「女子は理系に不向き」日本に巣くうジェンダーの呪いを解くために

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自信の有無が成績に影響を与える

OECDが2012年に65の国と地域で15歳の少年少女が参加したPISAテストの比較調査からは、十代の少女が集団的に、数学や自然科学に自信を持てないでいる様子が伺える。

東北大学教授で神経科学者の大隅典子氏も紹介しているように6 、自信の問題さえクリアできると、実は男女の差が殆どなくなるとする調査もある。

数学に対する「自信の度合い」はそれぞれの成績と有意な相関関係が見られ、驚くべきことに、理数系科目に同じ程度の自信を持つ男児・女児で比べた場合、両者は同じくらいの成績を取るのである。

女子学生の数学への自信や関心が非常に重要な意味を持つわけだが、では、そうした「自信や関心」が育まれたり、変化したりする条件についてはどうか。様々な研究があるが、その結果が示すのは、人はとても繊細に、環境に影響されるということだ。

たとえば、アメリカの理工系女子学生を対象にした2011年の調査によると、難易度の高い数学科目を男性教師が教えるのと、女性教師が教えるのとでは、関心の持ち具合や成績が変わってくるらしい。女性教師が教える方が「自分にもできそう」と親しみを持ち成績も向上しやすいという。

逆に、教師が男性、生徒が女性というパターンしか経験しない、あるいは理数系科目の授業中に先生が男子生徒しか指名しないなどの経験をした女子学生は、「この科目においてあなたは主役ではない」という印象を持ちやすい。期待されないから、成績も伸びない。進路選択のときには文系にいく。

こうしたジェンダー・ステレオタイプを乗り越えて理工研究者になった女性にも、残念ながら、まだ楽ではない現状が待っている。「優秀な科学研究者は男性である」というバイアスが残っているからだ。アメリカのような国でもそれはまだ存在する。

〔PHOTO〕iStock

それでもこの10年ほどは、現在の科学者コミュニティにみられるこのような偏見を研究によって検証し、対策を取ろうとする動きが活発である。

ある実験では、大学の理工系のラボを対象に、同じ内容の履歴書を女性と男性、それぞれの名前に変えて送りつけてみた。その結果、男性名の履歴書の方が、有意に高い評価を得る傾向があったという 。審査員の性別も、結果には影響があったという。

とすれば、候補者の名前や性別を隠した状態で書類の審査をする、あるいは、業績評価や採用のとき、関係者のジェンダー比率に気をつければよいことになる。

 

無意識のバイアスに抗して

残念ながら、日本の大学や研究機関では、まだ、無意識バイアスのレベルまでカバーした対策が、一般的になっているとはいえない。

とはいえ、ジェンダーに関する「無意識バイアス」自体の研究は進んでいて、次の段階に入りつつある 。

大学、企業を問わず、責任ある地位に就いた人がジェンダー・ステレオタイプに惑わされず意思決定できるようにするための研修プログラムが、開発されはじめている 。

また、欧米を中心に、「男の子だけが主人公」になりがちな理工系のあり方を変えていこうとする試みもある。ジェンダー分析視点を活かして、女性に関心の高いテーマを自然科学研究に盛り込むことをめざすジェンダード・イノベーション(性差研究に基づく技術革新)は、その一例である(このあたりの問題についてご関心のある方は拙著、『文系と理系はなぜ分かれたか』を是非お読み頂きたい )。

近いうちに日本の状況も大きく変化していくだろう。私たちにも、まだまだやれることがあるはずだ。

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