「清田隆之シ×ジェーン・スー」第3回・止

“男が知らない男のあだ名”を作るのが無駄にうまい私たち【清田隆之×ジェーン・スー】

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「ジェーン・スー対談」
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「恋愛=異性愛」も「普通」もどんどん通用しなくなる

清田:以前、共働きの夫婦で不妊治療に取り組んでいる男性にインタビューする機会がありました。どうしても子供が欲しいという妻に引っ張られる形で不妊治療を始めたんですが、タイミング法、人工授精、体外受精とステップを進めてもなかなか妊娠に至らず、妻が病みがちになってしまったみたいで。そしてある日、「少しでも妊娠の確率を高めるために仕事を辞めたいんだけど、今のあなたの稼ぎでは厳しい」と言われ、転職を勧められた。

彼もそれに少なからぬショックを受けていたんですが、一方で妻の気持ちも痛いほどわかるから何も言えない、と。そんな話を聞いて、僕はどうリアクションしていいかわからなくなってしまって。

スー:「あなたの稼ぎでは厳しい」って言い方はさすがにどうかと思いますが、現実問題としては難しい話ですね。夫婦の問題のようでありながら、女性しか妊娠できないという生物としての縛りや、女性のほうが平均賃金が低いという社会的格差の問題でもありますし。解消されるべきは社会問題だけど、当事者としては目前の問題としてそんな悠長なことは言っていられないのでしょう。暴力的な言葉を容認するつもりはありませんが、ならばどう言えばよかったのか、パッとは答えがでてきません。でも「その言葉に傷ついた」と、夫から妻に伝えたほうがいいとは思います。

清田:フェアな関係を志向する一方、そこにはジェンダー構造の影響が複雑に絡み合っていてひと筋縄では行かないという……とても現代的な苦しみのように感じました。

現代的という意味では、ちょっと前に大学生の女子から受けた相談も象徴的でした。彼女は同じゼミの男子を好きになり、合宿の時に告白してフラれてしまったんですね。ただ、やや可能性が残るようなフラれ方だったため、帰りの新幹線で彼の隣に座り、「これくらいはいいかな」って寝たふりをして肩に頭を乗せたそうなんです。僕はつい「めっちゃ青春じゃん!」と思ってしまったんですが、彼女としては、自分のした行為がセクハラだったのではないかと悩んでいて、ハッとさせられたんです。

スー:ああああ、すごくわかります。彼女には、自分が権力側にいるという自覚があるんだろうな。

清田:ゼミ仲間という狭い人間関係の中でもめ事を起こしたくないであろう彼の気持ちは十分に想像できていたし、「女子からするのは大丈夫だろう」という打算含みで肩に頭を乗せた自覚もあったみたいで。

スー:ですよね。

清田:立場や権力勾配が絡んで断りづらさが発生していたとしたら、彼女の行為は確かにセクハラだったと言えなくはないですもんね……。

スー:相手がハラスメントだと感じる可能性はありますよね。うわぁ背筋が凍る。私もやらかしそう。恋愛ではなく友人としてですが、仲良くなれたと思って、年齢差や権力勾配を考えずに距離を縮め、あるタイミングから「あれ? これはヤバい?」と思った経験が実際にありますし。

清田:大学生の女子からそういう話が出てくるというのは、社会的にハラスメントの構造が可視化され、男女問わず意識されるようになった結果とも言えますよね。若い世代ほどジェンダー・センシティブで、自分の力や立場といったものに自覚的になってるように感じます。

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スー:男女の機会が公平な社会になればなるほど、女性も権力を持つ側に立つことがありますもんね。

このあいだ未婚や離婚経験者など同世代の独身女たちと話してたんですけど、これから恋愛をするとなったら、相手より自分のほうが年齢や社会的地位が高いケースが出てくる。そういうとき、今までは中年男性の口から聞こえてくることが多かった「こちらは恋愛だと思っていた」って事態が自分たちの身にも起こるだろうと。

で、ふと、一人が「寝床をロフトベッドにすればいい。相手が階段上がったら合意ってことになる」って言ったんで大笑いしたんですよ。男の人を抱きかかえてロフトの階段を上がることはできないので、自分で階段を上がった時点で合意だって。でもこの年になると、冗談じゃすまされない話でもあります。権力勾配があれば「本当は嫌だった」とあとから言われる可能性はありえる。

清田:本来なら、現在権力ある地位にいる人もそれくらいセンシティブに考えてしかるべきだと思うのですが、中高年男性のハラスメント事案は相変わらず多いし、中には「最近はなんでもセクハラになる」とか謎に被害者意識をこじらせてる人も結構いて……最も変わるべき立場の人が変わらないというジレンマもありますよね。

ただ時代はどんどん進んでいることも確かで、自分自身も学び続けねばという気持ちです。例えばこれも女子学生からの相談ですが、彼女には同じ部活に好きな人がいて、相手の家へ遊びに行った際、盛り上がってキスをしたらしいんですね。でも次の日から関係がぎくしゃくしてしまい、そのことで彼女は悩んでいた。自分は途中まで好きな人が男子だと思い込んで話を聞いていたのですが、文脈や描写から相手が女子であることがわかり、内心でビックリしたことがあります。そこでは性別がほとんど無意味な要素になっていて、純粋な片思いの悩みとして語られていた。恋愛=異性愛というバイアスが自分の中に根強く存在していることを痛感させられた一件でした。

スー:凝り固まった考え方をしていますもんね、我々。修正していかなくてはならない。

清田:「普通」や「当たり前」という前提を背景にした言葉遣いや認識が今後どんどん通用しなくなっていくかもしれないし、それどころか今までも無自覚な暴力になっていた可能性だって大いにあるわけで……。

スー:清田さんと私が「男って女って」と、割り当てられた性別と性自認が同じ異性愛者の話を無意識にしている時点で、疎外されている人もいるということですよね。

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