「”ライチェス、お前のマスターの定義は何だ?“」
俺の質問にライチェスは律儀に言葉を並べ立てて答える。
専門用語が多すぎて聞き取れないが、セルカがテレパシーで解説してくれた。
要するに旧人類で、【人類存続委員会】なる世界政府のような組織から任命された者。また、何らかの理由でマスター権限を持つ者がいなくなり、人類存続委員会とのコンタクトが取れない場合はライチェス自身が認めた者をマスターとして暫定的に登録できる、という情報も確認できた。
「“ライチェス、俺はマスター登録の条件を満たしているか?”」
その問いかけにライチェスは一瞬フリーズしたかのように動きを止めた。
そして──
『“否定する”』
そう言った。
可能性が一つ消えたが、この程度は計算のうちだ。
「“なぜだ?”」
『“君の目的と私の使命は相容れない。現在の君の目的はこの研究所からの脱出、及びセルカの解放と推測されるが──それらは許容できない”』
「“──俺たちもセルカもここから出すわけにはいかないと?”」
『“肯定する”』
『──やっぱりね。相変わらず頑固者だこと』
テレパシーでセルカが溜息を吐くのが伝わってくる。
「“なら──お前の使命ってのは何だ?セルカの収容か?”」
『“それだけには留まらない。この研究所は魔法生物の収容・研究並びにその存在の隠匿、機密保持をも目的に含んでいる。セルカの存在は最重要機密【軍機】に該当。収容の解除はレベルⅩ権限を持つ職員の判断で必要とされた場合のみ。セルカの存在を知った君もこの研究所から出すことはできない”』
俺は頭を抱えたくなった。
この研究所でセルカを創り出した連中も、セルカの扱いを決めるらしい職員も、もうこの世にはいないし、彼らの敵だって同じだ。
なのに、いつまでも彼らがいた時代の規則や任務に縋り付いて頑なに守り続けるライチェスは所詮プログラムに縛られている機械なのだ。
やはり案内人の加護の光は正しかった。
俺の味方になる存在はセルカの方で、ライチェスは立ちはだかる障害。
そしてその障害を除く手立てはセルカが教えてくれる。
「“そうか。分かった。なら──お前は
『“何を言っている?状況が見えていないようだな”』
ライチェスが指示したらしく、ロボットたちが一斉に腕を俺の方に向ける。
だが、ここで怯んではいけない。
「“いいや。できないはずだ。お前が殺傷を許可された対象は新人類あるいはその眷属と断定できる相手だけ。違うか?”」
『“──戯言を”』
ライチェスはそう言って、凄むように一つ目の輝きを増したが、反論はしてこなかった。
俺はすかさず畳み掛ける。
「“ならなんでそう呟く前に俺を撃たないんだ?”」
ライチェスは答えに窮したのか、沈黙する。
「“お前には俺が完全な新人類であるとは断定できない。お前は俺が新人類が使っているはずのない日本語を話せることと、遺伝子情報に旧人類の痕跡があることを知ってしまった。俺を殺傷することはお前のプログラムが許さない。違うか?”」
すると今度はライチェスは反論してきた。
『“新人類でなくとも、彼らに与する裏切り者、あるいは洗脳された者と判断されたなら、私は停止できる”』
一つ目に電光を纏っているが、俺は怯えるどころか感心すらする。
機械でも虚勢を張るものなのか、と。
尤も、セルカがテレパシーで教えてくれた情報がなかったら、こんな余裕は持てなかっただろうけど。
やっぱり俺の味方はセルカで間違いない。
「“裏切り者?旧人類の陣営は既にない。新人類だって旧人類との戦争があったことすら誰も知らない。どちらの陣営も既になくなっているのに、どうして俺が裏切り者だと?それに洗脳されているかどうか見分ける方法があるのなら、俺が洗脳されているか否かはお前も分かっているはずだ”」
ライチェスは答えない。
「“止めたいなら、俺を殺すしかないぞ”」
そう言って俺は歩き出す。
『“止まれ!”』
ライチェスは立ちはだかったが、俺は鏡花水月を自分に対して使い、あっさりと横をすり抜けた。
その先でロボットが俺を通せんぼするが、魔力で強化された腕で押しのける。
「“どいてくれ”」
ロボットの手は俺を捕らえられず、俺はコントロールパネルの前に辿り着く。
ディスプレイが灯り、認証画面が出てきたのでカードキーをかざすと、承認され、メインメニューが現れる。
『“何をするつもりだ?”』
背後からライチェスの声が聞こえる。
「“知れたことさ。セルカを解放する。その前に俺の仲間の解放だな”」
『“警告する。作業を直ちに停止し、床に伏せろ”』
俺の背後にロボットたちがズラリと並ぶ。
「“断る”」
振り返らずに黙々とセルカにテレパシーで指示される通りにパネルを操作する。
ドアが開き、カプセルに入れられたティナとアーヴリルがコントロールセンターに入ってきた。チラッと見ると二人の身体には火傷のような跡があった。
湧き起こる激情に思わず歯を食い縛る。
カプセルが俺の方に近づいてくると、ライチェスは次の手を繰り出した。
『“再度警告。床に伏せろ。仲間の命が惜しければな”』
ロボットたちがカプセルを取り押さえ、中の二人にレーザーガンを向ける。
──人質とは中々に古典的な手を使うんだな。
確かに新人類と断定できなくなった俺と違い、ティナとアーヴリルなら、ライチェスは新人類と断定して殺せる。
だが、そんな手に引っかかるほど俺は馬鹿ではない。
ライチェスに屈したところで全員ここから出られずに野垂れ死にするだけだ。
それにカプセルはギリギリとはいえ、鏡花水月の有効範囲内に位置している。
もし撃たれても中の二人には当たらない。
だがそのことを言ってやる義理もないので、別の台詞を用意する。
「“──人質に取られた時点で死んだも同じだ。お前の思い通りにはならないぞ”」
操作は残すところカードキーでの認証だけとなった。
不意にロボットが俺をパネルから引き離そうと手を伸ばしてきたが、その手は俺を掴めない。
鏡花水月であらぬ方向へと逸れて空を切るだけだ。
その間に俺はカードキーをパネルにかざす。
カードキー目掛けてレーザーが放たれたが、これも逸れていった。
認証が完了し、最終意思確認と題されたウィンドウが現れる。
本当に収容設備の機能を停止するか。
当然、イエスに決まっている。
『“よせ!!”』
ライチェスが叫んだが、構わずにイエスをタップした。
『ありがと!今行くわ!』
セルカがテレパシーで感謝を伝えてくる。
──正直恐ろしい賭けだった。
セルカがカンニングペーパーならぬカンニングボイスで助けてくれなかったら、そしてライチェスがどこまでもプログラムに忠実な頑固者でなければ、俺は殺されていただろう。
つくづく俺は無力なものだと痛感する。
◇◇◇
コントロールセンターに警報が鳴り響く。
壁のディスプレイには「!」のマークが付いたウィンドウがいくつも現れ、赤く点滅している。
『“地下二十階七番収容室にて収容違反発生。繰り返す。地下二十階七番収容室にて収容違反発生。コードブラック。地下第四階層区画をパージ。インパクトショット、起動”』
ライチェスが俺への興味を失ったかのようにアナウンスを発する。
ロボットたちは急に大人しくなり、腕を下ろしてしまう。
俺はティナとアーヴリルの入れられたカプセルを引き寄せたが、ロボットたちは気にした様子もなく、棒立ちのままだ。次の指示があるまで動けないのだろうか。
カプセルを開き、二人の脈を取る。
二人とも生きていた。
意識はなく、全身に火傷のような傷ができているが、それでも生きていた。
「よかった──」
思わずホッと息を吐いた。
二人が死んでいたら、正気でいられたかどうか分からない。
意識が戻らないかと軽く頬を叩いてみたが、効果はなかった。
だがティナが僅かに呻き声を上げる。
その表情は明らかに痛がっているように見えた。
「何を──されたんだ?」
全身の火傷はおそらく拷問された痕だろう。
電撃か、あるいは火炙りかは分からないが、ティナとアーヴリルを酷い傷物にしてくれやがったライチェスに怒りが沸々と湧き上がる。
だが、今の俺には奴を倒せる武器はなく、セルカが来てくれるのを待つしかない。
程なく壁のディスプレイの赤い点滅が止まった。
『“地下第四階層区画、パージ完了。セルカ、殲滅──失敗”』
ライチェスが言い終わるや否や、轟音と共に何かがドアを突き破ってコントロールセンターに飛び込んできた。
『待たせたわね』
その声と共に棒立ちしていたロボットたちが一斉に斬り裂かれて倒れた。
『何!?』
斬撃を免れたライチェスも弾き飛ばされて部屋の隅に激突する。
攻撃を放ったのはなんと破壊されたはずの俺の鎧だった。
鎧は剣を手に俺とカプセルを庇うように立ちはだかる。
「え?なんで?」
その疑問への答えはテレパシーで返ってきた。
『私は魔素の薄いここでは存在を維持するだけで精一杯で、まともに魔法も使えないの。だから貴女の鎧を得物にさせてもらったわ』
見ると、破壊された背部が白い粘土のようなものに置き換わっている。また、鎧と剣の表面全体がうっすらと白い膜のようなものに覆われていた。
背部に赤い一つ目が現れ、俺の方を見て微笑むように細められる。
『いい感じよ。貴女の鎧』
どうやらセルカは俺の鎧と融合合体してこれを操り、物理攻撃で戦っている、ということらしい。
『“セルカァァァアアア!!”』
浮かび上がったライチェスが叫び声を上げる。
マゼンタ色のレンズはひび割れ、火花を散らしている。拳銃弾を弾き、レーザーをも通さなかったボディも大きく凹んでいた。
魔法を使わない単純な物理攻撃であそこまでダメージを負わせるあたり、セルカのパワーの凄まじさが窺える。
また、セルカが融合したことで鎧と剣の強度も上がっているようだ。
──実に頼もしい。
満身創痍で激昂するライチェスの方に向き直り、俺は清々しい笑顔で勝利宣言をする。
「“俺たちの勝ちだ”」
仲間は救出でき、セルカも解放した。
ここに来た目的は完全に果たされた。
俺の鎧を壊し、ティナとアーヴリルを酷い目に遭わせて、俺を散々追い回した挙句、自爆攻撃までしてきやがったライチェスが形勢逆転されて激昂しているのは最高にスカッとする。
セルカを長年閉じ込め、支配下に置いていたようでその実弱みを知られていた、というのも笑える。
まあ、俺でなければその弱みとて活かせなかったわけだが。
不意にライチェスが大人しくなった。
『“最上位収容対象【SELCA】収容違反。収容成功の見込み、なし。コードレッド。最終爆破処理を実行する。全職員は十分以内に施設より退避されたし”』
ライチェスが無機質な音声でそう言ったかと思うと、コントロールパネルにでかでかとタイマーが表示され、数字が減り始めた。
『まずい!この施設全体を自爆させる気だわ!逃げないと!』
セルカが叫ぶ。
『乗って!』
鎧の胸元が開き、鎧の手が俺を掴み上げてコックピットに放り込んだ。
セルカは鎧の左腕でティナとアーヴリルの入ったカプセルを抱え、ドア目掛けて走り出す。
『“行かせはしない!”』
ライチェスが立ちはだかり、レーザーを撃ってきたが、セルカはそれをものともせずに剣を振り抜き、ライチェスを一撃で両断する。
二つの半球体に分かれたライチェスが力なく床に落ち、直後に爆発した。
だが、俺たちはもうそこにはいない。
コントロールセンターの入り口を抜け、鎧の翼を広げてエレベーターシャフトを上昇していく。
『ここ!』
セルカが扉の一つを体当たりで破り、向こうの通路に飛び出した。
『ここからは走るわよ!揺れるけど我慢してね!』
そう言ってセルカは鎧の翼を畳み、走らせ始める。
『くぁwせdrftgyふじこ!』
不意に滅茶苦茶な電子音声が聞こえてきたかと思うと、目の前にライチェスが出現する。
『しつこいわね!』
セルカが剣を振るって斬り捨てるが、直後に角を曲がった先に今度は多数のロボットが待ち構えていた。
放たれたレーザーに耐えつつセルカは素早く後退して隠れる。
『──背後を任せても?』
唐突にセルカは言った。
『正面に防御力を集中して突破するわ。貴女には空間歪曲で背後からの攻撃を逸らして欲しいのだけれど。大丈夫かしら?』
「──正直もう魔力が殆ど底を突いてる。良くてあと一、二回ってとこだな」
身体の方も痛みと出血で凄まじい疲労感を感じる。
『──なら、私が少し分けるわ』
セルカの白い身体から触手が伸びて俺の額に触れた。
瞬間、身体中から痛みが引いていく。
完全にはなくならなかったが、それでもだいぶマシにはなった。
殆ど空っ穴だった魔力もだいぶ回復している。
これならまだ戦えそうだ。
『いけるかしら?』
「──ああ。後ろは任された」
俺はコックピットを出てベルトを外し、鎧の頭と俺のズボンを繋いだ。
これで足を滑らせたりバランスを崩したりしても振り落とされはしないはずだ。
『行くわよ!』
セルカが走り出す。
前は見ない。後ろから撃ってくるやつにだけ注意する。
だがセルカは実に有能で強力だった。
俺の目に入るのは斬られたロボットの残骸ばかりで俺は手持ち無沙汰だ。
タイムリミットはあと三分弱。
──間に合うのか?その不安が胸をよぎった時、セルカが叫んだ。
『気を付けて!後ろから来るわよ!』
直後、鎧の背後に十体以上のライチェスが出現した。
セルカがすかさず鎧の右手に持った剣で俺の身体を隠してガードする。
『『『『『にggggえrnなアアアアアア!!』』』』』
バグっているような気持ち悪い叫び声を上げて追ってくるライチェスが滅茶苦茶にレーザーを乱射してきて、鎧と剣があちこち赤熱化し始めた。
「なんだよお前!壊れたのか?」
鏡花水月をフル稼働させながら俺は毒づく。
『あいつにもアイデンティティ──自我が芽生えていたみたいね。その根底を崩されたら自棄になって発狂しても不思議じゃないわ。──人間みたいにね』
セルカは少し哀しげな声で言った。
苦手ではあれど、今まで生き残っていた唯一の知り合いの末路を哀れんでいるのだろうか。
だがそんなこと知ったことではない。
自棄になってすることが自爆だなんていい迷惑である。
おまけにその自我の根底とやらはセルカを閉じ込めて隠し続けるという任務──全くもって気持ち悪い。
「お前の役目はとっくに終わったんだよ!ライチェス!いい加減休んどけよ!」
鏡花水月でレーザーを打ち返してライチェスを一つずつ撃墜していくが、ライチェスは撃墜されたものから次々に爆発していく。
その度に爆風を浴びることになり、俺は鎧の頭部に打ちつけられたり、火傷したりで散々である。
なんて迷惑な機械だろうか。
『ごめんね。後で治療魔法使うから』
セルカが気遣ってくれたのはせめてもの慰めである。
ようやく最後のライチェスを撃墜したかと思いきや、もう一体出現した。
ただ、今までのライチェスとは大きさが違う。直径一メートルはあろうかと思うほどの巨大さである。
その巨大なライチェスが相変わらずバグった叫び声を上げて追いかけてくる。
『にggggあアアアsswnあああいいいいいい!!』
『やっと私の知っている姿になったわね』
鎧の背部に目を出現させたセルカが皮肉を言うが、その声はどこか焦っているように思える。
巨大なライチェスはさっきまでと違ってレーザーを撃ってはこなかったが、その代わりどんどん追いついてくる。
あれに目の前で自爆されたら、俺は間違いなく死ぬ。
できればセルカに破壊してもらいたいところだが、この狭い通路では鎧の影に隠れていても爆風は襲いかかってくる可能性が高い。
どうしたものかと考えあぐねていると、セルカが指示を出してきた。
『もう少しで格納庫に出るわ!そこで私が倒すから、どうにかして時間を稼いで!』
「格納庫ってあの馬鹿でっかい部屋のことか?」
『そう!あそこなら自爆されても貴女を守れるわ!』
──どうやらセルカを信じるしかないようだ。
だが俺はもう飛び道具を持っていないし、向こうも飛び道具を撃ってこない状況でどうやって追いつかれないように時間を稼ぐ?
何か投げつけるか?
でも一体何を──そうだ!
俺は刃が欠損した剣を鞘から抜いた。
投げつけるものと言ったらもう身に付けている装備品しかない。
せっかくニコラ師匠が選んでくれた剣だが、命には代えられない。
物に執着して何よりも大事な命を失うことなどあってはなりません、と師匠も言っていたことだしな。
殆ど柄だけになってしまった剣をライチェス目掛けて投擲する。
ライチェスは避ける気もなかったのか、レンズに剣が直撃した。
しかしレンズにはヒビ一つ入らず、ライチェスは何事もなかったかのように追ってくる。
「クソッ!駄目か」
吐き捨ててガントレットを外しにかかった。
飛び出しナイフを失ったガントレットはもう役に立ちそうにないが、それでも柄だけになった剣よりは重量があるので、投げつけるには良さそうだ。
今度は魔力で腕力を極限まで強化し、渾身の力で投げつける。
しかし、集中が乱れたか、レンズのすぐ外側のボディに当たって跳ね返ってしまう。
しまったと思ったが、ガントレットはまだもう一つある。
今度は外せない。
残った集中力を掻き集めて自分自身とライチェスの未来位置を予測し、鎧の両足が宙に浮く一瞬で投擲する。
ライチェスの一つ目にガントレットがめり込んだ。
『gがアアアアアア!!』
ライチェスは悲鳴のような叫び声を上げて通路の壁に激突し、大きく距離が開いた。
「やった!」
安堵も束の間、通路が地震のように大きく揺れた。
『始まったわ!』
セルカが叫ぶ。
どうやらタイムリミットが来て遺跡が自爆し始めたようだ。
『おmmmmあえアアアアアアむおおおおお!むむむみいいいちづええええええ!!』
レンズの割れた一つ目にガントレットがめり込んだままのライチェスが再び迫ってくる。
「しぶといな。セルカ!格納庫はまだか!」
『出るわよ!』
鎧が扉に体当たりしたらしく、強い衝撃が走る。
俺はまたしても鎧に身体を打ちつけてしまった。
クソが。乱暴運転にも程があるだろ。
『文句なら後で聞くわ。ライチェスをやるわよ!』
方向転換に備え、俺は鎧の頭部の飾りにしがみつく。
鎧が振り向き、ライチェス目掛けて剣を思い切り突き刺した。
弾みでベルトが切れ、俺は振り落とされたが、何とか受け身を取って着地した。
『セエエエエrrrrrウウウカアアアアア!!』
ライチェスが叫ぶが、セルカはきっぱりと言い放った。
『悪いけど、しつこい奴は嫌いよ!』
そして剣を手放し、ライチェスを思い切り遠くに蹴飛ばした。
直後、ライチェスは大爆発を起こし、突き刺さった剣ごと四散する。
セルカが咄嗟に覆い被さって守ってくれなかったら、衝撃と爆風で吹っ飛ばされていただろう。
実際爆風をモロに受けた鎧の背中には細かい破片がいくつも突き刺さっていた。
『大丈夫?』
だがセルカは自分の怪我などお構いなしに俺の心配をしてくる。
「ああ、なんとかな。その──ありがとう」
乱暴運転と俺を振り落とした罪などセルカが俺にしてくれたことを思えば些細なことだ。
『よかった。さあ乗って。もうすぐここも火の海よ』
鎧の胸元が開き、俺はコックピットに飛び込んだ。
セルカは鎧の翼を広げ、マゼンタ色の炎を噴き出して飛び立つ。
背後で爆発音がしたかと思うと、眼下の床が爆発した。
仕込まれていた爆弾が次々に起爆しているようだ。
格納庫が炎と黒煙で満たされ始める。
視界ゼロの闇の中を俺たちは飛ぶ。
『出口よ!』
セルカが叫び、鎧が手足を後ろ向きに伸ばして前方の面積を減らす体勢を取る。
暗闇の中に微かに光が見えたかと思うと、視界が真っ白に染まる。
眩しさに思わず目を細めた。
どうやら俺たちが入ってきた穴から外に出たようだ。
安堵したその時、セルカが叫ぶ。
『衝撃に備えて!』
直後、鎧は後ろから強い力で押されたように大きく揺れた。
振り返ると、俺たちが出てきた穴から火山のようにもうもうと炎と黒煙が噴き出していた。
そして【大墳墓】と呼ばれた山がゆっくりと崩壊し始める。
木も岩も、そこにいるであろう動物やモンスターまでも、全てが土煙に覆われて地中へと引きずり込まれていく。
そして現れるのは巨大なクレーターだった。
そのクレーターを中心に衝撃波が土煙を巻き上げながら島全体に広がっていく。
俺たちはその様子を上空から見ていることしかできなかった。