キシダ退陣説に焦る韓国 「日本の食い逃げを許すな…」呼び捨てにされる最悪の後継候補は
韓国が岸田文雄首相の退陣説に焦り始めた。もちろん「キシダは操りやすい」からだ。「今のうちに日本から取れるものはとっておく」作戦に出ると韓国観察者の鈴置高史氏は読む。
【写真】“「女の安倍」と呼ばれるほど…”韓国紙が「脅威」とする後継候補
最善はキシダ続投
鈴置:韓国紙が「キシダ・ロス」に怯え始めました。韓国との関係を改善した――つまりは、韓国の言うことをよく聞く首相が辞めたら大変だ――と頭を抱えているのです。
中央日報の金玄基(キム・ヒョンギ)巡回特派員兼東京総局長は岸田政権の退陣が広く語られる少し前から「ポスト・キシダ」を懸念する記事を書いていました。「【時視各角】韓日関係がロングランするには」(日本語版、10月12日)です。
・米国と日本の「パートナー」が交代する場合、状況は反対になる[関係が悪化する]可能性がある。(中略)日本の次期首相候補筆頭の茂木[敏充幹事長]も韓国に対しては特に厳しい。韓国としては岸田のロングランが最善だが、結局、衆議院解散の時期にかかっている。
・あまりにも急ぐ場合は逆風が吹き、あまりにも長引かせる場合は茂木が動き出す可能性がある。岸田は政敵を整理したのかもしれないが、国民の心をつかめていないからだ。
安倍暗殺で小躍り
「韓国にとって岸田政権の続投が最善」とはっきり書いています。金玄基氏は安倍晋三元首相の暗殺直後に「これからが韓国にとってゴールデンタイム」と小躍りした日本専門家です。
アベというお目付け役がいなくなれば、キシダは自分の思い通りに対韓接近できる、とのロジックでした。「韓日関係、『安倍氏の影から抜け出す』にはこの3年がゴールデンタイム」(2022年7月11日、日本語版)から引用します。
・相対的に韓日関係改善に積極的な岸田文雄首相が安倍氏の陰から抜け出して自分のカラーを打ち出す力を強化する場合、中長期的に韓日関係に青信号が灯るだろうという期待も少なくない。
・今すぐは難しいが、岸田首相の自民党内のリーダーシップが次第に強化される場合には状況が変わる可能性もある。実際、今年1月、日帝強占期の朝鮮人強制労役現場である佐渡金山を国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界文化遺産に推薦する過程でも、当初岸田首相は韓国の反発を意識して保留しようとした。
金玄基氏の希望通り、岸田政権は韓国の言うがままになりました。「ホワイト国への復帰」「通貨スワップ締結」「レーダー照射事件不問」など、安倍元首相の暗殺後は譲歩を乱発したのです。
尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が親米路線に回帰する以上、日本が譲歩しようがしまいが、文在寅(ムン・ジェイン)政権時代の反米反日行為を自ら修正する必要がありました。
安倍元首相が生きていれば「こちらが譲歩せずとも韓国は米国の顔色を見て対日姿勢を変えざるをえないよ」とアドバイスしたでしょうに……。
佐渡金山の問題で「韓国が拒否権を発動したら登録できない」という外務省の「怪説」を真に受け、岸田首相は申請を断念しかけました。それを見た安倍元首相が岸田首相に会って本当の状況を説明し結局、日本政府は申請に踏み切ったという経緯もあります。
「ゴールデンタイム」が尽きる
もっとも、ここに至って岸田政権のあまりの不人気により、韓国の「ゴールデンタイム」が尽きる可能性が高まりました。今年11月に入り、メディア各社の世論調査で支持率が急落、不支持率の半分程度に落ち込みました。「韓国にやさしい」政権がいつまで持つか、分からなくなったのです。
中央日報の「韓日首脳『スタンフォード討論』に日本メディア『関係改善アピール、実利重視』」(11月20日、日本語版)は日韓関係を論じる記事で「キシダ・ロス」を心配しました。筆者はキム・ヒョンエ東京特派員です。
・[日本経済新聞は]岸田政権の低い支持率もリスクに挙げた。岸田内閣の支持率は日本各社の世論調査で最近、発足以降の最低値となっている。実際、最近の時事通信の世論調査では支持率が21・3%と、前月比で5ポイントも下落し、自民党が2012年12月に政権復帰して以降の最低となった。
引用された日経の記事は「日韓協力は実利重視、量子技術で新枠組み 関係強固に」(11月18日)で、尹錫悦政権の弱体化が日韓関係に及ぼす影響を解説しました。
日本に関しては「岸田内閣の支持率も低下傾向にある」と、1行触れたに過ぎないのですが、中央日報はそこに注目して大いに膨らましたのです。韓国にとって「キシダを失う」ことがいかに大きな損失なのかが分かります。
キシダは尹錫悦の悪友
一方、左派系紙のハンギョレは「キシダ退陣」に期待しました。「尹大統領が入念に関係改善図ったパートナー岸田首相、支持率20%も危ぶまれる」(11月21日、日本語版)です。
毎日新聞の世論調査で岸田首相の支持率が21%まで落ちたことを紹介した記事です。その事実を淡々と報じただけで、本文では見出しにある尹錫悦大統領には一切、言及していません。
「尹大統領が入念に関係改善を図った」という見出しはかなり踏み込んだ訳で、素直に日本語にすれば「尹大統領が入れ込む」くらいでしょう。そもそも韓国語版でも大統領はもちろん、韓国との関係は全く書いていません。
こういった読者を釣る空(から)見出しは韓国紙の常套手段です。日米韓の3国軍事協力を進める尹錫悦政権は、ハンギョレから見れば北朝鮮との関係を悪化させる危険な存在。見出しを付けた編集者は、岸田政権と一蓮托生の尹錫悦政権を揶揄したかったのでしょう。
岸田首相は韓国の左派からは「悪友」、保守からは「操りやすい人間」と見られているのです。岸田首相がなぜ、韓国に軽んじられるかについては「尹錫悦はなぜ『キシダ・フミオ』を舐めるのか 『宏池会なら騙せる』と小躍りする中韓」で詳述しています。
「女の安倍」を警戒
――韓国には茂木幹事長への警戒論があるのですね。
 
鈴置:高市早苗経済安保相への警戒論も語られ始めました。朝鮮日報の成好哲(ソン・ホチョル)東京特派員の「『女の安倍』高市大臣がまたも動き始めた」(11月17日、韓国語版)です。
高市経済安保相が11月15日に党内の勉強会を立ち上げ、ポスト岸田を狙うと見なされたのをきっかけに書かれた記事です。成好哲特派員は「高市首相」に対し危機感を露わにしました。ポイントを翻訳します。
・高市のこの日の集まりには自民党内の強硬右派が顔をそろえた。高市は毎年2回、靖国神社に直接参拝する右翼の人士だ。高市は「首相になっても参拝する」と明らかにしている。自民党に入党した1996年以降、靖国神社への参拝をほとんど欠かさないと朝日新聞は報じている。
・高市は独島問題と関連しても「韓国にこれ以上、構造物を作らせない」と語り、日帝強占期の朝鮮人強制徴用も全面的に否認する立場だ。
・高市は「女の安倍」と呼ばれるほど、安倍の支持を受けて政治的に成長した。安倍政権では自民党政調会長と総務相を務め「日本初の女性首相」の座を狙った。2年前の総裁選挙では岸田、河野[太郎]に次ぐ3位だった。国会議員の票だけ見れば河野も抑えての2位。「右翼性向の国会議員」らが高市に票を投じてくれたのだ。
なお、韓国の新聞業界には外国の政治家、ことに自分が嫌いな政治家には肩書を付けず呼び捨てにして大物記者ぶる人が多いのです。
「植民地だった過去」を消したい
――高市氏や茂木氏はなぜ、韓国に嫌われるのでしょうか。
 
鈴置:茂木警戒論の具体的な根拠を金玄基氏は書いていません。安倍政権の外相を務め、当時の文在寅政権に厳しく対したためだろうと、政界関係者は言います。高市氏に関しては成好哲氏は「右翼だから」とはっきり書いています。右翼は韓国にヘコヘコ謝ってくれません。
――中曽根康弘氏は韓国では人気がありましたが……。
鈴置:訪韓した初の首相だったからです。いわゆる「軍事独裁政権」当時の韓国をまともに相手する日本の政治家は「右翼」しかいなかったためでもあります。
それにもうひとつ、「日本にヘコヘコ謝らせる」ことがますます必要になったからです。韓国は経済成長し、日本に匹敵する豊かな国になりました。国際社会での地位も急速に上がりました。
すると、日本による植民地支配という歴史を否定したいとの思いが国民の間に強まりました。ただ、事実は変えようがありません。そこで「植民地支配は違法だった」と日本に認めさせることが国を挙げての目標になりました。
大法院(最高裁)の自称・徴用工裁判での判決も「不法な植民地支配の下、日本企業で働かされた苦痛に対する賠償金を支払え」という論理構成になっています。もし、日本企業が賠償金を支払ったら「日本は植民地支配が不法と認めた」と主張できる仕掛けです。
一方、日本では「これ以上、韓国に謝らない」を標榜する安倍氏が首相に就任した。謝罪しないぐらいですから植民地違法論など認めるわけがない。
そこで韓国の政府もメディアも「アベのために韓日関係が悪化した」とのキャンペーンを張りました。日本の一部専門家もそれに雷同しました。が、国民からは冷ややかな視線で見られました。何度謝っても「まだ、謝罪が足りない」と言い張る韓国人や日本の専門家の怪しさに、普通の日本人も気付いたのです。
韓国人の今の心情は、日本の首相がようやくアベからキシダに代わったのに「女のアベ」などに戻ったら元も子もない、というところなのです。
さらなる謝罪と賠償を要求
――岸田政権の寿命が尽きかけた今、韓国はどう出ますか?
鈴置:岸田退陣までに取れるものはとっておこう、という作戦に出るでしょう。興味深い論説が保守系紙に相次ぎ載りました。いずれも「日本は徴用工問題でさらなる謝罪と賠償をせよ」との主張です。
東亜日報のシン・ジンウ政治部次長が書いた「韓日関係が不安という日本…最小限の誠意を見せよ【光化門にて シン・ジンウ】」(11月23日、韓国語版)です。要約すると以下です。
・最近、日本では韓国の政権が代われば日韓関係は逆戻りすると見ているようだ。それが不安なら、元徴用工への謝罪と賠償に誠意をもってあたれ。韓国の不満を解消せよ。
本音ベースで言えば「日本がさらなる謝罪と賠償をしてこそ、尹錫悦政権を支えることができるぞ」と言いたかったのでしょう。しかし、そこまで書くと左派から「外勢依存」と批判されかねないので、筆をぼかしたと思われます。
――さらなる謝罪や賠償で尹錫悦政権を支えられるのですか?
鈴置:支えられません。「日韓友好で支持率アップ? 岸田首相が気付いていない、空中分解する『尹錫悦政権』の現在」をお読みいただくと分かりますが、この政権の不人気は日本の謝罪で改善できるほど軽いものではありません。
「コップの水」の残り半分
――そもそも、この問題での日韓のディールは終わったはずでは?
鈴置:韓国では終わっていないことになっています。「徴用工問題」で韓国政府が解決策を発表した3月6日、朴振(パク・ジン)外交部長官が以下のように発言したからです。
「被告となった日本企業の賠償は引き出せなかった。半分の解決ではないか」との記者からの質問に答えたものです。ノーカットニュースの「朴振発表全文『問題解決の終わりではなく真の始まり』」(3月6日、韓国語)から引用します。
・さきほど半分と言われましたが、私は同意しません。水に例えれば、コップに水を半分以上満たしたと考えています。そして、これから為される日本の誠意ある呼応によって、そのコップはさらに満たされると期待します。
・膠着した韓日関係の改善のために突破口を開こうとした我が国の政府の大乗的な決断に対し、日本側が日本政府の包括的な謝罪と、日本企業の自発的な寄与で呼応することを期待します。
この発言は日本ではさほど注目されませんでしたが、韓国メディアはこれを基に「日本の誠意ある呼応がまだない」と不満をこぼし続けているのです。
日本の食い逃げは許さない
朝鮮日報の李河遠(イ・ハウォン)論説委員も「[論説室のニュース読解]賠償判決15人中11人が弁済案受け入れ…供託拒否4人が現金化すればまた破局に」(11月24日、韓国語版)で同様の主張をしました。
李河遠氏は「徴用工問題」が尹錫悦政権の思惑とは異なり、解決の目途が立たなくなっていることから書き起こしました。そして、韓日関係は再び悪化の瀬戸際にある。これを避けるために日本は「さらなる謝罪と賠償」をすべきだ――と要求したのです。朴振長官の「コップの水」発言も引用しています。
「外勢依存」に関連しては「尹錫悦政権への支援という疑いを避けるために、日本企業の呼応はあるとしても2024年4月の総選挙の後になる」との見方を紹介しています。
さらなる謝罪と賠償を要求する記事が再び目立つようになったのは、尹錫悦政権の弱体化による約束違反、つまりは「食い逃げ」が現実のものになったからです。「徴用工問題は解決した」と思い込んでいた日本でも、「日韓関係の逆戻り」が報じられ始めました。
やや遅れて岸田政権も弱体化しました。今度は韓国側が日本の「食い逃げ」に目を光らせることになります。先ほど申し上げたように、韓国では「日本は約束を守っていない」ことになっている。岸田政権が倒れれば、その約束は不渡りになると心配するのが普通です。
韓国の記者としても「さらなる謝罪と賠償」を求める際に「保守政権を支えるためだから頼む」と卑屈なロジックを使うよりも、上から目線で「食い逃げするんじゃないぞ。とっとと約束を守れ」と書く方が、はるかに気分がいいわけです。
韓日も「エリゼ条約」を
――キシダが倒れるまでに取れるものは取っておく……ですね。
鈴置:誰が次の首相になろうと、岸田政権ほど気前のいい政権は想像しにくい。私は「日韓版エリゼ条約」の要求も声高になると見ています。
9月27日、韓国の尹徳敏(ユン・ドクミン)駐日大使が東京都内で講演し「来年か再来年に新たな韓日共同宣言の発表を目指す」と述べました。
講演会の主催者である時事通信が「駐日韓国大使、来年にも新たな共同宣言 『国境ない日韓関係を』― 頭越しの『米朝取引』警戒」(9月27日)で報じました。
――新たな日韓共同宣言に何の意味があるのでしょうか。
鈴置:誰もがそう思います。韓国は1965年の日韓国交正常化の際に結んだ請求権協定でさえ平気で破った国です。1998年の日韓共同宣言だって反古になった。新たな宣言をしてもまた破られるだけ、と日本人なら考えます。
尹徳敏大使だけではありません。同じ時期に同様のアイデアを日本人に持ちかける韓国人が登場しました。これから見て、韓国政府が「新共同宣言」攻勢を本格化したのは間違いありません。
普通の日本人からは冷笑されるような提案をなぜ打ち出したのだろうかと首を傾げたのですが、時事通信の先ほどの記事の次の部分で謎が解けました。
・尹大使は新たな宣言について、フランスとドイツの和解・友好の礎となった63年のエリゼ条約(仏独協力条約)に触れ、「それに準ずるような、未来志向で互いの国民に恵みが与えられるようなことを盛り込む必要がある」と語った。
玉虫色の第2条
「仏独間の条約に準ずる」というところに罠が仕掛けてあるのです。1965年の日韓基本条約ではまず、韓国の日本からの独立を認定する必要がありました。
しかし、交渉の過程では1910年の日韓併合条約の取り扱いで真っ向から意見が対立しました。韓国側は「違法だった」と強く主張、一方、日本側は合法だったとの立場を崩しませんでした。
結局、日韓基本条約の第2条に「千九百十年八月二十二日以前に大日本帝国と大韓帝国の間で結ばれたすべての条約及び協定は、もはや無効であることが確認される」と入れることで折り合いを付けたのです。
韓国政府は国民に、第2条が示すように併合条約は初めから無効だったことで合意したと説明しました。日本の外務省も「妥協のために両国が知恵を絞って作った玉虫色の条項」と自賛してきました。
しかし、少し考えればこれらの説明の怪しさに気付きます。「もはや無効」(already null and void)という文言は「過去には有効だった」ことを強く示唆するからです。これもあって韓国では「植民地だった過去」を完全に否定する新たな日韓基本条約を結び直そう、との声が高まっています。
ただ、基本条約を結び直すのは大事です。時間をかけて交渉するうちに、日本に意図を見透かされてしまう。そこで条約よりも簡単な共同宣言によって過去を書き直す手口を採用したと思われます。
ドゴールの亡命政府と同じ?
ミソが「仏独間の条約に準ずる」です。両国は戦争を繰り返してきましたが、どちらかがもう片方の植民地になったことはありません。だからエリゼ条約は対等な国同士が不戦を求めて協力体制を作る誓いなのです。
韓日も仏独に倣って共同宣言を作るとなれば、当然「不戦の誓い」――過去のような戦争はもう繰り返さない、を前提にすることになります。ここまでくればしめたものです。
1919年に設立された大韓民国臨時政府、いわゆる上海臨時政府が日本と戦っていた、という韓国の主張を日本が暗黙裡に了解したことになります。すると自動的に、韓国は法的には植民地ではなかったと日本が認定したことになります。日韓は対等な交戦国同士だった、ということになるのですから。
ちなみに、上海臨時政府は1987年の憲法改正で初めて現在の大韓民国の源流と位置付けられました。しかし、依然として国際社会では正統性ある政府とは認められていません。中国国民党の下部組織に過ぎなかったからです。第二次大戦中にドゴールがロンドンに置いた自由フランス政府とはここが根本的に異なります。
新たな共同宣言を実現すれば「徴用工問題」も韓国側の主張通りに解決します。日本が植民地支配は不法と認めた以上、日本企業は賠償金を支払う義務が生じるからです。韓日版「エリゼ条約」は相当な無理をしても実現する価値があります。韓国にとっては、ですが。
韓国に呼応するコリアスクール
――韓国政府も知恵を巡らしましたね。でも、日本人だって、こんな罠には気付くでしょう……。
鈴置:外務省や学会、メディアのコリアスクールは韓国に呼応する可能性が大です。すでに、いくつかの新聞が社説で「新たな日韓共同宣言」あるいは「エリゼ条約」に賛同しています。
★日本経済新聞(10月10日)「日韓安定へ新たなビジョンを共同で創れ」
・日韓、日米韓協力の枠組みを制度化するのは適切だ。その精神となる理念と協力すべき分野を明示した共通ビジョンが必要になる。有識者でつくる日韓フォーラムが国際秩序の変化を踏まえ、バージョンアップした共同宣言の発表を提言したのは一考に値する。
★毎日新聞(10月12日)「日韓共同宣言から25年 『未来志向2.0』を目指す時」
・考えなければならないのは、日韓関係を「国交正常化以降で最悪」と評された状況に逆戻りさせない仕組み作りだ。韓国の尹徳敏(ユンドクミン)駐日大使は、時代に合わせてバージョンアップした「共同宣言2・0」の必要性を説いている。
・第二次世界大戦で戦火を交えたフランスとドイツは60年代に、首脳・閣僚会談の定例化を定めたエリゼ条約を結んだ。日韓も、定期協議の枠組みを構築すべきだ。
★東京新聞(10月27日)「日韓宣言25年 関係をさらなる高みへ」
・韓国の尹徳敏(ユンドクミン)駐日大使は最近の講演で、日韓関係が急速に改善している機会を捉え「両国の未来に向けた新たな宣言が必要ではないか」との考えを示した。
・日本の敗戦で朝鮮半島が植民地支配から解放されて80年の節目を2025年に迎えることを指摘した上での発言だ。「新宣言」のアイデアはフランスとドイツの和解・友好の基礎となった1963年のエリゼ条約(仏独協力条約)を念頭に置いたものでもある。
・隣国関係の新たな扉を開く取り組みには賛同する。ただ、掛け声倒れに終わらせてはならない。
ホイホイ乗るのはキシダだけ
――毒が回っていますね。
鈴置:外堀が半分ほど埋まった感じです。ここまで世論工作に成功したのですから、韓国は岸田政権が倒れる前に日本政府に「エリゼ条約」を呑ませることに注力するでしょう。岸田首相以外にホイホイと乗ってくれる政治家は少ない。韓国とすれば今がラスト・チャンスかもしれません。
鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。
デイリー新潮編集部