完了しました
男性は昨秋以降、安倍、菅両氏のほか、岸田首相の偽音声を利用した動画も定期的に投稿し、その数は10日時点で90本を超える。偽動画のタイトルは「AI安倍晋三」などと記されているが、本編には、AIで作られたことを示す表示はない。そのため、動画だけが転載されると、真偽の判別が難しくなる可能性がある。
男性は読売新聞の取材に対し、「AIが出てきたことで動画を作るのが効率的になった」と明かす。「デマを拡散する意図はない」とする一方、「こういうパロディーばかりになったら、支持率にも響くと思う」とも話した。
河野デジタル相「問題は大きい」
河野デジタル相は10日の閣議後記者会見で、生成AI(人工知能)を利用して作られた岸田首相の偽動画について「極めて問題は大きい」と述べた。「政府としてもどう取り組むのか、しっかり検討しなければいけない」との考えも示した。
「以前より大きな脅威」…識者、ルール作り求める
政治家をやゆするパロディーやコラージュなどの画像・動画はこれまでも度々作成されてきた。フェイクニュースに詳しい法政大の藤代裕之教授(ソーシャルメディア論)は、生成AIの登場により、誰もが容易に、短時間で、精巧な偽動画を大量に作り出せるという点で、「以前よりも大きな脅威になっている」とみる。
藤代教授は「政治家の偽発言が、ニュースの形で事実であるかのように選挙前や災害時に拡散した場合、社会の混乱は計り知れない」とした上で、「AI動画には、AI動画であることを示す統一マークが表示されるよう義務づけたり、それがなければSNSで公開できない仕様にしたり、発信側のルール作りに向けた議論が必要だ」として対策を求める。
故人の政治家の偽音声が作り出されていることを問題視する意見もある。死者のデジタルデータに詳しい関東学院大の折田明子教授(情報社会学)は「公人とはいえ、遺族の承諾なく声や姿を勝手に利用することには倫理的な問題がある」と指摘する。
「元首相の遺志としてメッセージを語らせ、視聴者の感情に訴えて政治行動を促すことも可能になる」とし、「本人が亡くなっていて、修正、訂正の機会がないため、『生前のデータが見つかった』として政治的な内容を語らせる偽動画が拡散すれば、社会の混乱を招きかねない」と警告する。