「池田」にはギネスブックにも登録された〝世界一長寿〟の動物がいる。大阪府池田市の北にある「五月山動物園」の人気者、オスのウォンバット「ワイン」君だ。御年34歳。人間ならゆうに100歳を超えているという。なぜ、そんなに長生きできているのだろう。「実は彼は〝奇跡〟のウォンバットなんです」と話すのは同動物園の瀬島幸三園長(50)。奇跡? それ知りたい! というわけで、動物園に行ってみました。
客の回転が速い
10月15日の日曜日、晴れ。汗ばむほどの陽気。
「五月山動物園」は池田市の北、五月山の麓にあり、敷地面積は4500平方メートル。福井県鯖江市の「西山動物園」に次いで、日本で2番目に〝小さな〟動物園なのだ。だから混んでないだろう-と思っていたら、なんと、3つある駐車場はどこも「満車」。何台も列を作って待っているではないか。
入れるかな…と心配したが、1台また1台と出たり入ったり。5分も待たずに駐車できた。
「ウチの動物園はゆっくり見て回っても1時間もかかりませんからね。お客さまの回転が速いんですよ」と瀬島園長。
さて、ウォンバット「ワイン」の長寿の秘訣だが、その前に-。
ワインが日本にやってきたのは1990(平成2)年のこと。池田市とオーストラリアのローンセストン市の姉妹提携25周年を記念して、タスマニア島からメスの「ワンダー」「ティア」と共にやってきた。
ワンダーとの間に2頭の女の子が生まれた。姉「サツキ」と妹「サクラ」。サクラは11歳、サツキは19歳まで生きた。その2頭も今はいない。
野生のウォンバットの寿命は5、6年。飼育下で10~20年といわれている。ワインの34歳は奇跡的な数字なのだ。
--長寿の秘訣は?
「ストレスを感じさせないようにしていることですかね。お客さまに見せるために-と無理をさせない。寝たいときに寝て食べたいときに食べる。お客さまの前に出るのもワインの気分しだい。だから、せっかく来たのに巣穴に籠って見られない-ってことも結構あるんですよ。いや、見られる方がラッキーかな」と瀬島園長にいわれ、慌ててワインのところへ。
いた! なんと悠然と草を食べているではないか。柵の周りには大勢のお客さんがスマホを向けている。筆者もパチリ。それがこの写真。瀬島園長は続けた。
「ウチの動物園では動物の種類ごとではなく、1頭1頭、その子に合った食事を作っています。かむ力が弱くなった子は小さく刻んであげたり、ときにはかみ砕く楽しさを忘れないように、あえて大きく切ったり。楽しく餌を食べてもらうことも長生きしてもらう秘訣ですかね」。人間と同じだ。
--そうそう、ワインは〝奇跡〟のウォンバットといいましたよね?
「その通り。実はワインは母親の袋の中にいるときに車にはねられたんです。母親は即死。普通は袋の中の子供も…。ところが、ワインは生きていた。そして動物園の人たちに育てられて日本にきたんです」
お母さんの命も受け継いだワイン。きっと長寿の秘密はそれに違いない-と思った。
親子連れに人気
天気のよい日曜日ということもあり、園内は超満員。そのほとんどがベビーカーを押し、小さな子供の手を引いた若い親子連れだ。
「ウチの動物園は入場料無料ですから来やすいんだと思いますよ。子供の機嫌が悪くなったら、〝また今度来ようか〟とすぐに帰ることができますからね」
たしかにお金を払っていればそうもいかない。だから、入場者の回転が速く、駐車場も長く待たずに入れたのだ。
「ワインが見れなくとも無料だったら〝しかたないね〟で終わります。だからといって手は抜いていませんよ。楽しさは大きな動物園にも負けていません」と瀬島園長は胸を張った。
「五月山動物園」にはウォンバットの他にワラビー、アルパカ、エミュー、ポニー、羊、ヤギ、陸亀、ウサギ、モルモット、ニワトリなどがおり、どのエリアも小さな子供たちでいっぱい。餌やりや触れ合いもできる。動物にこわごわ餌をやる子供たち。モルモットを抱っこして幸せそうな子供たち。
「この子たちにとって〝初めての動物園〟になれたら最高に幸せです。そして動物を好きになってほしいですね」
瀬島園長がうれしそうに微笑んだ。
夫婦の仲
現在、ワインを含めた4頭が五月山動物園で飼育されており、19歳で死んだワインの娘サツキは標本となって資料館に展示されている。
平成19年に新しいペア、オスの「フク」とメスの「アヤハ」がオーストラリアからやってきた。だが、アヤハは5歳で死亡。29年に新しいお嫁さん「マル」を迎えたが彼女も3歳で死亡した。
現在は〝独り身〟の「フク」と、同年にやってきたもう一組のカップル、オスの「コウ」とメスの「ユキ」が飼育されている。
このカップルに赤ちゃんができるのを期待したいところだが、瀬島園長は「無理かも」という。
「実はユキの方が強くて、コウが怖がってなかなか近づかないんですよ」
男女の関係は人間もウォンバットも同じ、ままならないのである。(田所龍一)
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