「セルフ式のガソリンスタンド(GS)で、税込み価格を正しく表示していない店がある」。そんな情報が那覇支局に寄せられた。記者が沖縄県内のセルフ式GSを回ってみると、確かに、タッチパネルの価格表示が「税抜き」になっている店が複数ある。調べたところ、法律では商品やサービスについて税込みの総額を示すことが求められている。GSの「税抜き」表示は適切なのだろうか。
10月中旬、記者は那覇市のあるGSを訪れた。客が自ら給油するセルフ式で、車道から見える電光掲示板には価格が表示されていない。給油機に車を横付けし、タッチパネルを操作すると「レギュラー」「ハイオク」「軽油」の油種別に1リットル当たりの価格が表示された。画面に「税込み」や「税抜き」といった表示はない。
記者は1リットル当たり「163円」と表示されていたレギュラーガソリンを3000円分購入。16・73リットルが給油された。レシートを見ながら計算すると、実際には1リットル当たり179・3円で購入したことになる。タッチパネルの表示は、税率10%の消費税を含まない「税抜き」価格だったことが分かった。
記者が沖縄本島内の他のセルフ式GSを回って給油したところ、他にも6事業者の8店舗でタッチパネルの表示が税抜き価格になっていた。この8店舗では、タッチパネルの近くに税抜き価格と税込み価格を記した一覧表があり、これに気付けば、税込み価格を知ることはできる。
実は前に紹介した那覇市の店舗にも、タッチパネルの左下に一覧表があった。しかし、この一覧表には「本日の最安価格」と書かれていた。調べたところ、石油元売り会社の携帯アプリを利用するなどして最大限の割引が適用された場合の価格だった。割引を使わない場合の税込み価格はいくらなのか、この店では見当たる場所に示されていない。
こうした価格表示は適切と言えるのか。
企業法務に詳しい浅見隆行弁護士(第二東京弁護士会)は「本来は、消費者がタッチパネルの表示を見て税込みの総額を認識できないといけない。明らかに消費税法に違反している」と指摘する。
消費税法の改正で、事業者は2004年から税込みの総額表示が義務づけられた。消費者が、支払う総額を一目で分かるようにするためだ。13年10月〜21年3月の間は税率の引き上げに伴う事業者の事務負担に配慮し、税抜き表示も認められていたが、21年4月からは総額表示が再び義務となっている。
浅見弁護士の見解では、タッチパネルで税込み価格を表示しないかぎり、隣に税抜きや税込みの価格の一覧表を掲示していても違法と考えられるという。
不当な価格や品質などの表示を規制する「景品表示法」でも、著しく安いと消費者に誤認させる表示(有利誤認表示)は禁止されている。ただ、消費者庁の担当者は「景品表示法に違反しているかどうかは案件ごとに個別に判断する」とし、GSのタッチパネルの価格表示については「コメントできない」と話した。
沖縄県の担当課にも取材した。ガソリン価格が高騰する中、県庁にも一部のGSの価格表示を疑問視する問い合わせが相次ぎ、消費・くらし安全課が9月と10月の2回に分け、県内約130のGS運営事業者に総額表示の徹底を促す文書を送ったという。
同課の担当者は「税抜き価格の表示は、景品表示法で禁じる有利誤認表示に当たる可能性があるため、消費者目線でわかりやすい表示を求めることにした」と話した。だが、記者が回ったところ、県が文書を出した後の11月も、タッチパネルでの税抜き表示を是正していない店舗があった。
なぜ、税込み価格を適正に表示しないのか。あるGSの販売担当者に尋ねたところ、「税込み表示にする度にお客様から『高い』と言われ、苦渋の決断で税抜き表示に戻すことを繰り返してきた」と弁明した。「競争のためにやむを得ない。同業者がみんな税込み表示にするのなら、すぐにでも税込み表示にしたい」とも語る。
税込み価格で表示しているGSの販売担当者によると、税抜き表示をしている店には客が集まりやすいという。そうしたGSの場合、タッチパネル上は他店より安く見えても、実際に支払う税込みの価格は他店より高い可能性があるとも思えるが、この担当者は言う。「そもそも、タッチパネルの価格が税抜きになっていることに気付かないまま利用している客も多いのではないか」
「税込み」で画面表示している店の中には、わざわざ「当店はすべて税込み表示です‼」と書かれた旗を店頭に置いている店もあった。
税込み表示を貫くGSの販売担当者は嘆く。「法を守って商売をしている方が不利になるのはおかしい。客へのわかりやすさを重視して税込み価格の表示を続けているのに、高い値段で販売していると誤認されることは悲しい」【比嘉洋、平川昌範】