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薬横領し転売 「感覚麻痺」

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元薬局長ら 記録残らぬ「伝なし取引」

 勤務していたKKR高松病院(高松市)から、糖尿病などの薬を転売目的で持ち出したとして、業務上横領罪に問われた同病院の元薬剤科薬局長、真鍋伸次(57)、部下で元主任の三枝貢(47)両被告=いずれも懲戒解雇=の判決が23日、地裁で言い渡される。公判では、横領された薬が、記録を残さない「伝なし」と呼ばれる取引で流通していた実態が明らかになった。(黒川絵理、足立壮)

薬の持ち出し事件が起きたKKR高松病院(高松市で)
薬の持ち出し事件が起きたKKR高松病院(高松市で)

 起訴状では、両被告は2022年10~11月、同病院で保管していた糖尿病の薬など計400点超(仕入れ価格計約2000万円)を医薬品卸販売会社宛てに発送したり、院内から持ち出したりして横領したとされる。

 両被告は公判で起訴事実を認め、検察側は「病院内での立場を利用して、常習的な犯行だ」として真鍋被告に懲役4年、三枝被告に同3年を求刑した。

 一方、弁護側は「被害弁償をしている」などとして、いずれも執行猶予付き判決を求めている。

 「薬を現金で買い取ってくれる業者がある。転売しよう」。検察側の冒頭陳述などによると、16年頃、同病院の薬局部門のトップだった真鍋被告が、ナンバー2の三枝被告をそう勧誘したことが発端とされる。取引相手は東京の薬買い取り業者。買い取り時の伝票や口座履歴、帳簿などは残さず、現金でやりとりする「伝なし」という取引が始まった。

 18年からは「うちの方が高く買い取れる」などと言ってきた大阪の医薬品卸販売会社との取引が続いた。この会社は買い取った薬を、別の大阪の薬品会社に転売していた。

 横領分の薬は、三枝被告が通常業務の直後に発注し、夜間や休日に保管棚から紙袋につめて持ち出して発送していた。業者との価格交渉などは真鍋被告が担い、代金は真鍋被告が宅配便で受け取っていたという。

       ◇

 医薬品の発注数が異常に多い――。病院側が異変に気づき、隠しカメラを設置し、職員が張り込むなどして警戒していた昨年11月、三枝被告の持ち出しが目撃され、事件が発覚した。

 検察側によると、18年以降、2人が50回以上にわたって不正に持ち出した薬は、仕入れ値で約2億7000万円分とされる。真鍋被告は絵画や飲食費、マンションの購入、自宅の建て替えなどに充てていたほか、自宅の金庫には500万円があったという。一方、三枝被告は真鍋被告に「自身の退職後の薬局長に」とほのめかされ、金の一部を受け取って、犯行を続けていたとされる。

 被告人質問で真鍋被告は「当たり前のようにお金が届き、感覚が 麻痺まひ していた」、三枝被告は「バレないんじゃないかという安心感があった」と述べた。

 「大阪の業者(医薬品卸販売会社)も横領薬だと知っていた」。真鍋被告はこうも供述した。

 読売新聞は横領された薬を取引していた3業者に取材を申し込んだが、いずれも「担当者が不在」などとして応じなかった。

流通薬の安全確保を

 薬の流通を巡っては、2017年、奈良県の薬局などからC型肝炎治療薬「ハーボニー」の偽造品が見つかった。薬局などから余った薬を即金で買い取り、転売する「現金問屋」が、無許可の個人から仕入れていたことが明らかになった。

 これを受け、厚生労働省は同年、医薬品の卸売業者には取引時、品名や数量、ロット番号などを書面に記載して、保存することを義務づけるよう法令を整備した。しかし、今回は正確な記録がないままの取引が、対策後も続いていた。

 一般社団法人「医薬品セキュリティ研究会」代表理事の木村和子・金沢大名誉教授によると、偽造薬などの問題の大きい海外では薬の2次元コードで、流通経路を特定する仕組みの導入が進んでいるという。

 木村名誉教授は「きちんと管理されていない薬は患者を危険にさらす。薬を取り扱う担当者の職業倫理の徹底や、日本にふさわしい流通薬の安全確保の仕組みが求められる」と話す。

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