『奪うもの、奪われるもの』
通過PL…西村陽葵
※私が通過した時の感情・思考を元にした創作です。
※通過キャラによっては不快になる可能性もあるのでご注意ください。
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私に下された判決は……無期懲役。
うん、良かった。
日本の司法もバカじゃなくて。
月島さんは呆然としてたけど。
花宮さんは悔しそうだったけど。
鳥羽さんは申し訳なさそうだったけど。
私とっては一番腑に落ちる結果だったと言える。
澄ました顔で、微笑みながら、目を閉じる。
私はあなたで、あなたは私。
「どうだった、陽葵?」
私たちが奪われたもの、取り返せたかな?
私は20年……いや18年を思い返した。
***
裁判中の言葉を借りるなら、第一の殺人と第四の殺人は陽葵の犯行だった。
お母さんを取り戻すための殺人。
初めてはお父さんだった。
お母さんが刺した後に私が殴って殺した。
お父さんが左手で撫でてくれるのが嬉しくて、左手だけは取っておいた。
次は少女の身体を犯すクズだった。
悲しくて虚しくて心を埋めたくて気がつけば殴っていた。
左手を残したのはお母さんを安心させるためだった。
「お父さんがいなくなればお母さんは帰ってくる」
「この男がいなくなればお母さんは帰ってくる」
無垢故の殺人。
それが“西村陽葵”としての2つの殺人だった。
***
「お前のかーちゃん、本当の母親じゃねぇぞ?」
探偵から言われたあの言葉で
心にかけられていた鎖が外される音がした。
私は西村陽葵ではなくなった。
じゃあ私は誰?
鎖のお陰でなんとか形を保てていた心が壊れた。
血が沸き立つ。
甲高い叫び声が私の口から発される。
充血した目からは液体が流れる。
ヒヤリとした指先が首にかかり、力がこもる。
叫び声が消え、唸り声が場を満たす。
ー心は何も感じていない。

※ー○*$が、
シリアルキラーが、生まれた瞬間だった。
***
出来るだけセンセーショナルに殺したかった。
そのために学んだ。
法律、生物学、解剖学。
陽葵じゃないとわかって気がついたのだが
私はどうやら天才と言われる部類らしい。
難しい専門書でも一度読めば理解できたし、
1を見て10に展開できる。
心の鎖は枷だったのだろう。
最初は探偵を殺すことにした。
先に足元を見てきた向こうが悪い、と決断に罪悪感が沸くことはなかった。
探偵が派手に死ねば、探偵が調査したことも明るみに出るかもしれない。
あの男は本当の母についても掴んでいた筈だ。
それもマスコミが面白おかしく取り上げてくれるなら願ったり叶ったりだ。
私はあえて現場に証拠を残した。
私が表に出なければ本当の私を知ることが出来ない。
私がしたいのは意味のある殺しなのだから。
左手は回収した。
私は陽葵ではないから左手にもはや執着はない。
ただマスコミが食いつくのはこういう不可思議な死に様だろう。
冷蔵庫に頭部を隠したのもちょっとしたスパイス。
乙女のイタズラとして楽しんでもらおう。
***
そう思っていたのに警察は無能だった。
あれだけ残したのに私に辿り着いてくれない。
何故?そんなに私に人を殺させたいのだろうか?
ならばその願いに応えよう。
……次の殺人の計画を進めることにした。
そんな時に声をかけてきたのがアイツだった。
小学生だった時に私を虐めてきたやつ。
ノートへの悪口から始まり、どこからかクズとの噂を聞きつけ、脅して身体の関係も求めてきたやつ。
ただ陽葵は気がつかなかったが私にはわかる。
こいつはただ陽葵のことが好きだったのだと。
気を引きたくてあんな馬鹿なことをしていたのだと。
そして今も少なからず陽葵に好意を持っていると。
好きな女に殺されるなら本望だろう。
今までの計画を白紙にして、新たな獲物に狙いを定めた。
ー16時。
月島さんが私と死体を見つける。
そのまま私は警察に行く事になった。
側にある意思のなくなった冷ややかな左手に触れる。
月島さんを殺さなくてもいいことにどこか安堵した自分がいた。
***
一審は何も信じられなくて警戒心の強い子を演じて死刑だった。
死刑は不本意だ。
“私たち”は奪われたものを取り返せていないのだから。
なら二審はどうする?
考えていた時に月島さんが言った。
「君の減刑のために弁護士さんを呼んだんだ」
あぁ、そうしよう。
「信頼できる人がいて漸く話せるようになった心に問題がある子」を演じれば情状酌量の余地も生まれるはずだ。
私は陽葵だ。
か弱く不安定な西村陽葵だ。
そうして二審が始まった。
***
検察側の証人に母がいた。
久しぶりに会った育ての母は怯えた顔をしていた。
陽葵は貴方に喜んで欲しかっただけなのに。
そう思わなければ今ここにいなかったかもしれないのに。
そんな恨み言のような言葉が浮かぶが、心は凪いだままだった。
どこまでも平静に、嘘の言葉と感情を並べていく。
月島さんは勿論、弁護士の花宮さんも疑っていないようだ。私がただの可哀想で頭の弱い少女だと思っている。
人を騙すことに慣れてしまっていたからこそ、池神さんに実際の私を指摘されたときだけは心が踊った。流石長年嘘に固められた芸能界に探りを入れているだけある。
貴方なんでしょ?私の出生を追っているのは。
たまたま探偵事務所で見た池神あきらの名が離れない。女の勘とでも運命の導きとでもいえばいいのか。この裁判で見極めるために、池神さんの怪しさを指摘して牽制しておく。
「物証がない以上議論の無駄だ」という言葉はその通りだし、実際私がやっているので物証なんて出てくるわけがないのだが、池神さんと話せる口実を作っておくに越したことはない。
実際、池神さんは留置所まで来てくれたし、私の欲しい言葉をくれた。
「確証があるまで話せない」
それはつまりあと1歩まで迫っているということだろう。それさえわかれば私は奪われたものを取り戻せるし、ついでに少年法を盾に出来る可能性も高い。
そう思っていた矢先に2つの幸運が起きた。
1つ。検察側からの求刑が死刑から無期懲役に変わったのだ。
2つ。鳥羽さんが私の母であると告白した。
もしかしたら私は女優の才を継いでいたのかもしれないな。陽葵のような純粋さを全面に出して母に出会えたことを喜ぶ私は本心なのだろうか、演技なのだろうか。
ともあれ私はこの裁判において勝利を確信した。
“私たち”が奪われたものを取り戻せるのだから。
獄中とはいえ私は“佐藤つむぎ”として生きることが出来る。
そして陽葵は……。
***
事件は状況的に私以外の犯人が考えられない状況だった。
名を取り戻したことにより本性で出すことにした私は、自ら減刑のために語った。正直個人的には死刑でなければいいのだが月島さんや花宮さんの手前、出来るだけ頑張っておこうという想いからだ。
遺族が目の前に座っている第三の事件は早々に自白していた。自白によって反意を削ぎつつ、動機を話すことで同情を誘う。
第二の事件は特に言うこともなければ思い入れもないので、出来るだけシラを切っておく。
第一の事件と第四の事件は少年法のお蔭で問われない以上、後はどれだけ情に響くかだ。
やりきった。
最高裁をやりたくないくらいには心が磨耗していた。馬鹿なフリをしていたことがバレるくらいには取り繕う余裕がなかった。
疲れとは裏腹に、心はかつてない程満たされていた。
結論は、無期懲役。
園倉さんは淡々と事実を述べた。
池神さんは私という人間を見透かそうとしていた。
九重さんは安心していた。
十津川さんは不満そうだった。
あかりさんはじっと何かを考えていた。
鳥羽さんは申し訳なさそうだった。
花宮さんは悔しそうだった。
月島さんは呆然としていた。
私だけが笑っていた。
閉じていた目を開ける。
傍聴していたマスコミたちは、左手コレクターと呼ばれた殺人鬼をどのように取り上げるのだろうか。それが少し楽しみだった。
二人の少女について、みんなの記憶に残るように面白おかしく描いて欲しい。
その場にいる人の脳裏に焼きつくように、と強く美しく微笑んだ。
***
私たちが奪われたもの。
それは“個々の存在”。
つむぎという1人の女の子。
陽葵という1人の女の子。
この裁判で取り戻せたかけがえのないものは、マスコミのお蔭で広く知られることとなった。漸く個々の人間として認められたのだ。
ー私たちはやっと、離れられたんだ。
「バイバイ、陽葵。」
当時2歳だった陽葵の遺体が見つかったと私が聞いたのはそれからかなり後の事である。
Fin.
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陽葵……!
GMのキュウさんから「周りの大人たちに助けてもらえる」と聞いていたのに、ハンドアウト初っ端から「あれれ~???おっかしいな~??」となりました笑
自由度の高いキャラクターだったので、それはもう伸び伸びとやりました
私(夏凪)は陽葵じゃないけれど、私の中に陽葵の部分があるという想いの結果、夏凪とつむぎがシンクロしていつも以上に満足度の高いものになりました。(他の方は不完全燃焼だったかもしれないのでそこは申し訳ないですが…)
「私が陽葵で陽葵が私」といったRPを越えた感覚。多分人生で何度も味わえないんだろうなぁ。この子に寄り添えたのは運命だったなぁ。