「水でも食べられないことはないけども非常に不味い」カップ麺のお湯はどこで手に入れるのか…日本人が知らない「ホームレスの食事情」
文春オンライン / 2023年11月19日 17時0分
ホームレスたちはどうやって「カップ麺のお湯」を手に入れるのか? ©getty
「コンビニはもはや僕らの顔を覚えているからとても行きづらい。水でも食べられないことはないけども非常に不味い」
都内のホームレスはどこでカップ麺のお湯を手に入れるのか? その食事情を、取材のために2021年7月23日~9月23日までの約2ヶ月間をホームレスとして過ごしたライターの國友公司氏の新刊『 ルポ路上生活 』(彩図社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/ 後編 を読む)
◆◆◆
ホームレス生活4日目の朝
7月26日。
早朝、爆竹の音で跳ね起きるも昨日の疲れがまだ残っているせいかまだまだ眠れそうである。熱帯夜と朝の陽ざしのせいで首筋は練乳でも垂らされたかのようにベットリしているが、二度寝するほか選択肢はない。
9時頃目を覚ますと、真横を無数の革靴やパンプスが行き来している。恐ろしいくらいの通勤ラッシュだ。しかし、私たちに視線を送る人はほとんどおらず、風景の一部分になっているようで人の目は意外にも気にならない。ただ、それは寝たふりをするなどして、じっとしていればの話である。荷物を整理するなり、水を飲むなり、何か動きを見せると、「動いた!」といった視線が一気に集まる。
となりの黒綿棒(日に焼けた黒い肌が特徴の先輩ホームレス)はタオルを顔にかけ、やはり寝たふりをしている。組んだ脚が小刻みに揺れている。11時までふたりで寝たふりをし、人通りが少なくなると、待ってましたとばかりに同時に動き出した。もう少しするとランチタイムがやってきてしまう。
「それにしても朝は朝で暑いし、蝉がとにかくうるさいですね。夏でこんなにへこたれていては冬なんて越えられそうにないですよ」
夏日陰で水を飲んでいれば死ぬことはないだろうが、冬の寒さは命にかかわってくる。凍死してしまうホームレスの話も聞いたことがある。
「路上で生活を始めてから気が付いたのだけど、得てして冬より夏のほうが辛い。冬はNPOが寝袋や毛布、防寒着を配ってくれるので包まっていれば問題ない。でも夏は対策のしようがないからね」
私はこの黒綿棒の話を機に、ホームレスと話をするときは「夏と冬どちらが辛いか」と質問をするようにしたのだが、ほぼ全員が「夏のほうが辛い」と答えるのだ。その理由はやはり、「冬はNPOやボランティアが防寒具をくれるから」だ。
防寒着は毎週やっている衣服の配給でもらえる。寝袋や毛布は基本的にキリスト教会の人たちがシーズンになると配り歩いてくれる。さらに黒綿棒はこう話す。
「前回の冬に一般人が善意でヨガマットを僕らに配って歩いていたのだけど、誰も受け取らなかった。寝袋と毛布があれば必要ないからね。荷物が増えるのも避けたいところだし」
被災地に千羽鶴を送るのは自己満足でしかないという議論が行われることがあるが、若干近い現象がホームレスの場でも起きている。あくまで、食べ物やヨガマットを配ってくれるのは善意によるもので、自己満足ではないかもしれない。ただ、現場がどういった状況になっているかはわかっていないのかもしれない。
最も涼しいのは「都庁前駅A4出口前」
「夏は対策のしようがないと言ったけども、ひとつだけいい場所を教えてあげる」
黒綿棒が教えてくれたのは、都庁の周りの歩道にいくつか設置されている排気口だった。しかし、全部の排気口から冷気が出ているわけではない。中には暖気が出ている場所もある。最も涼しいのは都庁前駅A4出口前の排気口で、次に涼しいのはA5出口近く、新宿中央公園沿いだという。
「ただ、あまり頻繁に涼みに行くと通行人に哀れみの目で見られるからほどほどにしてほしい。でもたまに涼んでいても誰も見てこないときもあって、逆にドキッとすることもある」
「意外と誰も僕らのことをジロジロ見たりしないですよね」
「そうなんだよね。ジロジロ見られるのも嫌だけど、まったく見られないのもそれはそれで悲しいというか……。周りの人々にとって、僕は透明人間なのかと思うときがある」
ベースに戻り、昨日もらったクリシュナのカレーを食べる。黒綿棒が「それ、まだいけるの?」と心配そうな目で見ているが、まったく問題ない。
しかし食べ終わる頃に、具の一部だと思っていた黒い粒々が蟻だということに気が付いた。たぶん、蟻を200匹くらいは食べてしまったように思う。「アミノ酸が摂れて逆にいいじゃないか」と考えている自分にハッとした。だいぶホームレス生活にも馴染んできたようである。蟻にアミノ酸が含まれているかは知らないが。
再びベースに戻ると布団の上にカップ麺2つとコッペパンが1つ置いてあった。黒綿棒に聞くと、通りがかりの女性が「3人に」とくれたらしい。島野君(黒綿棒と一緒に暮らす若いホームレス)はカレーヌードルをもらっていたが、辛いのが嫌いだったんじゃないのか。
カップ麺のお湯問題
「カップ麺のお湯ってどうしてます?」
聞くまでもなく私はコンビニにしれっとお湯だけ注ぎに行くつもりではあるが、一応、黒綿棒に尋ねてみた。
「コンビニはもはや僕らの顔を覚えているからとても行きづらい。水でも食べられないことはないけども非常に不味い。ビルのトイレに行けば36度くらいのお湯は出るけども3分後にはほぼ水になっている。ホームレスの間で人気なのはトイレとかに併設されている授乳室かな」
授乳室では粉ミルクを溶かすためのお湯が出る。温度は60度ほどで、ギリギリ美味いカップ麺が作れるという。「冬は足を洗っているホームレスもいる」というが、衛生的には大問題である。
以前、黒綿棒がバスタ新宿の授乳室で身体を拭いていたときのこと。バスタ新宿の敷地内で、「女性が縛られている」という通報(この通報も謎だが詳細はわからず)があり、警官が駆け付けた。鍵のかかった授乳室を不審に思った警官にドアをノックされ、黒綿棒は思わず「すみません、今ちょっと」と声を出してしまった。
「今すぐ開けろ」と警官が外で騒いでいる。これは開けるまで終わらないだろうと悟った黒綿棒は観念してドアを開けた。中から出てきたのは擦り切れたズボン姿のホームレス感丸出しの男一人である。「ここ授乳室ですよ?」と、警官からキツ目の注意を受けた。
黒綿棒いわく、通行人からの差し入れを島野君が受け取るのは珍しいことだという。後日、どこからかもらってきた弁当を食べている黒綿棒を見て、「その弁当は新型コロナウイルスワクチンのボランティアがもらうやつだ!」と、通りがかりのおじさんがいきなり大声で指をさしたことがあった。
となりにいた私も戸惑ったが、さらに困るのは黒綿棒だ。「あ、はい……」と下を向きながら口の中の白飯を一秒でも早く呑み込もうとしていた。その弁当はおじさんの言う通り、ワクチン接種会場のボランティアが分けてくれたものであったが、その際も島野君は「いらないです」と断った。
「島野君は非常に気高いところがあるからね。“俺は乞食なんかじゃねえぞ”って感じなのかな。それと、彼が自覚してやっているかはわからないけども、通行人からの食べ物を断っていると、だんだん差し入れのグレードが上がっていくという現象が起きる」
黒綿棒によると、差し入れを断られた一般人が、次からもっといい差し入れを持って出直してくることがあるらしい。
「ある日、島野君に千円札をあげている通行人がいたんだ。でも、となりにいる僕にはくれないんだよ。気が付かないフリをしたけど、内心“嘘だろ”と思っていたからね」
〈 台風でも、飢餓でもない…“路上生活2年目男性”が明かした「ホームレス人生最大の危機」 〉へ続く
(國友 公司/Webオリジナル(外部転載))
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