ゲーマーゲートについて、日本で報道されたいくつかの記事を見てみよう。
前回、紹介した
○Access Accepted第440回:北米ゲーム業界を揺るがす“ゲーマーゲート”問題
http://www.4gamer.net/games/036/G003691/20141107133/
を始め
○ゲーマーゲートの件 - はてな匿名ダイアリー-http://anond.hatelabo.jp/20141111031928
○SXSWで論争の的。3秒でわかるゲーマーゲート(GamerGate)問題- GIZMODO-http://www.gizmodo.jp/2015/11/3gamergate.html
○【特集】今も余波続く「ゲーマーゲート騒動」―発端から現在までを見つめ直す-Gamespark - http://www.gamespark.jp/article/2016/01/31/63439.html
○「ゲーマーゲート」の騒動はどこまで広がるのか - 平和博 ハフィントン・ポスト -http://www.huffingtonpost.jp/kazuhiro-taira/gamer-gate_b_6058692.html
などが検索上で引っかかる。
4gamerの奥谷海人さん以外の以下4つは、どれもGamerGateに否定的な内容である。しかも、個人ブログ、メディア、ジャーナリストによる記事など様々な媒体が、「GamerGateはネット上の女性叩き運動だ」という論調で報じているために、これらを閲覧しているだけだと、どんなに調べてもGamerGateがネガティブな運動だと思わざるをえない。
しかし、この報道に関しては、GamerGateが”既存のゲームメディアの在り方を問いなおす”反ネットメディア・ミーム運動であり、ゲームメディア・ニュースサイトは、GamerGateによって味方なり敵なりに振り分けられた一つの勢力であり、この騒動の結果によっては自分たちの存続すら危ぶまれる立場にいる、ということで、その仕組みがはっきりする。
ゲームメディアは中立的な報道をすることは非常に難しく、読者は用心する必要がある。
実際、上に挙げた中でも、GIZMODOはGamerGateの人々が批判しているGawkerメディアの系列会社であり、日本版は名前をかりているだけだったとしても、その事実を明らかにしないまま記事を作っている時点で、そもそも中立的な立場に立っているとは言い難い。また、ハフィントン・ポストの平和博さんの記事はGamerGateの報道に関しては、過去に誤った報道をしている(GamerGateの参加者からの指摘を受け、後で修正された。しかし、タイトルはそのまま)
○パリ同時テロと〝ゲーマーゲート〟:ジャーナリストがテロリストに仕立て上げられる
http://www.huffingtonpost.jp/kazuhiro-taira/gamer-gate-journalist_b_8678778.html
このコラ画像を作った人物は、ただの荒らし行為を及んでいるtroll(荒らし)で、GamerGateの一員でないにもかかわらず、平和博さんはこのtrollをGamerGateだと報じてしまった。
また、おそらく騒動の初めに多くの人が読んだであろう、はてな匿名ブログの記事に関しては、GamerGate騒動のかなり初期に書かれているわけだが、この記事を書いた人物が、果たしてなぜこんなに早く事態を把握し、しかも海外のニュースをこうも独断できているかについては疑問も残る。もっとも書き手が匿名のため、その辺を詮索するのは下衆の勘繰りか徒労というというものだろう (場所が場所だけに、ここでの情報を信じる方にも問題はある) 。
むしろ論理的な部分に絞って納得しにくい点をあげたい。ブログ記事の中に書かれている通り、ゾーイクインさんに対する炎上事件が起きた後に、ゲーマーゲートの名前が考案されているのなら、ゾーイクインさんに対する暴力を及んだ事実があったとしてもそれは4chanで起こったことであり、Twitterのハッシュタグにより始まり、一般ゲーマーも巻き込んでいったGamerGate運動とは関係ないのではないか?
しかも当の4chanねらーも4chan内で内部分裂を起こしているので、一枚岩ですらないのだ。
これは2chを扱ったニュースでも同じなのだが、2chはサイト(場所)の名前であり、2chねらーといっても特定の性格を指すことはできない。2chは人が集まる場所なわけだから、当然、中には良からぬことを考える人も混ざっている。だが、そのような輩への批判を2chに出入りしている人間全員に当てはめれば、批判の矛先を間違った相手に向けてしまうことになる。
もっとも私も個人を集団で中傷するような行為は好まない。このような場合は、警察の捜査に任せるか、4chanが情報公開するなりして、事実関係がはっきりさせることが優先されるべきだろう。今となっては、刑事事件になっていないかぎり、それ以上の言及はできないが。
これらの記事の批判点を挙げるあるとするなら、そのどれもがGamerGateを政治的対立として報じず、中立的な立場から事件を報じている……ように読めるにもかかわらず、どれも明確なソースを提示できていなかったり、炎上事件だけでなく、GamerGateの人々のメッセージにも耳を傾け、それを伝えるなどの相対的な立場を維持していないことだ。
ちなみに、この記事はGamerGate側から書いているので、読者がその点を差し引いてくれてかまわない。
もっとも私も日本のメディアが、悪意をもってこのような報道をしたとまでは邪推していない。そんなことをしたところで何の得もないからだ。おそらく、欧米のゲームメディアの扇情的な記事をソースにしたり転載してしまうことで、日本にまで「女性叩き」「インターネット上の暴力」という過激なフレーズが踊る報道が乱立してしまったのだろう。読まされた方はいい迷惑である(その点、一定の評価ができるメディアもある。日本版のKotakuだ。欧米ではGamerGateが批判し、Kotakuの方もケンカを買ってでた形だが、日本のKotakuは今のところ意図的に距離を取っている)。
日本のメディアまで影響を受けるほどに、GamerGateによって生まれた政治的対立の規模は大きかった、と言える。
逆風、という言葉もある。
現在の欧米のゲーム文化の風潮が続けば、海外における日本のビジネスや、IPの価値が大打撃を受ける可能性も十分考えられる。その時、もっとも批判のやり玉にあげられ、恥をかいてしまうのは、あやふやな記事を書いた執筆者なのではないだろうか。
むろん、この騒動が難しすぎる、ということはあるのだが。