キョウシロウはいわゆる不良だ。仲間とつるんで悪さして、周辺の学校においても結構名をとどろかせていた。
僕、ミツアキはというと……キョウシロウのいいうさ晴らし役。つまり、いじめられていた。
飲み物買って来いとかパシリにされたり、言われなく殴られけられ暴力振るわれる、そういうやつ。
何かと呼び出されては物取られたり、笑いものにされたり、殴られたり、そんなの日常茶飯事だった。
完全にいじめだよ。けど教師に訴えたところでろくに相手してくれやしない。
キョウシロウにはかかわりたくない、自分もまきこまれたくない、そういう理由で。
教師すら手を焼いている、かもしれないけど何もしないのが本当にクズ教師だよ。
だから僕は絶賛いじめられ中。もちろん僕だっていやだよ。こんなこと好きでやられてるわけがない。だけど逆らえなかった。
そりゃそうだろ? 相手は僕よりずっと体が大きくて、力が強くして。負けるに決まってんだから勝てるわけないじゃん。
僕のほうが力が強かったりすれば、また状況は変わるかもしれない。そう思った。
だから、僕は力を手に入れた。その力は、魔法。
何をバカな、って思うかもしれないけど、本当に手に入れたんだ。
商店街の目立たないところにあった古本屋、こんなところに店があったんだと思いながら何気なく入って棚を見ているときにその本を見つけてしまった。それが魔導書。
なんとなく興味があった。価格も大した額じゃなかったので買ってみた。
その本に載っていたのは本当かどうか半信半疑。でもどうせならやってみたいと思ったわけで。
当然ターゲットはキョウシロウ。散々僕をイジメていたあいつ、あのクズ野郎。
僕はその中の一つの魔法を実行に移してみるることにした。それが、女体化魔法。
力を振り乱いしていたあいつが、弱い女の子になったらどうなるか。見物だった。
非力になったキョウシロウと立場が逆転して、目にもの見せられるんじゃないかと、そう思っていた。
……そう、思っていたんですよ。
「むふ~、ミツアキぃ♡」
「あの、ちょっと距離近いんだけど……」
「そりゃそうだろぉ、抱きついてんだからぁ♡」
「てか、皆に見られてるけど……」
「見せてるに決まってるだろぉ♡」
本日も変わらず登校時間。多くの生徒たちが校舎目指して歩いている中、僕は一人の女子に抱きつかれながら歩いていた。
スタイル良し、そした見た目可愛い、ギャル。オタクに優しいギャルという概念がどこかにあるらしいけど、中身はついこの前までヤンキーだったギャル。
ええそうです。僕が魔術で女にしたキョウシロウです。
朝から周囲の視線などまったくお構いなしにイチャついてくるキョウシロウ。困惑です。
それは周囲の生徒も同様で「うわ、朝からイチャイチャと」「ちょい待ち、あのギャルって確かキョウシロウ……」「え、男だったんだよね?」「なして?」と困惑気味です。
もちろん一番困惑しているのは僕ですよ? 今まで自分をイジメていた奴がこうもイチャついてくるのだから。
ただ、なんとなく理由は察しているんだけどね。
あの魔導書、本物でしたよ。キョウシロウに実行した女体化魔法は本当に成功して、女になった。
今までの体格のいい姿とは打って変わって、非力な女の子の姿に。
その姿で今までつるんでいた連中のところにいったら、どうなると思う?
そりゃおつむの悪い連中ばかりですからね、当然のように襲ったわけですよ。
今まで仲間と思っていた連中に襲われるキョウシロウ。一方の仲間は仲間とは思っていなかったかもね、いいようにこき使われるところもあったからその鬱憤もあったのかもね。
ある意味自業自得さ。そんな仲間と思っていたやつらに体をまさぐられ、衣服を引っぺがされて、今まさに襲われようとして。
その光景を僕は見物していた。散々僕に暴力を広いお金巻きあげて、ひどいことしてきたんだ。
だから今までの報いだ、ざまあ、って……思えなくなってしまった。
なんでだろうねぇ、すっかり女の子になって泣きじゃくっていたキョウシロウの姿に、今までの悲惨な目にあった自分を重ねちゃったのかなぁ?
とにかくどうしてなのかよくわからないけど、気がついたら僕はその辺にあったパイプ椅子を手にして、キョウシロウを襲っていた連中を叩きのめしていた。
我に返ったところで見た光景は、パイプ椅子でダメージを負って出血もしてくたばっている連中と、その中心でぼろぼろになった衣服を必死に身にまとって泣いていたキョウシロウだった。
あまりの出来事に、自分がやってしまったことに怖くなって、その場から逃げ出した。
とにかく必死になって逃げて走って、やってこさ家に帰った。そしてベッドにそのままもぐりこんで、すべてが過ぎ去っていくのを待っていた。
だって自分がやったことって暴行罪、警察案件でしょ? ましてや連中の逆襲だってあり得たわけで。
その後はとにかくよく覚えてない。そのまま朝になって「あ、学校行かなきゃ」といつものルーチンで登校した。
あれから連中はどうなっただろう、もしかして仕返しされるのではないか、それよりまたキョウシロウが僕に絡んでイジメてくるんじゃないかとびくびくしながら登校した。
だったら最初から登校しなきゃいいじゃんって話だけど、出席しないと単位もらえないっていう理不尽な制度があるからね。
イジメの問題解決しないくせして欠席したら単位落とすってどんだけクズなんだこの学校、ってつくづく思ったけどね。
が、すべては拍子抜けして終わってしまった。僕が考えていたような問題は起こらなかった。
いや、キョウシロウが絡んできたというのは間違いない。間違いなかったんだけど……懐く意味でからんできた。
登校したら僕の死角からキョウシロウが接近してきた。完全に油断していた。
が、それは襲うものではなく、そのまま僕の腕に抱きついてきて……
で、それが数日前の出来事。
以来何故か懐かれた。
今まで僕をさんざんな扱いにしてきたというのに、今は人前などまったく気にすることなくごらんのとおり僕に抱きつき、遠慮することなく甘えてくる。
吊り橋効果ってやつ? あの時襲われていた状況から助けたことで恐怖感が好感度に変わったとか、そういうやつ?
ついでに今のキョウシロウ、ギャル風な見た目になっているけど顔そのものは可愛くなってるし、さらにスタイルもいい。
こう、抱きつかれているとですね、胸の大きな柔らかいのがしっかり腕に当たっているのですよ。
今まで女の子とまともに話すらしたことのない僕としては、結構平常心保つのも大変なのですよ。
そして周囲から注目されるのは、恥ずかしい。
「あ、朝から……」「中身男同士で?」「けどキョウシロウって今は女に……」などなと、いろんな意味で注目されてしまっており、大変です。
しかし注目案件はこれで終わりってわけではない。
「キョウシロウ、おめーまたイチャイチャしやがって」
「男の時のイメージなんもねーなw」
「ミツアキにベッタベタなぁ」
などとこちらの様子を見てバカにしているのか、からかっているのか、とにかく語彙力に足りない3人の女子。
キョウシロウ同様に派手なスタイルはギャルっぽい。そして知り合いっぽい。
知り合いも何も、中身はキョウシロウとつるんでいたヤンキー3人なのだが。
……ええ、こちらも僕が魔術で女にした次第です。
「あぁ? てめーらが俺にしたこと忘れてねーぞ」
「「「……すんません」」」
僕にイチャついていた甘い声と打って変わってこちらには凄みをきかせた完璧な脅し。
女になってもかつての威厳は残っていたようで、女子になったヤンキー3人はあっさり引き下がりれました。
キョウシロウとつるんでいた3人を女にしたのはある意味の保険なんだけどね。
なにせキョウシロウを襲ったときに僕がパイプ椅子でボコボコにしてケガも負わせたから、逆襲されるんじゃないかと警戒しておりまして。
だから女しておけばその心配は多少軽減されるのではと考えた次第。
力も弱くなって仮に襲われたとしても買えり鬱にすることができるんじゃないかと、ね。
しかしそれは余計な心配だった。むしろ事態は悪化していた。
「くっ、キョウシロウだけミツアキとべたべたしやがって」
「ちょっとぐらいオレらもいいじゃねえか」
「割って入るスキ、あるか? なんとかハーレムにでも……」
あの3人、ミョーなセリフはいてこっちを見てるんだよねぇ。
別の意味で狙ってる気がしてならないんだよねぇ。僕を見て顔赤くしているのは気のせいじゃない感じで。
まさか殴って目覚めちゃったとか、そんなわけないよね?
頼むから否定してほしい。そして恋だったら新たな恋に向かってほしい。こっちくんな!
「あいつら、ぜってーミツアキの事狙ってやがるな」
3人の不穏な動きは絶賛僕に抱きついているキョウシロウも気がついているようで。
敵意に敏感というか、女の感というか。
「ミツアキはぁ、俺だけのものだからなぁ。ぜってー他にはやらねーぞー♡」
そして僕に抱きつくキョウシロウの力がぎゅっと強くなる。
おかげで腕に当たっている柔らかい感触がより強く感じられまして。
自分でキョウシロウを女にしたことがきっかけかもしれないけど、イジメとはまた別の心労がたたってしまうよ本当に。
まあ、イジメられて暴力振るわれているよりはマシだけどさ。