パキスタン・タリバン運動(TTP)
Tehrik-e Taliban Pakistan(注1)
パキスタン北西部を拠点に同国やアフガニスタンで活動するスンニ派過激組織。「タリバン」(注2)支持勢力の連合体。
- 別称:
- ①Tehrik-i-Taliban Pakistan、②Tehrik-e-Taliban、③Pakistani Taliban、④Tehreek-e-Taliban、⑤Tahrik-e Taleban-e Pakestan、⑥「タリバン学生運動」
(1) 設立時期
2007年12月。
(2) 活動目的・攻撃対象
ア 活動目的
支配地域でのイスラム法の施行及びその実現のためパキスタン政府の打倒。
イ 攻撃対象
パキスタン政府、軍、治安当局、政党関係者、米国等(注3)。
(3) 活動地域
パキスタン北西部・カイバル・パクトゥンクワ(KP)州を中心とする同国全域のほか、アフガニスタン東部及び南東部のパキスタンとの国境沿い。
(4) 勢力
メンバーは、7,000人から1万人(注4)。「パキスタン・タリバン運動」(TTP)は、部族単位の武装組織を基礎とした「タリバン」支持勢力から成る連合体であるため、離合集散を繰り返している。
(5) 沿革
パキスタン北西部を拠点とする「タリバン」支持勢力は、2007年7月の「ラル・マスジド」(赤のモスク)占拠事件(注5)を機にパキスタン治安当局への攻撃を続け、同年12月、同勢力を率いていたパキスタン人ベトゥラ・メスードの広報担当マウルヴィ・オマル名で声明を発出し、「アフガニスタンに駐留する北太平洋条約機構(NATO)軍との戦いのため、パキスタンの勢力を統一し、また、パキスタン軍に対する防衛ジハードを立ち上げる。」などとして、「パキスタン・タリバン運動」(TTP)を設立したこと、ベトゥラ・メスードがTTP最高指導者として選出されたことを発表した。設立以降、パキスタン東部・パンジャブ州等で自爆テロを引き起こしていたTTPに対し、パキスタン政府は、ベナジール・ブット元首相殺害事件(同年12月)の首謀者としてベトゥラ・メスードを名指しし、2008年8月、TTPを非合法化した。
2009年8月、米軍の空爆によってベトゥラ・メスードが死亡した後、ハキムラ・メスードが最高指導者に就任したTTPは、パンジャブ州ラワルピンディの陸軍司令部を襲撃するなどテロを激化させた。これに対し、パキスタン軍及び治安当局は、TTP主要拠点の連邦直轄部族地域(FATA(現カイバル・パクトゥンクワ(KP)州))南ワジリスタン地区での掃討作戦を開始したが、TTPは同掃討作戦を逃れてFATA(現KP州)北ワジリスタン地区等に拠点を移してテロを継続した。
TTPは、その後、①2009年12月のアフガニスタン南東部・ホースト州の米軍基地での自爆テロ、②2010年4月の北西辺境(現KP)州・在ペシャワール米国総領事館付近での自爆テロを実行し、③同年5月の米国ニューヨーク・タイムズスクエアでの自動車爆破未遂事件に関与するなど、米国権益に対するテロを活発化させた(注6)。TTPは、2011年5月、「アルカイダ」最高指導者オサマ・ビン・ラディンの死亡を受け、「我々は、米国とパキスタンに断固として報復する。」などとする報復宣言を発出し、パキスタン治安当局訓練学校、在ペシャワール米国総領事館関係者、パキスタン海軍基地等を標的としたテロを短期間に連続して実行した。2012年10月には、KP州スワト地区で、女子教育の権利を訴えていたパキスタン人女性マララ・ユスフザイを銃撃して重傷を負わせた。
2014年2月、パキスタン政府とTTPは和平交渉を開始した。同和平交渉への対応をめぐってTTPの内部で意見が対立するなどし、同和平交渉は進展しない中、同年6月、TTPが同国南部・シンド州都カラチのジンナー国際空港を襲撃したことで同和平交渉は頓挫した。これに伴い、同月に開始されたパキスタン軍によるTTP等の主要拠点であるFATA(現KP州)北ワジリスタン地区における掃討作戦により、TTPは、2015年初頭頃には、アフガニスタンへの逃避を余儀なくされた。
また、TTPでは、内部対立が顕在化し、2014年5月、FATA(現KP州)南ワジリスタン地区の有力司令官ハリド・メスード一派が離脱を宣言して「南ワジリスタン・タリバン運動」を設立し、同年8月には、強硬派のFATA(現KP州)モフマンド地区司令官オマル・ハリド・ホラサニらの一派が分派組織「パキスタン・タリバン運動ジャマートゥル・アフラル」(TTP-JA)(注7)を設立した。同年10月には、広報担当を含む幹部6人らが「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)(注8)最高指導者アブ・バクル・アル・バグダディ(当時)に忠誠を誓って離脱した。その後、2017年2月に、ハリド・メスードの一派がTTPに復帰したものの、同派と長年にわたり不仲であったTTPの有力司令官ハジ・ダウド・メスードの一派がこれに反発して離脱し、「ホラサン州」に参加した。
(6) 組織・機構
ア 指導者・幹部等
(ア) ヌール・ワリ・メスード(Noor Wali Mehsud)
- 別名:
- アブ・マンスール・アシム(Abu Mansoor Asim)、ヌール・ワリ(Noor Wali)、ムフティ・ヌール・ワーリー・メヘスード(Mufti Nur Wali Mehsud)、ムフティ・アブ・マンスール・アッシム(Mufti Abu Mansoor Asim)等
最高指導者(2018年6月就任)。1978年6月26日生まれ。パキスタン人。ムフティ(イスラム法の権威者)の称号を有する。
2001年の米国等によるアフガニスタン進攻の際に、「タリバン」と共闘するなどして北部同盟や米軍との戦闘に従事したほか、2013年までにはパキスタン南部・シンド州都カラチにおける「パキスタン・タリバン運動」(TTP)の司令官に就任したとされる(注9)。また、初代最高指導者ベトゥラ・メスード(当時)に仕えるとともに、カラチ等で宗教学を学んだイスラム宗教学者として、TTP内のイスラム法廷で「判事」を務めたとされる(注10)。2018年2月、副指導者ハリド・メスード(別名サジナ、カーン・サイード)が死亡したことを受けて副指導者に就任し、同年6月には、前最高指導者マウラナ・ファズルッラー(三代目)が死亡したため最高指導者に就任した。同年10月には、「不信仰者」に対抗するため、「ジハード」を行う全ての組織や運動体が、内部対立を乗り越えて一つに結束するよう呼び掛ける音声メッセージを発出した。
2017年には、ヌール・ワリ・メスードを著者とする書籍「メスード革命、南ワジリスタン:英国支配から米国帝国主義へ」が発行され、同書籍内で、パキスタンのベナジール・ブット元首相殺害事件(2007年12月)の内幕を記述し、TTPによる犯行である旨主張した(注11)。なお、同人は、「タリバン」内の「ハッカーニ・ネットワーク」(HQN)(注12)と関係を有しているとの指摘もある(注13)。
2019年9月、米国国務長官は、ヌール・ワリ・メスードを特別指定国際テロリスト(注14)に指定した。
2020年7月、国連安保理ISIL及び「アルカイダ」制裁委員会(注15)は、同人を制裁対象に指定した。
(イ) ベトゥラ・メスード(Baitullah Mehsud)(死亡)
- 別名:
- バイトゥッラー・メフスード(Baitullah Mehsud)、バイトゥッラー・マフスード(Baitullah Mahsud)等
元最高指導者(初代。2007年から2009年)。1970年代前半の生まれ。パキスタン北西部・連邦直轄部族地域(FATA、現カイバル・パクトゥンクワ(KP)州)バンヌ地区出身。
マドラサ(寄宿制の神学校)の学生であった1990年代、「タリバン」の活動に共感し、アフガニスタンで同組織の活動に参加したとされる(注16)。その後、2004年6月、南ワジリスタン地区で「タリバン」支持勢力を率いていた有力指導者ネク・ムハンマドが空爆で死亡したことを機に台頭し、2005年2月、パキスタン政府との間で和平協定を結んだ(注17)。2007年12月、新たに設立されたTTPの最高指導者に選出された。2009年8月、FATA(現KP州)南ワジリスタン地区で、米軍の空爆によって死亡した。
(ウ) ハキムラ・メスード(Hakimullah Mehsud)(死亡)
- 別名:
- ハキームッラー・メフスード(Hakimullah Mehsud)、ハキームッラー・マフスード(Hakimullah Mahsud)、ズルフィカール・メフスード(Zulfiqar Mehsud)等
元最高指導者(二代目。2009年から2013年)。1980年頃の生まれ。パキスタン北西部・FATA南ワジリスタン地区出身。2009年8月、初代最高指導者ベトゥラ・メスードの死後、最高指導者に選出された。TTP設立以前からベトゥラ・メスードに仕え、2007年10月には同人の広報担当に就いた。ベトゥラ・メスードがTTP最高指導者となってからは、FATA(現KP州)オラクザイ地区、カイバル地区及びクッラム地区におけるTTP司令官を務めた。
2013年11月、FATA(現KP州)北ワジリスタン地区で、米軍の空爆によって死亡した。
(エ) マウラナ・ファズルッラー(Maulana Fazlullah)(死亡)
- 別名:
- ムッラー・ファズルッラー(Mullah Fazlullah)、ファドルッラー(Fadlullah)等
前最高指導者(三代目。2013年から2018年)。1974年生まれ。KP州スワト地区出身。
「預言者ムハンマドのイスラム法施行運動」(TNSM)(注18)最高指導者マウラナ・スフィ・ムハンマド(当時)がKP州ロウワー・ディル地区マイダンで運営していたマドラサに入学した後、同人の娘と結婚した。2001年の米国等によるアフガニスタン進攻の際は、「タリバン」支援のため、アフガニスタンに越境し、2002年にパキスタンに帰国した際、テロの罪で収監(2003年釈放)された。
2007年、TTPの設立に参加し、2009年まで、KP州スワト地区を拠点とするマラカンド地域(注19)でTTPメンバーを指揮していたとされるが(注20)、その後、パキスタン軍による掃討作戦を受け、アフガニスタンに逃れた(注21)。それ以降、アフガニスタン東部を拠点に、パキスタン軍等を標的としたテロを行っていたが、2013年11月、TTP最高指導者ハキムラ・メスード(二代目)が死亡したことを受け、最高指導者に選出された。2014年12月に発生した軍設立の学校に対する襲撃事件(生徒ら141人が死亡)等に関与した(注22)。2018年6月、アフガニスタン東部・クナール州で、米軍の空爆によって死亡した。
(オ) カリ・アムジャド(Qari Amjad)
- 別名:
- デロジ・ムフティ・ハズラト(Deroji Mufti Hazrat)、ムフティ・ムザヒム(MuftiMuzahim)
副指導者。1979年4月17日生まれ。パキスタン人。KP州のTTPメンバーを指揮している(注23)。
2022年11月、米国国務長官は、同人を特別指定国際テロリストに指定した。
(カ) マウルヴィ・ファキル・ムハンマド(Maulvi Faqir Muhammad)
- 別名:
- マウラウィ・ファキール・モハンマド(Mawlawi Faqir Mohammad)
元副指導者。FATA(現KP州)バジョール地区の元司令官。2012年3月、TTP指導部の同意なしにパキスタン政府と和平交渉を行ったとして副指導者の職を解かれた。
2013年2月、アフガニスタン東部・ナンガルハール州で逮捕、拘留されていたが、2021年8月、アフガニスタンの実権を掌握した「タリバン」によって解放されたとの指摘があり(注24)、2022年9月にTTPが発出した声明にマウラウィ・ファキール・モハンマドを名のる人物が「TTP幹部」として登場し、最高指導者ヌール・ワリ・メスードを称賛した。
(キ) シャヒドゥッラー・シャヒード(Shahidullah Shahid)(死亡)
- 別名:
- アブ・オマル・シェイフ・マクブール(Abu Omar Sheikh Maqbool)
元広報担当。2014年10月、声明を発出し、他のTTP幹部5人と共に「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)最高指導者アブ・バクル・アル・バグダディ(当時)に忠誠を誓うことを表明し、その後、TTPは、同人について「既に(広報担当を)解任済みである」と主張する声明を発出した(注25)。2015年7月、アフガニスタン東部・ナンガルハール州で、米国の空爆によって死亡した。
(ク) ハリド・バルチ(Khalid Balti)(死亡)
- 別名:
- ムハンマド・ホラサニ(Muhammad Khurasani)、ムフティ・ハリド(Mufti Khalid)、ムハンマド・アリ・バルチ(Muhammad Ali Balti)
元広報担当(注26)。パキスタン側カシミールのギルギット・バルチスタン出身。2014年11月、TTPが発出した声明の中で、ISILに忠誠を誓ったシャヒドゥッラー・シャヒードに代わる新たな広報担当に任命されたことが発表された。2015年にアフガニスタン国内で拘束され、2021年8月に「タリバン」により解放されたとの指摘がある(注27)。
2022年1月、アフガニスタン東部・ナンガルハール州で何者かに銃撃され死亡した。
(ケ) アドナン・ラシード(Adnan Rasheed)
- 別名:
- アドナーン・ラシード
「アンサール・アル・アシール」(注28)の作戦司令官。パキスタン北西部・KP州スワビ地区出身。
元パキスタン空軍所属。ムシャラフ大統領暗殺未遂事件(2003年12月)に関与した容疑で逮捕(2005年10月、死刑判決)された。2012年4月、武装集団の襲撃に乗じ、KP州バンヌ地区の刑務所から脱獄した(注29)。2013年2月、「アンサール・アル・アシール」の作戦司令官に任命された。ラシードは、同年3月、総選挙への参加のためにパキスタンへの帰国を予定していたムシャラフ元大統領を攻撃するためにTTPが設立した特別暗殺団の責任者及び同年7月にKP州デラ・イスマイル・カーン地区で発生した刑務所襲撃事件の首謀者であることが指摘されている(注30)。2018年10月には、「アルカイダ」支持者が発行するオンライン誌「アル・ハキーカ」(Al-Haqiqa)のインタビューにアドナン・ラシードを名のる者が登場した。
イ 組織形態・意思決定機構
TTPは、パキスタン北西部を中心に活動するパシュトゥン人による「タリバン」支持勢力の連合体である(注31)。TTPは、意思決定機関である「評議会」(注32)の下で、指導者や司令官の選出、組織の運営方針等を決定している(注33)。
(7) 主な活動状況
ア 概況
「パキスタン・タリバン運動」(TTP)は、パキスタン軍及び同国治安当局が、2017年2月にパキスタン全土で、TTP等の武装組織等を対象とした摘発作戦「腐敗に対する抵抗」(Radd-ul-Fasaad)を開始したことに対し、「タリバン特別グループ」と称する自爆テロに特化した部隊を設立するなど、テロを継続した。
こうした状況の中、TTPは、2018年6月、メスード族系部族出身のヌール・ワリ・メスードを最高指導者として選出した。
また、TTPは、2019年には、カイバル・パクトゥンクワ(KP)州の病院におけるブルカを着用した女性メンバーによる自爆テロ(7月)やバルチスタン州での自爆テロ(1月、9月)について犯行を主張したほか、2020年9月には、KP州での爆弾テロについて犯行を主張した。2021年に入ってからも、4月には中国大使が宿泊していたバルチスタン州都クエッタのホテルにおける自動車爆弾による自爆テロを実行し、特に同年8月の「タリバン」によるアフガニスタンの実権掌握以降、テロを一層活発化させた(注34)。
TTPは、テロを継続する中、最高指導者ヌール・ワリ・メスードが内部統制及び求心力の回復に取り組んでいる。
「タリバン」に倣って支配地域でのイスラム法施行を目指すTTPは、2021年11月、「タリバン」の仲介でパキスタン政府と1か月間の停戦に至ったが、同年12月の停戦期間最終日、パキスタン政府側に協定違反があったと主張し、停戦期間を延長しないと発表した。
また、TTPは、2022年4月、再度「タリバン」の仲介でパキスタン政府との間で停戦に至り、6月には「無期限停戦」を主張したが、11月に入り、パキスタン政府側が繰り返し協定に違反したとしてパキスタン全土での攻撃を再開する旨の声明を発出した(注35)。その上で12月には、首都イスラマバードで自爆テロを実行し、治安当局者を殺害した(2021年11月以降のTTPが主張したテロ件数は上グラフのとおり)。
イ 宣伝活動
TTPは、広報部門「ウマル・メディア」を通じ、インターネット上で自組織の活動に関する声明、画像及び動画を発信している。これらの宣伝活動は、主にウルドゥー語が用いられるが、パシュトゥー語、バルーチ語(注36)(注37)、アラビア語の翻訳版を発出する場合がある。2016年11月には機関誌「タリバン運動」を発刊し、2023年1月31日現在、第11号まで発行している。
ウ 資金獲得活動
TTPは、恐喝、密輸、「徴税」等により活動資金を得ている(注38)。
エ リクルート活動
TTPは、パキスタン北西部に所在するマドラサ等で、若者をリクルートしている(注39)。
また、TTPは、過去に女性による自爆テロを実行しており、2011年8月には、多くの女性自爆テロ要員を擁していると主張している。TTPの広報部門「ウマル・メディア」も、2017年7月、テレグラム上に、「ジハードにおける女性の役割」等と題した呼び掛けを投稿し、後方支援要員としての女性の役割について説明するとともに、母親に対し、子供におもちゃの銃を与えることや子供が寝るときに「殉教者」の物語を語って聞かせること等を推奨した。
さらに、TTPは、2017年8月、「(預言者ムハンマドに従った女戦士)ハウラの道」(Sunnat-e-Khaula)と題した女性向けの英語誌を発行し、「女性もムジャヒディンの隊列に加わるべきだ」などと呼び掛けた上で、武器の使い方の訓練を受けるよう求めるなど、女性へのリクルート活動の強化を主張した。
(8) 制裁状況
2010年9月、米国国務長官は、「パキスタン・タリバン運動」(TTP)を外国テロ組織(FTO)(注40)に指定した。
2011年7月、国連安保理「アルカイダ」制裁委員会(注41)は、TTPを制裁対象に指定した。
(9) 他勢力との関係
ア 「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)
「パキスタン・タリバン運動」(TTP)は、2014年10月、「我々はイラク及びシリアで活動する戦闘員を兄弟と思っており、彼らの勝利を誇りに思っている。我々は、あなた方(同戦闘員)が試練に立ち向かうとき、あなた方と共におり、可能な限りの手段であなた方を支える」などと「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)のメンバーに好意的な声明を発出しつつも、「TTPがISILの傘下にあるとの報道は誤りであり、TTPは世界各国のムジャヒディンに対する思いやりを表明したということである」と主張し、ISILとは距離を置く姿勢を示した。しかし、その直後、TTPの広報担当であったシャヒドゥッラー・シャヒードが、他の幹部5人と共にISIL最高指導者アブ・バカル・アル・バグダディ(当時)に忠誠を表明した。シャヒードはTTP広報担当から更迭されたものの、2015年1月には、ISILがシャヒードらの忠誠を受け入れ、「ホラサン州」の設立を宣言した。TTPは、2015年5月、広報部門を通じ、ISILが主張する「カリフ国家」を否定し、「タリバン」最高指導者モハンメド・オマル(当時)、「アルカイダ」の初代最高指導者オサマ・ビン・ラディン及び同最高指導者アイマン・アル・ザワヒリを称賛する内容のエッセイを発出した。一方、国連安保理「タリバン」制裁委員会のモニタリング・チームは、ISILの幹部及びメンバーが、歴史的にTTPと関係を維持していると指摘している(注42)。
イ 「アルカイダ」
TTPは、「アルカイダ」との関係について、「彼ら(「アルカイダ」)は、移住してきた兄弟である。我々は彼らのために家と家族を犠牲にしてきた。(中略)我々の心は彼らに対し、開かれている。」(2013年1月発出声明での最高指導者ハキムラ・メスード(当時)の発言)と述べるなど、「アルカイダ」を支援する立場を示した。また、TTPは、「アルカイダ」設立者オサマ・ビン・ラディンが死亡(2011年5月)したことを受け、報復テロを連続して実行したほか、「(我々は)ビン・ラディン師の国際的な活動方針に従っていく。我々は彼の思想を支持していく。」(同月発出声明)などと、ビン・ラディンの影響を受けていることを改めて表明した。なお、TTP幹部アドナン・ラシードは、「アルカイダ」支持者が発行するオンライン誌「アル・ハキーカ」(2018年10月発出第4号)のインタビューにおいて、TTPは、「アルカイダ」と理念を共有するとともに、イスラム同胞として尊敬しているなどと述べた一方で、「「アルカイダ」とは戦略や戦術面での連携はしていない」などと主張した。
一方、「アルカイダ」は、TTP三代目最高指導者マウラナ・ファズルッラーが死亡した際には、最高指導者ザワヒリが弔意を表している。また、ビン・ラディンが死亡したアボタバードの隠れ家で押収された資料の中からは、「アルカイダ」幹部がハキムラ・メスードに対し、無差別テロをやめるよう戒める書簡が発見された。なお、米国が「アルカイダ」最高指導者ザワヒリを2022年7月に殺害した旨発表したことに関し、TTPは、同年10月、機関誌「タリバン運動」で、ザワヒリの死亡に言及した(注43)。
ウ 「タリバン」
「タリバン」支持勢力の連合体であるTTPは、声明で「タリバン」を繰り返し称賛している(注44)。TTP広報担当シャヒドゥッラー・シャヒード(当時)は、2013年10月、同組織が「タリバン」から資金面で支援を受けていること、及びTTP幹部であったマウラナ・ファズルッラー(同年11月に最高指導者に就任)がアフガニスタン東部・クナール州で「タリバン」にかくまわれていることを明らかにするなど、「タリバン」と協調関係にあることをアピールした。TTPが実行した2014年12月のペシャワールでの学校襲撃のように、時には「タリバン」から「罪のない市民や女性、子供を意図的に殺害するのはイスラム教の教えに反している。」などと非難を受けたが、「タリバン」が最高指導者オマルの死亡を認めた(2015年7月)際、TTPは、「これまでの方針を変更するつもりはない」などと主張し、「タリバン」への支持を継続するとした。
TTPは、2021年8月、「タリバン」がアフガニスタン首都カブールを制圧した際、最高指導者名で声明を発出し、「この勝利はイスラム教徒のウンマ(イスラム共同体)全体の勝利」、「TTPは、「イスラム首長国」(注45)への忠誠を改めて誓う」と主張した。さらに、同年12月に発出した声明の中で、「TTPは、「タリバン」の一部であり、支部である」としたほか(注46)、2022年10月の声明では、「TTPの活動目的は、パキスタンにおいて「タリバン」の統治方式を確立することにある」と主張した。
エ 「ウズベキスタン・イスラム運動」(IMU)
TTPは、米国等によるアフガニスタン進攻を受け国境を越えてパキスタンの部族地域に逃れてきた「ウズベキスタン・イスラム運動」(IMU)と密接な関係を有し、例えば、2012年4月のKP州バンヌ地区での刑務所襲撃や2014年6月のシンド州都カラチでのジンナー国際空港襲撃は、両組織の共同作戦であったとの指摘がある(注47)。また、両組織は、2013年2月、収監されているメンバーの脱獄支援を目的とする部隊「アンサール・アル・アシール」を共同で設立したと主張した。
年 月 日 | 主要テロ事件、主要動向等(当庁作成) |
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07.12.14 | パキスタン北西部・連邦直轄部族地域(FATA、現カイバル・パクトゥンクワ(KP)州)南ワジリスタン地区で開催された同地区部族民による評議会において、「パキスタン・タリバン運動」(TTP)を設立し、最高指導者としてベトゥラ・メスードを選出したと主張 |
07.12.27 | パキスタン東部・パンジャブ州ラワルピンディで、自爆テロ等を実行し、「パキスタン人民党」(PPP)党首のベナジール・ブット元首相ら22人以上が死亡 |
08. 8.21 | パンジャブ州軍需工場の複合施設内で、自爆テロを実行し、約60人が死亡、約70人が負傷 |
09. 5.27 | パンジャブ州都ラホールの三軍統合情報部(ISI)州本部付近で、自動車爆弾による自爆テロを実行し、ISI職員を含む24人が死亡、300人以上が負傷 |
09. 8. 5 | ベトゥラ・メスードが空爆で死亡。その後、ハキムラ・メスードが最高指導者に就任 |
09.10. 5 | パキスタン首都イスラマバードの国連世界食糧計画(WFP)事務所で爆弾が爆発し、国連職員5人が死亡 |
09.12.30 | アフガニスタン南東部・ホースト州の米軍基地で自爆テロを実行し、米国中央情報局(CIA)職員ら米国人7人及びヨルダン情報機関員1人の計8人が死亡 |
10. 4. 5 | 北西辺境州(現KP州)の在ペシャワール米国総領事館付近で、自爆テロを実行し、パキスタン治安当局者2人が死亡、同館現地警備職員3人らが負傷 |
10. 5. 1 | 米国ニューヨーク・タイムズスクエアでの自動車爆破未遂事件 米国当局は、ニューヨーク・タイムズスクエアにおいて、爆発物等を積載した車両を発見。同月3日、同地でのテロ未遂容疑等でパキスタン系米国人ファイサル・シャザドを逮捕。同人は、TTP関係者と接触し、訓練及び資金の提供を受けていたとの指摘(注48) |
10. 7. 9 | FATA(現KP州)モフマンド地区の行政事務所に対する自爆テロを実行し、100人以上が死亡、160人以上が負傷 |
10. 9. 3 | パキスタン南西部・バルチスタン州都クエッタで、シーア派教徒を標的とした自爆テロを実行し、少なくとも60人以上が死亡、200人以上が負傷 |
11. 5.13 | KP州チャルサダ地区で、治安当局の訓練学校を標的とした2件の自爆テロを実行し、新兵等少なくとも80人が死亡、140人以上が負傷 |
11. 5.22 | 武装集団が、パキスタン南部・シンド州都カラチで、メヘラン海軍基地に侵入し、対潜しょう戒機P3Cを2機爆破した後、海軍兵士と銃撃戦を展開。海軍兵士等少なくとも10人が死亡、15人以上が負傷 |
12. 4.15 | 約150人から成る集団が、KP州バンヌ地区の刑務所を襲撃し、刑務官3人が負傷、囚人384人が脱走。「ウズベキスタン・イスラム運動」(IMU)との共同作戦とも指摘(注49) |
12.10. 9 | KP州スワト地区で、女子教育の権利を訴えていたマララ・ユスフザイ氏を銃撃し、同氏が重傷 |
12.12.22 | ペシャワールで、自爆テロを実行し、同州副首相を含む9人が死亡、少なくとも18人が負傷 |
13. 4.16 | ペシャワールで、「アワミ民族党」(ANP)の選挙集会に対する自爆テロを実行し、16人が死亡、35人以上が負傷 |
13. 5. 6 | FATA(現KP州)クッラム地区で、「イスラム・ウラマー協会ファズルル・ラフマン派」(JUI-F)選挙集会に対する爆弾テロを実行し、23人が死亡、70人以上が負傷 |
13. 7.29 | KP州デラ・イスマイル・カーン地区で、刑務所を襲撃し、警察官ら14人が死亡、15人が負傷、囚人253人が脱走 |
13.11. 1 | 最高指導者ハキムラ・メスードが、北ワジリスタン地区で、空爆により死亡。その後、マウラナ・ファズルッラーが最高指導者に就任 |
14. 6. 8 | カラチで、ジンナー国際空港を襲撃し、少なくとも26人が死亡、29人が負傷。IMUとの共同作戦とも指摘(注50) |
14.12.16 | ペシャワールで、軍設立の学校を襲撃し、生徒ら少なくとも141人が死亡、120人以上が負傷 |
15. 9.18 | ペシャワールで、空軍基地を襲撃し、少なくとも29人が死亡 |
16. 2. 6 | クエッタで、国境警備隊を標的とした自爆テロを実行し、12人が死亡、38人が負傷 |
17. 1.21 | クッラム地区パラチラルの市場で爆弾が爆発し、25人が死亡、約50人が負傷。パンジャブ州で「ラシュカレ・ジャンヴィ」(LJ)の指導者が治安部隊に殺害されたことに対する報復として、「ラシュカレ・ジャンヴィ・アルアラミ」と共同で攻撃を実行したとの声明を発出 |
17. 7.24 | ラホールの市場で、自爆テロを実行し、警察官ら26人が死亡、50人が負傷。警察当局は、TTPの「タリバン特別グループ」と称される自爆攻撃専門部隊の関与を指摘 |
18. 3.14 | ラホールのイスラム復興運動「タブリーグ・ジャマート」世界本部付近の検問所で、自爆テロを実行し、警察官5人を含む9人が死亡、35人が負傷 |
18. 6.23 | 最高指導者ファズルッラーが、アフガニスタン東部・クナール州で、空爆により死亡。その後、ヌール・ワリ・メスードが最高指導者に就任 |
19. 1.29 | バルチスタン州ロラライの警察施設付近で、自爆テロを実行し、警察官12人及び民間人9人の計21人が死亡 |
19. 7.21 | ブルカを着用した女性メンバーが、デラ・イスマイルカーン地区の救命センター出入口付近で、自爆テロを実行し、少なくとも8人が死亡、数十人が負傷 |
20. 9. 3 | 北ワジリスタン地区で、路肩爆弾が爆発し、国軍兵士3人が死亡、4人が負傷 |
21. 4.21 | 中国大使が宿泊中のクエッタのホテル駐車場で、自動車爆弾による自爆テロを実行し、警備員等5人が死亡、12人が負傷(同大使は外出中であったため無事) |
22.12.23 | イスラマバードで、自爆テロを実行し、警察官1人が死亡、少なくとも6人が負傷 |