タリウム致死量投与か 女子大生殺害、短時間で中毒症状
京都市内のマンションで昨年10月、女子大学生がタリウムの摂取により殺害されたとされる事件で、女子大学生は短時間のうちに重い中毒症状に陥ったことが、5日までの捜査関係者への取材で分かった。専門家は「致死量以上の投与がなければ考えにくい」と指摘。大阪府警は殺人容疑で逮捕、送検した不動産賃貸業の男(37)が殺意を抱いて投与した疑いがあるとみて捜査を進めている。
これまでの調べや捜査関係者の話によると、男は2022年10月12日、同市北区の立命館大学3年生、浜野日菜子さん(21)に対し、浜野さんの自宅マンションでタリウムを含んだ物質を摂取させ、同15日に死亡させた疑いが持たれている。
2人については同11日夜、マンションに入る姿が付近の防犯カメラに映っており、浜野さんの様子に異変は見られなかった。しかし、翌12日朝に男から連絡を受けた両親がマンションを訪れた際には、せきが止まらなくなっていた。男は逮捕前の調べに「浜野さんの体調が悪くなったため、薬局で薬を買って飲ませた」と説明したという。
浜野さんは個人病院での診察を経て別の総合病院に心肺停止の状態で救急搬送。入院先の病院で15日午後に死亡し、死因がタリウム中毒による急性呼吸窮迫症候群だったことが司法解剖で判明した。
北海道大学の石塚真由美教授(毒性学)によると、硫酸タリウムや酢酸タリウムなどのタリウム化合物を摂取した人には腹痛のほか、めまいなどの神経症状が現れる。
石塚氏は「タリウムは摂取すると即座に体内への吸収が始まり、3〜8時間ほどで症状が出始める。成人の致死量に当たる約1グラム以上を投与されれば、短時間で呼吸困難など重篤な中毒症状に陥り、死亡する場合もある」と指摘する。
タリウムは無味無臭で水に溶けやすい特性もある。府警は男が殺意を持って致死量に当たる分量を摂取させたとみて調べている。
府警による解明作業の焦点はタリウムの入手方法。捜査関係者によると、浜野さんの部屋からはタリウムが入った容器などは発見されておらず、成分も検出されなかった。3日に家宅捜索した男の自宅からも現時点では確認できていないという。
硫酸タリウムなどタリウム化合物は毒劇物取締法の劇物に指定され、厳格な販売管理が義務付けられている。取扱業者らは購入者の氏名や住所、購入の目的などを書面に残さねばならず、18歳未満は購入できない。
名古屋大学の元女子学生が高校在学中、同級生らに硫酸タリウムを飲ませたとして2015年に殺人未遂容疑で逮捕された事件などを受け、薬局やホームセンターで市販されないようになった。
千葉大学の本山直樹名誉教授(農薬毒性学)は、タリウムについて「かつては殺鼠(さっそ)剤として使われていたが、現在は市販の製品には入っていない」と説明。「一般市民が入手するのは難しく、研究者が試薬として専門業者から購入するのが大半ではないか」との見方を示す。
これまでの捜索で府警は男のスマートフォンやパソコンを押収したとみられる。タリウムの入手先や致死量、投与方法などを事前に調べた可能性もあるとみて検索・通信履歴など内部データを解析して事件の全容解明を急ぐ。
(蓑輪星使、斎藤さやか)