<24日午後5時更新> 本稿初出時、名前に誤りがありました。「HERO Impact Fund」は誤りで、正しくは「HERO Impact Capital」です。訂正してお詫びします。
シードファンドが新たに生まれるニュースに接するのは、この国のスタートアップシーンの醸成を肌身を持って感じる瞬間である。今日もまた、若き投資家の独立、そして、新たなファンドの産声をお伝えすることになる。渡邊拓(わたなべ・ひろ)氏の名前については、BRIDGE でも何度か目にした読者はいるかもしれない。AI 特化インキュベータ兼 VC の DEEPCORE でマネージャーを務め、Telexistence、New Innovations、Liaro、BABEL、ChillStack、Sportip、Jij などの投資を担当した人物だ。
彼は、いわゆるミレニアルである。京都の有名進学校・洛南高校から慶応義塾大学に進学し、大学在学中には学生インターンなどで知られる国際 NPO「AIESEC」の日本支部の代表を務めた。高校生の頃から、株式投資で収益を上げては、それを若き研究者に投資していたというから天才肌の持ち主なのだろう。キャピタルへのアクセスが得意でない研究者たちを黎明期から支えたいという衝動、まだ日の目を見ていない技術やアイデアの卵を掘り起こそうとする性分は、彼が学生だった頃から培われたものなのかもしれない。
渡邊氏は24日、ファンド運営会社として HERO を設立し、総額30億円規模のファンド「HERO Impact Capital」の1号ファンドを組成したことを明らかにした。主に創業期の研究開発型スタートアップへの投資を行う。このファンドの LP は、DEEPCORE、MISTLETOE。DEEPCORE は、HERO Impact Capital の出資先にフォローオン出資する可能性もある。資金調達は最終クローズしておらず、今後、メーカーなど事業会社からの追加調達を狙う。
また、チケットサイズは、プレシードラウンドのスタートアップで対しては4,000万〜1億円程度(20社程度)、グロースステージのスタートアップに対しては1億〜2億円程度(10社程度)を想定。名前はまだ明らかにできないとしながらも、すでに7社ほどに投資することを予定、または、決定しているという。当面は日本国内の投資に注力し、2号ファンド以降でアジアへも投資対象地域を拡大したいと意気込む。
HERO Impact Capital が従来ファンドと性格を異とするのは、財団(ZERO FOUNDATION)や研究所(24C Impact Lab、今後3年程度の間の開設が目標)を備え、研究者を発掘し、実際に事業に結びつくまでを伴走する体制にも垣間見える。ファンドの成功報酬から一部が財団に還元され、invest-ready ではないが将来可能性の高い研究者に対して財団から活動資金を提供する。キャリーの一部が財団を経由して研究者に提供されることで、VC の枠組みでは発掘しにくい研究シーズをソーシングしようという試みだ。
インターネット的な熱狂は Web3 に集まっていて、研究開発型の産業の熱狂はカーボンニュートラルに集まっている。ESG 投資が声高に叫ばれる中、市場は資金過多の状況で、むしろ、投資先である起業家が不足している。だからこそ、若手研究者に研究資金を投下して、彼らを育てるしかない、と思っている。(渡邊氏)
若手研究者のソーシングにあたっては、論文データベースや財団の寄付ネットワークを活用し、面白い論文・技術・アイデアを見つけたら、積極的に研究者に会いに行く体制を整えるそうだ。また、学会をはじめ研究者同士のネットワーク効果が働きやすいのもアカデミアの特徴であり、寄付や投資を受けた研究者が、また別の有望な研究者を紹介してくる、というポジティブなスパイラルは大いに期待できるだろう。今後、HERO Impact Capital の投資したディールを紹介できる日を楽しみにしたい。
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