ドメインの放棄 企業はどのようにドメインを捨てるべきか?

ドメインの放棄 企業はどのようにドメインを捨てるべきか
コロナ禍中に取得された地方自治体のドメインがオークションで高値売買され、中古ドメインとして悪用されるなど、公的機関のドメイン放棄問題が注目されています。

11月25日のNHKニュース7でドメイン流用の件が報じられました。私も取材を受け少しご協力をしています。

www3.nhk.or.jp

公的機関のドメイン放棄問題の理想の解決は、今後は lg.jp、go.jp などの公的機関しか使えないドメインだけを使うようにすることです。

ただ今回の問題はコロナ禍初期の大混乱時、非常にスピーディにサイト立ち上げが求められていた時の話です。

信頼が求められる lg.jp などのドメインの利用には厳格なルールがあるのも当然です。あの混乱時期にルール改定も難しかったと思います。新規ドメインが選ばれた事は仕方がない事と思っています。
ただ、コロナ禍が落ち着いた今、無責任に放棄されるのは明らかな問題です。

今回の騒動に関連して、公的機関が取得した .com などのドメインの取引に何らかの規制を、という声もSNSなどで見られますが、それはインターネットの自由を損ねることにもつながり現実的ではないと考えます。
また、GMOなどオークション仲介業者を問題視したとしても、日本国内で売買されることが多い日本の仲介業者が公共機関のドメインのオークション対応をやめて普通に期限切れ放棄してしまうと、日本法をある程度は守る事が多い日本のスパマーではなく、国内法をガン無視する悪質な海外スパマーに奪われて被害が更に大きくなるだけです。問題は解決せず、更に悪化するだけと思っています。

公的機関のドメインが放棄され悪用される問題は、一年以上と曖昧な期間しか指定していない運用終了後の保持期間をもっと長く延長するように既存のルールを改定し、それが厳密に守られるようにするしかないと私は考えます。

 

コロナ禍中に公共機関によって取得されたドメイン例
取材時に調べたのですが、都道府県単位での旅行支援・飲食店支援のサイトは既に期限切れになっているのも多く、報道でも紹介されているように既に悪用が始まっています。

ただ、直近で運用停止した所が多いコロナ・コロナワクチン関連のドメインの方が悪質な活用がされかねないと思っています。これらは市町村単位でのサイト立ち上げが多く量も多いです。

この大量のドメインが放棄される前に、国が指針を出して放棄をされない形にして欲しいと私は考えます。

 


 

このドメイン放棄問題は公的機関だけの問題ではありません。直近でもドコモ口座のドメイン放棄が話題になりましたように、民間企業・団体でも同じ問題を持ちます。

理想は、一度取ったドメインはずっと捨てないこと、そう出来ないならドメインを取らないこと、「ペットとドメインは、かったら最後まで面倒を見る」ようにすることです。

一時的な利用になる場合は新規ドメインを取らず、サブディレクトリやサブドメインでサイト運用をすることが望ましい対応です。

ただ、必ずしも全てのケースでそう出来るわけではありません。

企業の場合、自分が新規ドメインを取得せずとも前担当者が独自ドメインで作ったWebサイトを大量に引き継ぐこともあるでしょう。新コーナーを作成する際、既存ドメインでの運用がどうしてもハイコストになるため新規ドメインを選択するケースもあります。ブランド名の変更でドメインを変えざるを得ないケースもあるかもしれません。買収したサイトを既存サイトに合体させることもありえます。

これらは全て、私が仕事の中で経験したシチュエーションです。不要なドメインは定期的に生まれるものです。

使わなくなったドメインは永久に保持し続けることが理想ですが、運用終了した件に年数千円であっても「永続的に支払い」は許容されない場合があることも理解できます。「未来永劫続く費用拠出のルールが存在しない」という話も何度も聞いてきました。

ただ、無責任にドメインを捨てることは、明らかな問題です。


永久に保持するという理想の対応が行えず、企業がどうしてもドメインを放棄しないとならないときにどのようにするべきか、この記事で解説します。

期限切れドメインが取得される理由

そもそも、なぜ期限切れドメインが取得されるのでしょうか。それは主に、下記の3つの理由があると考えます。

SEO目的

公的機関や企業がしっかりと運営したドメインを引き継ぐことで、検索に表示されやすい傾向があります。

Googleは、十数年前から中古ドメイン売買時の価値引き継ぎを問題として様々な対策を行ってきました。現在、売買される中古ドメインの大半は購入してもSEO上の価値は無いか、ごくわずかです。
ただこれは必ずドメイン売買時に価値が消えるわけではありません。M&A等でサイト自体をそのまま売買する際には多くのケースで検索されやすさが引き継がれるように、アルゴリズムで価値消滅の有無を判定しているため、場合によっては期限切れドメイン売買でも検索されやすさが引き継がれることもあります。
また、Google以外の検索エンジンではこの中古ドメイン売買時の価値引き継ぎが普通に行われるケースが多いです。

ここ数年、各種検索エンジンはサイト単位の評価の比率を高め続けています。その評価をお金を払えば得られる可能性があるSEO目的のドメイン売買は、一番多いケースと考えられます。

直接トラフィック目的

SEO上の価値が無いとしても、様々なページから紹介されているサイトは、リンクによりアクセスを得続ける事になります。それらの直接トラフィックを目当てにドメインが売買されることもあります。

サイトが運用停止されても、過去のURLからのリンクが外されることは滅多にありません。それらのトラフィックを様々な手法で換金することを目的として、ドメインが売買されることがあります。

その他、悪質な目的

SEOやトラフィック目的以外でも、「ドメイン」を目的とした悪質な利用が想定されます。

たとえば、ドコモ口座のドメイン放棄で問題になったように、金融サービスのドメインを入手することができれば、それは利用ユーザへのフィッシング詐欺の成功率を上昇させることができます。
少しでも記憶があるメールアドレスからのメールや、ドメインのページならば、あまり疑わずに個人情報・カード番号等を入れてしまう人は少なくないはずです。

「ワクチンの一部に問題が見つかった。対象かを調べるので調査票に記入を。」と知らないメールアドレスからメールが届いても大半の人は疑ってかかると思います。ただそれが、1~2年前に接種予約完了メールを受け取ったアドレスから送られた、実際に自分が予約した記憶があるドメインのページが案内された場合は、騙される人が増えるのではないでしょうか。

ドメインの放棄は各種の被害リスクを大幅に高めてしまうのです。

ドメインを捨てる際のポイント

期限切れドメインが取得される目的の例について解説しました。

「そもそも取らない」「取ったら永久に保持」という理想の解決が出来ないのであれば、一定のリスクは残ります。そのリスクを最小限にするためには、ドメイン売買の目的を可能な限り達成できないように配慮する必要があります。
具体的には、下記の3つの手順を私はお勧めします。

1)リンクを張ってくれているサイトに可能な範囲で連絡

一度張られたリンクは、サイト運用が終了しても多くは残るはずです。
全てのサイトに連絡などは現実的ではない場合が多いでしょうが、トラフィックが多い上位のリンク元については連絡してリンクを張り替えてもらうよう依頼をすべきと考えます。

このような連絡が無視されることも多いですし、行わない選択もあると思います。それでもグループ企業運営など関連性があるサイトや、大きなトラフィックになるサイトだけでも連絡はするべきではないでしょうか。

2)301リダイレクトを一年間 継続

2021年、Googleは301リダイレクトを一年継続することで、リダイレクト元の価値は全てリダイレクト先に移行されると発表しました。

これは複雑な仕様ですので図にまとめました。
以前のリダイレクト仕様

最新のリダイレクト仕様

このように、Googleはリンク評価を時系列で管理しており、リダイレクトを1年継続すると全て価値が「移動」して、リダイレクトを解除してももとに戻る事はありません。

過去のURLの価値は今回問題視されているように大金で売買されるような大きなものです。それらを失わないためには2021年以前は永久にリダイレクトを続けることが必要でしたが、現在のGoogleではリダイレクトは1年で済むようになりました。

このような複雑な仕様になっているのはGoogleだけと考えられます。Google以外の検索エンジンからの評価を考えると永久のリダイレクトが理想です。ただ、2023年11月現在、日本においては95%以上の検索がGoogleのアルゴリズムで行われていますので、SEO意図でのリダイレクトは1年で外しても良いと言えるでしょう。

つまり、運用終了ドメインから一年の301リダイレクトが行われれば、元ドメインからSEO上の価値はほぼ失われるのです。


1年間301リダイレクトを設定したドメインが第三者に渡ったとしても、それがSEO目的で悪用される可能性は大きく減ります。
そして、これは過去にその旧ドメインで積み上げた、企業価値の一部とも言えるSEOの価値を既存事業で一部引き継ぐことにもなります。

運用終了したドメインは、まずは1年間301リダイレクトを行うことをお勧めします。

 

3)サイトにアクセス出来ない状態で十年

期限切れドメイン売買の一番の目的となるSEO価値は、1年以上の301リダイレクトで失わせる事ができます。
ただ、SEO以外の目的、トラフィックや更に悪質な利用を減らすためにはそれだけでは不十分です。

私は、1年のリダイレクトを終了した後でサイトにアクセス出来ない状態で10年放置するのが望ましい対応と考えます。


この目的は「可能な限りリンクを外してもらう事」「そのドメインの人間の記憶を薄れさせること」にあります。

終了したサイトで、運用の終了告知と既存サービスの紹介の文言などを掲載されている例が多くあります。それはドメインを永遠に保持する場合にそうすることは望ましい対応でしょうし、一時的には必要な告知と考えます。
ただ、そのような状態だとなかなかリンクを外してもらえないものです。少しでも「トラフィック目的の売買」を減らすために既存のリンクを外してもらうためには、「サイト全体を404にする」「ドメインのネームサーバ設定を削除する」などでアクセスが出来ない状態になっているのが理想と考えます。

また、そのようにアクセス不可の状態を長期継続することで、Google以外の検索エンジンの評価もリセットされる事が多い利点もあります。

そして、放置期間は10年は必要と考えます。

2~3年の停止では、なかなか記憶は薄れません。ドメイン売買目的のうちフィッシング詐欺など「その他、悪質な目的」を減らすためには、人間の記憶が薄れるまで待つしかありません。

10年という期間はあくまでも私見です。5年でも記憶から薄れるかもしれませんが、印象深いドメインは10年でも覚えているものですので短いかもしれません。悪用の可能性は残ります。
ただ、悪用防止目的で10年間アクセス出来ない状態で保持されたのであれば、企業としての責任を果たしたと考える人は多いのではないかと考えます。

ドメインを捨てることを念頭に置いたサイト運用

ここまで記載してきました通り、ドメインを捨てるためには3段階の配慮が必要と私は考えます。

「使わないドメインを永久に保持」ほどではなくても、これもまた一般的な企業にとっては大変な事と思います。
ただ、それはやはり必要な事です。
直近でもいくつもの例でドメイン管理の意識の低さが問題視され報じられています。

無責任なドメイン放棄は、あなたの企業が問題視される要因になるかもしれません。そうならないためにサイト立ち上げ段階から、終了までを想定した予算を計上しておく必要があります。

この際ですが、ドメインの契約は自社で直接行うべきと私は考えます。
Web制作を外注している企業が多いでしょうが、ドメインの保持を10年間外部委託する場合は、どうしてもコストがかさむ事にもなります。
更に、Web制作会社と連絡が取れなくなったなどのトラブルも定期的に聞きます。10年という期間を踏まえると、そのようなトラブルの可能性は上がるでしょう。

ドメインはその企業のインターネット上での象徴となるものです。それを外部企業にまかせておくのは、やはり望ましい状態とは思えません。
可能な限り、ドメインは自社で直接契約して管理されることをお勧めします。

 

インターネットに迷惑をかけないために

この記事では、企業にお勧めする期限切れドメインの扱いについて解説してきました。

運用を停止した事業関連のコストは最小限にしたいと考えるのは当然ですし、ドメインを捨てる考えもよくわかります。ただWebサイトの運営歴は企業にとって資産の一つです。それは高値で売買されるほど価値があるものです。それを無為に捨てるのは貴重な企業価値を捨てる事になります。更に、自社の情報を求める顧客候補を詐欺サイトに誘導して迷惑をかけることにもつながります。

 

そして、ドメイン放棄は企業にとって損という話だけではありません。それはインターネットに迷惑をかけてしまう行為です。

Webサイト、メール、Web検索といったネット上の多くのしくみはドメインに紐づいて成り立っています。ネット上での多くの活動の根幹です。それを気軽に追加・気軽に放棄する。それはネットの根幹を不安定にさせるものです。


ドメインを大切にすることは、インターネットのエコシステムを大切にする事でもあります。

どうかドメインを大切にしてください。