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17年前、ある1冊の本が10万部を超えるベストセラーとなった。タイトルは「オール1の落ちこぼれ、教師になる」。著者の宮本
24歳で定時制高校、27歳で名大合格
「私を知らない人も多いと思うので、とりあえず簡単に自己紹介をさせてもらいます。愛知県出身で、昔から大の勉強嫌い。その証拠に中学卒業時の成績表を見てください。音楽と技術以外は全て『1』。算数の九九でさえ『2の段』までしか覚えられず、知っている英単語はBOOKだけ。漢字は自分の名前しか書けないというありさまでした(笑)。その後は中卒で働き始めますが、いろいろあった末に一念発起し、24歳で定時制高校に入学。27歳で名古屋大学理学部に合格し、36歳で母校の教師になりました。現在は退職して、講演会などを中心に活動しています」
あまりにも目まぐるしい展開だが、順を追って聞いていこう。まずは、勉強嫌いになった背景から。
「気が弱く、体も小さかったので、小学校低学年からいじめの標的にされました。覚えているのは、小2の時にクラスメートの女子に給食費を力ずくで奪われたこと。担任の先生に相談しましたが、何も解決してくれず、どんどんエスカレートしていきました。文房具や上履きを隠されるのは日常茶飯事。休み時間に後ろから蹴られたり、足に画びょうを刺されたり、暴力をふるわれることも少なくなかったです。
いじめは中学に入っても続き、苦痛のあまり、『死んだ方が楽かも』と考えたことは一度や二度ではありません。学校では、なるべく目立たないように心がけていました。そうすると、その日を無事に過ごすことが最優先になって、勉強ができないなんていうことは、大した問題ではなくなるんです。おかげさまで、学校の授業は『何が分からないのか分からない』という状態。一刻も早く卒業して、この苦しみから解放されたいということばかり考えていましたね」
両親が亡くなり天涯孤独に
だが、宮本さんは中学を卒業した後も、立て続けに試練に見舞われる。
「特になりたいものもなかったので、大工の見習いとして働き始めました。しかし、この職場が今でいう“ブラック企業”そのもの。親方に殴られたり、どなられたりするのは当たり前で、常にビクビクしながら仕事をしていました。
当時は両親と3人で暮らしていたのですが、16歳の時に母をがんで亡くします。2年後には父も病死し、私は18歳にして天涯孤独の身となりました。残ったのは父の借金だけ。大工の仕事にも嫌気がさして2年ほどで辞め、しばらくはアルバイトで食いつなぎました。
とにかくお金がなかったので、1か月13円で過ごしたり、栄養不足で口内炎が一度に12個もできたり……。道ばたのタンポポやアリを食べたこともあります。余談ですが、アリは結構すっぱいんですよ(笑)。そんな状況から、どうやって高校に進学し、さらには国立大学に入れたのか。23歳の時に出会った1本のビデオが私の人生を大きく変えていきます」
中学卒業後、どん底の生活を送っていた宮本さんに、人生を好転させる出会いが訪れる。
「20歳を迎えた頃、友人がある建設会社を紹介してくれました。この会社の社長がとても親切で、両親のいない私を何かと気遣ってくれました。正社員として迎え入れてくれ、不安定だった私の生活は徐々に安定します。
さらに23歳の時、当時付き合っていた彼女(現在の妻)から一本のビデオを渡されました。『面白そうだったから』と録画してくれていたのは、NHKの『アインシュタイン・ロマン』という特番。『光は波か、粒か』というテーマに物理学者たちが挑み、最終的にアインシュタインが解明するという内容です。
このビデオが私の人生を大きく変えました。番組を見た後、雷に打たれたような衝撃を受けたのです。それまで物理学という言葉の意味すら知らなかった私が、初めてアインシュタインの相対性理論に触れ、味わったことがないような知的興奮を覚えました。そして強烈にこう思ったのです。『この世界がどういう仕組みでできているのか知りたい』と」