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2023年11月6日

『友情』放送に向けて

中込卓也(テレビ朝日プロデューサー)コメント

 このドラマの原作『友情』のドラマ化の交渉を始めたのは2年も前になります。当初、原作者である平尾惠子さんは、敢えてフィクションとなるドラマにすることに疑問を感じたそうです。ある意味、当然のことだと思います。
 そんなスタートから、ドラマが完成するまでにも、とても不思議なドラマがありました。
 まずは平尾惠子さんの了承を得るという最大の課題に向き合わねばなりません。原作のコーディネーターをお願いした岡村啓嗣氏より、平尾さんは脚本家の吉田紀子さんとお付き合いがあった…という助言を頂きました。「なんと!」私は吉田さんとは30年来のお付き合い。藁をもすがる思いで吉田さんに電話を入れました。「『友情』って本をご存知ですか?」「平尾さんの?それなら今、目の前にありますよ」…驚きました。数年前に出版された原作が、なぜ今、目の前に?実はそのころある映画を執筆中だった吉田さんは、病状の参考資料として、『友情』を丹念に読み直した直後だったそうです。そんなタイミングで電話をした私。「まさか『友情』をドラマ化するの?それは是非書きたい!」という吉田さんの回答を頂けたこと…まず最初のドラマでした。
 平尾誠二さんを誰が演ずるか?本木雅弘さんにオファーを出しました。平尾さんのご子息が幼稚園の頃、「平尾さんのパパがCMに出てる」と話題になったことがあったそうですが、それは実は本木さんのCMを見た人たちの勘違いだったという逸話があるほど、若いころからお二人は似てると言われていたのです。
 しかし、本木さんへの面会を許された私は、丁重なお断りを頂きます。「こんなに偉大で、素敵でカッコいい人を演じるなんて私にはできない」本木さんのお人柄が伝わる言葉でした。
 お断りを受け入れた私と、そのまま世間話になりました。その過程で、「20年ほど前にあるドラマを見ていた平尾惠子さんが、このドラマを書いている作家さん(吉田紀子さんでした)は、きっとあなたのファンよ」と平尾さんにおっしゃったそうです。なぜならそのドラマの主人公の名前に“誠二”と名付け、とてもカッコいいキャラクターに描いていたからだそうです。それを覚えていた平尾誠二さんは、ある時、人を介して紹介された吉田紀子さんのお名前を覚えていたそうで、そこから平尾さんと吉田さんの交流が始まったという話を吉田さん御本人から入手していた私は、その話を本木さんに伝えました。本木さんは黙って聞いていたと記憶しています。「そしてそのドラマで誠二を演じていたのが、本木さんだったんですよ」―――そうお伝えすると、本木さんは「・・・なんだか簡単にお断りしてはいけない仕事に思えてきました」と。これが二つ目のドラマ。
 こんなドラマのような奇跡が重なり、本木さんの心が動き、ドラマ化は一気に実現に向かいました。「平尾さんを演ずるという覚悟」として、病気を表現するために撮影中の短期間に大幅なダイエットをすることを自身に課した本木さん。それに対応すべく制作体制をお約束しました。
 山中先生が「平尾さんはずっとかっこよかったけど、病気になってからの最後の1年間が一番かっこよかった」と教えてくださいました。その言葉を表現すべく、本木さんも最高にかっこよく、このドラマの現場にいてくださいました。目の当たりにした私たちには、似ていることへの驚きよりも、似せていった、いや憑依していった本木さんの姿に驚きを感じていました。そして呼応するように滝藤さんも山中先生になっていき…。
 撮影前に、スタッフにも告げずに平尾さんの墓前を訪ねた本木さん。その執念ともいえるお芝居を、どうかお見逃しなく。そしてこのドラマにふれた方々に、ぜひミスターラグビー平尾誠二さんを語り継いでいただきたいと思います。

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