空港検疫に密着 誰がどんな目的で何を持ち込んでいるのか
2018年、岐阜県のとある養豚場で豚熱が発生。豚に続き猪からも感染が発覚。感染した猪の糞や死骸から豚熱ウイルスが鳥や小動物たちに付着し、感染が広がったと思われた。
現在は小康状態にあるものの、なぜ日本になかった豚熱が発生したのか?可能性の一つとしては、違法に持ち込まれた肉製品の食べ残しが野生の猪に広がったという説がある。観光客などが持ち込んだ食品などに混入していた可能性があったのだ。
こうしたことが起きないようにしているのが空港の動植物検疫所。そこで重要な働きをしているのが検疫探知犬。特殊な訓練を受けた探知犬が持ち込んではいけない荷物などをかぎ分け、見つけるとお座りで合図をするという。
一体どんな人がどんな目的で何を日本に持ち込もうとしているのか?仰天ニュースでは5日間にわたり羽田空港と関西国際空港の動植物検疫所に密着した。
8月下旬、中国・上海からの便が到着。すると探知犬が反応し、上海から来た女性のスーツケースを検査。そこには大量のどんぐりとチキン製品が。鶏肉を含む肉や肉製品の持ち込みは原則禁止となっている(※国によっては検査証明書があれば持ち込み可能な場合もあります)。ロウソンビンといわれる中国の肉を使ったお菓子もあった。これらは持ち込み禁止のためその場で処分となる。
フィンランドからやってきたカップルの荷物からは鹿のジャーキーが(※フィンランドからの鹿肉は証明書があっても持ち込みできません。詳しくは農林水産省のホームページをご確認ください)。女性は宿泊する旅館のおかみさんに渡そうと思っていたという。
こうした肉の持ち込み禁止に関して動植物検疫所・新堀次長は「海外では悪性の家畜伝染病が多くの国で発生しています。そういった病気は肉製品を介して国内に侵入する恐れがありますので、現状ほとんどの肉製品は日本への持ち込みができないという状況になっています」と話す。
続いて香港からの旅客機が到着。探知犬が探知した夫婦の荷物からは次々と生の野菜が。さらに別のスーツケースからも大量の野菜が。夫婦は日本にいる娘に1年ぶりに会いにきて手料理を振る舞おうと思っていたのだという。だが、バジルやコリアンダーなどの生野菜は検査証明書がないため持ち込み禁止。
なぜこれらの植物が持ち込めないのか?横浜植物防疫所羽田空港支所・内藤次長によると日本に存在しない病気や害虫が日本に入りこむことを防ぐためだという。
例えば東南アジアからのマンゴーは持ち込みができず、これは、マンゴーに国内にはいないミバエと呼ばれる害虫が潜んでいる可能性があるからだという(※一部の国、地域からは、検査証明書が添付され輸入検査に合格すれば持ち込むことができます)。他にも海外から持ち込まれるサツマイモには、元々日本にいなかった害虫・アリモドキゾウムシが寄生している可能性があるため禁止。昨年静岡県ではこの害虫を確認し、アサガオの栽培に制限がかかる事態となった。
ネパールから技能実習で来日した男性2名が持ち込んだのは大量の豆。その理由はカレーライスを作るためだという。その持ち込みは可能なものとダメなものに振り分けられた。豆などの植物は十分な加熱処理が認められれば持ち込めるのだという。
続いては中国から来た女性が、マスカットやりんごを持ち込もうとしていた様子。続いて牛肉製品も出てきて、持ち込み禁止に。
なお、肉製品で多く引っ掛かるというのが機内食で出たハムのサンドイッチだという。たとえ機内食でもハムや野菜などの食材が入っていると国内に持ち込めない。
フィリピンから来た男性はスーツケースから大量のお菓子が。そして持ち主の覚えがないというプラスチック容器も出てきた。その中身は魚料理。家畜伝染病予防法には魚の疾病は入っていないため持ち込みOK(※餌にするものや生きたものの場合は検疫所以外での検査が必要になります)。だが、男性が別のカウンターでさらにチェックを受けたところ、アジア料理でよく使われる生のレモングラスなどのハーブや薬用植物と言われている生のワサビノキについては、検査証明書がないためNGとなった。
今年に入り激増した外国人観光客。そんな中動植物検疫所が特に警戒しているのが「アフリカ豚熱」だという。こちらも豚や猪が感染する家畜伝染病で、人には感染することはないものの一度発生するとその感染力はすさまじく、2018年に中国で確認されると瞬く間にアジア全土に広がった。現在東アジアで未発生なのは日本と台湾だけだという。が、すでに日本でも空港ではアフリカ豚熱が見つかっているという。
持ち込み禁止荷物を見つける大役を担っているのが探知犬だ。検査の合間にも持ち込み禁止の匂いを嗅がせ、肉や植物などをかぎ分け見つけたらお座りをする訓練をしていた。探知犬の能力はすさまじく、一度カバンの中に入っていたという禁止物の匂いも嗅ぎ分けるそう。
大きな箱をいくつも持っていた一人の男性。彼は西洋ランの展示会に参加するためのランの苗を持ってきたという。エクアドルからやってきたフラワーアーティストで、翌日から池袋で行われる西洋ランの展示会に参加するため来日し、苗を持ち込んでいた。その株700以上、検疫所ではこれらを1つ1つ検査証明書と種類・数が合っているか確認する必要がある。病害虫が付いていないか隅々までチェックし、かかった時間は3時間。男性は「でもちゃんと確認してくれるから安心だよ」と検疫所をあとにした。
インドネシアからやってきた女性のスーツケースからは大量の食べ物が。出てきたのは牛の皮や鳥の腸を揚げたものに、牛のソーセージ、「アボン」と呼ばれる牛肉のふりかけや、ランクワァスという野菜。それらは証明書がないと持ち込めないので処分。バナナの葉に包まれた餅は包んでいる葉っぱが持ち込み禁止と知り、葉を剥き中の餅だけ持っていくことに。
中国から一時帰国した男性は、フルーツだけでなく肉もスーツケースに。鶏肉だけで2キロ、豚肉も2キロ出てきた。日本でも同じ製品を売っているが中国で購入する5倍の価格がするためたくさん買ってきたのだという。が、すべて焼却処分になってしまった。
検疫所には大きな段ボール箱を持った日本人らしき2人組の男性が。箱から取り出したのは大量の洗濯ネット。その洗濯ネットには生きたクワガタが入っていた。彼らは国内にカブトムシやクワガタなどの昆虫を降ろしている昆虫販売業者で、今回はフィリピンでクワガタを卸してきたという。フィリピンなど現地にいる専門の昆虫ハンターからカブトムシやクワガタなどを買い付ける業者だそう。今回の買付総数は全部で2122匹。クワガタは現地で正式な申請済みのため、その大量のクワガタを検疫所では申請内容とその現物を照らし合わせ、間違った昆虫が紛れていないかを確認。無事持ち込むことができた。
アメリカからやってきた2人組は肉を持っていないと言っていたがビーフジャーキーが発見され、全ての荷物を開けることに。嘘の申告をすると全ての荷物をチェックされることになる。そして出てきた肉は全部で10個。なぜ嘘をついたかと聞くと「ベトナムの家族にお土産で持っていこうと思ってたんです。ここはトランジットよ」と話し、2人はアメリカからベトナムへ向かう乗り継ぎで羽田空港に立ち寄っただけだという。が、それでも日本に持ち込んではいけないものは処分されてしまう。
海外から持ち込まれる様々な可能性のある病原体や害虫。二度と豚熱の時のような事態にならないようそして、日本のブランドを下げないためにも職員たちは戦っている。
