俺は天空国家の悪徳領主!   作:鈴名ひまり

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ちょっと短め


実体のない武器

『君には質問することが増えた。取調室に来てもらおう』

 

 ライチェスがそう言うとシールドが移動し始める。

 シールドが指先に触れた途端、「バチッ」と音がして衝撃と痛みが走る。

 

『無駄だ。痛みが増えるだけだ』

 

 ライチェスが冷ややかな電子音声で言った。

 

「おい、俺の仲間はどこだ!」

 

 ライチェスを怒鳴りつけたが、答えは返ってこない。

 

『答える義務はない』

 

 俺の頭を最悪の想像がよぎる。

 

 瞬間、俺は痛みにも構わずシールドに両手の拳を叩きつけていた。

 

「てめぇまさか殺したのか!俺の大事な──ティナと、アーヴリルを!」

 

 シールドを叩いても衝撃と痛みが走るだけで通り抜けることはできなかった。

 蹴ってもそれは同じ。

 電撃を受けた肌が火傷を起こしてさらなる痛みをもたらす。

 体内の魔力が俺の身体を修復してくれるが、治療魔法を使えない俺ではそのスピードは鈍い。

 

『やめて!無駄よ。エネルギーシールドは内側からは破れないわ!』

 

 セルカがテレパシーで叫んでくる。

 どうやら視聴覚だけでなく、痛覚まで共有しているようだ。

 だがこのまま大人しくしていろと言うのなら同意しかねる。

 何とかしてシールドを突破しなければ。

 

(おい、そのエネルギーシールドってのはジェネレーターか何かから出ているのか?)

『え?ああ、ジェネレーターは貴女の真上よ。でも──』

 

 セルカが言い終わるよりも先に頭上を見上げる。

 

 たしかに天井に丸い機械がぶら下がっていてそこからシールドが展開されているようだ。

 

 素早くジェネレーターの真下から退避し、鏡花水月を発動した。

 

『何!?シールドを破ったか!』

 

 俺の周囲のシールドが消えたかと思うと、シールドが急に展開される向きを変え、歪な形になりながら天井に向かっていき、ジェネレーターを覆い隠した。

 俺はすかさずジェネレーターから遠く離れて鏡花水月を解除すると、拳銃を抜いてジェネレーターを撃った。

 ジェネレーターが火花を散らし、シールドが完全に消失する。

 

『馬鹿な──何の魔法を使った?』

 

 唖然としたように固まるライチェスが問いかけてくる。

 

「さあな。教えてやる義理はない。ただ、破ったと言うより()()()()ってとこだな」

『──めくった?』

 

 ジェネレーターの真下の空間を弄ったのだ。

 別にジェネレーターはおかしくなってなどいない。愚直に()()に向かってシールドを張り続けている。ただ弄られた空間の外側からは()()()()()()()()()()()()()()()()()だけである。

 

 だがライチェスには理解できなかったようだ。

 まあ無理もない。鏡花水月は初見殺しにも程があるし、タネが分かっても簡単にどうこうできるものでもないからな。

 

「さてと、さっきの質問の答えをまだ聞いてないぞ。俺の仲間はどこだ?」

 

 拳銃を向けて問い詰めると、ライチェスは一つ目の輝きを一層増した。

 

『君の仲間は取調室にて調べさせてもらった。結果新人類は最早我々の脅威たり得ないほどに弱体化したとの結論が出たが──君はその結論を覆すに足ると判断。抹殺する予定だったが、方針を修正しよう。君は仲間共々生きた状態で研究解析させてもらう』

 

 どうやらティナとアーヴリルはまだ死んだというわけではないようだ。

 今どこにいるのかは言わなかったが、殺したと明言しなかっただけでも十分だ。

 それよりも今はライチェスをどうにかしなければならない。

 

「はっ、そうかよ。所詮研究材料ってか!?」

 

 ライチェスの一つ目目掛けて拳銃を撃ったが、ライチェスが素早くボディを回転させた。

 弾はボディの金属部分に当たり、甲高い音を立てて跳弾する。

 

『気を付けて!レーザーが来るわよ!』

 

 セルカがテレパシーで警告してくる。

 

 鏡花水月を発動した直後、赤い光線がライチェスの一つ目から放たれる。

 だが俺には当たらず、曲がって天井を焼いた。

 

『──馬鹿な!直進していたはず!』

「ああ、そうだろうな。センサー上ではな!」

 

 動揺したような声を発するライチェスをせせら笑い、俺は鏡花水月を発動したまま距離を詰める。

 

 ライチェスは逃げながらまたレーザーを撃ってきたが、難なく逸らし、ついでに打ち返してやった。

 残念ながらダメージにはならなかったが、ライチェスの動揺は大きくなったようだ。

 

『オプチカルシーカーの不具合?違う──センサー』

「ボサッとしてるんじゃねえよ!」

 

 壁を蹴ってライチェスに飛びかかり、球形のボディを捕まえて床に叩きつけた。

 ライチェスは球体のくせにやけに強い力で逃れようとするが、そうはいかない。

 

 一つ目が露出した瞬間、拳銃の銃口を押し当てて引き金を引いた。

 それとほぼ同時にライチェスがレーザーを発射し、拳銃が融解する。

 だが、ダメージは通ったらしく、レンズが割れて火花を散らしている。

 

 俺は素早くガントレットの飛び出しナイフを展開し、トドメを刺すべく割れたレンズ目掛けて突き刺した。

 魔法で強度を増した刃が深々とライチェスの割れた一つ目に突き刺さり、マゼンタ色の輝きを奪う。

 壊れたフリをしているのかもしれないと考えてさらに何度か突き刺したが、ライチェスは動かなかった。

 

『もう機能停止しているわ』

 

 セルカの声が聞こえた。

 ライチェスは一つ目を原形を留めないほどに破壊され、断続的に火花を散らすだけになっていた。

 

 どうやら倒したようだと一息ついて飛び出しナイフをしまう。

 

『それにしても貴女──さっきの空間歪曲はどこで覚えたのかしら?』

「空間歪曲──あぁ、タネ分かったのか」

 

 セルカの問いかけに俺は答えるのを躊躇った。

 俺の切り札である鏡花水月の仕組み──誰にも知られたくない秘密を初見で見破ったセルカに対して再び警戒心が湧き上がったのだ。

 

「──そんなの、どうだっていいだろ。それより早く俺の仲間を探す方法を教えてくれ」

 

 強引に話題を逸らし、ディスプレイの前に戻って操作説明を要求した。

 とにかくこっちは一刻も早くティナとアーヴリルの安否と所在が知りたいのだ。

 

『つれないのね。まぁいいわ。まずは手動スイッチを押してコントロールパネルを起動して──』

 

 セルカは食い下がることなく説明を始めてくれたが、その声を遮って聞き覚えのある声が部屋に響いた。

 

 

『驚いた。私を()()()()()()とはな』

 

 

 はっと振り向くと、倒したはずのライチェスが浮かんでいた。

 

「は?なんで──?」

 

 床に目をやると倒したライチェスの残骸は確かにそこに転がっている。

 

『ライチェス──あんたまさか子機をぞう──』

 

 セルカの声はライチェスに気を取られて最後まで聞き取れなかった。

 

『カードキーを理解し、ライトマイヤー博士のカードキーを用いて地下二十階七番収容室並びにコントロールセンターへの侵入を果たしたばかりか、未知の魔法を使用し、私を一体破壊した──警戒レベルを最大に引き上げ。方針を再度修正。抹殺に変更する』

 

 ライチェスがそう宣言した直後、ドアが開いてロボットたちが入ってきた。

 

 拳銃はもう使えない。武器は左右のガントレットの飛び出しナイフと己の肉体のみ。

 だが武器がないからといって大人しくやられるわけにはいかない。

 

 ロボットたちが俺を囲もうと散らばり始めるが、全身の筋肉を縮めて一気に解き放ち、一番端のやつに飛びかかる。

 赤く光る一つ目に刃を突き刺して倒し、そいつを盾にしながら鏡花水月を発動した。

 放たれたレーザーを一つ一つ打ち返してロボットたちの一つ目を焼き潰していく。

 

『後ろよ!』

 

 セルカが警告してくるが、とっくにお見通しである。

 ライチェスがロボットたちを囮にしつつ、背後に回り込んでいる。

 光学迷彩か何かを使って透明化しているようだが、その程度では魔力で相手の存在を感知できる俺を欺くことはできない。

 至近距離まで忍び寄って不可避の一撃を撃ち込もうとしていたが、逆にのこのこと俺のリーチに入ってしまった形だ。

 

 振り向きざまに渾身のパンチを放つと、マゼンタ色の一つ目にクリーンヒットし、飛び出しナイフがど真ん中に突き刺さった。

 今度はもっと念入りに壊すべく、魔法でナイフに微細な風刃を纏わせていた。突き刺さった瞬間にそれを解き放ち、ライチェスのボディの内部で暴れさせた。

 

 ライチェスは先程よりも大量の火花を散らし、バチバチと放電したかと思うと、ポトリと床に落ちた。

 

 床に転がる球形の残骸が二つに増えるが、ほとんど同時に新たな球体が二つ現れる。

 しかもどこかから出てきたのではなく、()()()()()()()()()()()した。まるでワープでもして来たかのように。

 

「またかよ!」

 

 毒づく俺を二体のライチェスがせせら笑う。

 

『いくら倒しても無駄だ。私の代わりはいくらでもある。無闇に壊されても後始末に少々困るが──君の魔力とて無尽蔵ではあるまい。このまま抵抗し続けたところで君は私に勝つことはできない』

 

 それって何か?俺が倒した二体と新手の二体──合計四体のライチェスはどこかの可愛らしい小動物の皮を被った外道(キュ○べえ)みたく、全部ただの端末でいくら倒しても本体にはダメージを与えられないってことか?それってある種の無限復活──チートじゃないか!

 

「ひ、卑怯だろうが!」

 

 思わずらしくもないことを叫んでしまった。

 

 そして次の瞬間、激しい自己嫌悪が湧き起こる。

 

 世の中力が全てだと悟って、悪徳領主を目指すと決めたのに──まだ俺は言葉での虚しい抗議しかできない弱虫から抜け出せないのか。

 

『おや、それはありがとう』

 

 ライチェスは予想外の返事をしてきた。

 

「は?お前壊れてんのか?お礼なんか言いやがって──」

『戦いで卑怯は褒め言葉である。そう学習しているが──君の価値観では違うのか?』

 

 卑怯が褒め言葉、か。

 たぶんそれは怨嗟の言葉をぶつけるしかないくらいに力の差がある相手だと認めている──ということなのだろうが、言った本人は褒めているつもりなど毛頭ないだろう。

 実際俺にはない。

 

「違うな。というか、どこから湧いて出てきやがる」

『教えてやる義理はない。さて、複数方向からの予測困難な同時攻撃──君は凌げるかな?』

 

 二体のライチェスが別々に高速で飛び回り始める。

 

 そのスピードは肉眼ではほとんど捕捉できないほどだが、俺は魔力での空間把握を使ってなんとか捉えている。

 

 ライチェスの一体がレーザーを放ってきた。

 鏡花水月で打ち返すが、高速で飛び回るライチェスには照準が追いつかず、当たらない。

 

 すかさずもう一体のライチェスが真上から脳天目掛けてレーザーを放ってくる。

 それも鏡花水月で逸らしたが、防戦一方になっていてはいずれ魔力か集中力が切れてやられてしまう。

 

 部屋を走り、倒したロボットの残骸を一つ掴んで思い切り投げつける。

 未来位置を予測して投げたが、ライチェスは慣性を無視したかのような急制動で回避した。

 だが()()()()()()()だ。

 

 一瞬空中に静止したライチェスに全速力で突進して掴みかかり、レンズに飛び出しナイフを突き立てようとした時──

 

『駄目!!離れて!!』

 

 セルカの叫び声が聞こえた。

 反射的に跳び下がって距離を取るが、間に合わずに爆発に巻き込まれてしまった。

 

 なんとか致命傷は避けられたが、爆風で俺の身体は宙を舞い、体中にライチェスの破片がいくつも突き刺さる。

 激痛に思わず悲鳴が漏れるが、何とか受け身を取って床を転がり、衝撃を和らげる。

 起き上がろうとすると、額から何か液体が垂れてくる感覚があった。

 拭ってみると、手の甲に血がべっとりと付いていた。

 

「自爆だと!?」

 

 毒づく俺にライチェスは憎たらしいほどの冷静さで律儀に答える。

 

『指向性の攻撃は空間歪曲によって逸らされる。ならば全方位へ加害が及ぶ爆破攻撃で──そう考えるのは自然ではないか?』

 

 ──コイツのことを舐めていた。

 鏡花水月のタネと弱点を短時間で見破るとは、さすが人工知能だ。

 おまけに飽和攻撃と見せかけて、まんまと本命の爆弾を俺の内懐に飛び込ませるあたり、とんでもなく狡猾な奴だ。

 自爆攻撃のせいで俺は死にはしなかったものの、深刻なダメージを受けた。

 破片が突き刺さって痛む手足と止まらない出血が身体を鈍らせる。

 満足な食事と休息もないまま、空間把握や鏡花水月を連発したせいで魔力も底を突きかけている。

 

『もうやめて!これ以上抵抗したら死んでしまうわ!』

 

 セルカが立ち上がろうとする俺を制止する。

 

 この役立たずが、と罵倒が浮かんでくるが、さっきセルカが叫ばなかったら俺は確実に即死していただろう。

 

 ──全部俺が弱いからだ。弱いくせに幼稚な万能感に任せて突っ走ったからだ。

 

『──もう一度チャンスをやろう。降伏すればこの場は助けてやっても良い』

 

 残ったもう一体のライチェスが俺と目線の高さを合わせて囁く。

 

 ほとんど同時にドアが開いてまた十数体のロボットが部屋に入ってきた。

 扇形に広がって俺を取り囲み、レーザーガンを向けてくる。

 

 チラッとガントレットに目が行ったが、右の飛び出しナイフは折れて使い物にならなくなっていた。

 左のはいつの間にかレーザーに焼き切られ、赤熱化した溶断面を晒して床に転がっていた。

 もう武器はない。唯一残った肉体も重傷──万事休すだ。

 

 クソッ!こんな結末、認められるかよ!

 せっかく異世界転生して新しい人生を手に入れて、今度は自分の幸福をとことん追い求めてやるって思ったのに。それをこんなヤツに──

 

 思わず怨嗟の言葉が口を突いて漏れ出した。

 

 

 

「“ふざけるなよこの野郎──”」

 

 

 

 途端にライチェスは固まったかのようにレンズの動きを止めた。

 

『今何と言った?』

「あ?──ふざけるなよこの野郎って言ったんだよ」

 

 俺はよく考えもせずにさっき言ったことを復唱した。

 しかし、ライチェスはその答えに不満だったようだ。

 

『違う。君は先ほどそれを別の言語で言ったはずだ』

 

 ──別の言語?

 

 言われて思い返してみれば確かにさっき口から漏れ出てきたのはホルファート王国語ではなかった。

 

「──“日本語が出ていたか”」

 

 その呟きにライチェスは反応した。

 

『“君は日本語を知っているのか?どこで覚えた?”』

 

 電子音声らしい癖はあるものの、流暢な日本語を話すライチェス。

 

 ──これはチャンスかもしれない。

 

 どういうわけか、ライチェスは日本語を知っていて、しかも日本語を話せる俺に強い興味を持ったようだ。

 ライチェスから戦意を奪える可能性のある唯一の武器を図らずも手にした以上、絶対に使い方を間違えることは許されない。

 

「“覚えたも何も──俺の母国語だぞ”」

『“新人類が日本語を──あり得ない。これまで侵入して来た新人類の子孫は記録されている言語のいずれも使用していなかった”』

 

 ──新しい情報が入った。

 ライチェスはこれまでここに入った冒険者を何人も捕らえて調べたのだろう。

 テレパシーで言語の壁を超えられるセルカはともかく、機械であるライチェスがホルファート王国語を話していたのは不自然だったが、これでタネが分かった。

 

「“最初からこの世界で生まれ育った奴ならそうだろうな。でも俺は違う。お前が何と言おうと、俺は日本語が母国語だぞ。前世の、だけどな”」

 

 俺はカードを切った。

 これまでライチェスが捕らえてきた奴らと俺は中身が本質的に違う、と断言した。

 

『“前世?それは輪廻転生の概念を指しているのか?”』

「“分かるのか?それだよ。俺の前世は日本人だ。ちょっとした縁でこの世界に転生させられたけど、記憶はバッチリ残っているぞ”」

 

 ついさっきまで俺を殺そうとしていた敵が相手とはいえ、久々の日本語でのやりとりに妙な懐かしさと安心感を覚えてしまう。

 

『──それ、本当なの?』

 

 セルカが驚いた声で訊いてくる。

 

(──本当だよ。誰も信じちゃくれねえだろうけど)

 

 本音を言うなら、セルカにも聞かれたくはなかった。

 

 墓場まで持って行かなければならない俺の最重要機密であり、下手に知られたらどんな影響があるか分かったものではない。

 戯言で済めばまだ良いが、そんな戯言を口にする頭のおかしい奴、とでも噂が立ったら目も当てられない。

 俺が転生者だと知る奴は俺を社会的に殺せるに等しい。

 この場を切り抜けるためにやむなく明かしたが、これっきりにしたいものだ。

 

 ライチェスは固まったまましばし沈黙していたが、不意にレンズを絞って俺の身体を凝視して言った。

 

『“──再スキャンの必要性ありと判断。レベルⅤスキャンを開始”』

 

 俺の身体が赤い光に包まれる。

 

 その光が消えた後、ライチェスは至近距離まで近づいてきて言った。

 

『“遺伝子情報を解析した結果、新人類の遺伝子の中に旧人類の遺伝子の痕跡を確認した。──こんなことは前例がない”』

「“そうかよ。でも何だって最初があるだろ?”」

 

 ライチェスは考え込むように小刻みにレンズを動かしていたが、それが止まると再び問いかけてきた。

 

『“前世が日本人だと言ったな?戦時中の記憶はあるか?”』

「”いつの戦争だ?俺が生きていたのは平成だ。しかも職業はサラリーマン。戦争なんて経験しちゃいない。本当に──最後の方以外は幸せだったよ“」

 

 思い出したくないが、かと言って忘れたくもない地獄のような日々を思い出して少し気分が悪くなる。

 

『“転生した経緯を聞かせてもらっても?”』

 

 トラウマを抉ってくる気満々のライチェスを腹立たしく思いつつも、我慢して洗いざらいぶちまけた。俺の最期も、案内人の言動や所業も、全て。

 嘘を言ってもどうせ見破られるだろうし、それに相手はこの遺跡から動かない機械だ。俺が不快になること以外に損害はない。

 

 ライチェスは俺の話を遮らず、それでいて相槌の一つも打たずにじっと聞いていた。

 

 

◇◇◇

 

 

 俺の身の上話が終わっても、ライチェスは話し始めた時から微動だにしてなかった。

 トラウマだらけの転生経緯を話せと言っておいて、反応が一切ないというのは腹立たしいが、今の俺にはどうにもならない。

 

「”驚いたか?“」

 

 問いかけると、ライチェスはレンズをシュッと縮めてようやく言葉を発した。

 

『“君の話を妄想と断定はできない、という程度の信憑性ではあるが──妄想でここまで流暢な日本語は話せないだろう。君が生きたという時代の元号も実在したもの──非常に興味深い”』

 

 そしてライチェスはまた考え込むかのように沈黙に戻るが、いつの間にかロボットたちはレーザーガンを下ろしていた。

 俺に対する敵意は下がったようだ。

 

「“さっき言った案内人が俺の味方になる存在がいると言って俺をここに導いたんだ。で、ロボットに襲われて、逃げた先でセルカを見つけた。セルカの所に導いたのも多分案内人だ。でもお前は──何なんだ?”」

 

 そう言って俺は地図と欠損の激しいコンパスを取り出して見せた。

 

 案内人が言っていた俺の味方とは結局誰のことなのか、という疑問が俺の中に芽生えていた。

 案内人の加護と思しき光が俺をセルカの所へと導いたことからすると、セルカではないかと思うが、ここに来てライチェスである可能性も出てきた。

 このようなややこしい事態になるとは思ってもいなかった。

 光が導いた先にいて、俺に敵対的ではないセルカと、そのセルカに導かれた先にいて、強力なロボットたちを従えているライチェス──どちらも俺の味方たり得る。

 だから、答え合わせがしたかった。

 

 ライチェスは地図とコンパスをチラッと覗き込んで、考え込むようにレンズをしきりに動かしている。

 そして──

 

『“味方になる存在──確かに今の君を敵性種族と断定はできない。だが君の扱いは私自身には決めかねる。マスター権限を持つ人間が不在の今、君のようなイレギュラーな存在をどうするかの決定権は私にはない”』

 

 ライチェスは言い難そうにゆっくりとそう言った。

 

『──チャンスよ』

 

 不意にセルカの声が聞こえてきた。

 

『今の貴女ならできるわ。ここからの脱出も、私の解放も』

(どうやって?)

『それはね──────』

 

 

 

 セルカの答えを聞いた俺は迷いを断ち切り、腹を括ることにした。

 

 セルカの言う通りにしてティナとアーヴリルを救出し、ここを脱出する。

 さっきまで俺を新人類と呼んで殺そうとしていたライチェスよりは、セルカの方を俺は信じる。

 セルカは最初から俺に対して害意を持っていなかった。ちゃんとコントロールセンターまで俺を導いてくれた。シールドジェネレーターの場所を教えてくれた。ライチェスと違って、こちらの知られたくないことを根掘り葉掘り聞いてこなかった。ライチェスの自爆攻撃を警告してくれた。そして、この状況を切り抜けて脱出する方法も示してくれた。

 

 俺の味方はセルカの方。ライチェスが俺に対する敵意を下げたのはただの偶然であり、本質的には敵であることは変わりない──そう判断した。

 

 ──俺の判断が間違っていて、いつかセルカに牙を剥かれることになったなら、その時は彼女とも戦うまでだ。

 

 そして俺は深呼吸して、口を開く。

 

「“ライチェス──”」

 




アサ●ンブレードみたいな仕込み刃ってカッコいいよね

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