ウクライナの苦戦、プーチン氏に勝利のチャンス-兵器も注目も遠のく
Natalia Drozdiak、Daryna Krasnolutska、Alberto Nardelli-
戦況こう着、米国と欧州は支援継続が可能か疑問を抱き始めている
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ウクライナ当局者は関心の低下を感じている-関係者
バフムト近郊のウクライナ軍兵士(10月28日)
Photographer: Julia Kochetovaウクライナのゼレンスキー大統領は9月下旬、北大西洋条約機構(NATO)のブリュッセル本部訪問についてストルテンベルグ事務総長と協議した。ウクライナに軍事支援を提供している国々と会談し、大きな成果を生めなかった今夏の反攻の後も兵器供給を維持することが目的だった。
ロシア侵攻後初のNATO本部訪問をゼレンスキー氏が果たした10月11日までに、その使命はいっそう緊急の度合いを増した。この4日前にイスラム組織ハマスがパレスチナ自治区ガザからイスラエルを攻撃し、イスラエルは報復を開始。中東での紛争が注目の的となっていた。
ウクライナを支援する約50カ国から成る「ラムシュタイン・グループ」の国防担当相は、今週再びバーチャル形式で会談した。ウクライナ支援があらためて表明されたものの、兵器供給の遅れや、国内政治により金融支援が滞る中で、当局者の間の雰囲気は以前よりも暗かったという。ゼレンスキー氏がブリュッセルを訪問して以来、ウクライナにはなんとかして勝利への道筋を描き出すよう圧力が高まっている。
再び冬を迎える中で弾薬は不足し、戦況は厳しさを増している。もう一つの懸念は人手だ。ロシアは犠牲を払いながらも次々と兵士を前線に送り込んでいるが、ウクライナはそうすることに消極的だ。
ウクライナのザルジニー総司令官がこう着状態だと認める戦争に、余力に乏しい資源を今後も投入し続けることができるのか、戦場から離れたところで米国と欧州は疑問を抱き始めている。
ウクライナ政府の意向に詳しい複数の関係者によると、米大統領選まであと1年と迫り時間がなくなりつつあることと、戦況の好転がパートナー国の支援増強を容易にすることを同国政府は認識している。だが、ハマスが攻撃した10月7日の前ですらも、ウクライナ当局者は関心の低下を感じていたと、関係者は述べた。
ゼレンスキー大統領は、ウクライナ軍が冬の間も戦闘を続ける準備を進めていると支援国に説明することに先週1週間を費やした。今月16日には大統領府で「今は西側からの支援確保に集中している」とし、西側の「注目は中東やその他の理由で移りつつある。支援がなければ、事態は悪化する」と述べた。
前線は1年にわたり大きくは動いていない。極めて重要な弾薬の供給で欧州の取り組みが失速しつつある一方、米国を中心に政治的な支援疲れの兆しは増えている。
支援の不足や先細りはゼレンスキー氏に尚早な和平協議を強いることになりかねず、さらに悪い場合にはロシアに軍事的な突破を許し、プーチン氏が交渉に応じる必要を感じなくなる展開があり得る。
プーチン氏の意図を長年警告してきた東欧の一部の指導者は、こうした展開を恐れている。ロシアはウクライナ国境では止まらず、西側はいまだに危険の深刻さを完全に理解していないと主張する。
ウクライナ支援国は防衛を十分真剣には捉えていないとのシグナルを発しているリスクがあると、エストニアのカラス首相は先月の欧州連合(EU)首脳会議(サミット)前に発言。リトアニアのランズベルギス外相は、緊急性の欠如はウクライナに望まないロシアとの交渉を強いる恐れがあると語った。
「新たな戦車も、新たなミサイルシステムも、弾薬すらも供給されず、解決策も見いだされていない。EUは決定に何カ月もかかっている。このような状況を見るに、勝利に貢献するわれわれの集団的な能力に懸念を抱く」とランズベルギス氏は22日、同国公共放送局LRTに述べた。ロシアが北朝鮮から支援を受けているのと比べると、「滑稽に見える」と続けた。 Since reclaiming large amounts of territory in 2022, the Ukrainian army has made limited progress on the battlefield Sources: Institute for the Study of War and AEI’s Critical Threats Project; European Council on Foreign RelationsStalemate in Ukraine
オースティン米国防長官は今週キーウを訪問し、米国の支援をあらためて確認した。だが、既存の資金枠は今年末で底を突き、共和党の保守派が下院を掌握する中で、バイデン大統領は支援継続で困難に突き当たっている。
米国防総省は今月、議会の行き詰まりにより既にウクライナ向けの兵器供給を削減せざるを得なかったと説明。バイデン氏にとって、来年の大統領選はウクライナ支援をいっそう難しくする。ウクライナへの支援提供に対し批判を繰り返しているトランプ氏が相手であれば、なおさらだ。
トランプ氏が1日で戦争を終わらせると公約する中で、戦争のこう着を有権者に売り込もうとするのはバイデン氏にとって政治的に難しいだろうと、欧州の上級当局者は指摘。11月前半に発表されたギャロップの調査によると、米国市民の41%が米政府のウクライナ支援は行き過ぎていると回答し、6月の29%から上昇した。 Percentage of respondents that gave the answer least favorable to Ukraine’s cause in two poll questions, by party affiliation Source: Gallup poll of a random sample of 2,007 adults, conducted through web surveys on Oct. 4–16, 2023More Americans Show Signs of Fatigue Over the War in Ukraine
戦争の長期化で、ロシアは自らが有利な方向に流れが移ってきていると見なしている。事情に詳しい在モスクワの関係者が語った。ロシア側の見方では、プーチン氏にはいま選択肢が2つある。消耗戦を続けて相手とその同盟国を根負けさせるか、春に大規模な攻勢を新たに仕掛けるかだ。後者を選ぶなら、不評を買うであろう大規模な動員が必要になる公算が大きい。
ゼレンスキー氏は和平交渉の戦略をまだ考えてはいない様子だ。だが世論調査によると、平和のためロシアへの領土割譲はやむを得ない対価だとの考えを受け入れるウクライナ市民の割合が、少数ではあるが増えつつある。
ウクライナは同盟国の一部が戦闘の規模を完全には理解せず、反攻を停滞させたロシアの防衛線の強力さを過小評価していることに不満を募らせている。ゼレンスキー氏の側近の1人は、期待が高過ぎたと語った。
一方、ロシアの一部当局者も戦況は芳しくないと考えている。ロシア政府は西側との我慢比べに勝てると思い込んでいるが、それは危険な自己欺瞞(ぎまん)だと、モスクワの戦略技術分析センター(CAST)で防衛問題を専門とするミハイル・バラバノフ氏は論じた。
「戦争が長期化すれば、ウクライナはイスラエルのような、米国にとって重要な同盟国としての地位を固めることになる。そのような展開は、ロシアにとって地政学的に深刻な敗北だ」と、バラバノフ氏は述べた。
オースティン長官はX(旧ツイッター)への投稿で、米国のウクライナに対するコミットメントをあらためて強調しようとし、このコミットメントはゼレンスキー氏やプーチン氏だけでなく、欧州の同盟国と米国市民に対するものでもあると示唆。「プーチン氏の侵攻に対するウクライナの戦いはマラソンだ。短距離走ではない」と述べた。
原題:Ukraine’s Struggle for Arms and Attention Gives Putin an Opening(抜粋)