俺が七草の養子なのは間違っている   作:萩月輝夜

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今回はあっさり目です。
深雪と愛梨が活躍します。

今回は原作で出なかったオリキャラが出てきます。
(調べても名前が出てこなかったのでオリジナルの名前をつけちゃいました。この人はこの名前だよー、というのがありましたらコメントにて…。)

最近はリアルが忙しくて週一で投稿できていないのが辛い…。
見てくださって有り難う御座います!!

感想&コメントも有り難う御座います。
誤字脱字報告本当に申し訳ない!




夜空に輝く優等生

愛梨に魔法の起動式を封入した情報端末を手渡した後『後片付け』の事もあり無性に腹が減ったので出店で軽食をとった後、決勝まで時間があったので昼寝をしにホテルまで戻ろうとすると一人の女性が若い男達(大学生ぐらい)に囲まれナンパされている光景を目撃してしまった。

 

「お姉さん俺たちとお茶しない?」

 

「大会見るよりも楽しいことしようよ。」

 

「あ、いえ私は…。」

 

(今時そんな奴らいるんだな…。)

 

その囲まれている女性に一瞥すると思わず二度見してしまった。

 

(愛梨?…いやお姉さんか?)

 

愛梨に非常によく似ておりそのまま年を重ね、というよりも少し大人びた雰囲気…見た目的には大学生ぐらいの女性だろうか、下劣な妄想を抱える大学生達に話しかけられ困惑していた。

 

(あのままだとずるずる連れていかれそうだな…しゃーなし…。)

 

「ほら行きましょうよ。」

 

「あっ…。」

 

俺は愛梨の姉の手首をつかみ強引にナンパしようとする男の手首を掴み割って入ることにした。

 

「探したわ姉さん。ほら行くよ。すみません連れがご迷惑を…」

 

こういうナンパの類いは強引に知り合いを装って連れ去る方が手っ取り早い。

…実際中学の時にいろはがナンパされたときにこれで何とかなった。

しかし、そう上手くは事が運ばないわけで…。

 

「あの…どなたでしょうか?」

 

早速ミッション失敗に至ったわけだ…いや、そこは話を合わせて頂戴よ。

 

「ん?」

 

「あ?」

 

「へ?」

 

俺が割って入るとさっきまでこの女性に楽しそうに話していた男達は一気に不機嫌になり敵対心を露にする。

そんなことは知らぬと俺は連れ出そうとした女性に話しかける。

 

「いや、そこは乗ってくださいよ。俺が間抜けみたいじゃないっすか…。」

 

「えっ…?あ、ごめんなさい。」

 

「あ?何だお前?」

 

男達を無視して話していると今にも殴りかからんとする男達に声を掛けられた。

 

「大人が話してるときに割って入るなって学校で習わなかったのか?…ってこいつ第一高校の生徒か。」

 

「一般人に魔法を使っちゃ行けないって学校でならわなかったんちゅか~?」

 

「めんどくせぇな…」

 

「クソガキが…!」

 

卑しい笑い声を挙げているが俺は何とも思わず冷めた目と敢えて聞こえる声量で呟くと男達を見ているとその表情が気にくわなかったのか一人の男が俺にパンチを仕掛けてくる。

 

しかし、それは俺の前ではあまりにも遅すぎた。

 

空いている片手で受け止めてその男にしか聞こえない言葉をボソッと呟くとその表情は恐怖に染まっていた。

 

「さっさと消えろ。この脳ミソが下半身欲で生きてるヤリ○ン野郎が…潰すぞ。」

 

「ひっ…!」

 

「に、逃げろ!やべぇぞ!!」

 

同時に殺気をぶつけてやるとその男は恐怖に縮み上がりもう一人の男を連れて一目散にその場から逃げ去って行く。

情けない声を挙げながら。

 

「ったく…あの程度の殺気でビビるぐらいならナンパなんてするんじゃねぇよ…。」

 

「あ、待って!」

 

俺が呟きその場から立ち去ろうとすると俺の右手が誰かに握られ身動きがとれなくなる。

何かこれ前にもあったな…?

 

そう思い後ろを振り返ると先ほどナンパをされていたので割って入った金髪の女性が俺を引き留めているのが目に入り声を掛けられた。

 

「えーと…何でしょうか?」

 

「助けてくださってありがとうございます。あなたは?」

 

これ名前を名乗らんといけん?正直さっさと昼寝がしたいので下の名前だけ明かした。

 

「…八幡です。」

 

「八幡…その髪型とその目…っ!もしかしてあなたが『娘』が言っていた比企谷八幡君?」

 

「比企谷じゃなくて今は七草…って『娘』?」

 

目の前の女性が俺の旧姓を知っていたということも驚きだったがそれだけじゃなく今『娘』って言った?

目の前にいる女性は明らかに子持ちには見えないほど若かった。

 

「あ、ごめんなさい突然ビックリしてしまいましたよね。私は一色紅利栖(クリス)。愛梨といろはの母親です。」

 

「ええ…?」

 

目の前にいる女性は子持ちだったことに俺は驚いた。

 

 

ナンパ男達を撃退したのち俺は再び売店の飲食コーナーへ戻ってきていた。

そのままにしておくとまたこの人がちょっかいを掛けられそうだったので会場の観客席へ案内しようとしたが、愛梨の試合は既に終了し決勝に進出することが確定していたので、試合までは時間があるためこちらに案内して愛梨のお母さん…紅利栖さんと雑談をすることとなった。

 

ちなみに何故俺が一色さん…もとい紅利栖さんを名前で呼んでいるかと言うと、本人から「「紅利栖」って呼んで」と言われたためである。

決して俺が自発的に言い出したのではないと明記しておこう。

 

俺の昼寝の時間は無くなったのだ。雑談と言う結果にな。

 

「どうぞ。」

 

売店で売ってたドリンクを二人分購入し紅利栖さんの前に置くと感謝された。

 

「ありがとう。えーと何とお呼びしたら良いかしら?」

 

「比企谷は旧姓なんで今は七草で呼んでください。」

 

「分かったわ八幡君。」

 

この人も名前呼びなのか…。

目の前の紅利栖さんが姿勢をただして俺にお礼を述べてきた。

 

「改めて…いろはを救ってくださってありがとうございます。八幡君。」

 

「愛梨からお礼は貰っているので大丈夫ですよ。気になさらないでください。俺がやりたくてやっただけの話ですから。」

 

普段のように自分自身の為だと伝えると紅利栖さんはクスりと上品に笑う。

 

「やっぱりいろはも同じことを言っていたわ。」

 

「それ、愛梨にも同じことを言われましたよ…。それより先ほどはあの男達にナンパされていたんですか?」

 

そう俺が言うとキョトンとした表情を浮かべている紅利栖さん。

 

「え?ナンパだったの?ただ道を聞いていただけなのだけなのだけれど…?こんなおばさんにナンパするだなんてあり得ないわよ。」

 

「ないない」と言わんばかりに否定する紅利栖さん。

 

この人自分がナンパされてたことに気がついていねぇ…。

てか、紅利栖さん?あなためっちゃ美人ですからね?気を付けた方が良いですよ?

 

「いや、紅利栖さんはめちゃくちゃ美人ですよ。俺通り過ぎた時に愛梨のお姉さんかと思いましたが…」

 

そう言うと紅利栖さんは嬉しそうな微笑を浮かべていた。

そんなにナンパされたことが嬉しかったのだろうか?変わった人だな。

 

「あら…冗談が上手いのね八幡君は。でも、娘と同い年の男の子にそんなこと言われちゃったらおばさん、嬉しいわ♪」

 

「は、はぁ…。」

 

「…実はね、娘には私が大会の観戦に来ていることは内緒なのよ。」

 

「え、愛梨には伝えてないんですか?」

 

そう言うと紅利栖さんは苦笑いしていた。

 

「愛梨は…私が来ることを知ったら重荷になってしまうから…。それでもあの子が頑張っている姿を現地で見てみたくて。」

 

「今までの愛梨の試合は見たことがなかったんですか?」

 

「ええ、恥ずかしい話のだけれど…私は体が弱くて今まで愛梨の試合を外で見たことがなかったのよ。今日は調子が良いから家の者に無理を言ってこの会場に来ているの。」

 

「そうだったんですね…。」

 

「でも…。」

 

紅利栖さんはその整った表情に暗い影を落としている。

 

「どうしたんですか?」

 

「愛梨は…私が応援に来ていたら邪魔かしら…?」

 

「はい?」

 

「今の今まで応援にも来なかった母親がいきなり応援に来たら調子狂ってしまわないかしら…?」

 

「…それは分からないですけど。応援されて嫌な子供はいないと思いますよ。…少なくとも俺はそう、思います。」

 

「え?」

 

俺の遺伝子上繋がりのある今は蒸発した毒親達からは愛情と言うものを注がれた試しがない。

だが、今の父親である弘一さんが大会に観戦しに来たときは正直恥ずかしがったがめちゃくちゃ嬉しかった。

 

愛情を注がれて尚且つ自分と血が繋がった肉親ならばその行動は嬉しい筈だ。

 

俺の発言を聞いて紅利栖さんは「そう…」と呟き覚悟を決めた表情で俺を見つめた。

先程迄の迷いのある表情は晴れていた。

 

「八幡君に悩みを聞いて貰ってスッキリしました。…ありがとう八幡君。なるほど、これじゃウチの娘達が八幡君に夢中になるわけですね…」

 

「まぁ…暇潰しになったのなら幸いです。」

 

「私ももう少し若ければ…。そうだ、処で何だけど…」

 

「何ですか?」

 

何やら不穏な単語が聞こえたがよく聞こえなかった、「若い」とかなんとか。

いやいや、十分若いでしょうが、愛梨の制服着たらまじで姉だと思うわ。

 

『はーい!愛梨の姉でクリスでーす!』

 

俺の脳内に愛梨の制服を着用し、かなりピチピチで体のラインが出ており、愛梨とは違いとある部分達の大きさの主張が激しい状態になった紅利栖さんの姿が現れ目線を隠すとあら不思議、想像したら犯罪臭がする夜のお店にいそうだな。

 

いや、めっちゃ需要ありそうだけれども…。

 

なんてアホなことを考えていると紅利栖さんから発せられた言葉に俺は耳を疑った。

 

「八幡君はウチのいろはと愛梨、お嫁にするならどっちがいい?」

 

「はい?」

 

紅利栖さんの誤解を解く必要がありそうだ。

 

ずいぶんと長い間話し込んでしまいLサイズの飲み物が入った紙ストローがふにゃふにゃになるぐらいには。

 

まさか、いろはと愛梨の秘密を聞かされることになるとは…墓場まで持っていく必要があるようだ。

 

しかし、所々愛梨といろはが何故俺の事が好きと言う話になったのだろうかが疑問であった。

好かれる要素あっただろうか?いや、こんな変な瞳で性格の俺が好かれる筈が無い。

 

「色々と話を聞いてくれてありがとう、八幡君。是非ウチに遊びに来てね。愛梨もいろはも喜ぶわ。」

 

「は、はぁ…。」

 

すっかり憑き物が落ちたかのようにスッキリとした表情でフードコートから会場の観客席へ紅利栖さんは向かっていった。

 

「あ、やっべ!深雪の所に戻らねぇと…」

 

時刻は夕日が差し掛かった時間帯だったので、急ぎ深雪が眠りについているホテルへ預かった鍵を使い開けて戻ると深雪はまだ眠ったままだったのでゆっくりと隣の椅子に座り、眠り姫が起きるまで待つことになった。

 

◆ ◆ ◆

 

決勝戦は午前とは打って変わって、満天の夜空であった。

 

上弦の月…鬼○の刃かな?上空には星の瞬きが圧倒している。

ぶっちゃけると競技を行うにはあまり良い状態ではないが日取りは変更できない。

 

深雪と愛梨がぶつかり合うにはうってつけのステージであることには変わりない。

 

ミラージの試合会場のすぐ隣の入り口に俺は顔を出していた。

 

「体調はどうよ?」

 

「万全です、八幡さん。気力も充実していますし最初から飛行魔法で行こうと思います。」

 

「その方が良いだろうな…。頑張れよ深雪。」

 

「はい!」

 

勢いよくフィールドへ飛翔する深雪を見送る八幡を達也は見ていた。

 

「深雪、ずいぶんと上機嫌だったな。」

 

湖上の足場に立つ深雪に視線をやりながら隣に移動してきた達也に声を掛けられる。

 

「あ?ああ…昼飯食って昼寝したらそりゃコンディションはよくなるだろ?」

 

「…そうか(恐らく違うと思うんだが、八幡だしな…。)」

 

達也から向けられる視線が抗議を含む視線だったのは気のせいの筈だ。

決勝進出校は一校、二校、三校、五校、六校、九校から各一名ずつ。

複数の選手を決勝に送り込めた学校はない。

 

今この場には病院に詰めている渡辺先輩以外の主要女子メンバーが顔を揃えた状態になっている。

 

三校は決勝に愛梨しか送り込めなかったので深雪が三位以内に入れば第一高校の総合優勝が確定するので応援する方にも力が入るというものだ。

 

「機嫌が良く試合に臨めることは良いことだわ。達也くんがケアしてくれたお陰ね。」

 

反対側から姉さんが笑顔で話しかけてきた。

その発言を聞いて俺はびくつきそうになったのは深雪と一緒の部屋にいたからだろうか。

 

「会長、ケアをしたのは俺ではなく八幡ですよ?」

 

「達也、お前っ!余計なことをいうな…!」

 

達也がその発言をしたその瞬間に一瞬にして俺に近づきして姉さんが不機嫌な表情になった。若干ハイライトが消えているのが恐怖を覚える。

 

「へぇ…八くんは深雪さんのケアをしていたのね?何をしてたの?」

 

「ただ食事しながら雑談しただけだっつーの…。てか、姉さん怖いんだけど?」

 

若干目のハイライトが消えかかっているのでほら見なさいよ姉さん、隣にいる中条先輩が怯えちゃってるじゃない。

 

「ホントかな…八くん?」

 

姉さんは疑惑の表情を浮かべているが嘘は言っていない。

…それは俺が疚しいと思っているからなのだろうか。

 

「そう言えば深雪さんは『カプセル』は使わなかったようですが、十分に休息は取れているのですか?」

 

何気ない市原先輩の発言に俺は表情を変えてしまいそうになるがなんとか踏み止まった…、かに俺は思いたいたが姉さんの「正直に話して?」の圧に俺は正直にならざる得なかった。

 

「…五時間、昼寝…いや睡眠か、取ってもらったから大丈夫ですよ。」

 

「そうですか。随分とぐっすりと眠ったようですね。ホテルのベットで寝ていたんですか?」

 

その発言に俺は言葉を詰まらせてしまった。あまりにも的確なコメントにえ、分かってるの?と言いたくなるようだったがこういう時だけ姉さんの鋭い洞察力が働いてしまった。

 

「八くん?試合が終わったら話し合いをしましょ?」

 

ズイっと近づき姉さんの怒りぎみでは在るが整った顔が俺に近づき、普段ならば大歓迎であるが後で待っている出来事を考えるとため息をつきたくなった。

 

「マジで恨むぞ、達也…。」

 

「さっ、そろそろ試合が始まるぞ」

 

「にゃろう…。」

 

恨み節の視線をこの出来事の発端となった人物にぶつけるが、当の本人はどこ吹く風で白々しく試合が始まる会場へ意識を向けており、俺と姉さんもまだ言い足りてないが意識を向けることになった。

 

 

淡い色のコスチュームが、照明と、湖面に揺らめく反射光にその輪郭がくっきりと浮かび上がる。

 

そのなかで桜色のコスチュームを着た深雪が一番人目を引いていたのは、予選で『飛行魔法』という離れ業を使っただけではなかった。

 

ゆらゆらと煌めく湖面の光に照らされる深雪は儚い印象を与え目を離した瞬間に消えてしまいそうな印象を観客に強く与えまさにお伽噺に出てくる『妖精』と形容できた。

 

『お待たせしましたいよいよミラージ・バット本戦決勝、夜空に映える淡い色のコスチュームに身を包み選手達が決戦の合図を待っています。』

 

アナウンスが決勝戦の熱量をあげていく。

観客席はその煽りを受けるが、静かにその熱意を燃やし神聖な戦いを見守っている。

 

『午前の戦いでは飛行魔法を用いた司波選手に度肝を抜かれましたが今回もその再演がなされるのかどうか期待が高まります。』

 

俺は衆人の視線を受ける選手の一人である深雪の反対側、真正面の浮き島に立つ愛梨を見つめた。

その衣装はパールホワイトを基調とし、胸から臍の辺りに掛けて稲妻のような金色の模様があり縁取られたラインは赤色が配色されており愛梨の見た目とこの試合に臨む覚悟も相まって深雪に負けず劣らず愛梨は妖精というよりかは軽装の戦乙女のような雰囲気を醸し出していた。

 

『しかし、跳躍を得意とする一色選手を始めとする各選手共に予選で素晴らしいパフォーマンスを見せた強者揃い、勝負の行方は分かりません。』

 

ざわめきが潮を引くように静まった。

人々が固唾を呑んで見守るなか、ミラージ・バット決勝戦が始まった。

 

 

始まりの合図と共に六人の少女が一斉に飛び上がった。

跳ぶ、のではなく六人全員が空中に浮いたままだった。

 

『何と!全員が飛行魔法を使用しています!』

 

その光景に隣にいた姉さんが驚きの声を挙げていた。

 

「飛行魔法!?他校も!?」

 

「流石は九校戦。六、七時間でものにしてきましたか。」

 

達也があくまでも知らない体裁をとっており俺は「白々しい…」と思ったが此処では出さない。

 

「トーラスシルバーが公表した術式を各校がそのまま使用しているんだろ。」

 

「…無茶だわ。あれをぶっつけ本番で使いこなせる術式じゃないのに。選手の安全より勝ちを優先するなんて…。」

 

姉さんが苦々しく呟いた。

その勝利への渇望を各校にさせているのはウチの成績であることも要因だとは思うが此処では触れないでおくことにした。

 

「大丈夫でしょう。あの術式を使っているのなら万が一の場合でも『安全装置』が機能する筈です。」

 

達也のその声色には「お手並み拝見」と言いたげな余裕があった。

 

空中にいる愛梨に視線を向けると十七夜達に告げたことを聞いた内容が本当だったことに驚いてはいるようだったが想定内、といった様子だった。

 

 

空を舞う六人の少女達。

 

(やはり全員が飛行魔法を使ってきた…八幡様の言った通りになったわね…)

愛梨は飛翔している少女達に一瞥しそんな感想を覚えた。)

 

それはまさしく妖精のダンスであった。

観客は夜空を飛び交うその舞いに心を奪われ見とれている。

徐々に落ち着きを取り戻した観客達であり、思いがけない試合経過に驚くことになった。

 

飛行魔法を使用し同じように飛んでいる。

飛行魔法の使用にレベルの差など無いように見える。

しかしポイントを重ねているのは第一試合ではじめて飛行魔法を使用した深雪と第三高校の愛梨がポイントを独占しているのだ。

 

『一校選手が得点を獲得…。三校選手が素早い動きで一校選手から奪い去るように得点を獲得していきます!』

 

他校の生徒はその二名の動きについていっていない。

深雪は滑らかに、優雅に。

愛梨は素早く、優麗に。

 

(八幡様が用意してくださったこの魔法…体が軽くて何処かに飛んでいってしまいそう!こんなにも飛ぶのって楽しいものなのね…そこっ!)

 

深雪の獲得しようとした光珠を愛梨が戴いていく、その表情は笑顔だった。

その行動に深雪は全員が飛行魔法を使ったときよりも驚いていた。

 

(愛梨さん…本当に勝ちに…。わたくしも全力を出させていただきます!)

 

深雪は選手入り口にいる親愛なる兄と恋慕する少年を視界に捉えると深雪の動きが優雅ではあるが力強いものとなった。

 

得点を重ね独占する二人の試合についていこうとする他校の生徒だったが次々と脱落していってしまう。

アナウンスが入る。

 

『次々と選手が脱落していきますが…飛行魔法の術式にサイオン残量が少なくなると自動的に着陸動作に入るような仕様となっており安全に飛行を終了しているようです。』

 

一人が墜落するのを見て観客席が悲鳴が挙がったがゆっくりと降下するのを見るのとアナウンサーがその事について実況すると観客席から安堵の声が挙がったが、一番安堵したのは大会委員の方だろう。

 

同じく入場口にいる姉さんもホッと胸を撫で下ろした。

 

「よかった…ちゃんと安全装置が動作しているのね…。」

 

(そりゃ、達也が作った魔法だからな…大会委員が弄っていなければ本来の仕様だしな…。愛梨も…うん、俺が渡した俺版『飛行魔法』も深雪相手に互角…いやそれ以上の効力を発揮してくれてるみたいで安心したよ。)

 

(ちゃんと魔法のアピールになっているな…。何より俺の開発した魔法を華々しくデビューさせてくれた深雪には感謝しかないな。…それにしても三校の一色選手が深雪と張り合えるとは、とんだダークホース…いや、当然か。)

 

一校のブースでは華々しく『飛行魔法』をデビューさせてくれた深雪に感謝しているのを尻目に次々と宙に浮かぶ妖精達から脱落者が出ていた。

 

愛梨が使っている魔法が八幡が改良した『飛行魔法』であることを達也は知る由もない。

 

深雪と点数の獲得を競いあっていた愛梨ではあったが点差は同点であり、先行して深雪が動いていた。

また一人、また一人と脱落者が出ており残る選手は愛梨を含め四人となった。

 

(次々と脱落していくわね…私を含め残り四人…!)

 

光珠が点灯し動き出す愛梨の前方を深雪が駆けていく。

 

(このままじゃ勝てない…!)

 

距離にして少しではあるがこの光珠を取られてしまえば点数差は広がってしまう。

 

(八幡様に用意してもらった魔法、調整してくれた優美子…みんな…みんな期待してくれているのに!)

 

光珠に深雪が到達しようとして諦めそうになる愛梨。

 

(あんなに練習したのに…これが練習の差、才能の…そんな筈は無い!)

 

必死に否定するが俯きそうになる愛梨は、観客席に視線を向けると驚愕していた。

そこには両手を握り空中に浮かぶ愛梨を想い祈るように見つめている母親の紅利栖の姿があったからだ。

 

(お母様…!どうして、いや来てくださったの…!)

 

右腕につけたブレスレット型CADを操作し八幡が調整した魔法を起動させる。

 

(飛行魔法と跳躍魔法のミックス…これが私の全力!!)

 

到達した深雪がスティックを振るい光珠を獲得しようとした瞬間、背後から急加速した愛梨に得点が加算される。

 

(あの光珠めがけてマジックフェンシングのように…突き通す!!)

 

次々と得点を重ね、ついにその牙城を崩した。

三校陣営から歓声が挙がる。

 

アナウンサーも興奮気味に解説する。

 

『第三高校一色選手が第一高校一強の牙城をついに崩し首位に立ちました!』

 

観客席は王者から得点を奪い一強が崩れ去ったことで未々勝負は着かないぞ、と興奮を先程よりし始めた。

その驚きは第一高校にも伝わる。

 

「まさか、深雪さんがリードを許すなんて…。」

 

「…なかなかレベルが高いですね(まさか深雪が抜かれるとは…。)」

 

「やるな。(跳躍と飛行を重ねて使用できてるな…よかった。)」

 

真由美は驚愕し、達也は表面上は普段通りを装っていたが深雪が先を越されたことに驚いており、八幡は愛梨が自分が渡した魔法を使いこなし尚且つ『跳躍』とのミックスで鋭角的な動きをしていたことに満足していた。

 

観客席でもほのかと雫が点数を先にいかれたことに驚いていた。特にほのかだったが。

 

「深雪が点を取られるなんて…。」

 

「よくやったね三校」

 

「えっ?」

 

慌てるほのかを尻目に冷静なコメントを呟く雫に振り向く。

 

「面白くなるのは此処からだよ。」

 

『インターバルに入ります。』

 

そのまま第一ピリオドが終了して結果として愛梨が優位に立ってインターバルに入る。

雫が言葉を紡ぐ。

 

「だって、深雪はああ見えて本当に負けず嫌いだからね。」

 

『これより第二ピリオド開始です!』

 

雫の発言とおりにやられっぱなしでは無く第二ピリオドでは深雪が愛梨を追い抜きそうな勢いであったが愛梨がそれを阻止。

インターバル明けの試合では深雪が優位の状態で終了し続く第二ピリオドでも一人脱落。

 

最終ピリオドは深雪、愛梨、そしてもう一人の選手の争いとなった。

点差は愛梨が深雪より点数は多いが気を抜けばすぐにでも抜かされそうな点数で次点の選手とは点数が離れすぎており見るも無惨な結果だった。

 

実質上は深雪と愛梨の決勝戦となる。

 

 

第三ピリオド、つまりは最終戦開始前にインターバルを挟み、少しの休憩を終えて最終戦へ向かう前に俺へ深雪が駆け寄ってきて最終戦の事を確認する。

 

「点数差からこのまま盤上にとどまっていてもいいもんだけどな」

 

「いえ…私がそれで止まってやり過ごすような人間だとお思いですか?八幡さん。」

 

「だろうな…頑張ってこいよ。」

 

「はい!」

 

そういって飛翔した。

その姿を見て八幡は同じく最終戦で唯一深雪に対抗できる愛梨にも意識を割く。

 

(愛梨と深雪、五分五分の力関係で試合が続いているが最終ピリオドでどっちが勝利するか…楽しみだな。決着的にはどちらかが負けることになるんだが…難しいよなぁ…。)

 

此処にはいない愛梨にも負けてほしくないと我が儘な理想を馳せる八幡がいた。

 

同タイミングで休憩をしていた愛梨達。

 

「愛梨!この状態なら一校にも勝てるし!」

 

「ありがとう、優美子のお陰ね。」

 

「いいや、愛梨の力だし…気にくわないけどヒキオのお陰でもあるわけだけど…。」

 

実際に点数は僅差でミラージ本戦で優勝できる可能性がある。

 

しかし。

 

「これで第一高校の総合優勝は決まってしまったわ。」

 

「愛梨…。」

 

深雪が三位以上での順位で残ってしまっているので九校戦での総合優勝は確定してしまっているのだ。

しかし、愛梨の表情には落胆の色はなかった。

 

「だけれど、総合優勝は逃がしてしまったけどこの勝負は勝たせてもらうわ。」

 

「そう…頑張るし愛梨!」

 

「ええ、いってくるわ!(八幡さんや優美子も力を貸してくれている…それにお母様もこの試合を見てくれている…。)」

 

強い覚悟を決めて最終ピリオドへと挑む。

 

 

『サイオン切れによる脱落により残り三名となりました、ミラージ・バット決勝戦ラストピリオド間もなく開始です。』

 

湖の柱に立つ深雪と愛梨。

開始を告げるブザーが戦笛の如き鳴るのを妖精と戦乙女が待っている。

 

『試合開始』

 

ブザーが鳴り響き両者共に空に浮かぶ光珠に向かって二者が飛翔する。

 

(全力を出しきる!)

 

(全力を出させていただきます!)

 

光珠を弾くスティックを私が先だと言わんばかりに愛梨が伸ばす。

それは先ほどの試合よりもスピードが上がっていた。

 

その様子をタブレットで見てた優美子が驚いていた。

 

「早い…今までに計測したタイムよりも早いし!愛梨…頑張って!」

 

(届いたっ!)

 

光珠を弾こう、とした瞬間黒い影が愛梨の前に横切る。

 

(え…?)

 

『第一高校が最終ピリオドで先制の得点!』

 

呆然とする愛梨を一瞥せず深雪は通りすぎる。

 

(愛梨さん…私も負けません!私自身、見てくださっているお兄様、そして八幡様の為にも)

 

深雪は愛梨を倒すために本気を出してきた。

 

(先程までの試合は様子見だったとでも言うの…?なら…!!)

 

しかし、愛梨も負けじと《跳躍・飛行魔法》を駆使して食らい付く。

得点を抜いては抜かされまるでその軌跡が光の尾を引くように移動していた。

 

(そこっ!)

 

(取らせないっ!!)

 

二人の接戦に観客席は目を奪われていた。

雫もその姿に見とれ、ほのかは呆然としていた。

 

「す、凄い…」

 

「な、何なのこれ…?」

 

両者一歩も引かず熾烈な競争に観客席も驚くしか無かった。

宙に舞う深雪と愛梨を見つめる八幡はある種の核心を持った。

 

(深雪は魔法の息継ぎがうまいな…自身のサイオンを省エネして使用している…愛梨は全開でサイオンを放出している…にもかかわらず愛梨が押されているのは元々のサイオン保有量が多いってことだ。)

 

深雪の姿を一瞥してとなりにいる達也に視線を向ける。

 

(愛梨は仮にも師補十八家の一族…サイオンの保有量と魔法の使い方に関しては一般の魔法師では到底追い付けない筈、それなのに「コイツら」は…。)

 

八幡は『司波兄妹』が俺と敵対しないことを祈りながら深雪と対峙している愛梨のサイオンの消耗具合を見て優しげな表情で愛梨を見ていた。

 

『第二高校が脱落!』

 

(まだ、まだ舞える!)

 

アナウンスが入り第二高校がついに脱落し残るは愛梨と深雪の一騎討ちとなる。

 

両者の得点は同じ

 

『第一高校と第三高校の一騎討ちとなりました!』

 

愛梨は全開で『跳躍・飛行魔法』を使いサイオンが枯渇しつつあった。

しかし、自分と対峙している深雪は疲労はしている筈なのにその表情は軽やかであった。

 

(愛梨さん、あなたも負けられないのよね…。)

 

深雪も思いの外、消耗が激しいが表情に出ていない分有利に見せていた。

 

(だけど私も譲れないものがある…!この『魔法』をつくってくださったお兄様と見てくださっている八幡さんに恥じない戦いを!)

 

残り時間もあと僅か、両者の選手の体力とサイオンも限界で、勝負を決める最後の光珠が現れる。

 

それに気がついた深雪と愛梨は目標へ向かう。

 

(戴きます!)

 

(届いてっ!!)

 

両者がせめぎ会い最後の光珠をスティックで弾き、その勢いのまま試合終了のブザーが鳴り響く。

人間の目には両者が同時に光珠を弾いたように見えたが機械による判定に持ち込まれた。

 

宙に浮かぶ深雪と愛梨。

観客席もその結果発表に息を呑んだ。

 

そして、ついに結果が発表される。

 

『試合終了!ミラージバット本戦決勝は…。』

 

観客席にいる栞と沓子もにも緊張が走り、雫とほのかも無意識に握りこぶしになり力が入る。

 

モニターに優勝者の顔が映る。

 

『第一高校、司波深雪選手の優勝です!』

 

その発表に観客席と八幡達がいる場所は大いな歓声が挙がった。

 

『素晴らしい戦いを魅せてくれた選手の皆さんに盛大な拍手をお願いします!!』

 

パチパチパチ…ワァァァァァァァァァ!!…パチパチパチ…!!

 

結果が表示されて気が抜けたのか愛梨が湖上の柱に着陸する。

深雪は微笑みながら柱に優雅に着陸する。

 

「愛梨…?」

 

優美子が愛梨に視線を向けると満足げな表情を浮かべているのに気がついた。

 

「微笑んでいる…?。お疲れ様…愛梨。」

 

全てを出しきった愛梨の表情は晴れ晴れとしていた。

 

 

勝利を納めた深雪の健闘を称えるように俺たちは深雪を見ながら笑顔で拍手した。

姉さんは第一高校の総合優勝が確定したことが一番嬉しいのだろうが、後輩である深雪が優勝したことも要因だろう。

 

「よかった、よかったわ深雪さん!」

 

こうして九校戦八日目、ミラージバット本戦は第一高校、司波深雪が優勝しその結果九校戦総合優勝は第一高校に決定したのだった。

 

明日はモノリス・コード本戦があるが第一高校で優勝間違いなしだろう。

何故なら十文字先輩達が出るからだ。

 

そうなると明日は閉会式と後夜祭だけになる。

 

…『お片付け』も済んだことだしな、悪いが休ませて貰おう。

 

嬉しそうな表情で此方に向かってくる深雪に俺は手を挙げるとその笑みは強くなった。

俺は愛梨に一瞥するとやりきって満足げな表情を浮かべる愛梨を確認して後で労いの言葉を掛けてやろうと誓った。

 

まずは先に深雪の健闘を称えるとしよう。

 

 




愛梨マッマの「夢をもって日本に来日した」というのが魔法科高校の優等生でありましたが調べても出てこなかった…。

何の夢だったんでしょうかね?

原作と違い大分互角に戦っているように見えましたが余力的に深雪が大分余裕があったので逆立ちしても愛梨では深雪には勝てないです。

原作でも本当に深雪はヤバイですね…。

あと2話くらいで九校戦が終わるかも知れない…。

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