台風でも、飢餓でもない…“路上生活2年目男性”が明かした「ホームレス人生最大の危機」
文春オンライン / 2023年11月19日 17時0分
ホームレス生活2年目となる男性が語った「最大の危機」とは?(写真:筆者提供)
〈 「水でも食べられないことはないけども非常に不味い」カップ麺のお湯はどこで手に入れるのか…日本人が知らない「ホームレスの食事情」 〉から続く
ホームレス生活2年目になる男性と寝食をともにしたライターの國友公司氏。そこでわかった、台風や飢餓よりも恐ろしい「ホームレス人生最大の危機」とは一体?
取材のために2021年7月23日~9月23日までの約2ヶ月間をホームレスとして過ごした國友氏の新刊『 ルポ路上生活 』(彩図社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/ 前編 を読む)
◆◆◆
豊富な炊き出し
平日は土日に比べて炊き出しが少ないのでどうなることかと思っていたが、私の食料袋にはアルファ化米、白人部隊がくれたおにぎりとソイジョイにカップ麺2つとコッペパンもある。
明日は池袋にある通称“うなぎ公園”に行けば、「TENOHASI」という団体から弁当が2つはもらえる。黒綿棒(先輩ホームレス)を誘ったが、「池袋まで歩いて弁当2つは完全に損だし、五輪の交通規制がウザそう」と行こうとしない。この団体は月に10回ほど炊き出しを行っている(ネットの情報とは異なる)が、そのうちの2回、ものすごい量の食料をくれる日があるといい、その日だけ行けば十分だそうだ。
飯の心配をする必要もなくなり、することがなくなった。となりで黒綿棒が弾いているギターの音をひとしきり聴き、新宿住友ビルに涼みに行く。ここは冷房の効いたホールに机と椅子が並べられているので、私は重宝している。汗だくで不快なときに逃げ込むと、30分ほどでシャワーを浴びたかのように身体がサラサラになる。
ホールで吾妻ひでお著の『失踪日記』を読む。この漫画は、吾妻ひでおが実際にホームレス生活を送っていたときのエピソードをまとめた漫画である。この生活が辛くて仕方がないときに読んで、やる気を出そうと持ってきたものだったが、あまりの暇さから早くも読み始めてしまった。
一時間ほどしてベースに戻ると、黒綿棒はタオルで顔を隠すことなくスヤスヤと眠っていた。島野君(黒綿棒と一緒に暮らす若いホームレス)は夢中になってニンテンドーDSでドラクエをプレイしている。
「すれ違い通信とかあるやつですよね?」
「あるけど、それはやってないです」
島野君の声を聞くのは「辛いからカレーはいらない」以来の2回目である。持ち運びの充電器を持っており、毎回乾電池を買っているらしい。そしてこの島野君、「履き心地が気に入らなくて」と、サンダルをものすごいペースで買い替える。島野君がホームレスになったのは4カ月前だというが、その間に6回サンダルを買い替えている(黒綿棒談)。
web記事でわかった「島野君の素性」
8月の頭、どこかの新聞社がコロナ禍で苦しむホームレスとして島野君を取材し、記事にしていた。彼の後ろ姿が写真で載っていたのでweb記事を見てすぐに分かったのだ。
記事によれば、島野君は約4カ月前に工場の仕事をコロナ禍でクビになり、都庁下では炊き出しが豊富という情報を見てここへやってきたという。島野君は取材に対し、「500円で毛布を買い、もうお金がない。今日の食事は確保できたので安心だが明日はどうなるか分からない」といった旨の発言をしていた。
サンダルや乾電池の金はどうしたのか。だったらなぜ炊き出しを断るのか。その記事では島野君の訴えを五輪批判や政権批判に繋げており、私はモヤモヤ感をぬぐいきれなかった。島野君の言動も腑に落ちないが、新聞も悲劇的な部分を切り取ってオピニオンの材料にしているだけではないか。
2021年7月31日にBBCが配信した「[東京五輪] なるべく見えないよう……都心で排除されるホームレスの人々」という動画はSNSで広く拡散されたが、現場からすると失笑してしまうような内容だった。東京五輪によって不公平で非人道的なホームレス排除が行われているという。たしかに、東京五輪の開催が決まってから、国立競技場周辺のホームレスは立ち退きを命じられたが、何も「消えろ」と言っているわけではない。
僕らが何事もなく都庁下に住み続けているように、ほかにも住む場所はあるのだ。それを、排除された一部のホームレス、「五輪をやっている場合か」と声を荒げる一部のホームレスにスポットを当てて、悲劇的に報じている。実際の空気感とはあまりにも温度差があり過ぎるのだ。さらに海外メディアという点もどうも納得できない。日本に乗り込んできては結論ありきの取材をして、悲劇的に誇張した内容を世界に発信する。甚だ迷惑である。
ポツポツと雨が降り出し、そのうち高架下にも雨が入り込んでくるほどの暴風雨になってきた。今夜は台風八号の到来である。端にいる島野君が雨に濡れながらもその場を動こうとしないので、濡れない別の場所へ移動させてあげた。
「台風のときはどうしてるんですか?」
物憂げな表情で雨脚を見つめている黒綿棒に聞く。
「ここにいればまず問題ないのだけど、2年前の台風には太刀打ちできなかった。普段は追い出されるけれど、屋根のある都庁の敷地内にホームレスがみんな逃げ込んだんだ。次の日の早朝になると“ほら、早く出ろ”とかなりぞんざいに追い出されたけど」
2019年の台風19号のことである。この台風では多摩川に住むホームレスの男性が一人、濁流にのみ込まれて亡くなっている。
ホームレス人生「最大の危機」とは
「やっぱり台風19号が最大の危機でしたか? 2年もホームレスをやっていたら大変なことがいっぱいありそうですが」
「いや、一度ホームレスを辞めようと思ったくらいの出来事があったんだ。それがこの2年間での最大の危機だったね」
ある日、新宿中央公園の周りをウロついていた黒綿棒は植込みの上に無造作にピザが置きざりになっているのを見つけた。横にはサイドメニューのフライドチキンもある。誰かの忘れ物だと思い、まずはチキンから食べていると、「それ俺のピザなんだけど」と若い兄ちゃんに後ろから声を掛けられた。しどろもどろになっていると兄ちゃんは、「なんならピザも食べていいですよ」と言って去っていった。
「まったく危機じゃないじゃないですか。ピザとフライドチキンを兄ちゃんにもらっただけの話じゃないですか」
「とんでもない。恥ずかしすぎてもうこの場所では野宿できないとまで考えたよ。その兄ちゃんがまた公園に来て僕を見つけるかもしれない。僕の場合、行政や宗教を拒んでいるから落ちているピザを食べてしまうわけで。つまり、今後も同じことが起きる可能性があるということだから」
そんなにシャイならもう意地を張らずに行政も宗教も拒まなければいいものを、「それだけはできない」と黒綿棒は頑なだ(NPOの炊き出しなどは普通に受けているが)。しかし、路上で生活する上で危機というのは、そう頻繁にあるものではないのかもしれない。
暴風雨の中眠る気にもなれないので『失踪日記』を読んでいると、黒綿棒が「どうかしたら僕の漫画(『貧々福々ナズナさま!』)と交換とかしちゃう?」と言ってきた。結局、黒綿棒は深夜3時まで食い入るように『失踪日記』を読んでいた。
自身のホームレス生活を記した作品を本当のホームレスに一晩で2周も読んでもらえるなんて、天国の吾妻先生も作家冥利に尽きるだろう。
(國友 公司/Webオリジナル(外部転載))
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