食&酒

2023.09.19

全国を回る「幻影醸造所」でレベルアップ! 日本酒を造る冒険者

「木花之醸造所」で麹の最終確認をする立川(ぷくぷく醸造提供)

国内向けの日本酒製造免許の新規参入が認められていないなか、「クラフトサケ」という酒の新ジャンルは、自分の日本酒を造りたいと願う多くの人たちにとって、吉報となった。「その他の醸造酒」の免許を取得すれば、米と米麹の他にホップやハーブなどの副原料を一緒に発酵させた「クラフトサケ」や、ドブロクを醸すことができるようになったのだ。

そうは言っても、酒蔵を立ち上げるには数千万円の資金が必要だ。そこで、「お金はないけど、どうしても日本酒やクラフトサケを造りたい!」という熱い想いを持つ者の希望の星となりそうなのが、「ファントムブリュワリー」だ。ファントムとは幻影や亡霊、幻の意味。自前の設備を持たずに他の醸造所に委託するブリュワリー(醸造所)を指す。

他の醸造所にレシピを渡して完全委託するスタイルと、醸造所を間借りして酒造りをさせてもらうスタイルがあり、クラフトビールの世界では海外を中心にポピュラーとなっている。日本でもクラフトビールのファントムブリュワリーは少しずつ増えてきた。

一方で、日本酒やクラフトサケのファントムブリュワリーはまだ珍しい。

2022年からファントムブリュワリー「ぷくぷく醸造」を立ち上げて、日本酒やクラフトサケを造っている立川哲之(たちかわ・てつゆき)は、その先駆者の一人だ。

旅をしながらレベルアップ

22年8月に最初の酒をリリースしてからの1年間で、日本酒2種、クラフトサケ10種を造ってきた。立川が考えるファントムブリュワリーの魅力は、「いろいろな蔵で日本酒やクラフトサケが造れるからこそ、経験値が比較できないぐらい上がっていく」こと。経験値が上がれば、付随して技術も上がっていく。まるで旅をしながらレベルアップしていく冒険者のようだ。清酒製造免許がなくても、日本酒を造ることだってできる。

「同じ設備で同じ酒を作る場合は、 ある程度の経験を積んでいくと品質もどんどん良くしていけると思いますけど、毎回違う設備で、毎回クオリティを高くしていくというのは、かなりハードル高い。なので、自分にとってはすごく経験値が上がるし、どんなにイレギュラーが起きても美味しいお酒を作っていけることに繋がっていくと思う。半分修行のつもりでファントムをやっています」(立川)
2023年から技術顧問を務める東京・浅草「木花之醸造所」前に立つ立川哲之。京都芸術大学非常勤講師(クラフトサケ学)でもある。
次ページ > 立川の目標が日本酒の売り手から造り手へ

文=柏木智帆

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2023.09.09

チームで勝ち取った栄冠 全日本最優秀ソムリエに野坂昭彦氏

野坂昭彦ソムリエ(撮影:福山楡青)

8月末、目黒雅叙園で、日本ソムリエ協会主催の全日本最優秀ソムリエコンクールが開催された。第10回となる今大会で栄冠を手にしたのは、マンダリンオリエンタル東京の野坂昭彦氏。準優勝は、前大会も同位で健闘したコンラッド東京の森本美雪氏、第3位には26歳の新星・ロオジエの中村僚我氏がくい込んだ。
ファイナリストの4選手。右から、中村僚我氏、森本美雪氏、野坂昭彦氏、Justin Ho氏(マレーシア)

ファイナリストの4選手。右から、中村僚我氏、森本美雪氏、野坂昭彦氏、Justin Ho氏(マレーシア)


ソムリエコンクールは世界大会を見据え英語で行われ、決勝では、観客が見守るなか、勝ち抜いた上位4選手が舞台上で難易度の高いサービスやテイスティングの課題を制限時間内にこなしていく。今回筆者は、仮想客として審査に関わり、各選手のパフォーマンスを間近で見る機会を得た。張り詰めた空気の中、これまで培ってきたものを出し切る選手たちの姿は清々しく、また感動的だった。

その中でも、滑らかな立ち回りと周りへの配慮でサービスパーソンとして群を抜いていたのが、優勝した野坂氏だ。今回で6度目の挑戦。20代後半に初めてソムリエコンクールに出場し、この時は予選敗退だったものの、同世代の仲間が優勝する姿に刺激を受け、努力を続けてきた。

3回目の出場で準優勝まで迫るが、4回目は3位、そして前大会では6位に順位を落とし、「やめようかと思った」と野坂氏。それでも優勝するまで踏ん張ったのは、「終わった人になるのが嫌だった。そして、自分のチームのソムリエたちが出場するのに、先輩として背中を見せないと説得力がないと思った」からだ。
マンダリンオリエンタル東京のソムリエチーム

マンダリンオリエンタル東京のソムリエチーム


今大会、野坂氏が勤務するマンダリンオリエンタル東京からは、若手の池田大輝氏と山本麻衣花氏も出場し、全員がセミファイナルまで進むという、チームとしても快挙を成し遂げた。自身を「プレイング・マネージャー」という野坂氏だが、忙しい仕事の合間に、皆でテイスティングの特訓をするなど切磋琢磨し、また後進を育ててきた。優勝発表が行われた直後、舞台袖で、上司である野坂氏の勝利をチーム皆で喜んでいる姿が印象的だった。

今大会では、現世界チャンピオンのレイモンズ・トムソンズ氏をゲストとして招聘し、また、初めてアジア・パシフィック地区の招待選手が参加し、国際的な装いとなった。

優勝の熱も冷めやらぬ中だが、野坂氏は既に、2025年に開催されるアジア・ パシフィック 最優秀ソムリエコンクールに焦点を当てている。今回の全日本優勝者として出場権を得たが、「最大かつ最後のチャンスとして万全の準備で臨む」と意気込む。

今大会の総指揮を担当した日本ソムリエ協会副会長で、日本代表チームのコーチ役でもある石田博氏は「コンクールの目的は順位をつけることで、やはり勝つことに意義があります。負けると、これまでの自分を全否定されたような気持ちになり、とてつもなく悔しく、失望します。しかし、目標に向かい、犠牲を払い、同じ志をもつ人たちと切磋琢磨し、研鑽を積む。何よりコンクールを機にそんな同士と繋がりを持てるのは、成功以上に素晴らしいことで、コンクールのような競技ならではの大きな意義になるのです。」と語る。

1995年に、日本人として初めて田崎真也氏が世界最優秀ソムリエコンクールで優勝して以来、世界王者は出ていない。日本のソムリエのレベルの高さは国内外で認知されているが、今後世界を舞台に、日本のソムリエが栄冠を手にする姿を見るのを心待ちにしている。


島 悠里の「ブドウ一粒に込められた思い~グローバル・ワイン講座」
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文・写真=島 悠里

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