日に実施した世論調査では、内閣支持率が33%で2021年10月の政権発足後最低。共同通信社が11月3~5日に実施した全国電世論調査でも28.3%と過去最低を更新。JNNの調査でも29.1%と3割を下回って最低となった。

支持率急落の原因ははっきりしている。政府が11月2日にまとめた総合経済対策が不評だったからだ。JNNの調査では、経済対策に「期待する」と答えた人はわずか18%。72%の人が「期待しない」と突き放した。「目玉」だったはずの所得税・住民税合わせて4万円の定額減税についても、「評価しない」が64%で、「評価する」は26%にとどまった。

それだけ多くの人たちが足下の「経済」に不安を抱いているということだろう。消費者物価の上昇率は9月には前年同月比2.8%で、上昇率が鈍化したという解説もあるが、実際には昨年9月もその1年前に比べて3.0%上がっているので、物価上昇が止まらないというのが生活者の実感だろう。しかもこれはエネルギーを含んだ総合指数の伸びで、実際にはガソリン代や電気・ガス代の抑制に巨額の国費が投じられた後の物価。エネルギーを除いた指数では前年同月比4.2%の上昇と1年前の1.8%の上昇からさらに拍車がかかっている。食料品は1年前に比べて9%も上昇している。

一方で給与は上がらない。賃金から物価上昇分を差し引いた実質賃金は2023年8月まで17カ月連続でマイナスとなっている。岸田首相は賃金は上昇し始めていると胸を張るが、まったく物価上昇に追いついていない。政府が影響力を持つ最低賃金にしても、今年は時給1004円と初めて全国平均で1000円を突破したが、上昇率は4.4%。年間の物価上昇率を3%としても実質は1.4%に留まり、安倍晋三内閣時代の2%台に及ばない。円安が進んでいることもあり、ドル建ての最低賃金はむしろ下落しており、外国人労働者の日本離れの引き金になっている。

最低賃金の引き上げくらい思い切りやってはと思うが、岸田首相の賃上げに対する本気度が疑われる。8月には最低賃金1500円を目指すと発言したが、実現の時期を「2030年半ばまでに」としたのには耳を疑った。そんな姿勢で物価上昇を上回る賃上げは実現しそうにない。

企業は空前の好決算

「家計」は物価上昇で困窮しているが、「企業」は空前の好決算に沸き、それに伴って「政府」は税収増で潤っている。物価が上昇していることで企業の売り上げが増えていることから、結果的に利益も納税額も増える結果になっている。売り上げが増えれば消費税収は増えるので当然と言えば当然だ。「企業」と「政府」はインフレが追い風になっている。

9月1日に財務省が発表した2022年度の法人企業統計によると、企業(金融業・保険業を除く全産業)の売上高は9.0%増加、当期純利益も18.1%増えた。新型コロナ前のピークである2018年の利益水準62兆円を大きく上回り74兆円に達している。

その利益を企業はしっかり抱え込んでいる。内部留保(利益剰余金)は過去最高を更新し続け、554兆円に達している。1年で7.4%も増えた。一方で、企業が払った人件費は3.8%の伸びにとどまっている。2019年度、2020年度と人件費は大きく減ったが、内部留保は一向に減ることなく増え続けた。内部留保は危機の時への蓄えだと言いながら、まったく取り崩されることなく増え続けている。

次の春闘での大幅利上げが無い限り

かつて麻生太郎氏が財務大臣だった時、法人税率の引き下げに対して、税率を下げても内部留保に回るだけでは意味がない、と苦言を呈していた。法人税率の引き下げによって、増えた利益が配当に回ったり、次なる投資へと使われることで、日本経済が活性化することが狙われたが、結果は思うように進まなかった。

配当こそ32兆円あまりと、新型コロナ前の2018年度の26兆円から大きく増えたが、利益の何%を配当に回したかを示す「配当性向」は42.2%から43.8%に僅かながら上がったに過ぎない。結果的には麻生氏の危惧する通りとなった。

2018年度から2022年度の間で、内部留保は463兆円から554兆円に19.8%も増えたが、人件費総額は208兆円から214兆円に2.8%増えただけにとどまっているのだ。

増え続ける内部留保に対して、課税すべきだという声が上がったことがある。財界は「二重課税だ」として強硬に反対した。内部留保法人税を支払った後のお金なので、それにさらに課税するのはおかしい、というわけだ。また、貸借対照表の貸方にある利益剰余金の反対側、つまり借方は「建物や設備」などになっていて、「現金」が積まれているわけではない、という主張もある。

だが、ここまで会計上の剰余金が増えるのは異常だろう。企業がもっと利益を上げる資産に資金を回したり、財産である社員の待遇を引き上げることが重要ではないか。

果たして来年の春闘に向けてどれだけの賃上げを実現するのか。内部留保を積み上げている大企業を中心に思い切った賃上げが実現しないと、来年の自民党総裁選に向けて岸田内閣の支持率回復は望めないだろう。

「駅前ですらタクシーがつかまらない」それでも"ライドシェア解禁"が遅々として進まないワケ 岸田首相は"既得権者"と"国民"のどちらを選ぶのか

プレジデントオンラインに10月31日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://president.jp/articles/-/75288

高齢運転手に支えられてきたタクシー業界

各地でタクシー不足が顕在化している。駅のタクシー乗り場で長蛇の列ができる光景も珍しくなくなった。地方に行けば、タクシーがほとんどなく、移動手段に困り果てる旅行者も少なくない。

なぜこんなことになっているのか。

もちろん、背景に人手不足があることは言うまでもない。

全国ハイヤー・タクシー連合会の調査によると、個人タクシーを除くタクシー運転手の数は2019年に29万1516人だったものが、2023年3月末には23万1938人と20.4%も減少した。高齢化によって運転手のなり手が激減していることが大きい。

これに対して国土交通省は、通達を改正して10月から個人タクシーの過疎地での営業を認めると共に、これまで75歳未満だった上限年齢をこうした地域に限って80歳未満に引き上げた。

もちろんこんな付け焼き刃の対応でタクシー不足が解消されるはずはない。昨年10月時点の人口推計で73歳の人は203万人いるが、72歳は187万人、71歳は176万人、70歳は167万人と急激に高齢者の数が減っていく。いわゆる団塊の世代労働市場から急速に姿を消していくわけだ。タクシー業界は65歳以上の高齢者が多く働く職業の典型だ。年金をもらいながら働く人も多く、これが人件費を低く抑えてきた面も強い。バブル崩壊後、深夜の高額利用も減り、バリバリ稼ごうという若者がどんどん入ってくる職場ではなくなった。日本のありとあらゆる産業で人手不足が深刻化している中で、高齢運転手に支えられてきたタクシー業界が今後も急激に人手確保が難しくなることは明らかだ。

「ライドシェア」解禁に猛反発のタクシー業界

「地域交通の担い手不足や、移動の足の不足といった、深刻な社会問題に対応しつつ、ライドシェアの課題に取り組んでまいります」

岸田文雄首相は10月23日に国会で行った所信表明演説でこう述べた。タクシー不足に「ライドシェア」で対応することを検討するとしたのだ。ライドシェアはアプリを使って利用客を一般の人が運転する自家用車とマッチングするもので、米国生まれの「ウーバー」が草分けで、スマホから簡単に呼べる手軽さから世界中に広がった。

日本での「ライドシェア」解禁に猛反発したのがタクシー業界だった。素人の運転する「白タク」では安全性が保てないというのが表向きの理由だったが、要は競合相手が増えることを嫌ったわけだ。2014年3月にウーバーは日本に上陸したが、日本の規制を突破できず、アプリで配車されるのは提携した会社のタクシーだった。その後、タクシー業界は独自にタクシー配車アプリを立ち上げ、ウーバーの存在価値は低下。結局、世界で広がっているライドシェアは日本では規制によって拒絶され続けている。ウーバーは規制のない飲食デリバリーの「ウーバーイーツ」に大きくシフトしていった。

2014年の「タクシー減車法」が自由競争にブレーキをかけた

ウーバーが日本に進出した2014年は日本のタクシーにとって大きな変化が起きた年だった。競争が激化したという話ではない。むしろ自由競争にブレーキをかける決断をした年だった。

2014年1月27日、「タクシー『サービス向上』『安心利用』推進法」と国土交通省が呼ぶ法律が施行されたのだ。正式には「特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法等の一部を改正する法律」という名前だが、新聞などでは「タクシー減車法」と報じられてきた法律である。

タクシー規制については、「小泉構造改革」の一環として2002年に施行された改正道路運送法で、参入規制や台数制限が撤廃された。新規参入は許可制だったが、既存のタクシー会社による増車については届け出だけで可能にした。また、料金についても自由化された。

この規制緩和の結果、利用客の多い大都市圏を中心に新規参入や増車の動きが一気に広がり、台数が大幅に増えたのである。また、初乗り500円のワンコイン・タクシーなども誕生、価格競争も起きた。競争が激しくなったことで、タクシー1台当たりの売り上げは減少、タクシー運転手の賃金は歩合制が多いため、賃金減少に結び付いたとされた。タクシー業界は猛烈に反発。「行き過ぎた規制緩和」がタクシー運転手の生活を壊した、というキャンペーンを張った。

自由競争の排除で構造不況業種になってしまった

2014年の法改正では、国土交通相が「特定地域」に指定した過当競争地域では、事業者や首長らで構成する「協議会」で決めれば、タクシー営業台数を削減させたり、新規参入や増車を禁止したりできるようになった。また、タクシー会社は国が定めた範囲内で料金を決めなければならなくなった。下限を下回る料金に対しては国が変更命令を出せるようになったのである。

ライドシェア解禁どころか、タクシーの数を減らしたのである。タクシーの台数を減らして競争をやめれば、乗務員の待遇が改善され、消費者にとってもサービス向上になるというのが、当時のタクシー業界やその意向を受けた国交省、政治家の意見だった。

それから10年。サービスの向上どころか、サービスを提供できないタクシー業界に成り下がっている。これはどういうことか。

自由な競争を排除したことで新たなビジネスチャンスを求める新規参入業者も減った。競争によって切磋琢磨せっさたくますれば、新しいビジネスアイデアが生まれてくるというのは、小泉改革時代の10年でも明らかだった。価格を下げようとする業者がある一方で、新たなサービスで新規参入しようという試みもあった。その芽をつんだことがタクシー業界全体にとってプラスになったとは思えない。逆に魅力のない業界になり若者が働こうとなかなか思わない構造不況業種になってしまったのではないか。

ウーバーもグラブもない日本はまさにガラパゴス

新型コロナが明けて、インバウンドの外国人旅行客が増加してきたことで、日本のタクシーサービスへの不満が一気に爆発している。配車アプリで呼んでも捕まらず、いつ来るか分からないタクシー乗り場で待たざるを得ない。配車アプリで呼ぶ人が増えれば、ますますタクシー乗り場にやってくるタクシーが減るという悪循環になっている。

海外からの旅行者は日本のガラパゴスぶりにほとほと呆れている。東南アジアで普及している「Grab(グラブ)」などのアプリでは、事前に登録した行き先に黙っていても連れて行ってくれ、申し込み時に示された料金が登録したクレジットカードから引き落とされる。やってくる車はタクシーも、個人の乗用車も選ぶことができる。もはやライドシェアは世界の多くの国々で使われている共通インフラなのだが、先進国であるはずの日本に行くとひと昔前の発展途上国で苦労した運転手とのコミュニケーションが待ち構えている。ウーバーもグラブもない日本はまさにガラパゴスなのだ。

岸田首相は既得権者と国民のどちらを向いているのか

「国民が岸田政権に対し、もうひとつ物足りないと感じているのは、スピード感ではないでしょうか」

10月25日の参議院本会議での代表質問でこんな苦言を呈したのは野党議員ではなく、自民党世耕弘成議員だった。何が遅い、と言ったのか。2つ目の具体例としてこう述べた。

「各地でタクシー不足、バス不足が顕在化し、地方おける生活・観光が破綻しかかっています。ライドシェアについてもいつまでも議論するのではなく、期限を切ったスピード感を持って関係者の調整を行い、腹をくくって、実現しなければなりません」

もちろん、タクシー業界は「安全・安心」を盾に反対の声を上げている。客をいくら待たせても、車に乗せなければ安全であることは間違いないが、タクシー業界の利益のために国民の生活が破綻し、旅行者の不評を買っても致し方ないと言うのだろうか。果たして岸田首相は腹を括って解禁を決められるのか。既得権者と国民のどちらを向いている政治家なのかが問われることになるだろう。

「経済、経済」と連呼する岸田首相の「経済政策」への大きな不安 これは、本気なのか、強がりなのか

現代ビジネスに10月25日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.media/articles/-/118172

国民最大の関心事

「経済、経済、経済、私は、何よりも経済に重点を置いていきます」

10月23日に国会で行われた所信表明演説で、岸田文雄首相は「経済」を連呼した。30分あまりの演説の中に35回以上も「経済」という言葉が使われた。「経済」こそが国民最大の関心事だということを勘の良い岸田首相は肌で感じているのだろう。

安倍晋三元首相も、事あるたびに「経済」を持ち出した。御本人の関心事は安全保障や憲法改正、教育改革などにあって、「本当は経済にはあまり関心が無かった」(安倍氏に近かった元閣僚)と言うが、「アベノミクス」を掲げて国民のみならず世界の経済界にアピールした。「新しい資本主義」「資産所得倍増」「資産運用立国」と次々に魅力的なキャッチフレーズを放つ岸田首相は、本当に「経済」が最大の関心事なのだろうか。

岸田首相の現在の現状に対する認識は「30年ぶりの変革を果たすまたとないチャンスを迎えている」というものだ。これまでの「低物価・低賃金・低成長に象徴される『コストカット型経済』の変化がおこりつつある」というのだが、それは円安による輸入物価の上昇で原材料費が上がる「コストプッシュ型経済」になっているという事に過ぎないのではないか。

「物価上昇を乗り越える構造的な賃上げ」で「消費と投資の力強い循環が本格的に回り始めます」と大見えを切っているが、物価上昇率を差し引いた実質賃金は今年7月まで16カ月のマイナス。岸田内閣成立以降、ほぼ一貫して物価は上昇している。一般的な国民の感覚からすれば、物価が上昇して生活は苦しくなっているのに、岸田首相が景気は良くなっていると言っているように聞こえる。感覚のズレを国民が感じるところだろう。

供給力強化と国民への還元

そんな国民の不満を薄々感じているのだろうか。総合経済対策の「車の両輪」として、「供給力の強化」とともに「国民への還元」を言い出した。

企業収益の好転による法人税の増加や、価格上昇による消費税の増収など、国の税収は過去最高を更新している。この「税収の増収分の一部を公正かつ適正に『還元』し、物価高による国民の御負担を緩和いたします」としたのだ。「近く政府与党政策懇談会を開催し、与党の税制調査会における早急な検討を、指示します」としており、所得税減税が念頭にあることは間違いない。さらに、所得税を支払っていない低所得者に対しては給付金を支給する方針を示した。

岸田首相は「デフレ完全脱却のための一時的緩和措置」と言うが、ひとたび減税すれば、元に戻して増税する際の景気へのマイナスインパクトを考える必要が出てくる。つまり、簡単には元に戻せなくなるわけだ。

実際、石油元売会社に支給しているガソリン代を抑えるための補助金も「激変緩和措置」だったはずが1年半たっても止められない。すでに6兆円を投じたが、それでは収まらない。「9月には、年内の緊急措置として、リッター175円をガソリン価格の実質的な上限とするため補助を拡大しました」と今回の演説でも胸を張り、電気・ガスへの補助金とともに来年春まで継続することを明言した。

イスラエルパレスチナの間の戦闘激化で、世界経済も大きく動揺している。原油価格が再び上昇を始め、「有事のドル買い」で円安ドル高がジワジワと進んでいる。1ドル=150円の水準が続けば、輸入原油価格はさらに上昇。ガソリン代を抑えるのに、さらに巨額の財政支出が必要になる。

物価を抑えるために巨額の財政支出を続ける一方で、減税も行う。そんな大盤振る舞いを続けて大丈夫なのだろうか。

財政悪化⇒円安拍車⇒物価押し上げ

わが国の借金体質は世界で類を見ない水準に達している。日本銀行国債を買い入れることで低金利を維持し、すでに国債発行残高の半分以上を日銀が保有する異常事態になった。それでも財政再建よりも、国民への「還元」を優先すれば、財政はさらに悪化していく。短期的にはともかく、中長期的には日本円の相対価値はどんどん劣化していくことになる。つまり、自ら円安に拍車をかけ、それが国内物価を押し上げていくことになるのではないか。

本来ならば、財務省の官僚たちが放漫財政に警鐘を鳴らし、財政再建を建言するべきだが、どうも円安でインフレを呼び込むことに抵抗している気配がない。インフレでお金の価値が下がり政府の借金負担が実質的に軽くなる「インフレ税」でしか財政再建はできない、と見切ったのだろうか。そうだとすると、国民にはインフレの中で塗炭の苦しみが待っていることになる。

ところが、岸田首相は強気だ。本気なのか、強がりなのか。

「持続的な賃上げに加えて、人々のやる気、希望、社会の豊かさといったいわゆる『ウェルビーイング』をひろげれば、この令和の時代において再び、日本国民が『明日は今日より良くなる』と信じることができるようになる。日本国民が『明日は今日より良くなる』と信じられる時代を実現します」

明日の国民の生活が、今日よりも悪くならない事を祈るばかりだ。

「荷物ひとつでも届けなければ…」ドライバーの労働環境改善と言いながら空気を運ぶ率が上がっているワケ 「荷物の量がまとまってから運びますなんて到底言えない」

プレジデントオンラインに9月17日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://president.jp/articles/-/74812

最も過酷な労働環境に晒されてきたドライバー

「荷物の3割が運べなくなる」と試算されている「2024年問題」の発生まで残り半年を切った。きっかけは、2024年4月1日から「自動車運転業務」の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されること。長時間労働が慢性化しているトラックドライバーなどが、労働時間の短縮を余儀なくされる。そうでなくてもドライバー不足に悩んでいる運輸・物流業界にとって、死活問題になるのではないかと見られている。果たして、この「難局」を物流企業だけでなく、社会全体としてどう乗り越えていくか。

トラックドライバーが最も過酷な労働環境に晒されてきたことは統計にはっきりと表れている。「過労死等の労災補償状況」という厚生労働省の統計によると、2022年度に「脳・心臓疾患」で労災が支給決定された業種で最も多かったのが「道路貨物運送業」の50件。2位の「総合建設業」の18件を大きく上回り、最も人数が多い業種だった。50件のうち、19件が死亡している。

労災は業務との因果関係の立証などでなかなか認定されないとされる。実際、「道路貨物運送業」の労災申請は133件に達している。

「ともかく速く」運ぶという業界慣行

働き方改革が進められてきた中で、トラックドライバーの労災がなかなか減らない背景には、「自動車運転業務」だけが「例外扱い」になってきたことが大きい。2019年から始まった働き方改革関連法の施行で、時間外労働の上限は年720時間と決まり、同年4月から実施されている。中小企業は1年遅れの2020年から始まった。ところが、「自動車運転業務」については、上限が960時間に設定され、しかも施行日が2024年4月からと、5年も先送りされてきたのだ。

理由は、労働実態が法律の上限規制からかけ離れていたこと。長距離トラックなどでは、サービスエリアで仮眠を取って走り続けるのが当たり前で、しかも早朝に市場などに荷物を届けるために深夜走り続けている。それに規制をかければ、物流が止まり、経済活動がストップしかねないということで、5年間にわたって適用されずにきたのだ。この間、「業界慣行」を見直すなど、業務全般を変えていく動きも見られたが、現実には状況はほとんど変わらなかった。

最大の業界慣行は、「ともかく速く」運ぶという仕組み。注文を受けたらその日のうちに集荷して翌日には届ける。これは私たち消費者にも責任があって、電子取引で注文して翌日届く「便利な生活」が当たり前になっている。

「空気を運ぶ率がどんどん高まっているんです」

「ドライバーの労働環境を改善しようと言いながら、空気を運ぶ率がどんどん高まっているんです」と大手運輸会社のトップは語る。トラックがどれだけ荷物を積んで走っているかを示す指数を「積載率」と言う。行きは満載でも帰りにカラで走れば50%ということになる。国土交通省の調査では1990年に積載率は55%だったが、2009年には40%に低下、今もほとんど上昇していないと見られる。

「極端な話、荷物ひとつでも届けなければならないケースがある」と中小運輸会社の社長は言う。荷物を依頼する「荷主」の力が圧倒的に強いことが背景にある。輸送を受注しているのが大手運輸会社でも、実際に運んでいるのは下請けや孫請けの中小零細運輸会社であることも少なくない。「荷物の量がまとまってから運びますなんて到底言えない」と社長氏はため息をつく。

大手運輸会社では、ITシステムを使って、荷物の行き先を管理し、荷物を組み合わせることで積載率を上げる取り組みが始まっている。大手どうしで荷物をやりくりして、効率を上げる試みも進む。だが、結局、荷主の協力がなければ効率化は難しい。荷主の後ろにいる消費者のマインドを根本から変えないと、状況は改善しないわけだ。

本格的なドライバー不足時代の入り口

現在84万人ほどの人がトラックドライバーとして働いていると見られる。過去10年間は微増から横ばいだった。2024年問題で労働時間が減った場合、これまで通りの報酬が得られなくなることから、今後、ドライバーを辞める人が増えるのではないか、と見られている。ひと昔前、体力のある若者が手っ取り早く稼ぐにはトラックドライバーが選ばれた。長時間労働を厭わずにモノをたくさん運べばそれだけ稼ぎが増える。価格競争の中で収入を増やすには運ぶ回数を増やすしかない。これが、過労死を生む業界慣行だった。これが中小規模の運送会社を乱立させ、過当競争を生む要因にもなってきた。

最近は若者よりも高齢のトラックドライバーが目立つ。4割が50歳以上と言われて久しい。今後、労働時間が減って所得も減るということになれば、若者がますます入って来ない業種になる可能性はある。そうなると、本格的なドライバー不足時代になる。2024年問題はその入り口にすぎないとも言える。

来年以降、こうした業界慣行は変わるのだろうか。運ぶ速さを選ぶなら料金は割高になっても仕方がない、と企業も消費者も割り切ることができるのか。

中小運輸会社の破綻は1年で1.5倍に増加

一方で、エネルギー価格が上昇し、トラックの燃料代が上昇する中で、運送料金を引き上げられない中小運輸会社の破綻が相次いでいる。東京商工リサーチの調査によると、道路貨物運送業の2022年の倒産件数は248件と、2021年の169件から1.5倍に増加した。これに来年4月以降、人手を確保するために人件費が増えてくれば、さらに倒産が起きる可能性は高い。倒産によって弱い企業が淘汰とうたされ、値上げと共に賃上げができる企業だけが生き残っていく、という見方もある。だが、それまでの間、サービスの質が大きく下がる一方で、料金が上がるという事態に直面するのではないか。

物流は国の重要なインフラだ。自由化によって宅配便が生まれたことで、新しいビジネスが育ってきた。宅配便がなければ電子商取引がここまで広がることはなかっただろう。製造業が部品在庫をほとんど持たなくても製造が続けられるジャスト・イン・タイムも物流インフラがなければ実現不可能だった。世界に冠たる物流ネットワークを作り上げた日本は世界からの驚嘆の的になった。一方で、そのネットワークがトラックドライバーの過重労働によって支えられてきたことも事実だ。今、日本はその負の側面をどう解決するかが問われているわけだ。

危機の時こそ、新しい工夫と柔軟なルールが必要だ

DX(デジタル・トランスフォーメーション)がこれまでのデジタル化と違うのは、デジタル化する過程で仕事のやり方を根本から見直そうという点にある。実は、長年の慣行が残っている運輸業界には仕事のやり方を大きく見直す「余地」があるとも言える。

物流DXのベンチャー企業「HACOBU」(本社東京都港区、佐々木太郎社長)は、トラックが荷物を運び入れる「バース」をスマホから予約できるシステム「MOVO Berth」を開発、荷物搬入の待機時間を大きく削減することにつなげた。同社の調査では削減できた待機時間は平均63.3分に達する。すでに事業所の1万拠点に導入され、42万人のドライバーが登録している。DXで仕事の仕方が変わり、大幅な効率化につながることを証明した一例だろう。

単に今まで通りのやり方を続けるために、価格を引き上げていけば、新しいビジネスは生まれない。運送コストが上昇すれば、様々なビジネスに影響する。宅配便の値上げで地域の産地直送ビジネスも苦境に立たされている。そんな危機の時だからこそ、新しい工夫でビジネスが生まれてくることになるのかもしれない。ピンチをチャンスに変える工夫と、新しい取り組みを規制しない柔軟なルールが必要になるだろう。

今さらの「資産運用特区」で懸念される「資産逃避」「円安」の悲しいシナリオ

新潮社フォーサイトに10月4日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://www.fsight.jp/articles/-/50111

 政策というのは打つべきタイミングがある。一見正しそうな政策に見えても、タイミングがズレると逆効果をもたらす。そんな典型が、岸田文雄首相が打ち出した「資産運用特区」構想だ。

 岸田首相は9月21日にニューヨーク経済クラブで講演した。「我が国で我々が行っていることを評価していただき、我が国経済の底力と将来の計画をよく見ていただき、日本に投資いただくことを強く求めたい」と米国の投資家や経済人に呼び掛けたが、その「目玉」が「資産運用特区の創設」だった。

「海外からの参入を促進するため、資産運用特区を創設し、英語のみで行政対応が完結するよう規制改革し、ビジネス環境や生活環境の整備を重点的に進める。世界の投資家のニーズに沿った改革を進めるため、皆さんも参加いただいて、日米を基軸に、資産運用フォーラムを立ち上げたい」

アベノミクスの「焼き直し」

「特区」と言えば、安倍晋三元首相が推めたアベノミクスで「国家戦略特区」を規制改革を行う武器としたことで知られる。「岩盤」として名指しした農業、医療、労働市場の改革が注目されたが、海外からの投資を受け入れるための規制緩和は大きな課題であり続けた。「金融特区」を設け、様々な申請書類を英語で認めることや、金融機関などで働く外国人が仕事や生活するうえでの環境整備を進めることは、当初から掲げられていた。岸田首相が言及した具体策は、ほとんどすべて10年前のアベノミクスの「焼き直し」と言っていい。

 海外へ行って日本への投資を呼びかけるのも安倍流である。2013年9月にニューヨーク証券取引所を訪れた安倍首相(当時)はスピーチを行い、「バイ・マイ・アベノミクス(私のアベノミクスを買え)」と呼び掛けた。当時、アベノミクスとして「3本の矢」を掲げ、量的緩和財政支出の拡大と共に「民間投資を喚起する成長戦略」を打ち出した。大胆に規制改革を行うことで日本経済を変えていくという方針に、海外投資家が反応。日本株投資に一気に資金が流入した。安倍首相は折に触れて、ロンドンやニューヨークなどで投資家や経済人に「日本買い」を訴えた。

 岸田首相も就任以来、その安倍流を踏襲している。2022年5月にはロンドンの金融街ティーで講演し、「インベスト・イン・キシダ(岸田に投資を)」と呼び掛けた。「バイ・マイ・アベノミクス」の効果の再現を狙ったのは間違いない。

 そして、今回の演説では、この1年の日本経済のパフォーマンスの良さに胸を張ってみせた。いわく「名目GDP国内総生産)成長率は年率11.4%で主要先進国で最高の伸び」「国内投資も100兆円を超え史上最高」「物価高を上回る3.5%超の賃上げ」「最低賃金は4.5%引き上げ」と目覚ましい成果を上げ、その結果、「株価は33年振りの水準まで上昇している」とした。だから日本に投資すべきだ、というわけだ。

800兆円の大半は「外モノ」へ

 では岸田首相が打ち出した「資産運用特区」にこれまでと違う点はないのか。……

 

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