ビジネスコンテストなぜ盛況? 早稲田「受賞者の半数、10年以内に起業」

2023/04/22

■大学のいま

商品開発や起業などにつながるアイデアを広く募り、審査を行うビジネスコンテスト、通称「ビジコン」。近年は産学連携やスタートアップ(ベンチャー)育成の流れを受け、大学主催のビジコンが全国で開かれています。そこから学生が得られる学びとは、どんなものなのでしょうか。(写真提供=近畿大学)

「起業のプロ」がアイデアを審査

大学主催のビジコンで募集されるプランの種類や参加者資格は、さまざまです。東北大学の「ビジネスアイデアコンテスト」のように、学生の自由な発想を広く募るものもあれば、女性の社会進出支援を目的とする東京女子大学の「ビジネス・プランニング・コンテスト」、医療や健康に関するビジネスプランを募集する慶應義塾大学医学部の「健康医療ベンチャー大賞」のように、目的を限定したビジコンなども存在します。

2022年12月に4回目となるビジコンを開催した近畿大学。応募者の中から1次審査を通過した10チームが登壇し、具体的なビジネスプランを対象とする「グランプリ部門」と、発想段階のビジネスプランを対象とする「チャレンジ部門」に分かれて、アイデアを競いました。関西圏を中心に活躍するベンチャー企業のCEOなど“起業のプロ”6人による審査の結果、グランプリ部門最優秀賞は、子ども向けのマネー教育事業プランを発表したチームが受賞しました。発表者は法学部3年生の学生で、すでに起業し、マネー教育の学習塾を開いているそうです。

「応募プランは『まずはやってみよう』という感じで、スモールビジネスが中心です。近畿大学がある東大阪市は製造業が盛んで、実家が工場を経営している学生も多い。そもそも経営や起業が身近なことも、ビジコンが盛り上がる一因かもしれません」

そう話すのは、近畿大学でベンチャー起業支援プログラムを担当する長岡幸子さんです。同大学では、学生を「起業に興味を持ち始めたばかりの憧れ層」「より専門的な知識を高めたい予備層」「本格的に起業を目指す準備層」の三つに分け、それぞれの層に合ったセミナーやプログラムを提供。2025年までに大学発ベンチャー100社創出を目標に掲げています。

「ビジコンを開催する最大の目的は、大学が提供する起業家育成の実習プログラムを受講した学生に、学習成果の集大成を発表し、フィードバックをもらう機会を与えることです。最優秀賞を逃したチームにもオーディエンス賞やスポンサーからの賞などが贈られるので、そういった成功体験を得てほしいという思いもあります」(長岡さん)

22年10月には、起業を目指す学生の支援施設「KINCUBA Basecamp(キンキュバ ベースキャンプ)」が大学の隣接地にオープンしました。24時間利用できるよう最新のセキュリティーシステムを備えたこの施設は、すでに起業を志す近大生にとっての“基地”のような存在になっているようです。

「仕入れ値と人件費がいくらで、いくら利益が出る、といったことを考える経験は、アルバイトではまずできません。起業に関することを学んだ学生は、会社員になったとしても、経営者的な目線、俯瞰(ふかん)的な目線を持って仕事に取り組むことができます。学生時代に起業を学ぶかどうかは、大きな違いだと思います」(長岡さん)

大学主催の先駆け 早稲田大のビジコン

早稲田大学が初めてビジネスプランコンテストを開催したのは、1998年のこと。以後25年間、一度も中止されることなく継続開催されてきました。22年度は全学部の学生が履修できる授業科目「起業家養成講座」と連動してコンテストを開催し、一般募集に加えて、講座の履修者からもビジネスプランを募集する形をとりました。この授業は同大学出身の起業家がゲストスピーカーとして登壇することが特徴で、メルカリ創業者の山田進太郎さんなど、著名な起業家も協力しています。自身の起業体験を率直に語る授業が学生から支持を集め、教室が満席になるほどの人気科目になっています。

商学部・商学研究科事務局の赤城和夫さんは、近年の早稲田大学におけるビジコンの開催意図を「大学に入学したものの、何をしたらいいのか分からない学生の動機付けという意味合いが大きい」と説明します。

「2020年には、ビジネスプランコンテストの優勝経験者で、在学中に若年層女性向けのSNSメディア『Sucle(シュクレ)』を立ち上げた大槻祐依さんも、この講座に登壇してくれました。彼女も大学入学後しばらくは、何をすればいいか分からなかったそうですが、単位が取りやすそうだと思って履修した起業家養成講座で刺激を受け、このコンテストに参加したと話していました。こういう例もあることを、学生に知ってもらいたいです」(赤城さん)

22年のコンテストでは、起業家養成講座3チームと、学内の一般応募から審査を経て選ばれた3チームが、7月に大隈記念講堂で開催された最終プレゼンテーションに登壇。優勝を手にしたのは、音楽ライブのアプリ案を発表した社会科学部の1年生でした。

起業がゴールではない

赤城さんによると、「早稲田大学のビジネスプランコンテストでファイナリストになった学生の半数以上は、卒業から10年以内に何らかの形で起業をしている」とのこと。その一方で、「起業は必ずしもコンテストのゴールではありません」と語ります。

「私たちはファイナリストに対しても、『起業しなさい』とは言いません。なぜなら、どのような仕事を選択したとしても、オリジナリティーのある発想が求められる場面は必ず訪れるからです。重要なのは、新しいアイデアを創り出し、イノベーションを起こすとはどういうことなのか、自分がすべきことは何なのかを学ぶことです。コンテスト参加などを通じて、学生には早くそのことに気づいてもらいたいと思っています」(赤城さん)

ビジコンは、一橋大学や慶應義塾大学、神奈川大学、立命館大学、関西大学などでも盛んに開かれています。22年は、一橋大学と東京工業大学の学生団体が合同でビジネスプランコンテストを開催するといった新しい動きもありました。また、22年から23年にかけて神戸大学や明治大学も本格的なビジコンを初めて開催しています。起業に興味のある学生はもちろん、大学時代を通して打ち込める何かを探したい学生にとっても、ビジコンへの参加はターニングポイントになる可能性があります。

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