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この作品「熱が移る」は「夢小説」「山田一郎」等のタグがつけられた作品です。
熱が移る/ねこじゃらしの小説

熱が移る

8,141文字16分

看病したい一郎VS看病されたくない彼女を描いていた筈が速攻彼女さんが陥落してた。
元々風邪ひいた彼女に欲情した一郎が我慢出来なくて襲うやつを書こうと思ってたのに全く違うものが出来るのは良くある事(私調べ)。
今回は珍しく健全です。

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インターホンの音で意識が浮上していく。
毛布に包まれた身体は独特の倦怠感に襲われており頭もボーっとしているが、インターホンが鳴ったということはこの家に誰かが訪ねてきたということだ。
身体に鞭打ちモニターを確認すると、そこに映っていたのは恋人である山田一郎その人だった。
今日デートの予定だったのだが私が風邪をひいてしまった為行けなくなった、と連絡しておいた筈なのに、何故?
モニタの下にある通話ボタンを押し、彼との会話を始めた。


「一郎くん…?どうしたの?」
『おー、風邪っぴきの声してんな。ゼリーとかスポドリ買ってきたんだが、出てこれるか?』
「ん…分かった」


正直ものすごく助かる。
今日に限って冷蔵庫の中はほぼ空っぽだったので、有難い申し出だ。
マスクを二重に付けカーディガンを羽織り、玄関を少しだけ開けて覗いた。
そこからでも彼の眩しい笑顔が見てとれて、満身創痍のこの身には少々刺激が過ぎる。


「一郎くん、ありがと。助かる」
「おう」
「じゃ、気をつけて帰ってね」
「え?いやまてまてまて!」


隙間から手を出してビニール袋を受け取り扉を閉めようとすると、閉まりかけた扉に足と身体を挟みそれを阻止する一郎くんに信じられないといった顔で見られた。
あ、あーなるほど。


「そっか、お金。ちょっと待ってて持ってくるから…」
「違ぇよ」


一郎くんによって扉が開いていく。
駄目だ駄目だ!
男性の税金が高いこの国で男三人、しかも弟二人を養っていかなければならないうえ、兄兼父の役目を一身に背負っている彼に風邪など移してしまってはいけない。
そう説明しながら扉を引くも万全ではない体調の自分に大した抵抗ができるはずもなく(多分万全でも敵わない)、あれよあれよという間にリビングへ連れてかれた。


「あんたもしかしてソファで寝てたのか?」
「うん…」
「そんなんじゃ治るもんも治んねぇだろ…。ほら、ベッド行くぞ。歩けるか?」


頷くと彼はソファにくしゃくしゃになっていた毛布で私を包み、腰のあたりにそっと手を添えながら寝室へと誘導してくれた。介護みたいだな。
しかし寝室で寝てしまっては来訪があった時に直ぐに出れないし、飲み物のおかわりも、食事の用意だって億劫になってしまう。
だから全て目の届く範囲であるリビングで寝ていたのだが…。
寝たふりして彼が帰ったらリビングに戻ろう。そうしよう。
私の思惑には気づかない彼はテキパキと支度を整え、私に布団を掛けた。
代謝の良い彼の手が額に当たる。
いつもは温かいのに今はぬるく感じるのだからきっとまだ熱があるのだろうな、と思うがどこか他人事だ。


「んー、まだありそうだな…。最後に測ったのいつだ?」
「測ってない」
「……ん?」
「一回も測ってない」
「…なんで?」
「自覚したら、一気にくるじゃん…なんか、怠いのが」


もうすでに怠さは抱えているのだが、これで実際の体温を数値化して目の前に出されるともっとしんどくなる気がして、測っていないのだ。
一人暮らしだから、動けなくなると困ってしまう、と伝えるとため息を吐かれた。何故だ。


「あのな、なんで俺が来たと思ってんだ?」
「ゼリーとドリンク、置きに来てくれたんでしょ?」
「それだけじゃねぇ、看病しに来たんだよ」
「…本気で言ってる?」
「ふっは、嘘なわけねぇだろ!」


一人でも大丈夫なのに…心配性だな。
あんまり拒否されると悲しくなる、と言われてしまうと私からは何も言えなくなり、お言葉に甘えて少しの間いてもらうことにした。
久しぶりに体温計を脇に挟みジッとしていると、ピピピッと終了を知らせる合図が鳴りゴソゴソ取り出して目の前に持ってくる。
そこには『38.1』と表示されていた。
思ったより高い…うわー、これが38度台の身体の怠さかぁ。としみじみしていると寝室の扉が開き、飲みやすいようにとストローが刺さったペットボトルを手に持った一郎くんがやって来た。


「熱、何度だった?」
「…37度。あんまり高くないから心配せずに…」
「…どこが37度だ?」


「心配せずに早めに帰っても大丈夫だよ」と伝えようとしていたのに、彼は私の手から体温計を取りボタンを操作し、一度『ピッ』と鳴らすと私にもう一度体温計を渡した。
ちらりと見るとそこには先ほどと同じ数値が表示されている。え、なんで?電源、切った筈なのに。
どうやらメモリー機能が搭載されていたらしい我が家の体温計は、思ったよりハイスペックだったようだ。くそ。
これで彼に迷惑を掛けることが決定してしまった…あぁ、やってしまった…。
こんなことなら正直に風邪を理由にせず急な仕事が入ってしまったとか言っておけばよかった…と後悔するも、たられば話だ。
水分と一緒に持ってきてくれていた冷えピタも、自分で貼れると言うのに全然渡してくれなかった…世話焼きだな、流石長男。
やはり実際の体温を見ると怠くなってしまう。
熱のせいか、肌の感覚も鋭敏になるのは私だけだろうか、それとも気のせいだろうか。


「飯、食えそうか?」
「…でも食べないと薬、飲めないよね」
「ちょっとだけでも腹に入れとくか…。お粥でいいか?」
「もしかして、作ってくれるの?」
「そりゃそうだろ!病人は大人しくしてろ、な?」


そう言って私の頭を撫でた一郎くんは、優しく笑って部屋を出て行った。
こんなに甘えて…いいのだろうか。
長く一人暮らしをしていたから、ここまで献身的に看病されたことがなくてむず痒いというか申し訳ないというか…。
6つも年下の恋人に、年上の私が…と思うも、案外悪くない気分だと気づいてしまい自分を張り倒したくなった。
そうじゃないだろ。彼の時間を無駄にするわけにはいかない。
彼だって一人の時間があれば趣味にも使えるしショッピングにも、家でゆっくりすることも、友人を誘って食事だって、出来るのだ。
ここに居たっておもてなしすることも出来なければ恋人の特権である行為だって、してあげられない。
優しい彼の事だ、病人を目の前にして放っておくことが出来ないのだろう。
ネガティブな思考になっているのに気づき、気を紛らわせようとスマホに手を伸ばした。
着信とメッセージの通知が幾つか来ており、そのほとんどは一郎くんだったのだがもしかしてここに来る前に結構連絡入れてくれていたのか…?
それに気づかずに私は寝こけていたワケか…益々申し訳ない。
同僚からも何か要るものがあるかとメッセージが来ていたが、一郎くんが来てくれているから大丈夫だと連絡すると『惚気かよクソが』と理不尽なメッセージを受信した。
あんたが聞いたんですが?




「出来たぞー」


起き上がろうとする私の背を支えてくれる彼にお礼を言ってお盆を受け取ろうと手を差し出すも、それは何もつかめずに宙に留まるだけだった。
困惑して一郎くんを見ると、なにやらニコニコしてスプーンを持っている。ま、まさか…。


「いや、流石にそれは…」
「あんただって、俺が風邪ひいたときしてくれただろ」
「う…そうだけど…」
「恩返しってわけじゃねぇけどさ、あんときすっげぇ嬉しかったから…もしあんたが風邪引いたときは色々してあげてぇなって思ってたんだ」


確かに彼が、というか山田家の三人が風邪でダウンした際に世話を焼きに行った事は認めるが、それも数か月前のことだ。
そんな前の事を義理堅く覚えているなんて、思わなかった。
善意100%の瞳でフーフーされた少量のお粥の乗ったスプーンを差し出されれば、口は勝手に開きそこへしまってしまう。
温かいお粥と梅干が喉を通り、胃へと落ちていった。


「美味しい…」
「ふはっ、良かった」
「えっと、でも私、二郎くん達じゃないから、そんなに甘やかさなくっても…」
「甘やかしてぇのは、なにも家族だけとは限らねぇだろ?」
「…」
「看病イベなんて、現実にはそうねぇしな」
「なんて?」


何やらボソリと呟いた一郎くんは、また笑顔に戻り問答無用で口元へスプーンを差し出す。
最後まで食わせるからな、と顔に書いてある一郎くんに観念して、大人しくしていると「ん、偉いな」なんて小さな子供のような扱いをされたのだが、悪くはなかった。


「ごちそうさまでした…」
「流石に完食とはいかねぇか…。けど、こんくらい食ったら薬も大丈夫だろ」
「ごめんね、せっかく作ってくれたのに」


結局半分ほどしか食べられず申し訳ない気持ちでいっぱいだが、彼は無理して食べて気分が悪くなる方がダメだからと私を責めることはなかった。
薬も飲み、横になった身体に布団を掛けられると、お腹が満たされたからか一気に眠気が襲う。
そんな私の手を握り、眩しくない様にと大きな手の平で目を覆われれば酷く安心して数分も立たないうちに眠りの世界へと入っていった。




不意に感じた尿意で目が覚める。
薬の効果もあるのか、ぐっすりと眠れたようだ。
気分は存外悪くなく、頭もスッキリとしている。
パチリと目を開くとカーテンは閉められ、照明も落とされているが、自分でやった記憶はないのできっと彼がしてくれたのだろう。
その当人の姿が見えないが、流石に帰ったのだろうか。
家で弟たちの夕食だって作らなくてはならないし、家事だってあるだろう。主夫の毎日は忙しいのだ。
暇だからテレビでも見ようか、とトイレ経由でリビングへ向かうと人の気配と良い匂いがしている。
いやいや、まさか…ね。


「お、顔色随分良くなってんな。夕飯、食えそうか?」
「一郎くん、あの、帰らなくてもいいの?夕食の準備、とか…」
「気にすんなって。今日は病人の看病だって言ってあるからな」


彼が何故ここに残ってくれているのか、その原因は間違いなく私だ。
一人暮らしだから気を遣ってくれているのだろう。
しかし彼の心配はきっと杞憂に終わる。何故なら体調はもう悪くないからだ。
そう主張する私を一瞥した彼は、寝室から体温計を持ってくると私に渡し視線で測れと言っている。
測らなくても、もう治っていると伝えるも彼は首を縦に振らなかった。是が非でも測らせたいらしい。
数値として出れば流石の彼も納得してくれる…と思っていたのだが軽快な音と共に表示された数値は私の想像よりも高かった。
手の中から体温計が奪われ、彼が目を通す。


「37度5分…どこが治ってるんだ?」
「あれ…可笑しいな」
「ったく…もうすぐ飯できっから、ベッド行って休めよ」
「んー…、あのさ、ご飯出来るまででいいからここに居てもいい?」


自分でもびっくりするほど、何だか人が恋しいのだ。
一人で寝室に戻るなんて何時もならなんとも思わないのに、今日はそれに含まれないようだった。
彼も私がそんなことを言うと思っていなかったのか驚いていたが、直ぐに「身体辛くねぇんなら、ここで一緒に飯食うか?」と頭をひと撫でして、お兄ちゃんの顔でキッチンへ戻っていった。
これではどっちが年上か分からない…でも、いいなぁこの感じ。
恋人の特権を乱用している気がするが、病人なので許して欲しい。

結局彼に甘え夕食の片付けまでもさせてしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいだが、彼は頼って貰える方が嬉しいのだと、私にもっと甘えて欲しいと、そんなことを言うのだ。
今でも十分すぎるくらいに甘えていると言うと、彼は「こんなの甘えてるうちに入んねぇよ」とカラリと笑った。
私が気にしないようにしてくれているのだろう。その思惑は大成功で、それが気遣いからの言葉だとしても今の私にはクリーンヒットなのだ。


「さて、寝る前に身体拭くか。着替えなきゃなんねぇしな」
「……めんどくさい」
「気持ちは分かるが、汗いっぱいかいてるだろうし…ほっとけねぇだろ」


そう言って私の着替えを持ってきてくれた。下着も含めて。
え、もしかしてタンスの引き出しから選んできたんじゃ…。彼に視線を送ると私が何を言おうとしているのかが分かるのか、顔を真っ赤にして視線を外していた。
君ってやつは期待を裏切らないな…。


「……全部は見てねぇ、から」
「一部は見た、と」
「……………………はい」
「………因みに、どれ見たの?」


別に彼相手に下着を見られようが着用しているわけでもないのでそこまでの羞恥心はないが、肩を竦め裁判を受ける被告人のようになっている彼に少し悪戯心が湧く。
揶揄う様に聞くと小さな声で「黒い…レースの、とか…」や「青と緑の中間みたいなやつ…」と馬鹿正直に話すので堪えきれずに吹き出してしまった。


「ふっ、ふふっ、あはは!」
「!なんで笑うんだよ…!」
「別にパンツ見られたからって、そこまで怒らないよ」
「じゃあ今穿いてるの見てもいいか?」 
「あはは、面白い冗談言うね…?」
「ははっ、冗談かどうか…試してみるか?」


目が笑っていない彼を捌くべく「タオル濡らしてくるね」とキッチンへ移動し、さっきまで面倒だと思っていた作業をサクサクこなす。
今思えば病人に無体を働くような子ではないと思い出し、さっきのは私を動かすべくわざとああいった態度を取ったのだろうなという結論に辿り着いた。
沸騰したケトルの熱湯を水で調整しながら冷まし、少し熱いと感じる温度になったお湯にタオルを浸し絞る。


「じゃあお風呂場で着替えてくるね」
「ん、分かった」
「……………なんで着いてくるの?」
「なんでって……手伝うからだろ?」


何を言っているんだ、とすっとぼけた顔をしているが私が間違っているのか?
流石にそこまではさせられないと拒否するも、折角温かいタオルが冷たくなると言って背を押されれば抵抗など無に等しく、脱衣場へ押し込まれ後ろ手で扉を閉められた。
彼はこんなに、強引に事を進める人だったか?
どちらかというとそれは私の方が該当するような…。


「……じゃあ、背中だけお願いしようかな」
「おう、任せとけ」


なるだけ意識しないように服を脱いでいく。
この年齢になっても全裸になるのは流石に恥ずかしい為、後ろを向いて上半身だけ脱いだ。
背中さえ拭かせれば彼がここに残る必要は無いだろうからだが…………不安だ。
妙な緊張感があるのは、彼を警戒しているからだろうか。
病人をどうこうする子ではないとさっき自分で確信していたのにも関わらず、結局このような思考になってしまう。
それってどこかで期待をしているってことか?
期待……って、いやいやいやいや!
いやいやいやいやいやいやいや!!
病気の人間が、そんなこと考えるなどあり得ない。
こんなになってまで、なんて盛りすぎだろうが!
もしかして熱が思考までねじ曲げているんだな?そうだな??
一人静かに討論会を開催するも私の心配は杞憂に終わり、彼は背中を拭くとさっさと脱衣所から出ていった。
……………………誰か私を叩いてくれ。
この、煩悩にまみれた私を!



リビングに戻った私を、彼は寝室へと促した。
夜になって熱が上がってくる可能性があるから、今日は早めに休んだ方が良いとの事だ。正論過ぎて何も言えない。


「なぁ、本当に大丈夫なのか?」
「うん。薬も飲んだし、多分明日には良くなってると思うから」


泊まろうとしてくれていた様だが流石にそこまで甘えるわけにはいかない。
断固として譲らない姿勢を取ると、彼は渋々といった体でだが納得してくれた。
ベッドに寝転びながらでは申し訳ないと思い、上体を起こして立ち去る彼に手を振る。
パタンと扉が閉まり、足音が遠退いていく。
自分から言っておいてなんだが、普通に寂しいな。
いやしかし、滅茶苦茶気分悪くて歩くのも一苦労…というわけでもないのに何時までも引き留めるのは可哀そうだろう。
枕に頭を預け、眠気もまだ無いしスマホでも触るか。と手探りで探しているとガチャリと扉が開いた。


「あれ?一郎くんどうしたの?」
「………忘れ物?」
「聞いてるのはこっちなんだけどな」


部屋を訪れたのは先ほど出ていったばかりの一郎くんで、さっきとは違い白い不織布のマスクを着けている。
今更…?と思わなくもないが、悪いことではないので何も言わなかった。
それより忘れ物とはなんだろうか、パッと見彼の私物は無さそうだが。
キョロキョロとしている私に、何故か彼は自分が着けているのと同じマスクを着けた。


「………??ありがとう??」
「………」


何か言ってくれ。
彼の行動がいまいち理解できずリアクションを待っていると、額に彼の前髪が掛かるほどの距離にまで顔が近づく。
しかし、その距離が縮まることはなくずっと頬を撫でられていた。


「…あのさ、こんな時に言うことじゃねぇのかもしんねぇけど」
「ん?」
「キス、してぇ」


だろうなぁ!
流石に私もここまでされれば分かる。
移るといけないからと言っても、くっ付けるだけだし、マスクを二重にしてたら大丈夫だと言われ口を噤んでしまった。
何故なら、私もしたいと、思ってしまっているからだ。
彼の事を考えれば絶体にしない方がいいに決まっているのに、本当に、駄目な大人だ。
無言を肯定と捉えた彼の目が細まり香りが濃くなる。
もう、止められないと分かった私も目を瞑った。
カサっとキスに似つかわない音が小さく鳴り、マスク越しに僅かに柔かな唇を感じて胸が熱くなる。
なんだか、普通にするよりも…。
少し離れて見つめ合うと、またどちらともなく目を瞑り行為へと戻っていく。
この、全然足りない感じが逆にエスカレートさせている気がする。止められない。
こんなの、生殺しではないか。


「………一郎くん」
「…ん?」
「本当に、怒ってもらって構わないんだけどさ」
「……?」
「……マスク、ずらしてもいい?」


と言いながら既に自分のマスクを取っ払い彼のマスクに指を掛けてずらしてしまう。
返事を聞く気もないので欲求に逆らわずに目の前に曝け出された唇を奪った。
何度食んでも紙の感触しかなかったさっきとは違い、確かな柔かさに夢中になっていく。
そうそう。これこれ。
彼の下唇を舐めながら、顎に引っ掻けてあったマスクのゴムを邪魔だと言わんばかりに外してそこら辺へ置いた。
後頭部に手を回し引き寄せて、一ミリの隙間も埋めるようにくっ付けた。


「ふ……ん、ちゅ」
「はっ……んんっ」
「…抵抗、しなくていいの?」
「あぁ…できねぇんじゃなくて、してねぇだけだから…」


遠回しにも嫌とは言われていないということは、もう少し良いのだな。
引き寄せられるように唇を重ね、それだけじゃ飽き足らず舌も入れてしまえばこの沼から抜け出せないことは明白だった。
全身が燃えるように熱い。
血の巡りが良くなっている証拠だ。
絡む彼の舌も熱くて、もしかして私の熱が移ってしまっているのではないか、なんて思ってしまう。
離したくない。このまま彼をどうにかしてしまいたいのに、今の自分の調子では満足させてあげられないことを分かっているから名残惜しくも口を離した。


「……あんたは、ムラムラしねぇの?」
「しないよ?……あぁ、そっか。君はするんだったね」


以前彼の看病にお邪魔したとき、ムラついていた彼を手で発散させたことがある。
きっと同じ状況に私がなっていないかの確認なのだろうが、残念ながらムラムラは…してない。ということしておく。
多分キスのせいで多少はしてるのかもしれないが、熱を理由にして諦められるくらいの程度なのだ。
私に続きをする気がないと解ると、長い溜め息を吐いた一郎くんは最後に一つキスを落として身体を起こした。


「病人に無理させるワケにはいかねぇか…はぁ…」
「ふふ、ごめんね。また、今度」


今度こそ家路に着いた彼をベッドの上で見送った私は、確かな満足感を感じなからベッドに潜り込んだのだった。

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