これは「先に手を出した方が悪い」という素朴な正義への感情にまずは訴える。それが理由で、ロシア・ウクライナ紛争では、多くが「ロシア=悪」という見方に傾いていく。

 イスラエル・ハマス紛争でも欧米諸国は同様に、今回先に手を出したのがハマスなら「ハマス=悪」であり、イスラエルの反撃はこれに対する自衛権の行使として認められねばならない 、と主張する。

 にもかからず、イスラエルがこの自衛権の名においてガザ地区を攻撃することに対しては、国際社会からの風当たりが強まっている。

イスラエルに風当たりが強まるわけ

 なぜなのか。大きな理由は2つ考えられるだろう。一つは人道主義の見地や心情から発している。

 イスラエルの「反撃」によって、ガザでは一般市民の犠牲者の数が急激に増加している。その悲惨な攻撃される側の現場の映像が、連日メディアで流される。

 どう報道されるか次第で、視聴する側の人道主義も左右される点はさておくとしよう。

 自分の命が明日どうなるかも分からない、という極度の不安と困難に突き落とされた人々の顔と声が連日画面に何度も映し出されれば、「もっとやれ」などとは間違っても並の神経で言えたものではあるまい。

 今一つの理由は、そもそもの議論の大前提として、最初に手を出したのはハマスだ、と言い切れるのか、という疑問である。

 これはパレスチナ問題のこれまでの経緯を振り返ることから生まれて来る。

 周知の通り、1993年のイスラエル・PLO(パレスチナ解放機構)間のオスロ合意以降、その合意事項の達成は果たされずにきた。

 イスラエルの政権が穏健派から強硬派に代わったこともあり、これまでにテロを含む双方からの攻撃が繰り返され、結果としてイスラエルはパレスチナ自治区に対する圧力を強めてきた。

 パレスチナの一般市民生活は圧迫され、ヨルダン川西岸へのユダヤ人入植も進められ、それを止めようとする国連や他国の諫めにイスラエルは全く耳を貸さずにいる。

 イスラエルは、ハマスなどの「テロリスト集団」の脅威に自国が晒されている以上、自衛手段としてパレスチナのアラブ系住民への対応を強めるしかないと考える。

 だが、イスラエル建国を可能にした1947年の国連決議自体が、従来のパレスチナ住民の意思とは無関係な植民地支配(当時は英国の委任統治下)の思想の所産だった、という指摘もある。