誰もが「加害も被害もどっちもある」
スー:私は幼い頃から周りの子よりも体が大きかったので、無自覚に強者側に立っていたんだと、今振り返れば思います。ハラスメントの加害者になりうるという意識は、年を重ねて権力を持つ側に立っている自覚がある現在のほうが強いですが。
清田:体格の話でいうと、僕の場合は男性の中で小さいほうで力も弱かったので、スーさんとは逆だったかもしれません。小学校くらいならそんなに体格差は影響ないけど、中学高校と年が進むに連れ、小柄なことで明らかになめられる瞬間が増えていきました。サッカーの試合中に相手から「チビ!」と罵(ののし)られたり……。そういう状況下で生きていくためには知恵を使うしかなかった、みたいな。
スー:私も同じです。小柄な男と大柄な女は、オモシロを育てて居場所を作るしかないですよ。中洲にたまるように、大柄の女と小さい男が集まってくる。
清田:男友達から肩に肘を置かれがちで、そのたびモヤモヤしていたのに、自分は相手の腰に手を回して彼女っぽく振る舞い、冗談のような空気に変えていくという……。
スー:うわー。それ私、共学だったら確実にやってました。「ねぇ清田~」とか言って。傷つけているとも知らずに。生まれながらの体躯が引き起こす暴力性に無自覚だったから。
清田:でもわかる気がします。パワーを持つ側に立つと急に自覚が薄れたりしますよね……。家には1歳になったばかりの双子がいて、一卵性の女子なので家の中で男は僕だけなんですね。パワーや暴力性みたいなものに嫌悪感すらあったのに、双子たちの夜泣きが激しくてこっちも寝不足でヘトヘトになったりしている時に、いら立ちから冷蔵庫の閉め方とかが乱暴になったりしていたようで……妻に「怖いからやめて」と注意され、暴力的な自分が立ち現れたことにすごくショックを受けました。
スー:体の大きい人と付き合っていた時に、ついはしゃいでしまって注意されたことはあります。相手の体が大きいからと、いつもは細かくやってるチューニングをせずにパワー全開でいたら「君には暴力的なところがある」と怒られてしまい。当時はなかなか素直に反省できませんでした。
清田:「チューニングしないでいい状態」って楽だったりしますもんね……。自分の力や暴力性と向き合い、それを抑えていくという行為にはエネルギーがいるので。
前にめいっ子とディズニーランドに行った時も、つい楽しくなってしまって「次行こうぜ!」って彼女の背中を軽く押したんですね。ポーンって感じで。でもその時、めいっ子が「もっと優しくしてください」って言ったんです。生まれた時からかわいがってきた4歳のめいっ子にそんなことを言わせてしまい……罪悪感とショックがすごかったです。ごめんとすぐに謝ったんですが、あれも自分にパワーや暴力性があるということを突きつけられた体験だったように思います。
スー:日常生活も総合格闘技のように階級で分けてくれればこういうことが起こりづらいでしょうけどね。そうはいかないもんな。
清田:加害と被害がモザイク状に混在したりしてますもんね……。
スー:前回二村ヒトシさんと話したことでもあるんですが、己の強さを誇る人たちは自分が受けた傷に対して無頓着だし、自分の弱さを認めたら死ぬ! みたいなことになってます。清田さんのおっしゃっていた「こぼれ落ちる恐怖」ですよね。
同じように、女性が自分の加害性を自覚するのも相当難しいと思うんですよ。と同時に、ずっと戦ってきた強い女性が、自分が被害者でもあることを認めるのも同じくらい難しい。清田さんのおっしゃる通り誰もが「加害も被害もどっちもある」のですが、そこが腑(ふ)に落ちないと分断が起きますよね。
被害者であれ加害者であれ、両方感じられる経験ができればいいんですけどね。たまたま清田さんも私も「体の大きい男性」でも「体の小さい女性」でもなかったので、男性の被害性や女性の加害性に意識を向けやすかったかもしれない。
※第3回は12月26日(土)公開です。