ようこそひより至上主義の教室へ 作:tanaka
中間試験まであと数日に迫ったある日の放課後。俺はBクラスに遊びに来ていた。
「こんにちは! 遊びに来たよ!」
先ほどまで談笑していたBクラスの生徒たちは、ドアを勢いよく開け放ちながら叫んだ俺に、戸惑いの表情を見せる。それはだんだんと俺が誰かわかるにつれ、嫌悪に近いものへと変わっていく。
しかし、一人の生徒が俺に対して特に嫌がる様子もなく――ただ突然のことに困惑はしているが――話しかけてきた。
「え、えーっと……確かCクラスの志島君だよね。誰と約束しているのかな?」
なるほど確かに、突然別クラスにやってきたのならば、そう考えるのが妥当だろう。だが、
「え? Bクラスに遊びに来ただけなんだけど」
「……」
俺に声をかけてきてくれた生徒、一之瀬帆波はその言葉に困ったような表情を浮かべるのみ。
「えっと、じゃあ――」
「ちょっと……帆波ちゃん」
「うにゃっ!?」
俺に何事かを言おうとした一之瀬は、横から別の生徒に引っ張られて、替わりに男子生徒が現れた。
「Cクラスの生徒が何の用だ。また龍園の指示か?」
警戒心を隠そうともしない男子生徒。おそらくはこいつが神崎とやらだろう。
「ちがうよ。遊びに来たんだよ。龍園の指示なんか俺は聞かないし」
「……志島といったな。『あの』志島か?」
「どの?」
「……」
あの、だなんて言われても、一体何の話をしているのかわからない。ただ、神崎のこの言葉に呼応するように、教室中でひそひそと噂話が始まったので、そっちの方に意識を向けてみる。
「確か玄関ロビーで喘いでた……」「三輪車の人だ」「エロ漫画音読大魔神」
「そういえばそんなこともやったなぁ」
四月の中頃の話だろう。俺は玄関ロビーでエロ漫画の音読大会をやっていた。女声を練習してみたら思ったよりも簡単にできたので、男と女とでそれぞれ声を使い分け、それはそれは迫真の演技を披露した覚えがある。
苦情を受けた坂上先生が、怒りを通り越して、さらに呆れを通り越して、いつでも相談に乗るぞと言ってくれたのが印象的であった。お礼に坂上先生に自作のエロ漫画を送ってあげたが、喜んでくれただろうか。
しかし、そういったネガティブな噂だけでなく、三輪車の噂もあるのが意外だった。さすがに三輪車を乗りこなすカッコいい俺に評価が変わったのだろう。
「お前をよく思っていない奴も多い。こんなことは言いたくはないが、お前に怯えている奴もいる」
「……ふむ」
確かに、女子生徒のうちの何人かは、明らかに俺に怯えている。
「それに、だ。この学校では別クラスを訪れても歓迎されないことくらい、お前ならわかるだろう」
「えぇー? そうかにゃぁ?」
のほのほなかよしBクラスなら大歓迎するかと思った、なんて言う煽りは抑えて。
「クラス間の争いが必須のこの学校では、クラスの情報一つでもどう働くかわからない。突然現れた他クラスの生徒を歓迎するはずがないだろう」
「……他クラスとの友情的な?」
「……俺はお前をよく知らない。Cクラスという時点で龍園の顔がちらつく。もしも真にBクラスの誰かと親交を深めたいのならば、それはお前のこれから次第だろう」
「端的に換言すれば、今日のところは帰れってことだな? まあでも、目的は達したからいいさ」
俺が今回Bクラスを突然訪ねた理由はただ一つ。ヤンバルクイナ1号の様子を見に来ただけだ。
俺を見るあの目、神崎の発言に青ざめた事、Bクラスの情報をべらべら話してしまったことを仲間に伝えられていないのだろう。
「目的だと?」
「大したことじゃないさ。龍園含め、他のCクラスの生徒たちがどう思っているかは別として、俺個人はBクラスと仲良くしたいっていう意思表示がしたかった」
「とても――」
「信じられないだろうけれど、まあ、今は変な奴が襲撃してきたくらいに捉えてればいいさ」
☆
「みたいなことがあって、結局Bクラスのことはよくわからなかったんだよねぇ」
「■■君は行動的ですね」
「そうだね。まあ、こう見えて結構行動的かも」
さらにその翌日。俺はひよりと共に学食を訪れていた。ひよりは学食に来るのが初めてらしい。いつも通りに見えて、あたりを興味深そうに観察している。猫みたいで可愛い。
「そういえば■■君は、学食初めてじゃないんですね」
「ん? ああ。俺は入学してから今日までずっと学食だから」
「……?」
「ひよりは、今日初めて来たみたいだけれど、どう? おいしい?」
流されるかと思ったが、違和感を感じたらしいので、慌てて話を逸らすことにする。ひよりは綺麗に箸を扱い、焼き魚を食べている。俺は食べるのに時間がかかる食べ物は例外なく嫌いなので、学食ではそばとうどんしか食べたことがない。
「そうですね。出来立てですから、とても美味しいです。ところで――」
ひよりはいつもと変わらないどこかジトっとした目で、俺のどんぶりを見た。
「それは?」
「うどんとそばを混ぜたものだけど?」
「美味しいですか?」
「うん」
それぞれ半分にしてくれと頼んだら、半額で半分にしてくれたので、混ぜて食べている。案外美味しいのだが、このうどんそばを食べていると、時折親の仇を見るような目で睨んでくる生徒がいることが欠点だ。
行儀の良いひよりは、食事時は殊更喋らず、お互い黙々と食べ進めるため、あっという間に食べ終わる。
食べ終えた後、しばらくはのんびりとひよりとお話しする時間で、俺はこの時間が何よりも好きだった。
「そういえば、他のクラスの方は試験対策順調なのでしょうか?」
「そうだなぁ」
最近は迫る中間試験の話が多いが、大天使ひよりは他のクラスのことも心配しているらしい。
俺の本音としては、Cクラス以外の全クラスが大ポカやらかして10人くらい消えないかなとか思っている大悪魔なんだが。
「Bクラスは素の学力も高いし、大丈夫だろう。さっきBクラスに行った話したけれど、その時の空気からしても余裕があったし。Dクラスはやばいかもなぁ。素の学力が低いし、素行も悪いらしい。山脇に聞いたけれど、範囲変更も知らなかったらしいからな」
教師のやる気が致命的にないという可能性もある。Dクラスの生徒を苦しめることに喜びを感じる異常者という事もあるだろう。だが、Dクラスの生徒が範囲変更を知らなかったことこそ、簡単な攻略法があることの証左ではないだろうか。もしかしたらあのDクラスの担任は、自分の生徒を試しているのではないかと、まるで龍園みたいなうがった見方をしてみる。
「Aクラスはどうでしょうか?」
「A? そりゃあ大丈夫だろう。葛城は石橋をたたいてぶっ壊すくらい慎重な人だし。坂柳も、まああいつなら問題ないだろう。あの二人がリーダーを自負している以上、どうしたって退学者は出ないだろう」
ひよりならこういえば伝わるものがある。
ひよりは小さく微笑みながら、
「なら、大丈夫そうですね」
次回で中間試験終了する予定なので、無理矢理必要な描写を詰め込みました。
たぶん次回で回収されます。
1000人お気に入り記念になんかやりたいんですが、そういうの今までにやったことないので、何がいいかアンケート取ります。
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