公務員試験の出題範囲はとても広く、しっかりと勉強時間を確保したとしても、「時間が足りない」と感じる方がほとんどです。
”万全”の状態で臨める受験生は、全体の10%にも満たないのではないでしょうか。
実際、受験生からはよく、以下のような相談を受けています。
「全く勉強が追いつきません。時間のない中で勉強するなら、どの科目がいいと思いますか?」
「選択科目についてはどの科目を選んで、どの科目を捨てたらいいですか?」
「重点的に勉強するべきなのはどの科目ですか?」
みなさん、タイムパフォーマンスの良い勉強方法を模索しているような状態です。
実際、合格・不合格のカギを握るのは、「いかに多く勉強できたか」よりも「良い配分で効率よく対策できたか」にあると思います。
特に「特別区Ⅰ類」に関しては、倍率が5倍以上になる年もあるなど、非常に難易度が高いです。
近年は少しずつ倍率が下がってきている傾向にありますが、それでも難関であることには変わりありません。
「特別区の最終合格」という狭き門をくぐるためには、他の受験生と同じような勉強方法ではダメということでもあります。
ポイントは、配点を意識した効率性重視の学習です。
・教養試験は2時間の時間制限があるため、スピーディーな回答が求められる。
・教養試験の選択科目は、時事、法律、政治、経済、生物、地学がオススメ。
・専門試験は、科目選択がキーポイント。民法や経済学など、苦手分野を切ることも考えるべき。
・論文試験は配点比率が極めて高いので、重点的な対策が必要。
・論文試験は、社会問題がテーマになる。
特別区の配点を知る
公務員試験は、幅広い分野の知識を求められるため、勉強する範囲がとても多いです。
とはいえ、全ての科目をマスターできるほどの時間はないので、取捨選択をして進めていく必要があります。
試験当日まで、どんな配分で時間を割いていくか、効率よく学べるかが、合否を大きく分けます。
具体的な方法としては、配点比率の高いものを重点的に学ぶことが大切です。
例えば、教養試験の選択科目は、生物が2問出題されます。
一方、世界史は1問しか出ないので、生物と世界史、どちらに多く時間を費やすべきかは明確ですね。
もっと言うと、時事に関しては最多の4問出るので、世界史よりも生物、そして、生物よりも時事、といった具合に割り振ることで点数が取りやすくなる、ということです。
もちろん、人によって得意科目・苦手科目があるので一概には言えませんが、配点比率の高い科目を知ることは、効率よく勉強するための基本と言えるでしょう。
1次試験の配点はこれだ!
早速、配点比率の高い科目を紹介していきたいと思いますが、実はこれ、非公開なんです。
「予想でしかないのか」とお叱りを受けてしまいそうですが、今までの傾向や各予備校の分析などで予測は十分に可能です。
色々なデータを考慮して、分析したものを以下に示します。
■教養と専門について
・合計点数8割以上でも不合格者がいること。
・合計点数5割以下でも合格者がいること。
・一方が満点近く、一方が壊滅状態でも合格者がいること。
・合計点数が満点近くても、論文の出来がいまいちな受験生は上位20%合格に入れなかったこと。
■その他
・某大手予備校の予測も”教養:専門:論文=1:1:3″であること。
・特別区Ⅰ類は1次試験実施から1次試験合格発表まで1か月半以上あり、一人ひとりの論文をしっかり見て採点していると言われている(通常の公務員試験は2週間程度)。 など
多くのデータを参考にしているので、精度は非常に高いものになっているはずです。
最大の注目ポイントは、論文の配点比率が非常に高いことです。
”試験”というと、どうしても、教養試験や専門試験といったいわゆる”択一対策”に時間を注いでしまいがちですが、合格を目指すなら、論文対策をしっかりと行っていくことが重要になります。
なお、特別区の論文対策は下記の記事で徹底解説しています。
詳しい分析結果
以下の円グラフは、論文を除いた時の配点比率を表したものです。
右半分の黄色系が教養試験、左半分の青色系が専門試験を示しています。
このグラフは、
専門→民法2つ・社会学
を選択していないケースです。
教養と専門の比率はグラフ通り50%ずつとなるので、同じパーセンテージのものの優先度は同じとなります。
スケジュールを立てる時は、この円グラフをインプットして、どのように組んでいけばいいのかを参考にしてみてください。
論文の対策を完璧にしていったとしても、教養・専門試験の結果が思わしくなければ当然不合格となってしまいます。
勉強の配分はとても大切ですが、偏りが出すぎないようにすることにも留意しておきましょう。
足切りの点数は?
足切りは非公開となっていますが、”ないもの”として考えて問題はありません。
なぜなら、実際に教養試験の点数が思わしくない人の中にも合格者はいますし、逆に専門試験が上手くいかなかった人の合格例もあります。
各自治体の試験の場合は、一定基準の点数を取った人のみ論文を採点してもらえる、といった方式を取っていることがほとんどですが、特別区Ⅰ類の試験にはそのようなことは明記されていません。
試験日より合格発表まで1か月半以上あるので、点数は問わず、全員の論文に目を通していると考えられます。
つまり、既にあまり勉強時間が残されていない場合は、論文を集中的に対策していくという方法も理にかなっていると言えるでしょう。
ボーダーはどのくらい?
「ボーダー」というのは、合格者と不合格者を分ける合計点数のボーダーラインのことです。
ボーダーは非公開なので、あくまでも予測になりますが、様々な予備校や教え子たちの自己採点結果を調査すると、教養と専門で3.5割というのが最低ボーダーラインであると想定されます。
ただ、この人の場合は論文が満点に近かったのかもしれません。
とはいえ、論文は自己採点をするのが難しいため、実際のボーダーは予想しにくい部分ではありますね。
また、公務員試験というのは相対的に合否を決定する試験です。
絶対的に合否を決定する試験というのは、100点中60点取った人は全員受かるといった方式です。
一方、相対的に合否を決定する試験というのは、あらかじめ合格者の人数が決まっており、成績上位の人から順番で合格していく方式のことです。
特別区の採用試験は”相対的に合否を決めている”ので、ボーダーは毎年大きく変化します。
つまり、高得点を叩き出す受験生が多かった年ほどボーダーは当然上がり、その逆も十分に考えられる、ということです。
先ほどの例で言えば、ある年のボーダーラインが3.5割だっただけで、次の年には4割であることもザラにあるのです。
そのため、教養と専門を勉強する際には、ボーダーに抵触しない6割を目指すことをオススメします。
試験後の自己採点で「ボーダーギリギリかも…」といらぬ不安を抱える必要もなくなります。
教養試験を分析
教養試験科目 | 出題数 | 回答数 | |
現代文 | 5問 | 全28問必須回答 | |
英文 | 4問 | ||
判断推理 | 6問 | ||
数的処理 | 5問 | ||
資料解釈 | 4問 | ||
空間把握 | 4問 | ||
社会科学 | 法律 | 2問 |
全20問のうち 12問選択回答 |
政治 | 1問 | ||
経済 | 1問 | ||
人文科学 | 倫理・哲学 | 1問 | |
日本史 | 1問 | ||
世界史 | 1問 | ||
地理 | 1問 | ||
社会事情(時事) | 4問 | ||
自然科学 | 物理 | 2問 | |
化学 | 2問 | ||
生物 | 2問 | ||
地学 | 2問 | ||
合計 | 48問 | 40問 |
注目すべきは、必須回答科目のみで7割を占めているという点です。
判断推理や数的処理といった多くの方が苦手とする科目が目立ちますが、7割を占めている点を考慮すると、教養科目を無視するわけにはいきません。
しっかりと対策すれば、必ず解けるものでもありますので、”捨てる”という考えは止めて、時間をかけて取り組んでいきましょう。
選択科目のオススメは?
上記の表から分かる通り、教養試験の選択科目は、全20問の中から12問を選ぶことができます。
表にすると、理数系の科目の出題数が多くなっていることが分かりますね。
日本史・世界史・地理の社会の分野は各1問ずつなのに対し、理数系の科目は各2問ずつあります。
必須回答科目も数的処理など理数系のものが多いので、文系の方には少々辛い内容にはなりますが、しっかりと対策していけば大丈夫です。
それぞれ得意科目・苦手科目はあると思いますが、オススメの選択科目は、
社会事情(時事)【4問】・法律【2問】・政治【1問】・経済【1問】・生物【2問】・地学【2問】
の12問です。
時事に関しては、出題数が1番多いのでマストです。
出題される問題も読みやすく、勉強時間も少なく済みますので、必ず対策しておきたい科目ですね。
また、法律、政治、経済に関しては、文系の方でも取り組みやすい分野ですし、この後説明する専門科目の憲法、政治学、経済学とも関連しているので、併せて効率よく勉強ができます。
この分野は晴れて公務員になった後も重宝する内容なので、知識しておいて損はないでしょう。
最後に、生物と地学を勉強していきましょう。
理系の科目ですが、計算問題がないため、文系の方でも取り組みやすい分野です。
実際、文系の方の多くが生物と地学を選択科目として選んでいることが多いです。
ちなみに、選択した科目以外に2~3科目増やして勉強する受験生もいますが、その方法は推奨しません。
より安定して点数を取る方法として取り入れる方もいますが、勉強時間が大きく増えて、点数が少ししか上がらないため、あまりコスパの良い方法とはいえません。
やるにしても、1科目に留めておきましょう。
何度も繰り返しになりますが、特別区Ⅰ類の1次試験は「論文」が非常に重要となります。
それ以外の科目に時間をかけて、1問正答数が増えたとしても、全体の0.5%しか点数がアップしたことになりません。
仮に5時間、その1科目に費やしたとすると、論文2テーマ分勉強できるので、そちらの方が効率のいい勉強方法と言えます。
選択科目を増やしたい時は?
論文に自信のある方は、さらに合格を確実なものにするため、選択科目のうち、もう1科目を増やすという方法もアリです。
ただし、勉強したことのない科目を形にするには時間がかかり過ぎてしまうので、大学受験の際に勉強したものや得意分野の中から選びましょう。
1度勉強したことのある科目は、ゼロからやり始めるよりもある程度基礎があるので、インプット・アウトプットしやすくなります。
なるべく追加科目には時間を使いすぎないことが大切になるので、基礎のできている科目の中から選んでいきましょう。
ただし、合格者へのアンケートで分かったのは、全く勉強したことのない科目をゼロから勉強しはじめた、という方も多数いるということです。
特に「化学」は多くの受験生に選ばれていました。
その理由としては、出題数が2問と他の科目と比較して多いということが挙げられます。
例えば、社会の科目に関しては各1問ずつですが、化学は2問なので、同じ時間をかけるなら有利に点数アップが望めます。
とある合格者は、このことに関して、以下のように答えていました。
「日本史と化学の勉強時間を比較した時に、必要な時間に2倍の差があってもイコールなんですよ。2問の勉強をするか、1問の勉強をするかで、時間を割り振っていくことが大切ですね。何せ時間は限られていますから」
確かに、化学の2問を取りに行くのに3時間、日本史の1問を取りに行くのに3時間、同じ時間だったら、化学の方がお得、ということになりますよね。
しっかりと自分の得意・不得意を把握した上で、どう攻略していくか、正しく分析することも合格率を高めるコツなのだと改めて感じたインタビューでした。
試験時間に注意せよ!
教養試験の試験時間は120分です。
文字だけをみると「2時間もある」と思いますが、実際は、かなりギリギリです。
何故なら、必須回答科目は、全て時間のかかる問題だからです。
歴史や地学といった暗記科目はサッと回答することも可能ですが、現代文、判断推理、資料解釈と時間のかかる問題も多くあります。
受験生の話を聞くと、やっぱり「時間が足りなかった」と回答する方が圧倒的に多いです。
そのため、対策を練っていく段階から、スピーディーに回答することも意識していきたいところです。
参考書や問題集を選ぶ際は、素早く回答する技術を身につけられるものを選ぶことをオススメします。
専門試験を分析
専門試験科目 | 出題数 | 回答数 |
憲法 | 5問 | 全55問のうち 40問選択回答 |
行政法 | 5問 | |
民法(総則・物権) | 5問 | |
民法(債権・親族・相続) | 5問 | |
ミクロ経済学 | 5問 | |
マクロ経済学 | 5問 | |
財政学 | 5問 | |
経営学 | 5問 | |
政治学 | 5問 | |
行政学 | 5問 | |
社会学 | 5問 | |
合計 | 55問 | 40問 |
55問のうち、40問を選択して回答していくので、最大3科目捨てることができます。
上記の11科目を網羅する人もいますが、正直得策とは言えません。
前述の通り、科目数の増加の労力に見合う点数は得られないからです。
わずかな数点を狙いに行くよりも、論文の練習や予測をする時間を確保した方が点数を伸ばせます。
オススメの方法は、9科目を重点的に勉強する方法で、2科目には見切りをつけます。
実際の合格者の多くも、上記の配分で勉強しています。
45問のうち、40問正答すれば良いので、5問の余裕ができる計算です。
全部網羅して学びを深めていく方が満点をとる確率はアップすると思われますが、満点を取る必要はなく、高得点を目指していきたいので、2科目を諦める方が合理的です。
具体的に捨てるのは、民法の2つです。
これらの科目は他の科目と比べても難しく、難易度の高い問題だと言われています。
また、出題傾向もマイナーな部分がチョイスされることも多いため、コストパフォーマンスの悪い科目といわざるを得ません。
法学部出身の人は、ミクロ経済学とマクロ経済学を諦める場合も多いです。
上記に挙げた科目は公務員試験の必須科目となりますが、今回の場合は選択ができるので、見切るという大胆な選択も戦略として十分有効です。
ただし、併願の場合は、上記の科目を勉強せざるを得ないこともあるので、併願先の科目と照らし合わせて、どの科目を勉強するか、取捨選択を行ってください。
併願も考慮すると、見切る科目としては社会学がおすすめです。
専門試験の難易度について
難易度は、平成27(2015)年度から急激に上昇したと言われています。
しかし、以前は今と比べて問題が易しかったため、過去問を解いて「できている」と勘違いしてしまう人も少なくないのです。
そのため、過去問を用いる場合は、平成27年度以降のものを参考にしていくことをオススメします。
それ以前の過去問で高得点を取って油断していると、当日痛い目を見るかもしれませんよ。
中でも、特に法律系の科目については、驚くほど難易度が上昇していますので、しっかりと準備しておきましょう。
受験生の多くは、『新スーパー過去問ゼミ6シリーズ』(通称”スー過去”)を利用していると思います。
圧倒的な支持を得ているこちらにもない難問が毎年、何問ずつか出されているので、パッと見て分からない問題は、瞬時に見切る勇気も大切です。
試験時間は余裕あり
専門試験の試験時間は90分です。
教養試験のような時間のかかる問題は少ないので、時間は少し余裕が生まれると思います。
しかし、見直しまでしっかりできるほどの時間かというと微妙なので、1問1問正確にできるだけ速く解いていく練習をしておくと良いでしょう。
論文試験を分析
さて、特別区Ⅰ類の1次試験の1番の勝負どころは、なんといっても配点比率の高い「論文」です。
下記の記事に対策方法をまとめているので、ぜひ参考にしてみてください。
論文試験の試験時間は80分です。
2つのテーマのうち1つを選択して回答していく方式です。
論文の配点比率が高いので、2つのテーマより”選べる”措置が取られています。
論文の文字数は1,000~1,500字ですが、最大文字数の8割は書く必要があるので、実際の文字数は1,200~1,500字以下と思っておきましょう。
文字数的にも、時間ギリギリの戦いとなりますので、テーマ選びには時間を掛けず、どんどん書き進めることをオススメします。
直近では、以下のテーマが出題されました。
①特別区では、地方分権の進展や、児童相談所の設置に加え、新型コロナウイルス感染症対策により、前例のない課題やニーズが生まれ、区民が期待する役割も、かつてないほど複雑で高度なものとなっています。特別区がこれらの課題の解決に向けた取組を進めていくには、区民に最も身近な基礎自治体として、自立性の高い効率的な事務運営が重要です。このような状況を踏まえ、区民の生命や生活を守るための、限られた行政資源による区政運営について、特別区の職員としてどのように取り組むべきか、あなたの考えを論じなさい。
②特別区では、人口の流動化、価値観やライフスタイルの多様化によって地域コミュニティのあり方に変化が生じています。また、外国人の増加も見込まれる中、様々な人が地域社会で生活する上で、地域コミュニティの役割はますます重要となっています。こうした中、行政には、年齢や国籍を問わず、多様な人々が地域コミュニティの活動に参加できるような仕組みづくりや、既存の活動を更に推進するための取組が求められています。このような状況を踏まえ、地域コミュニティの活性化について、特別区の職員としてどのように取り組むべきか、あなたの考えを論じなさい。
他の基礎自治体の論文テーマはもう少し単純なものが多いですが、特別区の論文テーマはやや複雑な社会問題が多いです。
実際に課題となっているテーマが頻出している傾向にあるので、注意しておきましょう。
ちなみに、市販の論文対策本は都道府県や国からの視点が多いため、テーマを対策するのは難しいことが多いです。
論文の対策は重要ですが、教養試験や専門試験を無視できるほどの論文を書くのはかなり難しいので、しっかりと研究し、20テーマほどは練習しておきましょう。
特ゼミでは、論文試験で出題されそうなテーマをこれまで予想しており、見事的中しているという実績があります。
しっかりと対策をしておけば安定して加点できる科目なので、以下の記事を参考にしながら対策を練ってほしいと思います。