FULL CONFESSION(全告白) 44

GEN TAKAHASHI
2023/10/31

基本的に映画作家・GEN TAKAHASHIの作文。

第44回 『相棒』の闇 ⑦<とりあえずの最終回>


東映法務部と顧問弁護士

 本稿①で述べたとおり、すでに私と東映法務部と東映顧問弁護士は、本件私が「相棒の闇」と表題した当該の問題について、1時間にわたる面談を終えている。その内容のすべては、私と東映側双方のICレコーダーに録音されている。その面談で、私が東映に訴えた要点は、本稿で述べた以下3点である。

①アームと草刈による、複数の不法行為の事実
 ※現在、改善していたと仮定しても「既遂犯」であり、時効が成立してい
  ない以上、犯罪容疑者らが『相棒』制作にかかわっている事実。
②故意の有無を問わず、東映TVPがアームの不法行為を幇助している事実
③当該事件の解決ならびにスタッフ労働環境の改善と臨む

 
 これらの事実を立証する証拠も提出した。
 私は法曹人ではないが、月に1回以上は法律事務所や裁判所での会議に出席して、裁判支援のボランティア活動を継続しており、普通の人よりも法的リテラシーを身につけている。そうした活動を、だいぶ長くやっている。
 だから、本稿告発の端緒となった、違法「誓約書」を見たときに、これが法律のド素人たる草刈の作文であろうことは、一見してわかっていた。

画像
アーム名義の違法「誓約書」 人事部長・草刈が作成した疑いが極めて強い
特に「9」は、労働基準法第16条「賠償予定の禁止」に違反している
もしもこれを書いたのが弁護士なら、除名(弁護士資格を失う)の懲戒処分だろう

 私は、一定の証拠を取集した後には、東映法務部と顧問弁護士との面談へと場面を切り替えた。ここまで事実が明白である以上、実行犯本人らとの話など時間の無駄になるだけだからだ。
 こうして、東映グループ全体のガバナンスを統治する立場である法務部と顧問弁護士と私との三者面談は、2023年10月10日に行われた。
 
 面談の最後に、東映顧問弁護士は、本件「相棒の闇」については事実確認をして対応し、その結果についても、私に対して「なんらの報告もしない、ということはない」と言明している。
 ついでにいえば、週刊誌の取材を受けたことや、私自身でも本件を告発する可能性があるとの申し置きに対しても、顧問弁護士は「それはご自分の責任で自由にやって下さい」と発言している。
 だから、私はこの「相棒の闇」を告発したのである。

とりあえずの最終回となる理由
東映法務部からの回答

 本稿は、とりあえずは今回が最終回となる。

 理由は、本件告発の概要はすでに述べたし、キリよく10月以内に本稿を終えたかったからだが、そう思いながら本稿を書いていた10月31日14時39分に、東映法務部からメール報告を頂いたことで、現時点での決着をみたからである。

 まずは、東映法務部からのメール全文を公開する。
※「草刈」の実名は伏せる。

「高橋玄様

お世話になっております。
 2023年10月10日の面談時にお伺いした事項について、当社顧問弁護士も交え、事実関係を確認の上、各対応を行いましたので、以下ご連絡申し上げます。

 まず、株式会社アーム(以下「アーム」といいます。)が新入社員より提出を受けていた誓約書(以下「本誓約書」)は、2023年4月に作成され、同時点における在籍社員から提出を受けたものとのことでした。

 本誓約書については、株式会社東映テレビ・プロダクション(以下「テレビプロ」といいます。)が2023年6月頃にその存在を認識し、その後直ちにアームに対して破棄するよう要請しており、アームは7月1日をもって利用を停止するとともに、同日をもって各誓約書を破棄していたとのことです。 

 もっとも、本誓約書の破棄について、本誓約書を提出した各アーム社員が正確に認識していなかった可能性があることから、テレビプロからアームに対し、改めて各社員に誓約書が破棄された旨を通知するよう求め、本誓約書を提出した全社員に「誓約書については無効となった」旨を電話にて伝えております。

 また、「草刈」氏(※メール原文では実名)が、テレビプロ及びアーム双方の業務委託先となっている点については、草刈氏とテレビプロとの契約関係を解消することといたしました。

 その他、テレビプロがアームの派遣社員と報酬の条件交渉を直接行っていた点についても、かかる運用を直ちに改善するよう指示及び申入れを行い、今後テレビプロはアームの派遣社員の賃金の決定に関与せず、アームが適切な就業条件通知を行うことといたしましたので、併せてご報告いたします。

 当社は、今後も、映像制作業界の健全な発展のために、映像制作に関わる方の働く環境を整え、不適切と思われる事象については速やかに改善していく所存です。

よろしくお願いいたします。

東映株式会社
法務部」

 私からいえば、東映法務部は、本件告発に対して誠実に取り組んでくれたと思う(若干、苦しい釈明も含まれるが)。
 前稿までに述べたとおり、東映東京撮影所は、私が映画人としてのスタートを切った、思い出深い地だ。映画監督となってからも、この撮影所のスタジオでセットを組んで撮影したり、私の映画を東映本社の映画館(丸の内TOEI)で封切りしてもらったこともある。
 私が東映に対して、本件内部告発を持ち込んだ10月10日から、わずか20日あまりで、こうした対応を見せてくれた東映法務部と、東映上層部には、素直に敬意を表したいと思う。

 いちいち詳細を公開しないが、本稿に対しては、『相棒』ファンや映画業界人、有名俳優やプロデューサー、元アーム社員、そして東映社員の人々からも、応援のメッセージをいただいていた。
 私のブログ本稿を通じて、「相棒の闇」という出来事が存在することを、社会的に告知する目的は果たし、上掲、東映法務部から報告もいただいたことで、「一応」の決着にはなるだろう。
 
本当の解決はこれからだ

 しかし、東映法務部からのメールでは、「草刈」が東映TVPをクビになったと読める内容が記されてはいるものの、アームとの取引は続ける旨が述べられている。
 つい最近になってわかったという(これは怪しいけどね)アームの不法業態に対して、すぐに全面的なアームとの取引中止とすることなどあり得ないことくらい、私にも理解できる(アームにも悪意なく働いている社員がいるし)。
 ただ、東映グループには、本件問題の「本質」を見誤らないようにお願いしたいものだ。

 一貫して述べていることだが、本稿は、アームと草刈による、刑法・民法上の不法行為の疑いについて告発したものだ。
 アームと草刈は、刑訴法上では3年、民法上では10年が経たなければ時効が成立しない、事件の当事者であり続けているという話なのであって、今回の東映グループの対応によって、アームと草刈の犯罪行為の疑いが晴れたわけではない。

 犯罪行為は「いまはやってないから」「反省したから」などという理由で、チャラになるものではない。それで済むなら警察は要らないし、あらゆる犯罪者も処罰されなくて良いことになる。
 労働基準監督署と警察が、その気になればアーム社長・藤田氏と草刈を逮捕することだって、あり得る状態のままということである(まあ、労基署も警察も、面倒くさいから、その気にならないと思うけどね)。

 捜査機関が動かない限り、知らんぷりをしておけば、誰も損をしないし、こんなちっぽけなブログの告発などは、やがて風化することに間違いはない。
 だが、これが事件にならないことと「社会的信頼」は、まったくべつの話だということを、『相棒』関係各社は忘れない方が良いと思うね。
 
世界的映画監督の祖父から継いだ「誇り」

 これは以前、当ブログに書いたはずだが、東映動画(現・東映アニメーション)創立者のひとりで、私の祖父である日本戦後初の長編カラーアニメーションの監督・藪下泰司(やぶした たいじ)は、その世界的な功績に反して、妻と息子2人、娘1人(私の母親となる)と北新宿の借家住まいで、自分で東映を辞めたあとの晩年は貧しい暮らしだったという。

 ある日、苦しい家計に不満を募らせた息子(私にとっては叔父)が、父に
「おやじ、カネと名誉のどっちが大事なんだ!」と聞いた。
 すると藪下は「名誉だ」と即答したという。

 私は、その映画監督の孫だ。藪下の息子や娘は全員、大企業に就職して、誰も映画界やアニメーション業界には行かなかった。名誉よりも「いい暮らし」を選んだからだろう。かれらの父親で「名誉」に生きた藪下は、最晩年は、専門学校(東京デザイナー学院、東京写真専門学校)の講師として、アニメーション制作を目指す人たちの教育・育成に専念した。
 奇しくも、本年2023年は、藪下泰司生誕120年にあたる。

 今回の内部告発に対して、東映法務部は一定の判断を示してくれた。
 だが、概して権力的な影響力を持つ企業は、名もなき告発者に対して、呆れるほど同じ態度で、タカを括る。そして最後は、必ず社会的な制裁を受けることになる。
「天網恢恢(てんもうかいかい)疎にして漏らさず」という老子の言葉は、まさに現代の、全世界インターネット化社会にこそ正鵠を射る。

 つくづく現在はSNS時代だ。SNSが不得手な私の告発によって、過去にアームと草刈の被害者となった人までがメールをくれたことで、私のひとり相撲ではなかったことも証明された。

 アームと実行犯・草刈は、東映本社に対して、いかに私がトラブルメーカーだったかというような作り話をして、だから本件告発は事実無根だと釈明したかもしれない(日本映画監督協会に対しても)。だが、それは論点のすり替えでしかない。

 前述のとおり、本稿告発は、アーム=草刈が不法行為に及んだという事実、その時効は成立していないという事実に言及しているもので、仮に私が悪人だろうが善人だろうが、草刈らの犯行の事実は動かないのである。
 そのうえで、現時点では、東映グループは今後もアームとのスタッフ人材需給の取引関係を続けるという方針なのだから、「ブラック」な業態の温床は残されたままというべきだろう。
 東映グループには「東映キャリア・ワン」という人材派遣会社もあるというのに、どうしてもアームと縁が切れない、特別な理由でもあるのだろうか?

私が捨てた報酬

 さて、半年続く今回の『相棒 season 22』の制作を2カ月で降板した私の月額報酬を、最終回で明らかにすると本稿①で述べていたので、触れておく。
 東映社内の細かな報酬規程を公開しても一般読者には用がないだろうから、私が今回の『相棒』で2カ月働いた報酬の総額をいっておく。私は7月、8月の合計で124万円(税込)の報酬を得た。

 助監督チーフ・クラスの月額報酬の相場70万円から10万円下げた金額の提示だが、各月ごとに増額するという約束だったから、『相棒 22』に最後まで参加していたら、その半年間で、およそ400万円前後の収入になっていたことになる。一般的な会社員からすれば、じゅうぶんに高額だろう。
 しかも私の場合は、出席が必要な会議以外は、毎日撮影所に通勤することもなく、自分で勝手に自由なシフトを組んで、在宅メインの仕事をしたから、安い労働賃金が当たり前のような日本の現状からいえば好待遇だ。

 だが、私たち個人事業主としてのスタッフの仕事は、雇用が継続される保証がない。東映TVPも、あくまで月契約だ。
 ひと月の報酬額だけをみれば、好待遇だと思われるかもしれないが、それが1年で1度だけの給料だったということも珍しくないのが、この業界だ。
 それでも『相棒』の話を受けたのは、本稿①で述べた「テキストアート・ディレクター(TAD)」という、東映TVP・山崎が提案した、業界初の新たな試みに価値があると思ったからだ。

 もしも私が、収入の為に思考を停止させて、自分が食うために若者を騙し、脅して働かせながら、先輩映画人ヅラをして兄貴風を吹かせているだけのクズ野郎の風下に立つことが出来たなら、好待遇の『相棒』を、こんな理由で辞めることはなかっただろう。

 実際に、私に支払われる報酬原資も、東映TVP=東映グループからの制作費であり、アームは単なる「振り込み係」だ。アームと草刈が、クズ野郎でも、そんなことはスルーして高い月給の為に仕事を続ければ良い。それが普通だろう。
 でも、おれって普通が出来ないんだよねえ(笑)。前述した「映画監督の血統」だけの話ではなく、ただでさえ気が短いのに、脳梗塞後遺症でさらに神経が鋭敏になっていて、カネの為にクズの世界に耐えることが出来ない。それにアームは、私を現場に入れることで派遣手数料を取っている。
 不法派遣業者の食い扶持のために使われるほど、私はボンクラではない。我慢していたら、私の方が逮捕されるような事件が起きるかもしれないから、自分から離れたのである。

 このことは、本稿記事に匿名で告発メールをくれた元アーム社員スタッフの「何より草刈さんからのモラハラ発言により、このままアームで仕事をするのは難しいと判断しました。」との証言と一致する。草刈の悪性の高さは客観的な事実だといっていいだろう。
 東映法務部は「東映TVPと草刈との契約関係を解消」したというが、草刈が、あくまでもアームには残り、今後もべつのかたちで東映撮影所で就業するのであれば、不法行為やパワハラの火種は消えていないことになる。

「組長」あっての映画界
「組長不在」のテレビドラマ界

 それよりも、私にとって今回の『相棒』で、数十年ぶりにテレビドラマにかかわって改めて痛感したことがある。それは「仕切るやつがいない」ということだ。

 私は劇場映画監督デビューから現在まで、基本はインディペンデント(独立)映画製作者だ。億を超える製作費も、毎回、自分ひとりの名でハンコを押して借りたり、投資して貰ったりして映画を作る。それで、いまだに投資が利益を生まなかったり、返せていない借金だってある。いろいろあるが自己責任がすべてで、人のせいにしたことはない。
 映画史をみても、映画監督は映画製作者であることが当然でもある。だから「自分の映画」を撮れるのだ。
 要するに、意思決定の最終責任者は映画監督で、プロデューサーがいる場合でも、せいぜい2人の「トップ」が誰なのかが明確にわかっている。なにか問題があれば、すべてはそれらトップの責任だ。ヤクザにたとえれば、映画監督は「組長」ともいえる。だから、映画の撮影隊は「○○組」と名乗る。私も長い間、それでやってきた。

 ところがテレビドラマは、まるきり違う。映画の習慣をそのまま頂いて「○○組」などというものの、それはカッコだけのことで、実際にはすべての落とし前をつけるべき「組長」がいないのだ。
『相棒』の「監督」ちゃんたちは、演技がどうだとか、小道具や衣装の注文は出来ても、予算に口は出せないし、キャスティングにすら手を出せない。仲の良い無名の役者を端役で起用しようとしても、それさえ簡単にいかないのがテレビドラマの世界だ。
 そのうえ、東映は大株主でもあるテレビ朝日には逆らえないし、そのテレビ朝日だって、提供スポンサーには頭が上がらない。

 こうなると、本件「相棒の闇」のような問題が発覚しても、いったい誰の責任でこんなことになっているのだ?という問題さえ、誰も解けないし、解決する気もないまま、テレビドラマという商品(作品ではない)を製造する作業だけが黙々と続けられるのだ。

 私は、そんな馬鹿馬鹿しいことに余生を使いたくない。大病を患った3年半前から特にそう思っている。たった独りでも、映画人としての誇りを忘れないオッサンがいてもいいだろう。ひとことで、私は、まったくテレビドラマには向かないというだけの話ではある。

 さて、これで「相棒の闇」を「とりあえずの最終回」とする。
 ただし、私にとっての本件は「解決した」とは言い難い現状にあると思料するので、東映グループとテレビ朝日に向けて述べた、本稿一連の削除については、まだ待たなければならない。
 本件について、新たな動きがあれば、不特定多数の読者諸氏に、当ブログでお知らせする。

 最後に、現在放送中の『相棒 season 22』の提供スポンサーを記載しておく。当該の企業各位にも、本件「相棒の闇」を考えて頂きたい。

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『相棒』の闇  とりあえず以上

 

 
 

 


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