グーグルマップに代表される地図アプリ。使ったことがある人も多いのではないでしょうか?
クチコミや評価点も投稿でき、利用シーンは拡大しています。その一方で課題も浮かびあがっています。
地図アプリとして最も多くの人が利用するとされるグーグルマップ。
世界中で月に10億人が利用しています。
目的地の場所や道順を調べる地図としての役割だけにとどまらず、日常のさまざまなシーンで使われています。
たとえば、「レストラン」と検索すると、住所や電話番号はもちろん、感想や評価が書かれたクチコミを確認できるほか、メニューの写真も見ることができます。
グーグルマップなどの地図アプリには飲食店だけでなく交番や病院などさまざまな施設が掲載されています。
最近では、富山県内の消防が地域の消火栓などの場所をグーグルマップで紹介する取り組みも始めています。
クチコミ関連のサービスを提供する株式会社movによりますと、飲食店を探す時に若者が多く利用するという調査結果も出ています。
この会社が1位から3位までランキング形式で尋ねたところ、10代と20代が1位にあげたのはグーグルマップで、専用のサイトに比べて2倍以上多かったということです。
グーグルマップをよく使うという20代の女性
「近くにあるカフェを検索して、投稿されている写真やレビューなどを見てお店を選んでいます。『店員さんの態度が怖かった』とかマイナスな意見が多いところは避けるようにしています」
グーグルマップとそのクチコミ。
その影響力に注目する飲食店も出てきています。
東京・渋谷区にある居酒屋ではグルメサイトからの予約だけでなく、最近はグーグルマップとそのクチコミを見て店を訪れる客も増えているということです。
店ではおすすめの料理や看板メニューが半額になるイベントの情報などを積極的に投稿しています。
検索で該当しやすくして集客力を高めようという目的です。
また、居酒屋を運営する会社では、クチコミを分析する担当のチームを置いて、その内容をもとに接客などの業務の改善に生かしているということです。
運営会社「ネクストグローバルフーズ」永瀬隆紘 副部長
「投稿した料理の写真やクチコミの内容や評価は見た人への影響力が大きいのでより充実させていきたい」
クチコミをAIを使って分析するシステムを開発し、飲食店などに提供する企業も出ています。
「スタッフ」や「時間」など指定したキーワードごとに投稿されたクチコミの内容がポジティブかネガティブかをAIが判定します。
たとえば「3時間以上もかかった」や「待つ時間が長い」などと投稿されると「時間」に関する項目のネガティブの値が大きくなります。
この判定によって、客がどこに不満を持っているか、どこに満足しているかを分析することができるということです。
また、ユーザーに若者が多い点にも注目し、飲食店などがインスタグラムなどのSNSでイベントや新メニューなどの写真を投稿するとグーグルマップにも自動的に反映できるサービスも提供しています。
株式会社mov 新井勇作部長
「地図サイトとしてだけでなくクチコミサイトとしても投稿件数が最も多いグーグルマップがいま一番影響力が大きい。グーグルマップを使ってクチコミきちっと分析して、いかに集客をしていくかという点も非常に大きなテーマの1つになっている」
一方で、グーグルマップのクチコミに身に覚えのない内容や明らかな悪口を書かれたという人たちもいます。
長野県内で美容院を経営している男性は「刃が当たったのに謝らない」や「髪型をばかにする」などの身に覚えのないクチコミを書き込まれました。
グーグルに削除するよう依頼しましたが、当事者で話し合うか、裁判所の削除命令がないと対応できないとメールが来たということです。
美容院を経営する男性
「投稿者に返信すると言い合いになって炎上するリスクがあると考え、できなかった。証拠があるものでもないし、法的な対応に出ることも難しいと考えた。店に行こうと場所を調べて『こんなクチコミが書かれているなら別の店にしよう』という人もいると思う。身に覚えのないクチコミが投稿されてもお手上げではとても困るので対応を改善してほしい」
また、30年以上前から横浜市内で歯の治療や矯正を行う稲毛滋自さんは、自身が開く矯正歯科医院に対して「ゴミ未満」や「高齢のお局事務員」などのクチコミが書き込まれました。
誰が投稿したかはわからず、いまも投稿は残り続けています。
医院のスタッフや患者から心配する声も寄せられました。
稲毛院長
「ひどいクチコミを書かれるとスタッフも私もみんな精神的にダメージを受ける。本当に患者なのかわからない人から事実関係の定かじゃない投稿をされるのはフェアじゃないと思う。明らかに悪口と言える言葉は投稿できないようにするなど対応して欲しい」
グーグルマップに限らず、インターネット上のクチコミについて、「削除したい」とか「発信者を特定したい」といった相談が国の窓口や弁護士などに寄せられているということです。
インターネット上のひぼう中傷などについて対応を案内している総務省の「違法・有害情報相談センター」によりますと、グーグルマップのクチコミを含むネット上の投稿に関する相談件数は、昨年度(R4年度)までの過去5年間に毎年増加しているということです。
また、情報法などの研究者らで作る「情報法制研究所」の上席研究員も務め、ネット上のひぼう中傷の問題に詳しい中澤佑一弁護士のもとには、「グーグルマップのクチコミが事実と異なる」などという医療関係者からの相談が相次いでいるということです。
2013年、グルメサイトの「料理が出てくるまで40分くらい待たされた」など否定的なクチコミで損害を受けたとして、店側がサイトに出ている店の情報を削除するように訴訟を起こしました。
裁判所は「名誉や信用をいたずらに毀損する内容の『クチコミ』ならともかく飲食店を経営する以上、社会的に妥当な『クチコミ』であれば損失があっても受け入れるべきだ」などとして訴えを退けました。
2016年に最高裁判所が店側の上告を棄却し、判決は確定しました。
グーグルは、不正な投稿の基準を掲げています。
グーグルによりますと、こうした基準に基づいて、2022年は1億1500万件以上のポリシー違反のクチコミを削除またはブロックしたということです。
<グーグルのポリシー>
▽実際の経験や情報に基づいていない投稿
▽意図的に偽造されたコンテンツ
▽コピーまたは盗まれた写真
▽トピックから外れたレビュー
▽中傷的な言葉
▽個人攻撃
▽不正確なコンテンツなど
グーグルはNHKの取材に対し、「Googleマップでは、様々な場所に関する信頼できる情報を見つけやすくし、不正確な内容や誤解を招く内容を減らすよう努めています。Googleのチームは、人間のオペレーターと機械を組み合わせて、24時間体制で企業プロフィールを保護し、不正なレビューを削除しています。システムを積極的に監視し、ポリシー違反のコンテンツを削除しています」とコメントしています。
不当な内容が投稿されても削除に応じず運営に支障が出たとして都内のクリニックの医師がグーグルに対し損害賠償を求める訴えを起こす準備を進める動きも出ています。
このクリニックはクチコミで、「門前払いされた」という書き込みをされたほか、理由を書かずに最低評価をつけられる不当な投稿が繰り返されているということです。
こうした投稿によって運営に支障が出ているとして、損害賠償を求めて訴えを起こす方針を決めたということです。
医師の代理人を務める中澤佑一弁護士によりますと、医療機関では患者の希望と適切な治療方法が異なることもあって不満を持たれることがあるものの、守秘義務の関係からクチコミで反論することは現実的ではないということです。
裁判で主張するポイント
▽削除要求への対応が不十分で営業的利益が侵害されていること
▽削除基準が必ずしも明確ではなくより明確にすること
不当なクチコミに苦慮する医師は複数いるということで、中澤弁護士は今後、医療関係者を募って集団で訴えを起こすことも検討したいとしています。
中澤佑一弁護士
「書く側は一瞬だが、書かれた方が削除を求める場合、裁判関連の費用で数十万かかり、お金も手間もかかってしまう。利用者もクチコミは勘違いによるものや事実と異なるものもたくさんあることを知ってほしい。グーグルマップに代表されるクチコミは、便利さや影響力を増しているが、その一方で、根拠のないクチコミが出回ったり、削除を求めても削除されなかったりして苦しむ人がいる。透明性を確保しながら主体的に管理してほしい」