練習作品 竜響のヴェルシグネルセ
橘寝蕾花(きつねらいか)
第1話
★竜響のヴェルシグネルセ
★あらすじ
かつて百人長を務めた元騎士ライネル・レンデル。騎士団を退団した彼は、ともに団をやめついてきた元エスクワイアの女魔導師レネ・ルデンと共に、今は悠々自適のフリーランスの探索者(シーカー)として日銭を稼ぎ、糊口を凌いでいた。
八年にも渡る内乱終息から六年後――エルトゥーラ王国。数多くのテラリス(亜人種)たちが住まうそこに暮らすヒューマンとドラグオン(竜人種)の混血である青年・ライネルは、見た目の若さとは裏腹に四十年生きてきた男だった。
気ままな旅路の中、ライネルはある日謎多き呪術師集団『エクリプス』の企みに巻き込まれる。幻獣の力を人に無理やり移植する幻人計画を知った彼は、エクリプスの残忍な行いに義憤を募らせるが――。
ライネルはなぜ騎士を辞めたのか。彼が思う正義のあり方とは、生き様とは……?
★本文
エルトゥーラ王国王都・エルド。そこに
昼下がり、そこから出てきたのは二十歳そこそこの青年だった。格好は、王城に来るには簡素な服装である。青灰色の髪を右のこめかみで分け、後ろをポニーテールに結っている。
海色の目には、スリット状の瞳孔。髪の分け目となる部分には髪が割れる理由であり特徴でもある、青い角が生えている。腰には青い甲殻が張り付いた尻尾があり、肌にはところどころ甲殻と同じ色の鱗が張り付いていた。
「十年尽くしてきた騎士団も、これでおさらばか」
青年――ライネル・レンデルはそう吐き捨て、肩を竦めた。外見こそ二十歳前後だが、
騎士団から貸与されていた白銀の鎧と剣は返上している。今帯びているのは数打ちの剣に、革鎧であった。
今日、ライネルは騎士団を辞めた。理由は色々あるが、とにかく辞めたのだ。百人長を務め、千人長一歩手前だったが、それでも辞めた。
もともと彼をよく思わない連中は多く、まあ、なるべくしてなったと、ライネルは思っていた。
もやもやした気持ちは若干ある。直上の空は澄み渡っているのに、だ。でも、未練がましく考えるのはやめた。女々しいのは顔だけでいい。
ライネルはくるりと踵を返し、城からメインストリートへ向けた。
だだっ広く、同時に攻め入りにくく入り組んだ道を通行用の軽装馬車に乗って移動しようとした。すると、
「師匠!」
少女の声で呼び止められた。ライネルは御者を制し、声がした方を見遣る。
そこには銀髪の少女がいた。ライネルと同じ
「レネ? なんだその格好。鎧は? 剣は?」
「忘れましたか。僕は元々魔導師です。王宮魔導師になるため、
かつてのエスクワイア――レネ・ルデンは、黒を基調に白を差し色にした
僕――という一人称は、彼女が土地を継ぐために男として育てられた名残である。
「僕も騎士団をやめました」
「はぁ? どうしてだ」
「師匠についていくためです。僕は騎士団に教えを乞うていたわけではないので。嫌と言っても、ついていきます」
「あのなあ、俺はもう根無草なんだぞ。お前まで野宿する羽目になるんだ。それも、毎日だ」
「任務の時と同じなだけです。それに、騎士団は恵まれすぎるきらいがありました。あれでは修行にふさわしくありません」
レネは畳み掛けるように続ける。
「僕の師匠は師匠だけです。今更、僕を何処の馬の骨とも知らぬ者の前に放り出して知らん顔ですか? 無責任すぎでは?」
「……。勝手にしろ」
そう言うと、レネは飼い主の許しを得た犬のように隣に座った。「悪い、出してくれ」とライネルは御者に命じて、城をあとにした。
ライネルはため息をついて、一人旅が前途多難な二人旅になったなと目頭を揉む。
それでも弟子であり頼れる相棒であったレネの同行は、嬉しくもあったし頼もしい。
レネは上機嫌に、騎士団を辞めた際の様子を語り出した。
どうやらあのままでは好色漢の従騎士にさせられるところだったらしく、そいつの気持ち悪さを列挙して喚いた結果、辞めさせてやると言われ売り言葉に買い言葉で辞めたらしい。
彼女らしいな、と思って、ライネルはここ数ヶ月鬱屈としていた気分を晴らすように笑った。
旅路は過酷かもしれない。それでも、これからは自由に過ごせる。
――そして、三年後……。
練習作品 竜響のヴェルシグネルセ 橘寝蕾花(きつねらいか) @RaikaRRRR89
ギフトを贈って最初のサポーターになりませんか?
ギフトを贈ると限定コンテンツを閲覧できます。作家の創作活動を支援しましょう。
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます