毎年恒例となっている、早慶明の新人戦。これが初戦である。
会場は慶應大学の日吉グラウンド。土ではあるが、ほどほどにいい状態だ。
試合前のウォーミングアップは、見ていて対照的。
おそろいの白いウエアで、全部員一斉に急ピッチなアップをする早稲田。
バラバラのウエアで、割合に自由でのんびりしたムードの慶應。
メンバーは両チーム全て一年生。
早稲田の一年生は、非常に期待度が高い学年である。
今日のスタメンにも、U-19の代表候補へ入った選手が5人。
負傷やスタメン落ちの選手を合わせれば、史上最高の大補強ともいえる代である。
ただ、あまりにバックスへ有力選手が偏った感はある。
対する慶應も、ざっとメンバー表を見れば、U-19代表候補組が4人。
その他地区選抜、県選抜クラスの選手も7,8人いる構成。
特にFW陣は、機動力のある選手が揃っている。
スタメン
慶應義塾大学
PR 石津 剛 171/101 清真学園
HO 高谷雄太郎 171/94 慶應志木
PR 藤田裕之 187/98 札幌南(昨年九月入学)
LO 工藤俊祐 188/82 札幌南
LO 太田陽介 183/90 太田
FL 青貫浩之 173/84 清真学園
FL 熊谷崇士 174/80 國學院久我山
NO8 柴垣彰吾 176/82 京都成章
SH 岡井 謙 173/65 慶應
SO 桑野大典 178/67 小倉
WTB 渡辺勇樹 173/70 慶應NY
CTB 桂川諒太 180/81 慶應
CTB 宮崎智浩 180/83 國學院久我山
WTB 山田孝幸 175/80 慶應
FB 壇上 翔 173/68 洛北
早稲田大学
PR 坪田 晋 177/87 筑紫丘
HO 種本直人 174/90 國學院久我山
PR 宮崎潤野 169/105 早大学院
LO 関 卓真 184/103 早大学院
LO 川口真一 177/75 早大学院
FL 高橋興平 176/71 城北埼玉
FL 近藤 嵩 180/80 千種
NO8 林 徹 180/75 膳所
SH 矢富勇毅 176/75 京都成章
SO 曽我部佳憲 176/84 啓光学園
WTB 首藤甲子郎 163/70 桐蔭学園
CTB 東条雄介 168/71 國學院久我山
CTB 今村雄太 178/89 四日市農芸
WTB 菅野朋幸 178/69 福島
FB 若野祥太 176/72 神戸
キックオフ。部員やファンの応援に乗って、慶應は立ち上がりからチャンスを作る。
4分、ラインアウトから強力なモールで押し込み初トライ。<慶5-0早>
10分に早稲田が返す。
曽我部がぎりぎりで通したパスを菅野が持ち込んでトライ。<慶5-7早>
しかし、ここから「慶應アワー」となる。
13分。左へ大きく振ったパスを、慶應の14番山田が走る。
菅野のタックルをかわし、快走トライ!
19分。真ん中を突破した桂川から、NO8柴垣へラストパス。トライ。
21分。ラインアウトからもつれたボールを、またもや慶應の山田がトライ。
<慶22-7早>
慶應はノリノリである。
縦へ抜ける能力が高い選手が揃い、早稲田のDFは後手に回ってしまう。
早稲田は6番の高橋に代えて、笠原歩(171/68、長野高)を投入。
26分、ようやく早稲田にもチャンスが訪れる。
曽我部がいったか…、と思いきや、届かない。
ノットリリースザボールを取られ、チャンスは潰えた。
29分も早稲田の絶好機。しかしここはスローフォワード…。
早稲田はゴールラインには良く迫っていた。
個人技に自身がある彼らは、積極的に一対一を挑む。
しかし最後の局面の一対一が、ことごとく止められてしまった。
二次、三次と続くことはあるが、最後まではいかない。
早稲田は俊足のアタッカーを擁し、
「スペースを抜けていく選手」は豪華である。
しかし今日の前半は、近場を突くアタックで慶應が上回った。
巨漢宮崎君の突進は将来性十分だと思うが、まだ腰が高い。
慶應のタックルの餌食になり、仰向けに引っくり返されてしまう始末。
如何せん、WTBが持っても完全に崩しきれていない状況である。
曽我部のゲームメイクも、ハイリスクなものにならざるを得なかった。
33分、慶應は強力FWの波状攻撃。縦を突き、最後は正面にトライ!
37分、早稲田はFB若野に代え、三井大祐(167/70、啓光学園)を投入。
それまでSHを務めていた矢富が本職のFBに下がる。
三井はご存知、啓光学園全国制覇の主将。
彼が入ると、球出しのスピードが段違いに速くなる!
38分、曽我部が抜け出し、
自分でキックしたボールを拾ってトライ…、かと思った。
しかし、これは痛恨のインゴールノックオン。
早稲田は菅野に代えて、巴山儀彦(174/74、國學院久我山)を投入。
前半はこのまま終了。
慶応義塾大1年 27-7 早稲田大1年
後半の立ち上がりは、早稲田が一気に攻勢を掛ける。
1分。三井が密集裏に蹴ったパントからチャンスが生まれ、
最後は曽我部から代わって入った巴山。
3分。曽我部は左サイドの狭いスペースを突く難しいパス。
これを受けた矢富が突破しトライ!
8分、曽我部がタックルを受けて半身になった姿勢から通す得意のパス。
最後は東条が受けてトライ。
早稲田は一気に1点差まで追い上げた。<慶27-26早>
早稲田は三井の投入で攻撃のピッチが一気に上がった。
矢富の突破力もFBで生かされた。
ただ、矢富のSH起用はこれからを見据えた育成目的のものだろう。
あれはあれでいいのだと思う。
早稲田はフィットネスで上回った。後半は、接点でもいいところが出てくる。
前半は互角だったスクラムも、後半は早稲田が上回る。
しかし10分、慶應はワンチャンスを生かした。
第三列の選手(?)が見事な突破で、左隅にトライ。
早稲田はどうも「負け慣れて」いない。
どんな密集でも「絶対に継続できる」と思っている。
「奪える!」とターンオーバーを狙ってしまう。ペナルティがやや多かった。
結果的に、攻撃のリズムが寸断されてしまう。
「こんなはずじゃない…」という、
悪い心理的サイクルに入りかかってしまう…。
前半は矢富がゲームキャプテンだったが、三井投入後は彼が仕切っていた。
名門啓光で鍛えられた彼は、ラグビーを良く知っている。
彼の「出させるところは出させていいから…」という指示は、
的を得たものだと思った。
18分、再び慶應。これもFWを生かしたトライ。
ゴールも成功し、再びリードが広がる。<慶39-26早>
しかし、早稲田は慌てない。
最近のこのクラブは良くも悪くも自信満々で、負けるなんて発想は無い。
直後に早稲田が返す。
首藤の足に当たってポーンと前へ弾んだボールを、最後は矢富。
コンバージョンも三井が左隅から見事に決めて、33-39と追い上げる。
22分も、早稲田が圧巻のトライ。曽我部が今村。今村から首藤。
慶應のDFも付いていたが、スピードに乗った快速コンビは凄かった。
ファンがどよめく圧巻のトライ。
ゴールも成功し、早稲田が逆転。<慶39-40早>
しかし28分、慶應は大活躍の山田が決めた。
左隅にトライ!<慶應44-40>
早稲田は攻める。しかし積極的なアタックが裏目。
31分、曽我部のパスを慶應の素晴らしいCTB桂川がインターセプト。
そのまま60mを独走し、トライ。
早稲田への流れを止めかねない重大なトライだった。
しかし、幸いにもまだ時間が10分残っていた。
33分、早稲田は矢富が走りきってワントライを返す。<慶應51-45早>
選手の疲労もピークであろう。
慶應は9番岡井や、14番山田が、力尽きたように交代。
早稲田も矢富に代えて、田中勝悟を投入。
早稲田のアタックが実ったのは、39分。
まず、強烈なモールでハーフライン付近から10mほど前進。
最後は疲れの見える慶應DFを、曽我部がステップで切り裂いた!
正面のコンバージョンも、この日安定したキックを見せた三井が成功し、逆転!
<慶51-52早>
慶應最後のアタック。浮いたボールを大きく蹴り出したのは曽我部。
壮絶な打ち合いは終わった。
早稲田は良くも悪くも「勝者意識」に支配されていた。
「抜けるはず」「取れるはず」という先入観が、前半は悪い方に出た。
しかし後半の逆転も「負けるはずはない」という意識の所為であろう。
早稲田は環境も恵まれているし、確かにいい練習をしている。
でも、他の大学だってあんな強烈なラグビーをやるんだよ、
ということを、選手も、そして私も今日学んだ。
反省すべきところのある試合だろう。
でも、リードされて揺るがない自信は、誇りにしていい。
慶應はトライ数9と、早稲田をひとつ上回った。
桂川のキックが、少々残念であった。
しかし、縦へのアタックは実に素晴らしかった。
FWは3番から8番まで、揃って破壊力のあるペネトレーター。
高校時代から鳴らした桂川の実力に何の驚きも無いが、
14番山田孝幸には感心した。
腰が強く、重い突破を見せる素晴らしいWTBである。
早稲田のエリートWTB陣に全く見劣りしない実力者である。
今年中にAで出番があるんじゃないかな?
早稲田大1年 52-51 慶應義塾大1年