この章ではウォーフォージド、カラシュター、チェンジリングという3つの新種族を紹介する。もっとも、チェンジリングは『モンスター・マニュアル』で「ドッペルゲンガー」として説明されているし、ウォーフォージドについても同書で一項目があてられている。それなのに本書であらためてページを割くのは、そうした種族に肉付けをし、よりプレイヤー・キャラクターに適したものにするためである。『モンスター・マニュアル』と矛盾する記述があった場合は、本書で提示する情報が、より新しいものとして優先される。
エルフ、ドワーフ、ドラゴンボーン、デーヴァ……。エベロンには『ダンジョンズ&ドラゴンズ』に登場するすべての種族が存在する。この章では『プレイヤーズ・ハンドブック』および『プレイヤーズ・ハンドブックII』に載っている種族を取りあげ、エベロンにおける彼らの文化と故郷を詳述するとともに、そうした種族がコーヴェアで大きな力を持つドラゴンマーク氏族とどのような関係にあるかを説明する。
エベロンのプレイヤー・キャラクターは、ほかのキャンペーン世界におけるプレイヤー・キャラクターに比べて変わった種族が選ばれる傾向が強い。ノール、ゴブリン、ミノタウロス、オークといったモンスター種族を演じたいプレイヤーも、エベロンでは許容される。『モンスター・マニュアル』とD&D Insiderに、そうした種族をプレイするためのルールが紹介されているので、DMの許可を得たうえで活用されたい。また本章の末では、そうした種族がエベロンでどのような役割を果たしているかを説明する。
この章で取りあげる新種族には、『プレイヤーズ・ハンドブック』で用いられているのと同じフォーマットを用いる。プレイヤーはキャラクターの作成時に、『プレイヤーズ・ハンドブック』および『プレイヤーズ・ハンドブックII』に載っている種族の代わりに、新しい種族のうちの1つを選ぶことができる。
ウォーフォージドは最終戦争で戦う兵士としてつくられた人造である。スローンホールド条約は彼らをカニス氏族のくびきから解放したが、それ以来多くのウォーフォージドが、自分とは何者かに悩み、戦争の終った世界で生きる意味を見失って漂泊している。
カラシュターはヒューマンの肉体と精神に異界の存在が融合した種族である。傍目にはヒューマンとなんら見分けがつかない。彼らは遠いサーロナ大陸出身の神秘主義者であり、エベロンをおびやかす悪との戦いに身を捧げている。
チェンジリングは他種族のメンバーになりすますことができる、明敏で利口な変身生物である。ドッペルゲンガーとも呼ばれることがあり、諜報や謀略の世界で重要な役割を果たす。
兵器として造られながら、真価を発揮すべき戦争はすでに終わっている。戦うこと以外の目的を探して、あてもなくさすらう日々……。
最終戦争に投入するための兵士として創造されたウォーフォージドは、知性と自我を有する人工的な人型生物である。しかし、本来戦うはずだった戦争はすでに終わっている。生みの親たちからは晴れて自由の身となったが、後世に受け継ぐべき独自の財産も文化もない。ウォーフォージドはこの世界に自分たちの居場所を見つけようと悪戦苦闘している。
身体的特徴
ウォーフォージドは金属板と木の板で体を覆われた大柄な人型生物である。金属と木でできた骨格が、筋肉組織を構成する木質繊維の束を支えている。体内には管が張りめぐらされ、そのなかには全身に栄養分と潤滑剤を行き渡らせる血液に似た液体がかよっている。たくましい腕の先は3本指(親指とそれ以外の2本)の手になっており、両足は爪先が2つに分かれている。
ウォーフォージドの頭部は、ヒューマンの顔を簡略化したような特徴をそなえている。眉は太く、蝶番でつながった上下の顎には歯がなく、顔の中央にはあるべき鼻が欠落している。感情を強く揺さぶられると、両目が発光することもある。ウォーフォージドの額にはグルラと呼ばれるルーンが刻まれており、それは一つとして同じものがない。このグルラがあることで、ウォーフォージドは自分がほかのウォーフォージドとは違う唯一無二の存在だと認識できるのである。
ウォーフォージドの体つきはいかにも人工的であり、性別もわかりにくい。ほかの人型生物のように繁殖はしない。必要に応じて腕や脚を追加したり取り外したりするなど、自分の体を改造することができる。ウォーフォージドが痛みを感じるのは、本当に怪我をしたときだけだ。肉体を自在に改造できるため、ほかの人型生物同様、ウォーフォージドの外見もまた千差万別である。
ウォーフォージドをプレイする
ウォーフォージドの情緒の動きは単純である。苦痛、恐怖、憎しみ、怒りといった感情を抱くのはほかの種族と同じだが、ウォーフォージドの場合は控え目かつ内省的であり、感情を無表情な金属製の顔の下に隠しておもてに出さない。なかには内省を欠き、危険なほどに愚直な者や、感情が未発達のままとどまっている者もいるが、ほとんどのウォーフォージドはそういった少数者の対極に位置する。彼らは自分たちの存在理由を問い、自分たちに魂があるか否かについて思索をめぐらす。一部には、みずから知覚したり学んだりしたことを材料に、高度な哲学を構築する者さえいる。多くのウォーフォージドは似たような考えかたをする人型生物と調和し、組織や宗教に情熱を捧げる。また、ウォーフォージドはたいてい、少数の身内に強い愛着をおぼえるようになる。
ウォーフォージドの冒険者
ウォーフォージドの冒険者の例を2人、以下に示す。
サンダーストラックはドル・ドーンに仕えるウォーフォージドである。彼は自分たちウォーフォージドをドル・ドーンに選ばれた民と見ており、みずからと戦いの神に栄光をもたらすことが種族としての存在理由だと信じている。この信念に基づいて、サンダーストラックはそれが正しいものでありさえすれば、自分の力と技を必要としているどんな大義にも与する。自分自身の名声もおおっぴらに追及してはばからないが、それはそうすることがドル・ドーンを讃えることにもなると確信しているからである。敵に対しては、“恐れを知らない鋼の嵐”として戦う。これは、サンダーストラックがウォーフォージドの理想と信じる在りかたを表現した言葉である。
ナルは“星の契約” を交わしたウォーフォージドのウォーロックである。なんとしても“個”を確立したかった彼女は、ウォーフォージドやヒューマンの規範を拒み、この世界の外に存在するはかりがたい実体を相手に意志の疎通をはかった。ナルは自分の体と所持品に神秘的で狂気じみた印を刻み込み、それらが喚起する敵の恐怖を楽しんでいる。陰気で無口で、たまに口をひらけばずけずけと遠慮のない物言いをするナルだが、英雄詩などで渋々ながらも称賛されれば悪い気はしない。だからこそ彼女は悪と見なした者たちを罰するために自分の力をふるうのである。
夢の領域から逃れ来った者たち。その精神は身に帯びた剣の切っ先に劣らず鋭い。
カラシュターはヒューマンに似ているが、その外見の裏には、冷静にして荒々しく、知的にして狂おしいという相反する内面が隠されている。カラシュターは今から18世紀前に“夢の領域” ダル・クォールを逃れ、エベロンにやってきた。現在、彼らはドリーミング・ダークの魔手を逃れるべくアダールの山岳地帯に要塞寺院をいくつも築いて暮らしている。したがってコーヴェアではよそ者である。
身体的特徴
カラシュター― “彷徨える夢” を意味するクォーリ語―が初めてエベロンにやってきたのは今から1,800年前にさかのぼる。背教者として信仰と思想信条の弾圧を受け、ダル・クォールから逃れてきたグループである。彼らはドリーミング・ダークの名で知られるダル・クォールの手先たちに追われていた。やがてリーダーのタラタイが追跡を逃れる大胆不敵な方策を見出す。彼女はアダールの修道僧たちを説き伏せ、自分たちの魂と彼らの魂とを未来永劫融合させることを受け入れさせたのである。この融合によって生まれたのがカラシュターという種族であり、こんにちのカラシュターが最初に“器” として自らを差し出した修道僧たちの面影を宿すのは、その結果なのである。
67人のカラシュターが生まれたその修道院は当時一種の駆け込み寺であり、さまざまな人々が身を寄せていた。カラシュターが外見の多様性を獲得し、肌や髪や目の色がヒューマンと同じように千差万別なのはそのためである。彼らは普通、ヒューマンよりも痩せていて背も高いが、背の低いカラシュターや太ったカラシュターもいなくはない。
カラシュターの肉体的成長の速度はヒューマンと同じであり、寿命もヒューマンのそれにほぼ等しい。カラシュターの子供は一見ヒューマンの子供と見分けがつかないが、よくよく見れば決定的な違いがある。カラシュターならば誰しも物腰が優雅で、性格は穏やかかつ生真面目である。これは、クォーリの魂のかけらがその身に宿っているからにほかならない。ヒューマンの子供たちが駆けまわり、笑い、遊ぶのに対して、カラシュターの子供たちは大人のカラシュターと同じように瞑想にふけり、武術の訓練に励み、テレパシーで会話をする。要するにカラシュターにとって成長とはたんに肉体的なプロセスを言うのであって、精神や感情のプロセスを言うのではないのである。
カラシュターをプレイする
カラシュターの大半は今もアダールの要塞寺院にとどまっている。もしコーヴェアを旅してまわるカラシュターがいるならば、おそらくそれ相応の理由があってそうしているのに違いない。たとえばアダールをリードラの支配から解放するという使命感に駆り立てられているとか、あるいはドリーミング・ダークの追跡を逃れているとか……。
典型的なカラシュターは思索的で、穏やかである。思いやりがあって気さくだが、ただしあくまでも理性的だ。おそらくは、統合された魂が不安定であるため、感情を厳しく抑制しているのだろう。カラシュターは肩をぽんと叩いたり下品な冗談を口にしたりするよりも、口の端をゆがめて笑ったりぶっきらぼうな物言いをしたりすることで友情を示す。
カラシュターの冒険者
カラシュターの冒険者の例を2人、以下に示す。
ガニタリはカラシュターのウィザードであり、聡明さと度量の広さで知られている。彼女はドリーミング・ダークとの戦いに備えた訓練を日々欠かさないばかりか、世界にはびこるもっとわかりやすい悪との戦いの準備にも余念がない。敵の数に比べて自分たちカラシュターの数はあまりにも少ないが、ガニタリは信じている―腐敗や堕落を世界から一掃する助けとなりうるパワーの源がどこかに存在することを。それは彼女自身や進んで悪に立ち向かおうとする勇気ある人々の内側にあるのかもしれず、あるいは世界の黎明に生み出され、長いあいだ顧みられることのなかったアーティファクトの形をとっているのかもしれない。なんにせよ、ガニタリはそれを見つける気でいる。
ハルクハドはアダールの要塞寺院で生まれ育ったカラシュターのクレリックである。若くして、“光の道” の教えを広める“戦う伝道師” に志願してコーヴェアにやってきた。アダールを離れて遠い異国で過ごすうちに、ハルクハドは大切なことを学ぶ。それは、人々の霊的必要性を満たすためには、相手が抱えている危機の根源を見定めるのが最善の方法だということだった。ハルクハドはイルヤナの中核をなす教えが、カラシュターでない人々のあいだでも共感を呼ぶことを発見する。彼は今もコーヴェア全土を旅しながら、“光の道”が示す徳目を人々に説いてまわっている。
誰にでもなりすまし、どこにでも現れ、身を隠す物陰のない場所でも身をひそめることができる。
チェンジリングは変身生物であり、自分以外の人型生物になりすますことができる種族である。ドッペルゲンガーとも呼ばれ、その能力は人々のあいだに相互不信と恐怖を生む。そのため、いつしか彼らの多くは最も親しい仲間にさえ自分の正体を明かさないようになった。要らぬ注意を引かないよう人目を避け、自分の居場所を探し続けるチェンジリングも少なくない。
身体的特徴
チェンジリングは幾重にも仮面をかぶり、偽りの顔の下に正体を隠す。変身生物として、チェンジリングはどんな人型生物にもなりすますことができる。ある日はドワーフの姿でいるかと思えば、次の日はドラゴンボーンという具合。変装を好むこうした性向のせいで人々から信用を得られないため、ほとんどのチェンジリングが自分の正体を隠している。
どんな人物にも化けることができるチェンジリングながら、ほとんどの者はいくつかの定まったペルソナ(仮の人格)を使い分けている。それぞれのペルソナには詳細な経歴と、交友関係や人脈がある。こうしたペルソナは、1つのペルソナが使いものにならなくなったとき、予備として役立てることができる。頻繁に旅をするチェンジリングならば、訪れる町ごとに姿を変えるかもしれない。新しい環境に溶け込みやすいよう、そのつど性別や外見や声を変えるのである。
チェンジリングの本来の姿は驚くべきものだが、同時に曖昧でつかみどころがない姿とも言える。肌の色は一様に薄く、白みがかっているか明るい灰色を帯びている。隈にかこまれて落ちくぼんだ異様に大きな両目。そのあいだの、あるかないかの鼻。体つきは痩せていて、貧弱と紙一重である。髪の色は明るく、かすかに青みがかっている(緑やピンクの場合もあり)。最も多いのが明るい銀色で、プラチナやブロンドがそれに続く。頭髪を除き、チェンジリングには体毛がほとんどないか、あるいはまったくない。
チェンジリングはおよそ15歳で成熟し、だいたいヒューマンの寿命と同じくらい生きる。
チェンジリングをプレイする
独自のものと言える文化も文明も持たないため、チェンジリングはほかの種族の社会に溶け込んで暮らす。自分たちと似たような価値や関心を持つコミュニティを探し出すのである。チェンジリングは都市を好むが、それは人混みにまぎれたり、必要に応じて姿を消したりするのには理想的な場所だからだ。加えて都市ならば、みな自分のことに精一杯で見ず知らずのよそ者にどこか変わったところがあっても気にも留めないという利点がある。
チェンジリングは本来人畜無害で平和を好み、また、政治や社会に対する関心が薄い。ただ、その変身能力が災いし、いつしか他種族から不信と疑念を抱かれるようになった。人々はチェンジリングをことさらに色眼鏡で見る―連中はその変身能力を使って何か邪悪な目的を遂げようとしているに違いない、と。たしかに変身能力を悪用するチェンジリングもいるが、ほかの種族よりも悪人の割合が多いということはない。
チェンジリングの冒険者
チェンジリングの冒険者の例を2人、以下に示す。
ドックスはチェンジリングのバードであり、チェンジリングというだけで受ける白眼視から逃れることに汲々としている。彼女はほかの人々が衣服を着替えるように、人格と外見を変える。ドックスは自分自身を1人ではなく大勢と見ている。複数のペルソナのうちの1つを選んだら、また別のアイデンティティに変える気になるまでその人物のままでいる。自身の変身能力は、バードとしての腕前を底上げするために使っている。すなわち、披露する物語や歌の登場人物に合わせて外見を変えるのである。
ハルスはチェンジリングのローグであり、武器としてふるうナイフに負けないくらい鋭く研ぎ澄まされた知性をそなえた腕っこきの殺し屋である。チェンジリングであるという正体は秘密にし、ターゲットの不意を襲うための武器としてそれを利用する。いったん変身すると、めったにその姿を変えない。それこそ何か月、何年もその仮面を維持し、周囲に誰もいないときか、またはそのアイデンティティを捨てることがどうしても必要になったときにしか姿を変えない。
その他の主要種族
エベロンの人型生物がつくる文明社会の多数派を形成するのは、『プレイヤーズ・ハンドブック』掲載の諸種族である。『プレイヤーズ・ハンドブックII』で紹介されている種族も―数こそ前者に劣るものの―エベロンの社会と文化において重要な役割を演じている。ここで提示する情報は、『プレイヤーズ・ハンドブック』と『プレイヤーズ・ハンドブックII』で扱われている素材を拡張し、それぞれの種族がエベロン世界にどのように適合しているかを説明するものである。
エベロンの原住種族の多くはエラドリンを新参者だと思っているが、実際のところ、エラドリンはこの世界が生まれたときから存在する古株である。彼らがしばしばエベロンで居心地悪そうに見えるのは、この世界が最近経験した恐ろしい出来事のせいにほかならない。その出来事は、エラドリンと彼らが住むフェイワイルドにも波及した。
背景と歴史
エラドリンが住む光輝燦然たる七大都市はフェイスパイアと呼ばれ、それらは“ジャイアントの時代”以来エベロンにたびたび出現してきた。フェイワイルドとエベロンが交錯する特定の期間、フェイスパイアの輝ける群塔が現れ、なかに住むエラドリンが2つの世界の垣根を越えて行き来することが可能だった。ときおり、一部のエラドリンが別世界の美しさとそこに住む人々の魅力にとらわれ、エベロンに居残ることもあった。そのいっぽうで、やむなくフェイスパイアを離れなければならなかったこともある。たとえば、シャー・ティリアス・トライ(銀と骨の都)が巨人族に征服されてしまったときがそれだ。このフェイスパイアはゼンドリックに出現したのだが、巨人族はその機を逃さず攻め込み、住人たちを生け捕りにしたのである。エルフという種族は、このとき囚われたエラドリンの末裔にほかならない。
エベロンのエルフは風変りな種族であり、ヒューマンの目にはオークやゴブリンと同じくらい異質に見えることもある。ヒューマンに混じって暮らしているエルフは親しみやすく、隣人たちとさほど変わらない世界観を持っているが、エアレナルとヴァラナーのエルフは他種族を取るに足らない近視眼的な存在として見くだし、積極的に関わろうとしない。
背景と歴史
エルフの故郷はゼンドリックである。彼らはフェイスパイアの1つ、シャー・ティリアス・トライに住んでいたエラドリンの末裔にあたる。何万年も昔、ゼンドリックの巨人族がシャー・ティリアス・トライを襲い、エラドリンの住民たちを奴隷にした。長らく奴隷として塗炭の苦しみを舐めたエラドリンたちだが、やがてついに反乱を起こし、ゼンドリックからの脱出に成功する。しかし、何世代にもわたってフェイワイルドから隔絶されていた彼らは、もとのエラドリンとはすっかり変わってしまっていた。それが、現在のエベロンでエルフと呼ばれている種族なのである。ゼンドリックを逃れたエルフたちは島大陸エアレナルに集落をつくり、大半はそこに住みついた。一部はエアレナルを離れ、ガリファー以前のコーヴェアに渡った。最終戦争のさなかには、ヴァダリア大王の主導のもとさらに多くのエルフが海を渡り、コーヴェアで傭兵として活躍した。彼らは今、ヴァラナーに住んでいる。
ゴライアスは数こそ少ないが、自分たちの種族が経てきた長い歴史に誇りを持ち、みずからの力と名誉に大きな矜持を抱いている。
背景と歴史
ゴライアスという種族はもともとゼンドリックに住んでいたが、巨人族の台頭を契機に大挙して大陸を離れた。大陸に残った者はエルフ同様巨人族の奴隷にされたが、彼らは奴隷としては使いものにならなかった。虜囚の境遇がよほどこたえるのか、すぐに衰弱し、満足に子もなさず早々と死んでしまうからである。結果として、今のゼンドリックにはごくわずかのゴライアスしか残っていない。
広範囲に生息するゴライアスだが、自分たちの国や帝国を築くほどの人口あるいは活力を獲得したことは一度もない。彼らの暮らしぶりは過去何世紀というもの変わっておらず、文明世界のはずれに位置する高い山の上で伝統的な生活様式を守っている。
しばしば“獣憑き”とも呼ばれるシフターほど、他種族から信用されず、迫害を受けている種族はエベロンでも珍しい。その獣じみた性質のせいで忌み嫌われ、恐れられることの少なくないシフターだが、なかには偏見を持たない人々に受け入れられ、自分の居場所を見出している者もいる。
背景と歴史
シフターはヒューマンとライカンスロープとのあいだに生まれた混血児の子孫である。彼らがそもそもいつ出現したのかは定かでない。というのも、最初のうちシフターはヒューマンまたは混血種の形態をとったライカンスロープだと思われていたからだ。相当の数にまで増えてからようやく、1つの種族として認識されるようになったのである。
もっとも、種族として認識されたからといって、彼らが人々に受け入れられたかというとそうではない。捕食獣に似た性質とどこか獣じみた外見は、ほかの種族のメンバーを落ち着かない気持ちにさせる。本質的にはライカンスロープと変わらないと思い込んでいる人々も多い。じっさい、シルヴァー・フレイム教会がライカンスロープ撲滅の聖戦を敢行したときには、ライカンスロープに負けないほど大勢のシフターが殺されたのである。
祖先が交わした悪魔的な契約の報いで、その体内を流れる血は穢れている―ティーフリングほど謎に満ちた種族は、エベロンでもそうはない。ティーフリングのなかには負の遺産のくびきを完全に断ち切り、自分たちを生み出した忌まわしい過去の過ちを正そうとする者もいれば、邪悪な祖先のくわだてを引き継ぐ者もいる。
背景と歴史
エベロンのティーフリングのほとんどは、サーロナのオー・カルーンで栄えた堕落した血統の後裔にあたる。秘術知識にどっぷりと浸かり、妖かしの秘知に取り憑かれた文化のなかで、先鋭的な人々はデヴィルと契約を結んだ。彼らが求めたもの―知識、力、それに不死性―に比べて、後代に彼らの末裔が向き合わされることになるさまざまな代償は、あまりにも大きかったと言わざるを得ない。やがて、非公認の魔法をサーロナから一掃すべくインスパイアドが乗り出し、オー・カルーンは滅亡する。だが、そのときすでに多くのティーフリングが大陸の外に脱出していた。
はるか遠い時代の精霊であるデーヴァはこの世界に転生を繰り返すが、彼らのことはほとんど忘れられている。
背景と歴史
有翼の蛇の姿をした高貴な種族コアトルがシベイの血から生まれ、カイバーの血から生まれたデーモンと戦ったというその様子は、数々の神話伝承に語られている。デーモンがラークシャサを味方につけていたように、この戦いでコアトルに肩入れする勢力もあった。すなわち、定命の姿でこの世に生まれた光の精霊、デーヴァである。デーヴァはデーモンの諸侯の軍勢と戦うコアトルを支援した。永遠に転生を繰り返す宿命にあるデーヴァは、コアトルが死に絶え、デーヴァが果たしたはるか昔の役割を知るクリーチャーがほとんどいない現在のエベロンにも存在している。
ドラゴンボーンは定命の領域と偉大なるドラゴンの領域にまたがる存在だ。そして、そのいずれもが、彼らにとっては異郷なのである。
背景と歴史
ドラゴンボーンの故郷はアルゴネッセンである。かの大陸の内陸部にはドラゴンボーンの大いなる都市国家がいくつも存在し、領土や“竜の予言”の解釈をめぐって、あるいはそれぞれが上帝に戴くドラゴンの命令に従い、相争っているという。
コーヴェアにおいて、ドラゴンボーンはクバーラと強く結びついている。はるか昔、アルゴネッセンから渡ってきたドラゴンボーンたちはクバーラの鬱蒼たる密林に帝国を打ち立て、リザードフォークやコボルドの国々を征服または併合した。彼らは巨大な建造物を築き、大自然を手なずけ、コーヴェア屈指の大国の座をうかがうかに見えた。この帝国をはたしてどのような運命が見舞ったのか、こんにち確かなことを言える者はいない。帝国は勃興したときと同じぐらい瞬く間に滅び、あとに残されたいくつかの小集団が過酷なジャングルで生き残りをかけて闘うようになったのである。帝国はとうの昔に存在しないが、ドラゴンボーンたちは信仰を通じて昔日の栄光とのつながりを保っている。彼らの崇めるドラゴン・ソヴリンズは、ソヴリン・ホストの神々がドラゴンの姿で顕現した存在である。いっぽう、邪悪なドラゴンボーンはたいてい“下たるドラゴン” を信奉する。ドラゴンボーンは直接ドラゴンを崇拝するわけではないものの、ドラゴンを神々の御使いとして敬っており、とりわけ3匹の始祖竜―シベイ、エベロン、カイバーには深い尊崇の念を捧げている。ドラゴンボーンの信じるところによれば、“竜の予言” はこれら古のドラゴンがこんにちのドラゴンと意思を通じるための手立てだということになる。
ドワーフの諸氏族はエベロンの国々のなかで最も力があるわけでもないし、歴史的に最も名高いわけでもないが、最も裕福であることは間違いない。ドワーフたちはうそぶく―一国を本当に治めているのは玉座の主ではなく、国の財布の紐を握っている者なのだ、と。
背景と歴史
コーヴェアにガリファーが出現するよりずっと昔、フロストフェルにはドワーフの蛮族が暮らしていた。ドワーフたちの信じるところによれば、彼らの祖先はより住みやすい土地を求めてこの極寒の地を離れ、南に移動したのだという。彼らがいかにしてコーヴェア北東部の山岳地帯にたどりつき、そこで莫大な富の採掘を始めたかについては、さまざまな民間伝承に詳しく語られている。
ノームはややもするとほかの種族から軽んじられがちだが、実際は歴史を動かしてきた一方の主役と言っても過言ではない。知識と秘密に対する飽くなき渇望。天性の魅力と神秘的な能力。じっさい、ノームは侮りがたい種族である。
背景と歴史
ノームはもともとフェイワイルドに住んでいたのだが、それがいつどうやってエベロンにやってきたかは定かでない。はっきりしているのは、彼らがエラドリンをはるかに凌ぐ大人数で越境してきたということだけだ。以来、世界中に広がったノームたちは、独特なコミュニティを築いて暮らしている。その最大のものがズィラーゴである。ノームは社交的で気さくな種族だが、いっぽうで欺瞞と陰謀に目がないという一面もある。ノームにとって、隣人の秘密を掘り返したり、謀をめぐらせたりしているときほど楽しいときはない。その結果得られるものがたとえはした金にすぎなくても一向にかまわないのである。なかにはもっとスケールの大きな考えを持ち、一国の政府を転覆させるような諜報活動や陰謀に携わるノームもいる。窮地に陥ると、口八丁手八丁を使って切り抜けようとするのが彼らの常だ。とにかく、ノームというのは優れて社会的な種族と言えるだろう。
エベロンのハーフエルフは主としてコーヴェアに住み、そこでは“親種族”であるエルフを数で上回っている。ヒューマンの柔軟性と野心を持ち、エルフの知恵と先見性を兼ねそなえたハーフエルフは、種族の才能を最大限に活用することで、その人口からは到底想像できないほど多大な影響を歴史と文化に及ぼしている。
背景と歴史
今生きているハーフエルフで、ヒューマンとエルフのあいだに生まれた者はほとんどいない。エルフが初めてコーヴェアの土を踏んで以来、ハーフエルフは特異な文化グループを形成しているが、彼らの大多数は入植初期の異種交配によって生まれた混血児の子孫である。もともとは現在ヴァラナーと呼ばれている地方に住んでいた種族で、しだいにそこから大陸全土へと広がり、コーヴェアのヒューマン社会に溶け込んでいった。ハーフエルフは自分たちの国をつくったことこそないが、そのかわりヒューマンの国で建設的な役割を果たしてきた。もっとも、政治経済はおろか、戦争の行方までコントロールしてきた彼らながら、それはあくまで個人、組織またはギルドとしてそうしてきたのであって、1個の統一された社会集団としてではない。
ハーフオークはあまり見かけない種族であり、人里離れた地域に原始的なコミュニティをつくって暮らしている。そういった地域でならば、より文明的な地域の住人からはとかく穢れているとみなされがちな“血”よりも能力で判断される機会が得られるからだ。
背景と歴史
大方の混血種族同様、ハーフオークには2種類ある。1つはオークとヒューマンの両親から生まれた者たち。オークとヒューマンの交雑は一般的でないし、ときとしてタブーと見なされるが、それでもコーヴェアの未開の辺境では頻繁に起きる。もう1つは何世代も前の異種交配で生まれた混血児の末裔。こちらのハーフオークたちは独自の部族とコミュニティを形成することが少なくない。
最初のハーフオークが出現したのは、サーロナから海を渡ってきたヒューマンの移民がコーヴェアの西部および北西部に到達してから間もなくのことである。そこにはすでにオークが棲みついていた。ほとんど知られていないが、当時ヒューマンとオークの交配をうながしたのは“門を護る者” のドルイドたちだったという伝説がある。異種交雑の結果生まれてくる子供が両親よりも優れているかどうかを見極め、もしそうであれば、その種にドルイドの伝統を託そうとしたのだという。ハーフオークは絶対数の少なさと他種族からの偏見が枷になり、ハーフエルフほどコーヴェアで幅を利かせることはなかった。現在でも多くの種族がハーフオークとオークを同一視し、人というよりは獣に近い存在と考えている。
コーヴェア東部を揺籃の地とする遊牧民であるハーフリングは、大陸全土に広がり、今では社会のありとあらゆる隙間を埋めるまでになった。彼らは縄張りをほとんど主張しないが、そのかわりほぼどんな場所でも自分たちのホームグラウンドにしてしまう。ヒューマンほどではないにせよ、エベロンのいたるところで見られる種族の1つと言えるだろう。
背景と歴史
ハーフリングはタレンタ平原を住処とする1部族としてスタートした。そこで彼らは何世代ものあいだ、誰にも邪魔されない暮らしを送っていたのである。ところが放牧地を探して移動する範囲が広まるにつれ、ヒューマン、ドワーフ、エルフといった他種族に遭遇する機会が増えていった。そうなると、最初はたんなる交易として始まったものが種族を挙げての集団移住に変わるまで、長くはかからなかった。ハーフリングの諸部族はタレンタ平原を出て、持ち前の好奇心と他文化を吸収する能力とを武器に世界を探索していった。もともと遊牧民であるハーフリングは優れた配達人または行商人として頭角をあらわし、同時に、部族への忠誠を重んじる伝統が、信頼できるパートナーとしての彼らの評価を揺るぎないものにした。そのいっぽう、他種族の法律に疎く、また元来私有財産という概念が希薄であることから、犯罪に走るハーフリングも少なくなかった。
良きにつけ悪しきにつけ、ヒューマンはコーヴェアで最大勢力を誇る種族であり、またサーロナでも最大多数を占める種族である。適応能力に優れ、野心が旺盛なことから、ヒューマンは近世以降の歴史の主役を務めている。未来のエベロンがどのような運命をたどるにせよ、人類がそれを先導するだろうことはまず間違いない。
背景と歴史
人類発祥の地はサーロナである。この大陸で発生した数々の災厄のうち、どの災厄を契機として人類が新天地への移住を決意したのかは明らかでない。しかし、とにかく彼らは原始的な船に乗って大海原に漕ぎ出した。初期の船団は“怒りの海”を渡り、現在ラザー公国連合およびクバーラと呼ばれている地方に到達する。後発組は東に進んでバレン海を横断、デーモン荒野、エルデン・リーチ、そしてシャドウ・マーチに上陸を果たした。後者のグループが建設した入植地は、現在ほとんど残っていない。