暴落時に対処するために知るべき指標と、その使い方
前回記事では、暴落が発生した際の下落率や下落期間、PBRの下限値を学びました。今回は投資の精度を更に向上させるため、投資家の心理状態についての参考指標を紹介していきます。
世界最高の投資家と呼ばれるウォーレン・バフェットは次のように言っています。
皆が貪欲となっている時、それは株価上昇局面で、買い手が多くいることから、株価が適正な水準を超えて割高となっていることも少なくありません。逆に皆が恐れている時とは、株価暴落時のことで、買い手がいなくなることから、株価が適正な水準を大きく下回っているケースがほとんどです。
株は安く買って高く売りなさい、とはよく言われますが、これを実践するためには、バフェットが言うように「皆が恐れている時」に買っていく必要があります。
では、この「皆が恐れている時」とはどのような時なのかと、疑問に感じる読者もいるでしょう。その答えとなり得るのが今回紹介させていただく指標です。それではひとつずつ見ていきましょう。
VIX指数(恐怖指数)は、Volatility Indexの略でVolatilityは株価の振れ幅のことを、Indexは指数を意味します。VIX指数は、アメリカ株価指数のS&P500先物のオプション取引の数値を基に算出され、市場が今後30日間でどのような変動を想定しているかを数値化したものです。
人は株価の振れ幅が大きいほどに心理的な影響を受けます。振れ幅が大きくなればなるほどに心理的に受ける影響も大きくなり、恐怖を感じるようになることからVIX指数は「恐怖指数」とも呼ばれています。
通常は10~20の範囲内で推移しますが、30を超えると警戒領域と言われ、相場は不安定な状態となります。図1をご覧ください。40を超えると過去の暴落の歴史に刻まれるような状況にあることが読み取れます。(※外部配信先では図や表などの画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)
過去最高値はリーマンショックの「89.53」で、ここまで高くなるとマーケットはパニック状態で、優良銘柄かどうかにかかわらず売り一色となります。
逆に言えば、このような優良銘柄がその価値にかかわらず売られているという状況は、長い目で見れば絶好の買い場となります。投資判断のモノサシの1つとしてぜひ活用してみて下さい。
なお、VIX指数の日経平均株価版として、日経平均ボラティリティー・インデックス(日経平均VI)があります。「日経平均VI」「現在」等のキーワードで検索をかければすぐに調べることができますが、VIX指数との相関も高いことから、特段の理由がなければVIX指数を確認しておけば問題ないでしょう。
Fear & Greed Index(恐怖と強欲の指数)で簡単に投資家心理を確認
「Fear & Greed Index」は、アメリカのテレビ局であるCNNが提供している投資家心理に関する指標です。直訳するとFearが恐怖で、Greedが強欲であることから「恐怖と強欲の指数」となります。
0から100までの数値を示され、0~25が「Extreme Fear」(極度の恐怖)、25~45が「Fear」(恐怖)、45~55が「Neutral」(中立)、55~75が「Greed」(強欲)、75~100が「Extreme Greed」(極度の強欲)となっています。
0に近づくほど投資家心理が冷え込み、必要以上に株が売り込まれていることから株価が割安になっていると判断できます。逆に100に近づくほど投資家心理が過熱しており、適正な株価を超えて株が買われていることから、株価が割高になっていると判断できます。
具体的に実際の画面を見ていただいたほうがわかりやすいと思います。図2をご覧ください。真ん中にある針が右(100のほう)に傾いている時は、マーケットに過熱感があり警戒が必要です。その一方、真ん中にある針が左(0のほう)に傾いている時は、マーケットが悲観的になっており、株価も安くなっていることから安く買えるという判断も可能です。
投資家心理を客観的に確認したい時にVIX指数とあわせて活用してみてください。
前回の記事ではPBR0.8倍が真の底値であると解説しました。PBRについて理解を深め、ご自身で計算ができるようBPS(1株当たり純資産)についても知っておきましょう。
BPSとは、1株当たりどの程度の純資産があるかを表した指標です。Book-value Per Shareの略で、Book-valueは純資産(帳簿価格)、Per Shareは1株当たりで、つなげると1株当たり純資産となります。
さて、日経平均株価のBPSはインターネットで簡単に調べることができます。その際に「指数ベース」で計算されたものと「加重平均」で計算されたものが出てくるケースもありますが、ここでは日本経済新聞に掲載されている「加重平均」で計算されたものを採用しています。
前述のPBRは、株価をBPSで割ることで求められます(PBR=株価÷BPS)。つまり、純資産よりも株価が高ければPBRは1倍を上回り(つまり割高と判断される)、純資産よりも株価が低ければPBRは1倍を下回る(つまり割安と判断される)ことになります。
このことから、日経平均株価のPBRが1倍を下回ることは稀で、PBR1倍付近まで株価が下落したら概ね買い時であったというケースがほとんどです。
VIX指数40以上、Fear & Greed Index 10以下、PBR1倍以下が概ねの買い時
株価が短期的にどのように動くかを正確に予測することは不可能です。仮にそのようなことができるのであれば、誰もが大金持ちとなれますが、そのような話は存在しません。
しかし、長い目で見れば、リターンは概ね歴史的な平均値へ回帰していきます。長く投資を続けていれば平均的なリターンを享受することは、さして難しい話ではありません。また、バフェットが言うように、暴落時、皆が恐れている時には貪欲に買っていくことで、リターンを高めていくことも期待できます。
本記事では「皆が恐れている時」とは、どのような状況であるのかを学びました。それは過去の暴落と照らし合わせて、VIX指数が40以上、Fear & Greed Index が10以下の状況を言います。
また、株価がどこまで下がるかわからないという状況においてもPBRが1倍以下となることは稀であり、株価が下落して1倍に近づいていくにつれて、買い時に近づいているという判断ができるでしょう。
これらを組み合わせて判断していくことで、暴落は恐がるものではなく、リターンを高めるチャンスと捉えることができるはずです。そのような投資マインドを獲得することで、暴落時に退場させられることもなくなり、長く株式投資を続けていくことができると確信しています。
株価暴落時には必ずと言ってもいいほどに、現金の価値が見直されます。株価が大幅に下落しても現金自体の価値が急激に下がることはありません。それだけではなく、これまでよりも安く株が買えることから、暴落時においては、現金の相対的な価値は上昇していると言えます。
せっかく株を安く買えるチャンスが来ても現金がなければ買い増しすることができません。その一方、現金が確保されていれば、株価が暴落しても安く買えるという精神的なゆとりを持つことができます。
では、具体的にどの程度の現金を確保しておけば大丈夫なのでしょうか。絶対に正しいという答えは存在しませんが、株式投資を長く続けていくことを優先とするならば「自身の年齢と同じ数値の%」を現金で保有しておくことをお勧めしたいと思います。
図3をご覧ください。例えば、手元に100万円の投資資金があったとします。30歳の方であれば、30%である30万円を現金で確保しておき、残り70%の70万円で株を買います。50歳の方であれば、50%の50万円を現金で保有し、残り50%の50万円で株を買います。70歳の方であれば70%の70万円を現金で保有し、残り30%の30万円で株を買うのです。
比較的失敗が許容される若い時には、リスクを取って株式での運用比率を上げておき、失敗した際に取り戻すことが難しい年齢になるにつれて現金比率を高めておくことで、不測の事態に備えることができます。
リバランスを意識しよう
現金比率を決定し運用を開始しても、時間の経過とともに株価が変動して現金比率が崩れてきます。比率が崩れた時に、当初設定した比率へ戻すことをリバランスと呼んでいます。
具体的には図4をご覧ください。
例えば50歳の方が100万円を、株式と現金を50:50の比率で保有していたとします。この時、株価が50万円とすれば現金も50万円になります。
その後、株価が2倍になると、株式が100万円、現金が50万円となり、この時点での比率は株66.7%:現金33.3%です。
現金比率が50%から33.3%に減少したので、50%に戻すために株式を25万円分売却して調整します。これで株式75万円、現金75万円となりますので、その比率は株式50%:現金50%に戻ります。
このように定期的なリバランスを実施することで、株価が高い時には株式を売却し(現金比率を高める)、株価が安い時には株式へ投資する(現金比率を下げる)という調整がおこなわれます。
株は安い時に買って、高い時に売る。難しそうに見えますが、定期的なリバランスの実施により、実は知らないうちに実践できているのです。試してみる価値は十分にあるでしょう。
・VIX指数40以上、Fear & Greed Index 10以下、PBR1倍以下が概ねの買い時と知っておこう
・現金比率を意識して、定期的なリバランスを実施しよう
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