そこまで遡ってこれまでの経緯を追うなら、先に手を出したのは実はイスラエルの側ではなかったのか(ハマス=ロシア、ではなく、イスラエル=ロシア)、それが結局は、原初には存在しなかったハマスなどのイスラム強硬派を生むことになったのではないか、という見解も説得力を増してくる。

 さらに、イスラエルの建国がユダヤ人だけの力によるものではなく、それに欧米諸国が加担して今日に至っていることも、彼らが現在振り回す正義や普遍的価値なるものに胡散臭さを感じ取っているグローバルサウスの国々に、無条件でイスラエルの側に付くことを躊躇わせる。

 グローバルサウスの反欧米感情が、イスラエル・ハマス紛争で増幅されてしまった可能性すらある。

イスラエルの自衛権すら根拠失う可能性

 そうなると、イスラエルの「自衛権」そのものの根拠までぐらつきかねない。

 そのぐらつきは、一つ目の人道面から出される疑問によっても加速されていく――イスラエル軍によるガザへの空爆・ロケット攻撃や地上作戦は、自衛の範囲を超えたものではないのか。

 イスラエルに停戦をのませたなら、先に手を出したハマスがこれまで以上にやりたい放題になるという主張は、最重要点としての扱いを受けなくなる。

 それを支えている「便宜」の思想が、国際社会の即時停戦要求の前に崩れかけているのだ。

「先に手を出したハマス」への非難を明記せずに停戦を求める国連総会決議で、それに反対したイスラエル擁護の米国ほかは圧倒的な少数派に追い込まれてしまった。

 こうしたイスラエル・ハマス紛争の流れから逆算すれば、なぜロシア・ウクライナ紛争での停戦がいまだ「便宜」の背後に押しやられているのかの理由も浮かび上がる。

 ウクライナの首都キーウの市民生活などが映し出されれば、ガザのそれとの間で状況の深刻さに違いがあることが印象付けられてしまう。

 ロシア・ウクライナ紛争がこれまで犠牲を強いた一般市民の数が、イスラエル・ハマス紛争のそれに劣らないとしても、である。

 そして、2022年2月のロシア軍侵攻に至るまでの経緯や、ロシアがあえてその挙に踏み切った背景なり理由なりの報道や情報分析も、その広がりでイスラエル建国以来の歴史の堆積には敵すべきもない。