脳科学者が語る、何歳になっても脳は変えられる
最新科学に基づく脳のメンテナンス法(1)
クリステン・ウィルミア=脳神経科学者
環境ストレスにも注意が必要
ストレスについて語るのであれば、その影響に大きく関わるホルモンのコルチゾールに触れないわけにはいかない。私たちがストレスを受けると、コルチゾールが生成される。少量のコルチゾールは必ずしも有害ではなく、むしろいくらかメリットがある。しかし、多すぎるコルチゾールは、体重増加から睡眠障害、海馬の萎縮、集中力や記憶力の低下まで、様々な害を及ぼす。また、コルチゾールは、扁桃体を太らせ、その働きを強化する。扁桃体は脳の深部にあるアーモンド形の器官で、記憶に情動的な意味づけをする。扁桃体が大きくなり活発に働くようになると、人は恐怖と不安に対して敏感になる。
慢性的なストレスは、もう一つの悪影響を脳にもたらす。それは白質が増えることだ。白質は、脳の組織の半分を占める脂質の多い組織で、ニューロンの軸索(神経線維)が走行している。白質が増えると、灰白質のスペースが狭くなる。灰白質は、ニューロンの細胞体が集まっている領域で、体、情動、行動、感覚の情報はすべてそこで処理されている。白質と灰白質のバランスが崩れると、情動と認知の問題が生じることがあり、それらはストレスが消えた後も続く可能性がある。
多くの人はストレスの原因を、精神的に苦しい出来事や仕事上のプレッシャー、お金のやり繰り、子どもや家族の世話といった日常の問題と結びつける。だが、ストレスは別の形でも生じる。身体的なストレスは、関節炎、糖尿病、認知症などの病気がきっかけで生じることがあり、高血圧、食生活の乱れ、睡眠不足、慢性的な脱水によっても生じる。働きすぎや、逆に体を動かさないことも、慢性ストレスの原因になる。
さらに私たちは、精神的、情動的、身体的なストレスに加え、環境ストレスにもさらされている。環境ストレスの問題は、現代社会でますます大きくなっている。食べる物、飲む物、着る物、肌につける物、家庭やオフィスで使う物など、あらゆる物に化学物質が使われているからだ。呼吸する大気に含まれる汚染物質もストレスを増大させ、脳に害を及ぼし、認知機能の低下や認知障害のリスクを高めている。
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「血のめぐりを増やす」「ストレスを減らす」という二つを踏まえて、全3回連載の次回は、「10分で脳を活性化する10の方法」をお送りする。
日ごろの手入れで、脳は見違えるように変わる!
体のほかの部位や器官と同じく、脳もこまめに手入れをすれば見違えるように状態が改善され、発揮されるパフォーマンスが上がります。現在のコロナ禍で生じているストレスや不安は脳の健康を蝕(むしば)む大敵であり、今こそ脳のケアが求められています。
本書の著者で脳科学者のクリステン・ウィルミア氏は、アメリカンフットボール選手の脳損傷の実態解明とその治療に関する研究で大きな注目を集めた気鋭の脳科学者です。彼女は豊富な治療経験から、「脳の構造は非常に複雑だが、脳を変えるのは簡単。ライフスタイルを少し見直せばいいだけ」と語ります。そのノウハウを凝縮した本書では、科学的に裏付けられた脳にいい食事、運動、サプリメントは何か、脳に有害なストレスの撃退法などを、分かりやすく、具体的に解説します。
脳神経科学者(Ph.D.)