今回はいよいよGamerGateについて説明したい。
■GamerGate前夜1
事の発端は、2014年にインディーズ・ゲームデベロッパーのゾエ・クイン氏が、SteamのGreenlight (開発中のゲーム情報をユーザーに公開し、ユーザーの評価によってSteam内での販売が可能になるシステム)に、自身のゲーム『Depression Quest(鬱クエスト)』を登録したことだった。
匿名掲示板WizardchanでDepression Questをこう批判するポストが投稿されたという。「彼女は、(鬱クエストとか言っているが)この掲示板の誰とも知り合ってなんかいないだろう。誰か(メールやスレッドで)彼女に文句が言うことができますか? あのクソ女!」
実はこの掲示板、日本のミーム「30歳以上まで童貞だったら、君は魔法使いになれる(if you reach 30 years old and are still a virgin, you will become a wizard )」から生まれたサイトらしく、童貞や自殺志願者、鬱病傾向の利用者が集まる……という触れ込みの掲示板だった。なので、ユーザーは自分と立ち位置の近いDepression Questに強い反発を抱いたのだろう。
すると、ゾエ・クイン氏はこの批判にツイッター「私はこの批判について何も言うことはないが、このような批判を受けることは予想通りだ」と、投稿。それが彼女の周囲にいた、”西洋ゲーム業界に蔓延している女性蔑視”に結びつけられることで、Wizardchan叩きが発生した……という。
これを聞いて「なぜそんな批判になるんだ?」と首を傾げる人も多いだろう。GamerGate騒動とは基本的に、このやり取りと同じような、立場間のすれ違いが続くことで騒動の規模が拡大していくことになる。
Wizardchanユーザーのアイデンティティは、童貞や精神病といった社会的に負と見られているステータスであり、その観点から「鬱クエスト」というタイトルのゲームを批判しているし、ゾエ・クイン氏自身は、自身の名前・略歴、そしてゲームを、公の場所に置いているわけだから、当然、ある程度の批判は受ける、と個人的には思う。最後の「クソ女!」を女性蔑視と見るかどうかが、かろうじて意見が別れるところだと思うが……。
この報は、4chanにももたらされていた。しかしwizardchanユーザーたちはこれ以上事件が広がるのが嫌って、批判を受けるがままにしたという。
このように、ネット掲示板とゾエ・クイン氏は、GamerGate騒動以前から衝突を起こしていた。
■GamerGate前夜2
それから2ヶ月後の同年8月、ゾエ・クイン氏の元恋人の男性が、「ゾエ・クイン氏が何人かのKotaku関係の男性と特別な関係を持ち、自分のゲームを売り込もうとしている」という、リベンジポルノめいたリークをしたことから、4chanで大きな騒動に発展した。
この経緯はすでに日本でも報じられている。ただ、ほとんどのメディアが報じていないのは、この後、実際に、Patreon(クリエイターに投資できるクラウドファウンディング・サービス)上のゾエ・クイン氏のアカウントに、数人のジャーナリストからの資金提供があったことが発覚したことだ。
これにKotakuとPolygonが過敏に反応し、急遽、「ジャーナリストは(中立性を守るために)クリエイターに資金提供すべきではない」とポリシーを改定、これを受け「ポリシーを今さら変えるだけでスキャンダルへの回答になっていると思っているのか?」という批判と、ラディカル・フェミニスト側の「自分はゲーム業界に女性デベロッパーを増やすために資金提供してるんだ。何が悪い」という賛否両論…ではなく否否両論を呼んだ。
その上、Kotakuのジャーナリストが審査員を務める選考で、ゾエ・クイン氏のDepression Questがゲーム賞を取ったことも明らかになり、「Depression Questがなぜここまで評価されるのか?」という疑惑が4chan内外に広がり始める。また、これを受け注目を集めたDepression Questを批評した動画の一部が、おそらくゾエ・クイン氏本人からの要請で著作権削除を受けたことで、騒動は逆に過熱してしまうことになってしまった。
Depression Quest
■GamerGate始動
GamerGateのマスコット-ビビアンジェームス (フェミニストのゲームクリエイターチーム The Fine Young Capitalistsが提供)
こうした煮え切らない状況の中、俳優・アダム・ボールドウィンさんがtwitter上のハッシュタグ・#GamerGate上で議論することを発案。
GamerGateはミーム(文化的遺伝子。一つの噂や伝言ゲームのように言葉が感染し、それぞれが別個の思想や目的を持ちながらも、共通の目的を達成しよう、と言うコンセプトを持つ中心のないインターネット上の運動)として始まり、Twitter上で、#GamerGateのハッシュダグをつけるだけで、(反対派も含む)誰もがゲームジャーナリズムとその腐敗について意見交換したり、ゲーマーの意思表明をしたりして、ゲーマー同士の情報共有を目的とした「誰でもウェルカム!」な民衆運動として開始された。
GamerGate内で実際にどのような会話が行われているかは、Twitter上で#GamerGateを検索すればいつでも覗けるし、2年経過した今でも活発に議論されているので、あなた自身の目で確かめてみるのもいいかもしれない [ https://twitter.com/hashtag/gamergate ]。
GamerGateは、それまで多くのゲームファンの間で、ゲームジャーナリズムへの不信が募っていたこともあり、運動が始まった直後からハッシュタグは爆発的な広がりを見せ、一気にTwitterのトップワードにまで登りつめた。しかも、この運動は必ずしも4chanとは連結しておらず、多くの一般参加者を巻き込むことで雪だるま式に大きくなっていった。
この運動の盛り上がりを傍目で見ていたゲームジャーナリズム陣営は戦慄したと思われる。GamerGateが誕生するのと同時並行で、本格的にネガティブキャンペーン報道を開始し始める(それまでにも嫌に過敏に反応しすぎている。”ヒットマーク”を見せすぎたことが、逆に炎上に油を注ぐ要因となってしまった)。
最初にアンチ・GamerGateの声を挙げたのが、ラディカル・フェミニストたちだ(後述するが、簡単に言うと男性が女性を支配してきたとする父権制史観と、女性の特権をイデオロギーとし、女性の露出表現などを”Sexism””Misogyny”(女性蔑視)と抗議する、ネット上で支持を集め行動している急進派のフェミニズム。他のフェミニストとも対立関係にある)。
彼らは、4chanでのゾエ・クイン氏への追及をネットハラスメントと、ゲーマーの間に女性蔑視が蔓延している(自分たちが今までしてきた批判の)証拠だとして、ラディカル・フェミニストが運営しているメディアやブログが一斉に批判キャンペーンを展開し始めた。これは後にStopGamerGateに発展した。
自身もラディカル・フェミニストで、ゲーム批評家のアニタ・サキージアン氏は、TVショーでゲーム業界をSexismと公言、さらにメディアもこの流れに乗っかり、Ars Technica, The Daily Beast, The Stranger, Beta Beat, Gamasutra, Polygon, Kotakuが”ゲーマーの死”をテーマにした記事をいっせいに報道しはじめた。
また、ゲームデベロッパー、ジャーナリストが連盟でネットの暴力に反対する声明を発表。驚くべきは、ここまでで、4chanにリークが発表されてから二週間も経っていないことだ。
■勘づかれたGameJournoPros
この早すぎる対応が、逆に多くの疑惑を呼んだ。
あるジャーナリストが、Gamasutraでこれを「故意にコアな読者の文化を非難するのはゲームサイトの戦術ではないのか」と投稿した所、ジャーナリストとしてのランクを下げられ、一方で、この騒動を真っ先に報じ、ゲームジャーナリズムを糾弾するyoutuberの動画が人気を集め始めていく。
このような背景から、4chanで起こったゲームジャーナリストに対する疑惑と批判をどう報道するのかを巡って、新旧含む、様々な媒体の”ジャーナリスト”の間で意見が分かれていく。
そんな中「GameJournoPros」の存在が、GamerGateを表明したイギリスのジャーナリスト・Milo Yiannopoulosと彼も寄稿しているメディア・Brietbartによって暴露される。
暴露の中身は、様々な大手ゲームメディアのスタッフや、そこに寄稿しているジャーナリストが100名以上も名を連ねたメーリングリストの存在とその内容であり、そこで先ほどの”ゲーマーの死”記事やネットハラスメントに反抗する声明の呼びかけが先導されていた……つまり、100人単位の記者団が共同歩調の相談をしていた、という事実が明るみ出てきたのだ(前回、ドラゴンズクラウンをバッシングしていたJason Schreier氏も参加している)。
訳(黄線部分・意訳): Kyle Orland氏「私は、女性叩きのいいわけとしてのクソ”ジャーナリズム精神”なんて用意するつもりなんて、これっぽっちも考えちゃいないぜ」「この事件(GamerGate)への懲罰を私のプラットフォームを使ってできたらいいなぁ……ww」「ひょっとすると、私たちは他の話題をメディアの見出しにするよりも、Twitterを刺激すべきかもしれない」「ひょっとすると、私たちは個人攻撃に対するジャーナリストとデベロッパーの公開状を取る必要があるかもしれない」「ひょっとすると、私たちはこの事件への注目をいいわけにすれば、彼女の仕事や鬱クエストに対するレビューを注目させることができるかもしれない」
GamerGateをネットハラスメントだとした記事は、こうして拡散された。
■8chan移住騒動
2014年9月、4chanにも異変が起きていた。
管理人のmootが、4chan上のGamerGateを話題にしているスレッドとIPアドレスを無差別に削除、BANしはじめたのだ。その後、mootは4chan上で声明を発表。個人攻撃の禁止が名目だったことと、これは突然の豹変ではなく、昔からルールや運営人による権限の執行は考えられ続けていた、と弁解した。当然、一部の4chanユーザーがこれに納得せず、4chan全体が内部分裂していった(4chanには反GamerGate・傍観派・SJWと呼ばれる勢力が混在していて、決して一色ではない)。
加えて、redditではGamerGateを話題にしているユーザーに対し、Shadowbanと呼ばれる、ユーザー本人に気づかれないままにアカウントや書き込み情報が他のユーザーから閲覧できなくなる処置が取られている、という疑いが浮上した。
これを受け、/v/-VideoGames板の4chanユーザーたちは、4chanと決別、8chan(インフィニティ・チャン)に移住し、GamerGate活動を継続していくこととなる。
ちなみに、この4chan分裂事件の報せは、皮肉にも、8chanがハッカーからDDOS攻撃を受けることで、8chanとサーバーを共有していた2chがシステム・ダウンするという形で、日本にも漏れ伝わってきていた。そこで、一夜限りの2chの嫌儲民、なんJ民と、8chanゲーム民との”未知との遭遇”が起こったりしている。
当時、2chも黒丸流出事件や偽2ch騒動を起こし、管理人のひろゆきと住民との対決色が濃厚になり、管理体制が一新されたり、後に一部の住民がredditに移住するなどの一連の騒動が起きている最中だった。
日本と西洋の匿名掲示板文化(chanculture)は同時期に同じような衝突が勃発し、進行していたのだ。この偶然の一致を、西洋のゲーマーたちに伝えることが、GamerGateにおける私の最初の仕事となった。
Otaku war Japan-2channel and GamerGate- RoninWorks-http://roninworksjapan.tumblr.com/post/102000265691/otaku-war-japan-2channel-and-gamergate
実を言うと、私はこの時、まだGamerGateは暴徒が起こしたもので、8chan民は4chan民にすら反旗を翻した過激派だという印象を拭いきれていなかったのだが、この記事を読んだゲーマーたちからの返答を機に、(敵対勢力含む)様々な立場の欧米のゲーマーと交流するうちに、実態はメディアの提供する情報とかけ離れていることを知った。おかげでGamerGateの一部とケンカする程度には、深くこの騒動に潜りこむこととなっていった。
■ゲーム業界を二分
話を戻そう。
結果的に、ジャーナリズムの腐敗が実在していたこと、示しあわせたような匿名掲示板における規制は、逆に疑惑を裏付けた形となり、GamerGateは異様な盛り上がりを見せることとなった。
その騒ぎは過熱していく中で、様々なゲームクリエイターやジャーナリストにまで議論は波及し、クリエイター間の考え方の違いや、クリエイター・ジャーナリスト・ユーザーとの間にある距離感といった、欧米ゲーム文化の水面下に潜んでいた様々な問題を浮上させ、その深刻な亀裂を可視化した、と言える。
(初期に作られたこの図では右側に配されたnotchだが、Part-2で言ったとおり、最近GamerGateを公言した)
勢力図を見ると、ある法則性が浮かび上がってくる。GamerGateは、大手メディア+ラディカル・フェミニスト vs 独立系メディア+8chan,reddit等の掲示板のユーザー、youtuberという対立構図として見ることもできるのだ。
この対立には、アメリカや西洋諸国が抱えている政治や経済問題が背景にあり、おおまかに言えば、女性開発者の比率の向上をあらゆる媒体のテーマにし、キャンペーンを推し進め、そのことで既得権益に組み込まれたい勢力、と、個人の自由を尊重しようとその流れに反発している、既得権益の影響力から脱したい勢力とに分けられる、と言えるだろう。
いずれにせよ、GamerGateの勃発により、ゲーム文化のメディアとユーザーとの乖離は著しいものになった。そしてその離れた距離感は埋まりそうもない。なぜなら、GamerGateとゲームメディア&ラディカル・フェミニズムとの抗争は、この程度では終わりはしなかったからである……。
続く
■補 なぜ騒動は加速したのか? -Gawkerメディアとラディカル・フェミニズム
前回の、米Kotakuのドラゴンズクラウンに対するバッシングに近い批判記事を参照してみてもらえば分かる通り、一部のゲームメディアは、以前から女性差別という言説を使って、女性キャラクターが登場するゲームやゲーマー文化を批判し、炎上させ、ゲーマーたちから顰蹙を買っていた。
ゲーマーたちと、一部のメディアとの間にはGamerGate以前から軋轢や対立感情があったのだ。そういったゲーマーたちのゲームジャーナリズムに対する不信感や不満が、GamerGateを加速させ、爆発させる原因になったと言っていい。
欧米のゲーマーたちと話すと、真っ先に批判のやり玉に挙がるのがGawkerメディアだ。
GawkerメディアとはKotaku、Gizmodo、Lifehackerなど複数の有名サイトを所有、運営している企業の名前である(日本のKotakuなどは名義貸しで委託された会社が運営している)。読者の中には、そもそもそれらのメディアがすべて同じ系列だったこと自体に驚くかもしれない[ https://en.wikipedia.org/wiki/Gawker_Media ]。
Gawkerメディアの運営するこれらのメディアは” clickbait”と呼ばれる、あらゆる手段を使ってクリック数を稼ぐ手法や、誇大広告、扇情的なゴシップ記事を書くことで、読者数を伸ばしてきた、と言われる。
彼らのゲーム文化に対する影響力が増すにつれ、ゲーマーたちがそういった新興のゲームメディアを警戒しだすのは必然だった。ゲーマーたちは、しだいにメディアとゲーム会社、政治団体との癒着を疑ったり、Gawkerメディアの報道の中立性を守らない態度を批判するようになっていった。Gawkerの方でも相手のケンカを買ったり、自身を「ジャーナリストだ」と公言するようになっていった。
ようするに「ネットのブロガーやユーザーの言うことなんか知ったこっちゃないよ」と吹聴するようになったのだ。ゲーマーたちからすれば「ジャーナリズム(笑)」といった心境だろう。
近年、その強引な取材方法も問題視されるようになってきた。
秘匿情報やオフレコをリーク情報として記事にあげてしまうために、Falloutシリーズでも知られるBethesdaやUbisoftからKotakuは”ブラックリスト”入りされ、取材拒否を受けているというのだ[ http://jp.automaton.am/uncategorized/kotaku-is-balcklisting-of-bethesda-and-ubisoft/ ]。
何よりGawker関連で今もっとも注目を集めているのは、ハルク・ホーガンのセックステープ問題だろう。これはプロレス界のレジェンドとして知られるハルク・ホーガンの私生活を盗撮したビデオをネット上に公開し、削除要請も無視したことでハルク・ホーガンから訴訟を起こされた事件で、結果的に裁判所がハルク・ホーガンの訴えを認め、プライバシー侵害のかどでGawkerに対し1億1500万ドル(約128億円)を支払うよう命じたばかりだ。
以前からGawkerは、JEZEBELという女性誌を運営していることからか、ラディカル・フェミニズムという、フェミニストの人々からも危険視されている人々と接近している、と噂され始めていった。それは実際に、ライターが女性差別、蔑視を目的に特定の表現を叩いていることからも当てずっぽうではない。
では、今、欧米社会に影響力を増しているラディカル・フェミニズムとは何なのだろうか?
■ラディカル・フェミニズムとは何か それはフェミニズムと何が違うのか
ラディカル・フェミニズムは、第三波(サード・ウェーブ)と呼ばれる90年代のムーブメントによって生まれた潮流で、近年、ネットを通じて急激に支持を増やしているフェミニズムである(”ラディカル”というのは蔑称ではない)[ ラディカル・フェミニズム-Wikipedia ]。
ラディカル・フェミニズムと既存のフェミニズムと最も異なるのは、既存のフェミニズムが、人権や社会の中の役割において、男性と女性との間に不当な待遇の差があることを批判し、男女の格差の是正と、社会における役割の自己決定性、または性差を越えた他者理解を目的とし、あくまで民主主義と対話を重視するのに対し、ラディカル・フェミニズムはある特定の歴史観とそれを軸にした抗議活動を目的とする、という違いがある。
その歴史とは”父権制史観”ともいえるもので、古来から男性が常に女性を性を理由に支配し、差別し、抑圧し、ヒエラルキー構造を作ってきた、というものだ。そこには、かつて性差よりも重くのしかかっていたであろう貧富や身分制、中世以前の宗教的世界観は考慮されない(たしかにこれらは現代人からすると想像しにくい)。
そして男性が常に女性を虐げてきた歴史という前提から女性蔑視を発見、抗議し、女性を優遇することを主張する。ある意味では、具体化された、物質的な目的を政治的目標として掲げている、と言える。
一方で、自分たちの主張を受け入れない人間には”Sexist”” Misogyny”(女性蔑視・女性嫌悪)とレッテルを張り、ネガティブキャンペーンを展開するのが常套手段であり、その過激な手法が他の政治的立場の人々から批判の対象になっている。
これは実際に彼らの発言や議論を見てもらわなければ想像しにくいが、基本的に、彼らに対話や融和の余地はない。
相手が、ラディカル・フェミニズムの父権制史観を受け入れた上で、自分たちの要求を完全に呑むまで抗議は続く。なぜなら、彼らが売り込みたいのは、自分たちの歴史観でありイデオロギーであって、妥協案ではないからだ(これは過激派がしばしば取る政治的手法であり、彼ら特有のものではない)。
そのため、彼らの目的は社会の改善ではなく、抗議活動の宣伝が目的ではないか、と疑われている。
そのラディカル・フェミニズムの批判対象にゲームにおける女性キャラクター表現が浮上している。現実・二次元にかかわらず女性の肌を露出することは、女性差別・女性蔑視の風潮だとして批判しているのだ。そこでは例えば、そもそも女性の肌の露出の自由を訴えてきたのがフェミニズムなのでは……とか、女性自身が女性の性の表現をする自由もあるのでは、という批判は無視されてしまう。
女性キャラクターを多く登場させたとして、ラディカル・フェミニストから賞賛を受けた『Overwatch』だが、その後、画像右上のポーズが差別だと抗議された。結果、Blizzard側が問題の表現を削除したことをPolygon(記事リンク)とラディカル・フェミニズム・ブログの"The Mary Sue“ (記事リンク)が報じた。
このような流れを是とするか否かは、人によって意見が別れるところではないだろうか(ちなみに、画像右下はThe Mary Sueのアイコン。「これも削除対象では」とGamerGateから皮肉交じりに指摘された )。
日本文化に親しんだ者にとって痛手なのは、美少女表現にかぎらず、少女漫画や乙女ゲー、BL表現のような女性向けのキャラクター表現も、基本、規制すべき表現の対象に入っていることだ(そもそも区別がついていない)。これは、彼らの歴史史観にとって、「女性自身が自由にものを表現した」という前例は認められないからでもある。
おそらく彼らの大半は、少女漫画を一冊も読んだことがない。自分たちが育ってきた環境や価値観を基準にして、美少女表現や日本に対してのヘイトをつのらせているのが現状だ(もっとも私自身、実際に彼らと議論を重ねる中で、彼らや彼らが影響を与えようとしている西洋社会を友好的に説得する方法はあると考えるが、ここでは省略する)。
相手の主張を無視し、”Sexist”” Misogyny”とレッテル張りし、一方的に主張を押し通す”型破り”の抗議活動はたしかにわかりやすく、正義の御旗の元で団結し戦うことを可能にする。そのため、ネットを中心にして人気を得て、急激に勢力を伸ばしているのだという。そして、ゲーム業界の中にも、その人気に乗っかろうとする人々や、正統な活動だと考える人々が出始めていった。
新興の政治活動が、インターネット上の過激な言説を利用することで若年層や無党派層の支持を獲得するケースが、欧米においても進行していたということだろう。それがたまたまフェミニズムの一派に集中していった、と考えるのが妥当かもしれない。
そして、彼らの活動の中心がネットということもあり、欧米社会の人々の認知もそれほど及んでいないのだ、と聞いた。
■SJWs・PC そしてセーフスペース活動
ラディカル・フェミニズムの支持者は、SJW(複数形でSJWs)と呼ばれる。
これは”ソーシャル・ジャスティス・ウォーリア”の短縮で、直訳すれば”社会正義の戦士”という意味になる。 厳密に定義するなら、”一辺倒の社会正義を唱える一方、対話を拒否し、他者理解を目的をしない人々”という意味だろう。
4chanで生まれたスラング・侮蔑語で、そのため一見、生真面目な人間を馬鹿にするためにつけられたレッテル張り(例えば厨二病や意識高い系など)のようにも読めるが、Twitterなどを見ると、SJWは自分を「私はSJWだ」と自称しているケースが多い。これはラディカル・フェミニズムもPCも同じである。どうやら西洋では、言葉の定義は自分で決めるものらしい。
PC(ポリティカル・コネクトネス)は特定の言語の使用を差別と認定する運動を由来とするが、基本的にSJWと意味は同じである(ちなみに、PCは2015年のサウスパークでもネタにされた)。
ラディカル・フェミニズム・SJW・PCは、相手の肩書きや状況によって使い分けられるが、基本、同じような意味としてとらえても差し支えない。
彼らが問題視される原因となった活動の一つに、セーフスペース活動がある。
これは、大学の公共空間内にセーフスペースと呼ばれる、他人から差別や侮辱を受けない空間を用意するように大学や教授に対して掛け合う運動なのだという。
欧米では日本とは異なり、民族間対立の代わりに性差が対立煽りの対象と化しているようだ。
誰も、女性が不遇な待遇に置かれたり、暴力の被害者になることを望んだりはしないだろう。過去の運動家たちの努力と献身によって、男女平等の理想は一定の成果を見、まだ不十分な面は多々あるとはいえ、人々の意識を変えた。
だが、逆に考えてみれば、そういった現代人の常識・正義を盾にとれば、誰からも批判されずに自分の主張を押し込める。相手の弱みにつけこめる、とも言えるだろう。
私自身は、男女平等を確立するには漸進主義による変化と、歴史の中における女性の役割の再考が必要だと考えている(なので、ラディカル・フェミニストに対しては、少女漫画や日本の歴史を教えようとはしている。たいていは日本人が来たことにビックリし、逃げていくが……皮肉なことに、東洋人の地位は彼らが攻撃できるほどには、まだ高くはないのかもしれない)。
ゲームから”美少女”が消える日 ~GamerGate参加者が語る欧米社会の今
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