言霊戦記 — バベルの玉座と狐の戴冠 —

橘寝蕾花(きつねらいか)

プロローグ そして彼は、世界を滅ぼすことにした

 そもそもの始まりは六〇〇年前だ。

 その島には天まで届く古の塔『バベル』があった。

 力を持った言葉が無数に封印され、保管されていた。言葉の御子みこたちに下賜された幾ばくかの言葉は、絶大な力を誇ったという。

 ある言葉は炎の嵐を起こし、ある言葉は大波を引き起こし、またある言葉は雷雨を降り注がせた。

 言葉の力は絶大であり、それゆえ古代の民や御子たちは管理を厳重にしていた。


 しかしバベルは崩れ去った。


 島の各地に力の言葉が散らばり、あるいは島の外にも流れていった。

 御子たちは崩落に巻き込まれて亡くなったとも、避難していたとも言われているが詳細は不明だ。


 バベルの崩壊は、徐々に世界のあり方さえも変えていくことになるのだった。


 最愛の師を救うため、彼は旅立つ。

 仲間を得て、恋人を得て、それでも旅を続け、言葉を探す。


 その果てに。

 彼は世界を滅ぼした。


 仲間に恋人を寝取られた。別の仲間が恋人を殺した。彼は全てを殺し尽くした。

 だから、生きる理由は最愛の師匠だけだった。

 でも——、彼女は、


 そして彼は、世界を滅ぼすことにした。


 ほかならぬ、言葉の力で。


 不条理な世界を、跡形もなく消し去ることにしたのだ。

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