感想&評価ありがとうございます。最高順位だったかもしれません日間ランキング10位…
これも皆様のこの作者の妄想駄文にお付き合わせてしまっている読者様達のお陰にございます。
本当にありがとうございます。
前回は深雪の告白だったので今回は…?
誤字脱字のご報告本当にありがとうございます。
今回のお話は多少センシティブな場面が多々ございますご注意ください、
それでは最新話どうぞ
夏休みが中頃と言うところで俺は雫に連行され…もといショッピングモールに来ていた。
ショッピングモールに併設された良い雰囲気のカフェへと来たのだが…。
なぜか、目の前に座る雫が無表情ではあるが明らかな不機嫌な表情になっていた。
膨れた頬を突っつきたい衝動に駆られたがそれをやったら《フォノンメーザー》が飛んできそう立ったので自重した。
事の発端は何気無しに誕生日の話題になり雫から「八幡は誕生日いつなの?」と聞かれた時に「確か…8月8日だったかな…」と告げると現在に至るわけだ。
「八幡どうして誕生日教えてくれなかったの?」
声に若干の怒りと困惑を含み俺に言ってきた。今日は既に誕生日から二週間以上が経過していた。
いや、そんなことを突然言われても困るんだが…
「いや、聞かれなかったし…。」
「聞かれなかったら答えなくてもいいの?」
いや、めっちゃ理不尽だろそれ…てかお母さんなの?
「いや必要無いだろう…そもそも聞いてどうするんだ?『誕生日』なんか別に特別じゃないだろ。」
俺が雫にそういうと聞き返す。
「どう言うこと?」
「あ?」
「『特別じゃない』って…。」
「言葉の通りのまんまだけど?俺はガキの頃から両親に誕生日を祝って貰ったことなんて無いんだよな。そもそも俺は家にいても小町以外から居ない扱いで長期休暇だと家族は旅行に行って置いてきぼりなんてザラにあったな…流石に生活費一週間程度あったから二桁に満たないときから自炊もしてたから不憫でもなかった…っておい!なんで泣いているんだ雫?」
「…ぐすっ、えっぐ…。」
俺が誕生日についての持論を雫に伝えると何故か号泣してハンカチを濡らしていた。
「あのさ…泣き止んでくれないか…何で泣いているのか理解できないんだけど…。」
「八幡が泣かないから…ぐすっ…私が代わりに泣いてるの…えっぐ…」
雫が泣くもんだからカフェに居る店員やらお客やらからの視線が集中していた。
「なんだなんだ?」
「隣に居る男が泣かしたのか?」
「告白振られたんじゃ…」
(好き勝手言ってくれやがって…。)
好き勝手言ってくれてる店員や客に対して威圧感をぶつけるとサッと視線を素早く逸らしてくれた。
泣いている雫の隣に座り背中を擦ると落ち着いて嗚咽は聞こえなくなった。
「落ち着いたか?」
声を掛けると雫は無言で頷いた後に俺に向き直った。
何時ものような無表情ではなく若干の憂いをみせて目が赤く腫れぼってしまっていた。
「うん…ぐすっ…決めた…。」
決めた…と呟いて雫は端末を取りだし何処かへと連絡を始めていた。
嫌な予感がしたがとりあえず待つこと数分。
衝撃な一言が雫から告げられた。
「明後日に私のウチお父さんの主催のホームパーティやるからやるから来て?」
「はい?」
「あ、八幡欲しいものある?」
「欲しいもの?そうだな…休み?」
「なにそのOLの願い事みたいなの…じゃなくて物にして?」
ふと、俺の脳内に思い付いたものを呟いていた。
「そうだな…「刀」が欲しいかな…」
「刀…?」
「スマン、冗談だ。そうだな…」
「…?」
「強いて言うなら…「信頼」かな。」
重ねて冗談を言ったらさらに雫は真面目な表情になって頷いた。
「!…わかった。八幡、明後日のお昼過ぎに迎えに行くから。」
「拒否権は…。」
「来て。」
その二文字の重さよ…俺はここで「行かない」を選択しないを選ばないと言うことは少なからず何かをきたいしているのだろう。
全くもってアホらしいとは思うが。
「無いよな…わーったよ…。」
俺は降参のポーズを取って参加の意思表示を示した。
その姿をみて雫が微笑んでいたのが何故だったのかわからないがタダ飯を食うことが出きるのならご相伴に預かろうではないか。
(これで八幡をウチに呼ぶことが出来る口実が出来た…これは私とほのかにとってチャンス)
八幡が「やれやれ」と言った感じに店内の窓から外をみている横顔をみて雫は少し切ない気持ちになった。
◆
数日過ぎて…約束の日。
俺は北山家へと招待を受けていたのだが前日に「ドレスコードで来て」と言われ俺は九校戦の時に使用したスーツ一式を着用して家の前で待っていると北山家の使用人が運転する高級車に乗せられた。
車に乗り込むとそこにはドレスアップした雫が座席に座っていた。
乗り込んできた俺に微笑みを向けてきており、思わず俺も格好を確認してつい呟いてしまった。
「これまた随分と…」
「似合う?」
「そうだな…。」
正直、滅茶苦茶可愛いと思う。
雫に至っては見た目は幼いのだが表情から来る大人しさと服装の見た目も合間って中々に脳が誤作動を起こしてしまいそうな大人の雰囲気を感じた。
「似合ってるよ。それと滅茶苦茶可愛い。」
「…ありがとう///」
「お、おう…。」
赤くなって車内で黙ってしまった。
なにか不味いことを言ってしまったか?こんなとき小町ならなんと言うだろうか…?
助けてコマえも~ん!、何てアホなこと言ってないで今日のことについて質問した。
「ところで今日って俺なんで呼ばれたんだ?」
「お父さんのホームパーティーに招待してそこで八幡のお誕生日をほのかと一緒に祝おうって。」
「はぁ?」
「祝うのは私とほのかだけだけど許して。」
雫が微笑みを浮かべ俺に向けていた。
北山家に向かう車の中で俺は何かを期待しているようで自分が嫌になった。
◆
北山家へ到着し車から降りてその眺望を確認するとかなりの豪邸であった。
…しかし、流石にウチよりは小さいなと感じてしまい、感覚が可笑しくなっていることに気がつき「変わったな俺…」と思ってしまった。
「こっちだよ八幡。」
「っておい…!」
そう雫に手を引かれ会場へと足を運び入れたのだった。
何でも今日は達也達を本当は誘うつもりだったらしいのだが実家の都合があり断られ、エリカと美月に関しては「ドレスを着るのがイヤ、」「恥ずかしい」と言う理由で辞退。レオと幹比古に関しては連絡が取れなかったという理由らしい。
で、ほのかはと言うと…。
「し、雫!?どうして八幡さんがここに居るの?」
会場へ到着すると着飾った何時もの雰囲気とは違うドレスを纏ったほのかがいた。
どうやら俺がここに居るのに驚いている。
そんな驚くほのかをみて雫が得意気な表情をしていた。
「サプライズ。ホームパーティーに託つけて八幡のお誕生日も祝おうって。」
「き、聞いてないよぉ~!何もプレゼント用意してないし…。」
ほのかは半泣きになりそうだが雫が心配ないと言わんばかりにどや顔(わかりずらい)をしていた。
「大丈夫。既にほのかも用意してたじゃない。」
「へ?…あ!」
何やら思い当たる節が当たったようだが俺にはさっぱりだった。
「ごにょごにょ…」
俺から手を離しほのかに近づき耳打ちするとほのかが顔を赤くしていた。
「な、なるほどね…。」
「でしょ?」
「?」
俺は頭に疑問符を付けるしかなかった。
そんな俺を見た雫とほのかは俺の両手を取ってパーティーが開催される会場奥へ進むことになった。
◆
「ホームパーティー」とは言ったものの、経済界では知らぬものはいない雫の父親、北方潮氏が催すパーティーは会場は盛況であったが決して騒がしいというものではなく正に上品な上流階級のパーティーと言った様相をみせていた。
「人多くねぇ…?」
「八幡さん人混み苦手でしたね…。」
「そんなに人いないと思うんだけど…。」
パーティーが始まり数分。俺は既に疲れていた。
なんだかやたらと俺に話しかけてくる美男美女。
無闇矢鱈に質問をされて無視してやろうかと思ったが彼女の手前そんな非社交的なことはしなかった。おかしいな、俺はそんな人間だっただろうか?
俺の呟きにほのかが苦笑いを浮かべ雫は首をかしげる、と言った所作をみせてくれた。
ほのかは俺の言ったことに同意をしてくれているようだったがこんなことには慣れっこな雫はいまいちピンと来ていない。
それもそのはずで、俺は数ヵ月前までは一般家庭(数字落ち)で七草の養子に入ったことで父さんから社交界マナー的なものを教わるようにマナーの先生から俺と小町は必要最低限の事しか教わっていないし、そもそもに於いて俺がこう言った社交性のある場に出ることが嫌いだからな。
こう言う場は精神的に疲労するものだ。
特に九校戦の懇談会とかすげーイヤだった。
家柄を持ち出してマウンティングを取り合う姿は正直見ていて気分が悪い。
マウンティングを取り合う奴はあれか?前世は犬なのかも知れない。
俺と比べるとやはりお嬢様である雫は慣れているだろうし普段から一緒にいるほのかに関してはそういったことに抵抗はあるだろうが必然的に慣れの場数は俺よりも多い。
そういう感覚の差はあるだろうが俺は一向にその感覚が無くならないように願いたいものだ。
今日のパーティーのお題目は「雫の九校戦新人戦でのスピートシューティング優勝」という事らしい。
殆どが親族で開催されているこのパーティだが雫の家の家族構成が父、母、弟、そして雫の四人家族なのだが、父親である潮氏には姉妹と弟が五人もいるようで尚且つ晩婚だったことも合間って従兄弟に至っては雫よりも年上、半数が右手の薬指に給料3ヶ月以上の指輪を付けた既婚者。そして家族同伴、更に結婚していない独身者もお相手を同伴してのパーティに参加という形になり今回のパーティは大規模なものになったと言うことらしい。
いや、俺めっちゃ部外者じゃん。アウェーってレベルじゃないんですけど?
てか身内なのに人数多くない?石○さん家の大家族もビックリなレベルだぞこの人数…。
いかん、例えが古かったな。
と、言う話をいつの間にか雫が連れてきていた…というよりも俺たちの姿を確認して近づいてきた雫の母親から聞かされていた。
北山紅音、旧姓鳴瀬紅音は嘗てAランク魔法師で振動系魔法で名を馳せた人物だった。
「内輪のパーティーに赤の他人を連れ込むのは厚かましくて好きになれないんだけど…ビジネスが絡まなきゃ潮くんは甘いからねぇ。」
「はぁ…。」
控えめに相槌を打っておいた。
そんな毒舌を初対面の人間、流石に毒舌から始まったわけではなくしっかりと挨拶をしたが、一応娘の友人と言うことで招待されている俺の前で吐いている事に俺は察してしまったが相手が本題を切り出すまで自ら突っ込むほど火中の栗を拾いに行くほど間抜けではない。
ちなみにだが雫とほのかは母親から「話があるから向こうに行っていて?」と言って追い出され向こうのテーブルで食事をしている。
一通り毒を吐き出して満足したのか雫の母親はすっかりストレスから解放されたようで紅音の親族以外をみる目から若干の棘がなくなりやっと終わりか…と思ったが今度は俺に向けられる視線が値踏みするような視線に変化したのを俺は気がつかないわけがなかった。
会話を切り出される前に雫達のテーブルへ向かおうと思った俺だったが。
「ところで…貴方、雫とほのかちゃんの事をどう思っているの?」
動き出す前に言葉を掛けられ撤退することすら許されずその場に留まるしかなかった。
先程の愚痴はどうやらこの戦いのための呼び水だったらしい。
振り返り雫の母親を見据えて答えた。
「どうとは…?高校の同級生っすけど…。」
「それだけ?こう言っちゃあれだけど雫もほのかちゃんも可愛いのにただの「お友達
」?それに今回のパーティは親族だけでやるはずだったのに突然「お友達」を呼びたいと言ったときは驚いたけど…これは大変ね、あの子達も。」
「はぁ…。」
「大変ね」「お友達」の部分に含みが在るような言い方だったが真意は分からなかった。
俺は頭に疑問符を付けるしかなかったが、雫の母親は俺を無視して続ける。
「貴方はあの『十師族』の七草家の長男で噂じゃ次期当主候補らしいじゃない?近い将来に婚約が申し込まれるはずよ。貴方も知らない赤の他人よりも気心知れた女の子の方が良いんじゃない?貴方の気持ち的にはどうなの?うちの子達嫌いなの?」
嫌いなの?と言われたら好ましいと答えるだろう。
ただ俺には非常に勿体ないくらいの良い娘達だと言うだけだ。
「何処から聞いたんですその噂…話飛躍しすぎでは?俺は七草家の人間ですが元々外様の人間なので七草の家を継ぐ権利はないですし…今は学生なんでそんなこと考えたこと無いっすね。それに俺みたいな奴と付き合ったら後ろ指指されて雫達が可哀想ですよ。
てか、俺みたいな奴との付き合いしてるの止めなくて良いんですか?親として。」
その返答に夫人は笑っていた。
「ふふっ…面白いわね貴方。うちの子達は人をみる目があるから大丈夫よ、それに何処の馬の骨とも知れない男に娘達をあげたくないわ。
その点で言えば貴方の身元がはっきりしてるから大丈夫、実績も素晴らしいしね。
その君の在り方はとても歪だけど気に入ったわ。それで君はウチの娘達から告白されたら了承するの?」
返答に困る質問が来たが雫の母親は「答えないと逃がさない」と言わんばかりで俺は諦めて返答する。
俺に家族以外の他人を信じる心があるとして俺に好意を抱いているのだとするならば。
答えは一つしかないのだから。
「何度も諦めないで告白してくる物好きはいないと思いますけど…そうっすね、諦めないで俺に構ってくるなら飽きるまで付き合いますよ…それでも諦めないで辛抱強く付き合ってくれるなら…俺は身を呈してでも守りますよ。」
それだけ告げて雫達が居るテーブルへ向かった。
その後ろ姿をみて紅音は呟く。
「難儀な子ねぇ…調べてわかったけどその環境なら屈曲してしまうのは仕方がないわ…親ならそれを止めなきゃいけないんだけど今日喋って分かったわ…優しい子ね、八幡くんは。親として娘達の応援をしないとね。」
その呟きは八幡には聞こえなかった。
◆
雫の母親から撤退し、雫とほのかのテーブルへやってくると近づいてきた俺に気がつきテーブルから離れ雫が近づき申し訳ない表情を浮かべて頭を下げてきた。
「八幡、ゴメン。」
「あ?どうして雫が謝るんだ?」
「お母さん八幡にすごく失礼な事言っていたでしょ?恥ずかしい…。」
娘がパーティーに誘ったのに突如自分の母親が値踏みをするような視線を向けて尚且つ勝手に娘の心象を聞き出されるのは年頃の女の子でなくとも羞恥に染まるだろう。
「いや、親なら学校で娘と交遊のある男がどんな奴なのか知りたいだろうし、俺が親なら娘に近づく男は皆殺しにするが…まぁ、当然の反応だろうし雫が気にする必要はないだろ。」
「うん…ゴメンね八幡…。」
俺に不快な気分にさせたのではないかと不安になっていたようだったがそうじゃない。
他人に悪意以外の関心を寄せられるのが慣れていないだけだからな。
「ああ、これでこの話は終わりだ。折角の化粧と衣装が暗い表情で台無しになっちまうぞ?」
不安そうな表情を浮かべる雫の頭を俺は無意識に撫でてしまうと雫の顔は瞬間にリンゴのように真っ赤になった。
「…///!そう言うのズルい…。」
やはり俺の脇腹を摘まんでくる。
「これは俺が悪いな…スマン。」
ぶん殴られるかと思い頭に乗せた手を外すと「あっ…」と残念そうな表情を浮かべていたが俺は気がつかなかった。
◆
「むぅ…。」
ムスーッと頭を撫でられている雫をみて羨ましがって居るほのかがいて宥めるのが大変だったが雰囲気は悪くなく俺が黙ればほのかが喋り、行きすぎると雫が抑え、俺がボケると雫とほのかがツッコムというトライアングルフォーメーションが出来上がっていた。
グラスに注がれたジンジャーエールを傾けて雫とほのかの姿を見守っていると背後から声を掛けられた。
「あの…七草八幡さんですよね」
「あ?」
「…っ」
俺が振り返ると小学生ぐらいの少年が俺の背後に立っており若干の怯えをみせていた。
これは不味いと思いぎこちなく頷いてしまった。
「ああ、ごめん…俺が七草八幡だけど。君は?」
「は、はい!」
よくよくみてみれば雫の面影があるように感じて正に「お利口さん」といった雰囲気を与えている。
自己紹介をしようとしていたのだが隣から雫が遮った。
「航」
「姉さん、お話の最中に邪魔しちゃってごめんなさい。」
「姉さん?」
俺が聞き返すと雫が頷いて答えてくれた。
「うん、航は私の弟。航?ご挨拶しなさい?」
言葉のやり取りが少ないが決して冷たい、という印象は受けなかった。
俺の前に改めて立って礼儀正しく挨拶をした。
「はじめまして、北山航です。小学六年生です。」
俺は小学生に挨拶をされたので自動的に挨拶をする。
小学生に挨拶されてキョドるのは過去の俺だけで良いのでしっかりと自己紹介をする。
「七草八幡です。お姉さん達とは高校で仲良くさせて貰っています。よろしくね。」
「は、はい!…あの…その…。」
自己紹介が終わり俺と航君の間には正直微妙な空気が流れており航君は俺に何かを聞きたそうにモジモジしていた。
そんな二人の空気を変えてくれたのは意外や意外、ほのかであった。
「航くん、八幡さんに聞きたい事があったんじゃないの?」
「あっ、はい…その、八幡さんに一つ教えて貰いたい事があるんですが…。」
俺は答えることもなくただ黙って航君をみている。
若干の怯えがあるのは俺の衣装が悪い、と言うことにしておきたい。
「いいぞ、何が聞きたいんだ?」
「その…魔法が使えなくとも魔工技師になれるものなのでしょうか?」
随分と変なことを聞くんだなと俺は思った。
質問の意味が、ということではなく北山家の跡取り息子が「魔工技師になれますか?」と聞いてくるのがだ。
それと俺に対して何故その質問をしてきたのかだ。
現に雫とほのかは「えっ?」というような表情を浮かべている。
「航君、質問に答える前に聞いて良いか?」
「は、はい。」
「そもそもなんで…俺に魔工技師の事を聞こうとしたんだ?俺は魔工技師志望じゃないし資格を持っていないぞ?」
何故か緊張している航君に対して俺は若干の困り顔をしていたがしっかりと答えてくれた。
その理由が思わず隣に居る雫を見てしまう程には。
「実は姉さんが言っていたのを聞いて…『九校戦での優勝は八幡のCADの調整技術のお陰…』と言っていましたし、それに姉さんが『八幡を将来私専任の魔工師にする』と常日頃から言っていたんですが違うんですか?」
その回答にほのかは「確かに…」と納得した表情を浮かべ若干誇らしげであったが「専任」という言葉を聞いた途端にほのかは雫を睨む…まではいかなかったが恨めしそうにジト目で見ていた。
俺は真っ先に雫の方をジト目でみると雫はバツが悪そうにしていた。
「だって…事実でしょ?」
「お前な…。」
「八幡の調整技術がなきゃ私とほのかは優勝できなかった。」
「それはお前らの実力があったからで…。」
「それだけじゃ優勝できなかった。」
「それは百歩譲るとして「専任の魔工師」って…お前まだ諦めてなかったのか。」
「当然。」
「そうかい…」
お前面の皮厚すぎるだろ…。
まるで水掛け論のように発展していきそうだったので俺から会話を中断すると少し嬉しそうにしている雫をみてため息をつきたくなったが航くんの聞きたいことに答えていないのでそれは後回しだ。
「ええと…それでその…魔工技師は魔法が使えなくともなれるのでしょうか?」
そう不安げに俺に聞いてくる航君を俺はサングラス越しに《瞳》で確認する。
まだ小学六年生ということもあるが魔法力は実践では通用しないほどの弱々しさだ。
訓練をすれば雫の母親の遺伝子を継いでいるだろうからもしくは魔工技師になれるだろうか?というレベルだった。
正直に話してやるか迷ったがここで嘘をつかれた方が辛いはずだと思い俺は正直な感想を述べる。
「それは無理だ。魔工技師は魔法を使える魔法工学の技術者のことで、魔法が使えない人物を魔工技師とは『呼べない』んだ。」
「そう…ですか…。」
案の定航君は落ち込んでしまったが間髪入れずに回答する。
「まぁ、でも魔法が使える魔工技師だけがそう呼ばれるだけじゃないんだがな。」
「えっ?」
「魔法が使えなくともその勉強は学ぶことが出来るし、流石に今の魔法力が微弱なままではCADの調整は出来ないけど、航君がやる気になって鍛えれば今ある微弱な魔法力を強化してCADを調整することが出来るぞ。それは魔法を使う機器全般に言えるから本当に航君が『魔法工学技師』になりたいのなら本気で勉強すれば可能だ。」
「本当ですか!?」
おとなしい少年は年相応なテンションになっており微笑ましいがこれだけは釘を刺しておかなければならない。
「魔法工学技師に本気でなりたいと思うならかなりの努力が必要だ。魔法師にとってのCAD調整は自分の体を預けるようなものだから生半可な気持ちでやればあとでそのしっぺ返しは自分に帰ってくることになるから覚悟をしておいた方がいい。特に自分の肉親…雫、お姉さんの役に立ちたいと思うならなおさらだぞ?」
「ぼ、僕はそんなつもりじゃ…」
可愛いもんだ。その姿をみて雫とほのかは微笑んでいた。
口では「違います!」と否定のポーズは取っているが顔を赤くして恥ずかしそうにしている姿は決定的なものだった。
…航君の俺を見る目が「怖いお兄さん」から「信頼できる優しいお兄さん」に変わっておりそんな光景をみている雫とほのかは何故か誇らしげになっていたのは分からなかった。
ただ真実を突きつけてやっただけで感謝される筋合いはないのだから。
「あの…!」
先程までモジモジしていた航君が何か意を決したようで俺に告げてきた。
耳を疑う内容だったが。
「八幡さん!…僕を弟子にしていただけませんか!?僕が魔工技師になるための先生として。」
「は…?いやだからな、俺は魔工師の資格を持ってるわけじゃなくて知ってるってだけで…教えられるほど知識量はないぞ?」
ぶっちゃけこれは嘘であり俺はもう一つの偽名で魔工師《名瀬蜂也(なぜはちや)》の名前でライセンスは持ってはいるがばれると面倒なのでこの事を知っているのは会社の一部の人物と姉さん達だけだ。
「でも…」と航君は食いついてきたがきっぱりと断った。
断ったはずなのだが雫からの援護射撃が入り「空いた時間でも良いから航に勉強を教えてあげてほしい。あと調整も」と言われたがおい、最後の一文は雫が調整してほしいだけだろと思ったが航君のお願いに最大限で譲歩したような形となった。
航君は嬉しそうに「先生!」と俺を呼んでいるがやめて欲しい…。
めちゃくちゃ懐かれ話をしたそうだったが雫に言われ名残惜しそうに両親の居るテーブルへ戻っていった。
俺、今日生徒が一人出来ました。
…どうしてこうなった。
◆ ◆ ◆
「航がそんなこと思っていたなんて…。」
航君との会話のあとに雫が俺にコメントしてきてほのかも同意していた。
「私もビックリしたよ。航くん、魔工技師になりたかったんだ。」
「魔法が使える人物が周りにいたらその憧れは強くなるだろうしな…航君は使えない訳じゃなかったみたいだが弱すぎて単一系統すら使えるのが怪しいレベルだったが。そうなると魔法に関わる仕事…必然的に魔工師に行き着くわけだ。それに雫の力になりたいだなんて姉思いの弟だな。」
俺が説明すると雫が非常に恥ずかしそうに顔を真っ赤にして俯いていた。
「でも、八幡さんが先生になったら航くんすごい魔工師になりそうです!」
「俺の教えなんて素人に毛が生えた程度だと思うが…」
「そんなことないです!」
ほのかが強く否定し、それに雫が同意する。
「八幡がそれを言ったら全員八幡以下になっちゃう。」
「いや、それは流石に言い過ぎだろう…。」
俺が否定するが雫に強く否定されたしまった。
いや、俺の調整技術を高く買ってくれるのは良いんだが事情を空かせないので素直に受け取れないのだ。
「それが残当だから…でも、ありがとう八幡。航の先生引き受けてありがとう。」
「…たまにしか来れないと思うけどな。」
「それでも…うん、ありがと。」
そう言って微笑む雫はお姉さんの表情を浮かべていた。
◆
二人によってお祝いを受けていた。
しかし、場所はパーティー会場ではなく場所を移しまさかの雫の自室であった。
自室に北山家の家政婦さんが小さめのホールケーキ(三人で食いきれる大きさ)を運んできてくれてご丁寧に蝋燭やメッセージプレートがつけられていた。
てか、待ってくれ。年頃の高校生の部屋に男の子を呼ぶのはいかがなものだと思うんだけど?
雫の部屋には少し露出の高いドレスを着用している美少女二人とスーツを着た男が何故かその部屋のベッドに腰掛け左右を美少女から挟まれていた。
「八幡の好きなマックスコーヒー味だよ?」
マジかよ雫。
取り分ける前に雫から薦められた。
「八幡蝋燭消して?」
サイドテーブルに置かれたケーキの上に刺された15本のローソクを息を吹き掛けて掻き消した。
ぱちぱち、と雫とほのかより拍手を受けた。
「お誕生日おめでとう。八幡」
「お誕生日おめでとうございます!八幡さん!」
「お、おうありがとう…。」
誕生日なんて生まれてこのかた…というよりも記憶がないと言った方が正しいのかも知れないが…。
記憶に有る最新の誕生日は七草家での祝われたことだろうか。
てか父さんが俺よりも嬉しそうにしていたのが意外だった。
それはさて置いておいて。
雫が白い手袋をつけたまま取り分けの包丁を握ってケーキを切り分けていた。
その見た目はヴェールを頭につけていないもののその姿はケーキ入刀をする花嫁のようで少し見とれてしまったが雫達には気づかれていなかった。
「はい、八幡。」
「ありがとう…。」
「あ、八幡。」
ケーキを受けとると若干クリーム等の甘い匂い意外に発酵した甘さの匂いが微かに鼻についた。
ケーキに手をつける前に雫からプレゼントを手渡されたが意外なモノだった。
「はい。プレゼント」
「おうありがとう…ってマジモンの刀じゃねぇか…。」
手渡された長細い紫色の綺麗な麻布の上紐をほどくと一本の刀が出てきた。
紫色っぽい黒色の鞘。引く抜くと長さは刀身は切っ先から鍔までいぶし銀の大体1M無い程度…と言った打刀であった。
それは俺の師匠である少女が使用していた《雛丸(ひいなまる)》に非常に酷似していた。
流石にあの見た目ではなく雰囲気がだ。
「欲しいって言ってたでしょ?お父さんに聞いたらウチにそう言った刀剣の貿易商の人が居て譲ってくれたの。」
「そ、そうか…てかいいのか貰っちまって…あとで請求とかしないよな…?」
「心配しなくても大丈夫。」
「じゃあ…ありがたくいただくわ…。」
俺は意識をしていなかったが表情が綻んでいたのだろう、俺をみている雫が微笑ましいものをみるような表情を浮かべていたのを確認して少し恥ずかしくなった。
俺が悪い訳じゃない。仕方ないじゃない男の子だもの。
値段について気になったが聞かないことにした。
どう考えても大業物の雰囲気と妙な神気を感じ取ったからだ。
因みにこいつの銘は《漆喰丸(シックウマル)》という銘らしい。
なぜか俺にぴったりだと感じてしまったのは心の厨二病が発症したせいだと思いたい。
「八幡さん!私からはこれを…。」
「おおっ…?ってこれはまた高価そうな…」
雫からプレゼントを貰い、そしてほのかからも祝いの言葉と実は用意していたプレゼント(オニキスがあしらわれたブレスレット)を手渡された。
そのデザインは装飾過美ではなくシンプルなブレスレットで日常生活でも問題なく使用出来るデザインだった。
「いいのか?こんな高そうなもん…」
「いいんです!本当は八幡さんとのデートの時にお渡しするつもりだったんですけど…。その、髪飾りのお礼に…」
「あー…なるほど。なんか気を使わせて悪いな…」
そう言って渡されたブレスレットを手に取り利き腕に取り付ける。
「ありがとなほのか。似合うか?」
「はい!お似合いです八幡さん。」
「プレゼントも渡したところで…改めて、遅くなってごめんね八幡。お誕生日おめでとう。」
「おめでとうございます!八幡さん。」
「…ありがとうな。」
二人からのお祝いは確かに嬉しかった。
…素直に喜ぼうと努力はしているのだが、やはり俺はこの行動に裏があるのではないかと勘ぐってしまっていた。
俺が一瞬戸惑った顔をしていたのを雫は気がついていたのだろうが知らない振りをしてくれていた。
「じゃあケーキ食べよ?」
「いただきましょう八幡さん。」
「…そうだな。」
「「「いただきます」」」
そう言って三人で取り分けたケーキを戴くことにした。
味はマックスコーヒーの味が再現されているが甘さがくどくなく、イチゴの変わりにローストしたアーモンドが香ばしくて非常によかったがスポンジの間に入ったカットされたフルーツをフランベした際にリキュールのアルコール分が抜けきっていなかったのか少々味がくどかった以外は非常に美味しいケーキだった。
俺を中心にして二人の美少女が左右に配置されている。やたらと距離が近いのは気のせいではないだろう。
「「…」」
(めっちゃ静かじゃん…)
何故かケーキを食べ初めてから左右の二人が静かになっていた。そんなにケーキがお気に召したのだろうか。
俺は食べ終わりケーキと一緒に運ばれた紅茶に手をつけているとカチャリ、とサイドテーブルに食器が置かれる音が静かに響いた。
それと同時に俺も紅茶を飲み終わりティーカップの中身を飲み干しサイドテーブルに置いた。
瞬間、不意にガシッ、と雫から抱きつかれた。
俺の胸に顔を埋めんばかりの勢いだった。
「ちょっ、どうした雫!?」
「ふみゅ…はちゅまん…。」
「は…?お、おい…。」
「しゅき…はちゅま。ねぇ…なでて?」
恐らく「撫でて?」と言っているのだろう。そう言って俺の眼前に自分の頭を近づけてきた。
「おい大丈夫か?」
「なでて?」
断っても蒟蒻問答になりそうな気がしたので諦めて雫の頭に手を置いて撫で始める。
「~♪」
非常に気持ち良さそうな表情を浮かべており今にも猫撫で声を出しそうな勢いでその反応に俺も思わず一度だけでなく数回撫でてしまっていた。
手を離そうにも雫の手が撫でている俺の手を退かすのを阻止しているからだ。
顔をみると目がトロんとしており顔が赤くなっており雫から若干のリキュールの匂いがしていた。
「まさかケーキのアルコールで酔っちまったのか…?」
「はちゅまん~♪…ほめて。」
俺の胸に飛び込み頭を擦り付けてきた。
この状況に俺は逆に冷静になってしまった。「雫って酔うと人肌恋しくなっちゃうタイプか…」と感心し雫にはお酒の類いを与えちゃいけないなと思いました(小並)
って冷静に考えたら隣にいるほのかが止めてくれないのがおかしいと思った俺はふと隣を見るとそこには酔いつぶれて雫のベットの上に幸せそうな寝顔をしているほのかの姿があった。
「ほのかもアルコール弱いのかよ…!?」
「む~はちゅまん…ほかのおんなのこに、きゅをそいじゃだめ…。もっとわたしゅをみて?」
「ちょっ、雫っ…うおっ!」
ほのかに気をとられていたら雫による違法タックルを食らい威力は全く無かったが柔らかいベットの上ではその小さな突進は受け止めきれなかった。
「む~…」
「ちょっと離れてくれませんかね?雫さん…」
「やだ」
「…さいですか」
俺の抵抗も虚しく目の前にいる雫はきっぱりと断り俺に抱きついてくる。
俺もこの行動が酔った故の後で後悔するんだろうな、と思いながら本人のためにどかせばいいのだが何故か動かせる気がしなかった。
俺は自分に生来持って生まれたCAD(意味深)を押さえるのに必死だったが雫は「んなもん知らねぇ!」と言わんばかりに雫はくっついている。
「もう満足したろ…そろそろ離れてくれよ…。」
「…。」
そろそろ離れてくれないとこの状況を見られた日にはどんな噂が北山家に流れるかたまったもんじゃないし、妹達に知られたらとんでもないことになりそうなので勘弁して貰いたい。
しかし、声を掛けても黙ったままの雫。寝てしまったのかと思い顔を近づけると同時に雫が顔をあげた。
「…はちまん。」
まだ酔いが抜けきっていないのか目がトロんとしたままではあったが普段に近しい雫の雰囲気であった。
「わたし、はちまんのこと…すき…だいすき。」
「…酔いが覚めたあと自分でその発言に後悔するぞ?ほらはなれろっ…!」
引き剥がそうとするが雫は離れようとしない、逆に抱きつきがもっと強くなった。
「…」
「ちょっ、お前…離れやがりなさいよ…!!」
ぐぎぎ…とまでは行かないが引き剥がそうとすると意地になってるのか離れてくれない。
「…はちまん。今日のお祝い楽しかった?」
突如として今日の「誕生日会はたのしかったか?」と言われて一瞬躊躇したがそこは俺の性質云々抜きにして答えた。
「他人から祝われたのなんかほぼ初めてだったから、新鮮だったぞ。」
「たのしいとは、言ってくれないんだ…。」
「それ以外に答えようが無いんだけど?…まぁ楽しかったと言えば楽しかったか?」
「どうして疑問系?…そっか…たのしかったんだ…えへへ。」
妙に楽しそうにしているがそろそろ離れて貰わなければならない。
「…ほら、そろそろ離れ…うおっっ!?」
起き上がろうとした瞬間に雫に押し倒されて非常に不味い態勢に陥っていた。
「…。」
俺が下になり雫が俺の上に跨がっている所謂、騎○位状態になっていた
「し、雫…」
その表情は酒のせいではなく真っ赤に染まっていた。
なかなかこの状態から会話を切り出さずにいたので沈黙続いたが雫が意を決して言葉を溢した。
「はちまんが…たにんのこういをしんじられないりゆうは…こまちちゃんからきいたよ?」
「…。」
小町から聞いているのなら尚更この状況をどうにかして欲しいもんだが。
俺がすぐにでも雫を振りほどけばこの問答はすぐにでも終了できるがそれを許さない、と言わんばかりの迫力が雫が醸し出していた。
「はちまんのたんじょうびを祝うのは…たてまえで、たぶんだけどほのかはもちろん、みゆきからももうこくはく、されてると思うけど…。」
「っ!…なんでその事知ってんだ?」
おいまて、なんで俺が告白されたこと知ってんだ雫は。
その事を聞かされて俺は過去の記憶が呼び起こされそうになり酷い頭痛がしたが雫は瞳を伏せて恥ずかしそうに俺が予想だにしない言葉を告げてきた。
「わたし、はちまんのことがすき…みゆきたちと同じくらいに…一人の男の子として…。」
「……。」
消え入りそうな声だったがその告白は俺の耳へ届いていた。
どうして、俺に好意を寄せるのか。本当に分からなかった。
「はちまんに言葉で言ってもわからないとおもうから…こうどうで示すね…?」
おもむろに雫は顔を俺の顔付近に近づけてきた。
元々整った顔立ちの雫が顔を紅潮させトロんとした瞳を潤ませて外見からは想像つかない色気を醸し出していた。
その様子に俺はドキドキしていた。それは雫も同様だろうが。
「行動で示すね?」その意味を示すモノは直ぐ様やってきた。
「んっ…ちゅ…」
「んっ!?」
女子特有のいい甘い匂いと唇に触れた柔らかい感触が脳に直撃し脳を麻痺らせていく。
俺は雫にキスをされていたのだ。
「んちゅ…。」
「……!…ぷはっ…雫っ、おまえっ…!?」
口腔内に柔らかいものを差し込まれそうになった瞬間にハッとなった俺は雫の肩を持って引きがした。
「はちまんに…あげちゃった…ファーストキス…。」
嬉しそうにはにかむ雫に俺は怒りを覚えた。
されたことではなく、させてしまったことにだ。
「…なに考えてんだ…好きでもない男にこんなこと…するなよ…」
「好きでもないおとこのこに…こんなことしないよ?」
「なっ…!?」
俺は絶句してしまった。
「はちまんが他人を信じられなくなったのは知ってる。その人達ははちまんを見る目がなかっただけ…でも私たちは違うよ?はちまんを好きになったみゆきやほのか…それにわたし…。友達として見てくれているたつやさんに西城くんによしだくんにエリカにみづき…皆、はちまんのことを信じてるから。だから、私たち…私を信じ…て…?」
俺に覆い被さってまっすぐに瞳を見てくる雫の真剣な表情に俺は目を離せなかった。
その真摯な思いを称えた瞳に俺は思わず目を背けてしまった。
その想いが嫌なわけではない。
むしろ其は俺が心から望んだものであり欲していたものだ。
だが、信じていいのか?そんな想いが俺の脳内を駆け巡る。
また裏切られるぞ?と誰かが囁き、信じてみろよ、と誰かが呟く。
まさに二律背反の状況でそんな自分の頭蓋を今すぐにでも粉々にしたかったが俺は先程の雫の言葉を思い返す。
『好きでもないおとこのこに…こんなことしないよ?』
雫の口づけは酔った勢いで笑いを取るために行ったものではない。
俺の唇へ雫の唇が触れた瞬間に震えていたのを思い出した。
精一杯の勇気を、この目の前の少女が振り絞った少女の行動が悪戯故の行動ではないことは分かりきっていた。
その当たり前の事を認識した瞬間に俺は、ほんの少し、本当に少しだけだが『信じてみるのもいいんじゃないか?』と他人からの好意に対して認識が変化した、そんな気がした。
そらした視線を眼前にいるはずの少女へ伝えなければならない言葉を伝えようと思ったその時。
目の前には驚きの光景が広がっていた。
「し、雫…?」
「すぅ…すぅ…」
俺の胸元に顔を埋めて眠りこけている雫の姿があった。
「おーい…雫さん~?おーい?」
(嬉しそうな表情ではちまんの胸に顔をうずめている雫)
「この状況誰かに見られたら社会的に死ねるな…人の苦労も知らずにすやすや眠りやがって…こんにゃろう…。」
「…ふにぅ…。」
このまま眠りこけられるのは非常に不味いので魔法を使って雫には離れて貰いベットで寝て貰うことにした。
雫の今日の行動のお陰で俺は好意を告げられた三人の少女に対して「只の同じ高校のかわいい同級生」としてではなく「俺に気に掛けてくれるかわいい同級生」と意識をせざるを得なかった。
「俺、今度雫達に会うときにどんな表情で向かい合えばいいんだ…?!」
俺を気に掛けてくれる美少女にファーストキスをさせてしまった後悔が俺の心のなかでぐるぐるしていた。
正直顔を会わせたら挙動不審になるのは確実だろうからな…。
先程のキスを思い出して悶絶しそうになったが、頭を振って立ち直り雫の部屋から退室した。
部屋で眠ってしまった二人の表情は笑みを浮かべていた。
八幡の心が少しづつ、ほんの少しだが前向きになったことを感じ取ったのかは知らない。
八幡が彼女達の想いを本当に信じられるまで幾多の出来事があることをまだ、彼女達と八幡は知る由も無かった。
最も、彼を慕うのが3人だけとは限らないが。
酔いから覚めて八幡に介抱されていた。
「うう…まさかこんなにお酒に弱いだなんて思わなかったよぉ~…。」
「…///」
「雫大丈夫だった…って顔が紅いけど。」
「う、うん私もお酒がこんなに弱かったとは思わなかった。」
「…///」
「…///」
「二人とも…顔色紅いけど大丈夫?」
「あ、いや!ちょっと暑くてな…。」
「うん、私も暑くて。」
ほのかに心配された二人は言葉を交わしてはいないが思うところは一緒だった。
「(さっきの出来事ぜってぇ言えねぇ…。)」「(ほのかに絶対言えない…。)」
「?」
ほのかは疑問符を浮かべているが真実には到達しそうになかった。
「…///」
「…///
八幡と雫はは顔を見合わせて赤面した、