ようこそひより至上主義の教室へ 作:tanaka
今日も今日とてひよりは部活。俺はベンチで目を瞑って人を待っていたのだが、こちらに近づいてくる気配を感じてそちらを見る。
堀北会長だ。昨日からここに座っているとやけに誰かに声を掛けられるが、何かそういう不思議スポットだったりするのだろうか。
会長の横には背の小さな女の子。会長も隅に置けないなぁと煽ろうか少し悩んだが、あまり面白い展開にもならずに不興を買う可能性だけがある愚行なのでやめた。
ただ何となく女の子の方は揶揄ったら面白そうな気がするので、機会があれば遠慮なくやろう。
「志島。久しいな」
「お久しぶりでございます。こんな若輩にあなた様ほどのお方からお声がけいただけるなんて幸甚の極み」
「慇懃無礼だ。Cクラスの件。お前も絡んでいるのか?」
「はぁ、えっと、暴力事件のことですよね?」
今のところ絡んではいないが、これから絡むつもりはある。絡むと言っても、いい機会なので行動できるところで行動するつもりなだけだ。暴力事件そのものとそれの審議について何か介入したこともすることもない。
それを正直に告げると、会長は少し考え事をするように顎に手を当てて、しかしじっと俺の方を睨む。
「確かに今回の手口は、お前のやり方とは考えづらいが」
「いやですねぇ会長ぉー。今回の件はDクラスに僕たちのクラスがひどい目にあわされた事件ですよー」
今回の件について、俺は結局詳しいことはまだ知らない。けれど、龍園が仕組んでやった事だとはわかっているし、どうやら会長もなんとなくそのあたりの事情を察してはいそうだ。
会長の立場であってもそれを判断するには情報も証拠も足りなさそうだが、直感的にその背景を見抜いてはいるのだろう。
俺にも当てはまることなのだが、ある種の天才はどこか論理を超越して直感的に答えに行き着くことがある。
例えるとしよう。凡人は地図を持たずに目的地まで手探りで歩く。秀才は地図を手に目的地へ歩む。この時に人によっては自転車に乗っていたり、車に乗っていたりと才能によって差があったりもするわけだ。
けれど、天才の思考は、時としてどこでもドアとしか例えられないようなときもある。まずは直感的に答えを理解し、逆算的に論理を作る。誰かに説明しなくていいときには論理を作ることすらしないかもしれない。そういえば、アインシュタインも似たようなことを言っていたような気がする。
ともかく、それは会長にも当てはまりそうだ。
俺も直感的に答えを出してから、答えありきで論理を作ることも珍しくないので、会長がそんな風に答えにたどり着くことに不思議はない。
「手段を択ばないやり方はリスクが大きい。お前も気を付けるんだな」
それだけ言うと、会長は言いたいことはもうないと言わんばかりに歩き出す。と、慌てたように横にいた女の子が会長について行こうとして、その前にこちらに深く頭を下げてきた。いい子だなぁ。
「ちょいちょい」
手招きすると、会長の背を見て、こちらを見て、少し悩んでから躊躇いがちに近づいてきた。
「えっと、私に何か?」
「いい子だね! 飴ちゃん上げるよ!」
「喧嘩売ってるんですか!!?」
ポケットから棒付きキャンディーを差し出すと、ものすごい勢いで怒られた。あきれた様子で戻って来た会長が面白かったので、やはりこの女の子――橘というらしい――はこれからも揶揄ってあげよう。
☆
「あんな表情の堀北会長は初めて見たな」
しばらく待っていると、ベンチの横に南雲君が座ってきた。ちなみにもちろん南雲君に対して、直接「南雲君」と呼んではいないが、心の中でくらいこう呼んでも怒られはしないだろう。
もともと今日は南雲君と待ち合わせをしていたわけだが、会長がいたので離れるまでどこかに隠れてこちらを観察していたのだろう。
「お願いを聞いていただけて感謝しています」
「対して難しい話ではないからな。可愛い後輩の頼みを聞くくらいのことはするさ」
「おや、かわいい後輩のために無料で良いってことですか?」
「ただほど高いものはないぞ?」
「冗談ですよ。現に三年生の情報をいくつか流しましたよね。まあ、どうやら先輩はすでにご存じのことばかりだったみたいですけれど」
南雲君に俺のお願いを聞く代わりに、三年生数人の生徒の弱みをつかむように言われたが、どうやらその全ては既につかんでいたことのようだった。大方俺の能力を測ろうとしたのだろうが。
しかし、この南雲君は結構おしゃべりなので話していて疲れる。いや、おしゃべりなこと自体は良いのだが、冗談が通じないので話していても楽しくないと言った方がいいかもしれない。堀北会長ほどの能力は感じないし、後輩からのジャブを冗談として受け入れずに半ギレになるし、無能ではないのは分かるのだが――とにかく一言で言えば話していて面倒なのだ。
「ところで、お前のクラス。なかなか面白いことになっているな」
「面白い事なんてありませんよ。なんてったって被害者ですから」
「被害者か、ははは」
南雲君は南雲君で、なんとなくCクラスが仕組んだ事件だと察しているようだが、これは単純に南雲君が似たような手を使ったことがあるからか、あるいは考えたことがあるからかだろう。個人的には手段を択ばない奴は嫌いじゃないが、手段を択ばないことを能力だと思っている奴は嫌いだ。
どんな天才も凡人の凶弾に倒れうる。そして銃を扱うだけならだれでもできる。
南雲君は有能だとは思うが、何か過去にあったのか、特に理由もなくコンプレックスを感じているのか、能力を誇示したがるタイプの人だ。
なんとなく日本人はそういう人間を過小評価しがちだが、能力を誇示したがる正真正銘の天才もいるので、一概にそれを悪い事とは言えない。南雲君は、今は堀北会長と勝負して、そのあとに俺を含む後輩と遊ぶぜ、とか考えているっぽい。わざわざ付き合う義理もないが、俺とて承認欲求や自己顕示欲を持ち合わせているし、自分が強いと思っている人間を打ち負かすのも好きだ。ゆえに、いつか南雲君と戦うこともあるのだろう。
「っと」
そんなことを考えていると南雲君が端末を取り出して誰かと話し始めた。
「悪いな。呼び出しだ。また何か俺に頼みがあれば聞こう」
そう言って離れていった南雲君は会長とは違い、こちらに背を向けたまま手を小さく上げることで挨拶をしていった。
普通なら格好つけすぎだと思うのだが、彼のあの整った顔立ちでは何ら違和感がないのでずるい。
……この感想だけ見たら少女漫画のセリフでありそうでちょっと嫌だ。
☆
「あ、ひより。お帰り」
その後もベンチに座って、脳内でチェスの駒を動かして遊んでいると、遠くからひよりが歩いてくるのが見えた。
今日はひよりとモールの書店で、今日発売されたばかりの本を買う約束をしていたのだ。
ひよりと買う本を共有することでポイント節約の狙いがある。
というのは俺がひよりに話した建前であって、本心としてはひよりと同じ本を読むことで交際気分を味わうというゲスい下心と、同じ本を読んで感想を言い合ったら楽しそうという我ながらピュアい恋心だ。
「すみません。お待たせしました」
「ううん。今来たところ」
ひよりの言葉に思わず反射的にそう返すが、放課後からここにいた事はひよりも知っているのだから今来たところなはずがない。この場合なんて返すのが正解だったのだろうか。
「……」
「……?」
押し黙る俺を不思議そうに見つめるひよりを横目に、正解を導き出す。
俺の人生において恋愛の経験は絶無。しかし人間は論理的な言語と文字を使い、自分の人生や知識を共有することを可能とした。ここに入学してから何冊も読み続けてきた本の中から答えを探る。
「君を待つ時間は長い方がいい。ようやく会えた時の喜びが一入になるからね☆彡」
「そうですか?」
「……本屋、行こうか」
せめて笑ってほしかった。キョトンとした表情のひよりと共に書店へ向かう事とした。
書店ではすでに買う本は決まっていたため特にこれと言った出来事も起こらず。
そのまま流れで俺の部屋にやって来て、何とひよりの手料理をいただいたのだが、喜びのあまり味蕾が尊死してよくわからなかった。けれどひよりの手料理なので人類史上最高のものだった。
主人公、南雲君を地味に馬鹿にしてて草。
前にも書いた気がしますが、筆者は南雲君結構好きです。
南雲君の戦い方は今のところ人海戦術って感じですけれど、それだけで終わる人じゃないと勝手に期待してます。たとえ人海戦術だけでも膨大な情報とマンパワーあるのは超強いので、暴れまわってほしいですし、暴れまわりそう。
次回は七巻までには書きます。
1000人お気に入り記念になんかやりたいんですが、そういうの今までにやったことないので、何がいいかアンケート取ります。
-
1000文字ジャストの話
-
ひよりの良いところ1000個あげる話
-
西暦1000年のIFとかいう謎小説
-
1000年未来設定の謎小説
-
ひよりと1000㎞ウォーキングする謎小説
-
ひよりと千手観音像を彫る謎小説
-
もう兎にも角にも謎小説
-
七夕特別編(遅刻確定)
-
デートする普通の話